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chapter2-15

「あの旗印は森衆!?桐琴の独断…?いったいどうなっているの!?」


「そんなもの我が聞きたいわ!少しは黙っておれ!」



ここは場面変わって結菜が軟禁されていた稲葉山城の天守閣の一室。飛騨はまだ幼い当主の龍興に変わって、情報を統合し指示を出していた。


「なるほど、織田の増援は今のところなしか…。となると、今門に張り付いている五百は完全に独断先行してきたと言うことか。それならいくらでもやりようはあるな」



「そんな!?あの森衆が久遠の指示で動いてないの…?いくら森衆とはいっても、この兵力差には厳しいだろうし、斎藤家にはまだ隠してる兵がいるのに…」



結菜は勿論、織田久遠の妻であるため織田の軍勢には詳しい。当主の桐琴や小夜叉だって上司の妻、夫の部下以上の関係と信頼と持っている。だからこそ、結菜には森衆の独断が理解できなかったのだ。



森衆の屈強さや、兵としての力の規格が多少ずれているのは結菜も把握しているが、それを踏まえても本丸内にいる二百近い鬼に対して城攻めとなるのは、かなり分が悪いと感じている。



どう見ても、斎藤家優勢のこの戦であるが、雰囲気がここで一変する。




「やはり、イレギュラーが現れたか。現段階では不安要素が多いが、しかし、この機をみすみす失うには惜しい」




部屋の入り口とは反対の、先程まで結菜が身を乗り出して見ていた窓に、黒装束に黒フードで顔を隠した者が立っていた。



「キャッ!!」

「む!貴殿は異形の!何用かであるか」



背後を取られ短い悲鳴をあげる結菜、そして正面に現れた黒フードに訳を聞く飛騨。



「なに、門に張り付いた有象無象とは別に、彼のものが侵入してきているようでな。我としては万が一に備え、保険を掛けておく必要があるのでな…」


「「保険…?」」


結菜は勿論、味方である飛騨ですら話の内容が理解できていないようである。



「保険というのはな、これのことよ」


そう言った黒フードは懐から、ビー玉サイズの灰色の物体を取り出す。



「それは何…?」


近くにいた結菜が先にその不気味な物体の正体を聞く。


「気になるか?フフッ、まぁ貴様には知る権利があるか。これはな、鬼の瘴気を取り込んだ丸薬だ。まだ試作ではあるがな。イレギュラーのお陰で未完成であるが保険としては充分よ」



「鬼の瘴気だとっ!?それでいったい何をするつもりなんだ!?」



黒フードの不可解な行動と、得たいの知れない丸薬にさすがの飛騨も黙っていられなくなった。味方にしたとは言え、鬼に対する恐怖は未だ健在なのか。飛騨は声をあらげて問いただす。



「これはな、こうやってだ……な!!!」


黒フードがその丸薬を持ち上げたかと思ったその瞬間、その場から一瞬で姿を消してしまった。



「ングッッッ!?!????」


そして、気がつけば黒フードはその丸薬をすでに手にしておらず、代わりに飛騨が喉を押さえて踠いている。



いや、近くにいた結菜にはギリギリ目で捉えることができたが、飛騨の目の前に一瞬で移動して、同時にその丸薬を無理やり飲ませたのだ。




「グッッ!!!!いったいなにを??ヴヴヴァァ!!?!?」




飛騨が呻き声あげ、丸薬を吐こうとするが、すでに嚥下され薬はさらに体内へと進んでしまっている。そして、人間とは思えない呻き声を上げてなお、踠き苦しんでいる。




「まぁ、見ていろ帰蝶姫。ここからが見所であるのだから」


「そんな…こんなのあんまりにも…」




結菜にもその丸薬の効果はある程度の予想はできてしまう。あの化け物の鬼の瘴気を含んだものを口にしてしまえば、少なくともどうなるかなど…



「ヴヴヴァァァヲヲヲ!!!」


"バキバキッ"

"グチュグチュッ"


飛騨からの呻き声はドンドン枯れ果て低くなり、身体の関節からはあり得ない音とともに、筋肉は膨張と収縮を繰り返し、奇妙な形へと変化していく。



「さぁ!さぁ!ここからさらに面白くなるぞ!!」


(もうやめて…)


敵とは言え、同じ人間として飛騨の苦しみと過酷さを目の当たりにして、結菜はそのむごさに口を覆ってしまう。対照的に黒フードはまるで欲しかったものが手に入るが如く、興奮をしている様子であった。





が、しかし…




"バキ……グチュ………" 


"シュー"



黒い瘴気を発するとともに、その変化は止まってしまった。現在の飛騨は顔の半分が異形になり掛けているが、まだその表情は見て取れるほど。身体は右腕を残して残りの四肢と左半身は鬼の物に。しかし右足は太もも以上は人の形を保ったまま。身長は元の1.5倍ほどの2メートル程度で止まっていた。


「なっ!?これで終わりだと?やはりまだ完成ではなかったか…」



表情は見て取れないが、黒フードから初めて怒りと落胆の感情が読み取れた。




しかし、傍にいた結菜にとってはあまりにもショッキングな光景であったのには変わりない。


先程まで人であったはずの飛騨はもはや大半が鬼に、少なくとも人間ではなくなってしまったのだ。恐怖と不安と悲しみが結菜を襲う。


そして、隣にはその元凶がまだいるということを、改めて自覚すると、意識していないにも関わらず、防衛本能からか一歩、また一歩と黒フードから後退りをする。



「ふむ、未完成というのもあるが、投与された者の能力と序列にも影響するのであったな。この者は序列のみ高く、能力は皆無であったからな。これも致し方ないかもしれん…」



黒フードは独り言を始めるが、結菜はさらに一歩、一歩とそこにいる者から早く離れなくてはと、さらに後退りする。




「つまりだ、ここにいるもう1人なら、そのどちらもかなりの上質であり充分というわけだな…」



黒フードのこの一言に、結菜の身体は強ばってしまい、後退りすらも出来なくなってしまった。2人の間は僅か数メートルと言ったところか、先程の瞬間移動を鑑みるに、絶望的な状況である。




黒フードの視線が結菜を捉える。



(やめて……)



もし自分もあれを飲まされたら、あれ以上の悲劇が起こるのは容易である。こんな死に方はあまりにも酷すぎると。







しかし、ここでまさかが起きる。




「ヴヴヴァァッ!!!!」




半人半鬼となった飛騨が、突如として2人に襲いかかったのだ。猛烈な突進から鬼と化した左腕を振り下ろす。とはいえ2人を狙ったためか、その攻撃は当たらず2人は左右へ別々に飛び退ける。



「クッ!指示系統も未完成か!」


黒フードから憎しみと悔しさが混ざった声があがる。畳や襖が破壊されたことで、その塵で黒フードの視線が一瞬遮られる。そして、その好機を逃す結菜でもないのだ。




(助けて!誰か…!!)



一瞬の隙をついて、結菜はその部屋から廊下へと飛び出し、全力で駆けていく。


ここから結菜の決死の逃走が始まる…




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