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Chapter2-8



「ただいま、戻ったよ」


「遼太郎様、ご報告お疲れ様です」


及川隊の長屋に戻った遼太郎を詩乃が出迎える。


いつもなら、ひよ子と転子が真っ先に出迎えるところだが、現在二人は美濃周辺の調略のためここにはいない。早くとも帰りは四日以降先であろうか。


「及川隊の隊員達の準備はどのくらい完了しているかわかるかな?」



現状及川隊は当初の十人程の規模を、少しずつ拡大して現在は二十人弱程になっている。この程度ならば、ひよ子や転子がいないくても各々が各自自前で必要な物を揃えるだけである程度は完了するのだ。


「そうですね、私が見たところでは不足するような物はないかと。一応お二人が戻ってきたら確認していただくのが良いかと。私ではまだ不慣れと言うのがありますから」


かく言う詩乃にも、すでに及川隊や織田家の現状把握に務めているのだ。遼太郎としてはゆっくりしても良いと言ったのだが、


『いえ、何かをしていないと、何かを手伝っていないと、私と言う価値を見失いそうになってしまうので…』


詩乃にはこう言われ、断られてしまったのだ。直接の原因ではないものの、やはり結菜が連れ去られたと言うことに少なからず責任を感じているのだろう。


一方詩乃の立場から言えば、自身の責任を感じて自己嫌悪に陥るより、自身の力を少しでも遼太郎に役立て、解決に貢献しようと考えていた。



「なぁ詩乃、次の稲葉山城攻めに際して、稲葉山の地形と城の作りって言うのは聞いても大丈夫?」


遼太郎が迎え入れることに成功し、正式に及川隊に所属することになったとはいえ、詩乃は元美濃の武士なのである。遼太郎はその事に少し躊躇いを覚えながら聞いてみる。


「ええ、構いませんよ。というよりも遼太郎様のことですので、すでに準備をお部屋の方にしてありますよ」


「さすが詩乃だね。先の見通しがすごいよ」


そう言って遼太郎と詩乃は、宛がわれた遼太郎の部屋に向かっていく。







「それで、まず始めに稲葉山と言う地形についてですが……」


部屋に稲葉山の地図を広げた詩乃が説明を始める。


「堅城が建てられると言うことから、やはり山の形には特異性がありますね。特に東と南西に広がる尾根のうち、南西側に伸びる尾根がなだらかに続くと言うのが特徴ですね」


まるでブーメランのように東と南西に伸びた山の形が中心に記された地図を、詩乃が指差しながら説明をしていく。


「そして、ここで今度は城の見取り図を重ねます。稲葉山城の門は三つありますが、攻め入りが出来る門は大きく二つですね。一つ目が三の丸近くの大手門、二つ目が南西に伸びる尾根からの百曲口です。ここのどちらかを突破すれば、二ノ丸の門、そして天守閣のある本丸の門の構えとなります」



詩乃が稲葉山城を拡大した城の見取り図を解説していく。



「へぇー、門を一つ破れば本丸に雪崩れ込めるって訳ではないのか。山城ってこんなにも複雑なんだな」


久遠の清洲城や墨俣の城は平地に建てられた平城と言うこともあって、ここまでは入り組んでいたり、複数の門はあったりはしない。


「門が三つ続くってことは、手前の門が破られる度に後ろに下がっていくのか?」


遼太郎が城攻め、防衛での戦いかたを尋ねる。


「そうですね、外側の門から徐々に、と言う形ですね。そのため内側の門は、その門で防衛戦が始まるまでは開いて仲間の撤退を待ち、人手を回収して、敵の攻めに備え閉めると言う流れですね」


「ふむふむ」


平地でがむしゃらに戦ってきた今までの戦闘と違って、今回は作戦や策と言うのが大きな意味を持ちそうだと遼太郎は感じる。


「ちなみになんだけど、仮に帰蝶が捕らわれていたとすると、どの辺りにいると思う?」


「ふむ、恐らく可能性が高いのはやはり本丸の天守閣ではないでしょうか?帰蝶様は前当主斎藤道三殿の娘。つまり、現当主龍興殿の叔母にあたるお方です。ある程度は保証された状態の場所におられるとは思いますが…」


遼太郎が尋ねること一つ一つに丁寧に答えていく詩乃。この辺りはさすが出来人、竹中半兵衛と言えるだろうか。









そんなやり取りから数日、ひよ子や転子をはじめとした調略組が清洲へ戻ってくる。


話を聞くところ、稲葉山城乗っ取りに加担した西美濃衆の三人を筆頭に織田に内応する領主が現れ、少なくともその他多くの領主からは、どちらにも加担しない中立の条件を得られることに成功したと言う。



「ご苦労であった。ひよ、ころ。これで今度こそ稲葉山城を攻め落とすことが出来そうだ」 


二人の報告を久遠が聞き終える。


急ぎの報告と言うことで、ひよ子と転子、そして遼太郎は久遠の屋敷に来ていたのだ。



その後、報告を終えた遼太郎はすぐさま最終準備にむけ、長屋に戻ろうとしたのだが…



「………………」

「……………」


久遠と二人部屋に残っていたのだ。しかもそこは少し空気が強ばっているようである。


と言うのも、遼太郎が部屋を出ていこうとしたときのことだ。



(お頭、何でもすぐに戻ろうとしてるんですか!少しは気を使ってください!)


(そうですよ、久遠様は結菜様がいなくなってから一人なんですよ!私たちで時間は作りますから)



ひよ子と転子が久遠に聞かれぬように遼太郎の耳元に寄せて言ってきたのだ。


そして、ひよ子と転子は結菜の変わりに食事を作っている最中である。



「ふふ、二人には気を使わせてしまったかな」


気不味いを感じる遼太郎に対して、久遠が軽く話しかけてくる。


「いや、そんなこともないとは思うけど……」


ぎこちなさが残りながらも遼太郎は言葉を返す。やはり、結菜の一件から遼太郎は久遠に申し訳なさから接し方に困ってしまっているようである。


「遼太郎、そんなに畏まらないでくれ。形の上でも我とお前は夫婦なのだからな。結菜の件も織田家の総力をあげて救うつもりだ。それに我らとは違う観点を持つお前もいるのだ。きっと大丈夫さ」


久遠が遼太郎を見つめてくる。口調では挽回の機会を与えてくれているようだが、その瞳には少くない不安の様子が見てとれる。


(やっぱり義理固く、優しい子だよな。だから俺は……)


遼太郎は一人目を閉じ思いを馳せる。


「ああ、今回ばかりは久遠が許可してくれなくても戦いに臨むつもりでいたんだ。当然だよ」


目を開けた遼太郎が、久遠に向けて拳をつよく握りしめ覚悟を決める。


「ありがとう遼太郎。頼りにしているぞ」


久遠はそう言って、遼太郎が作った拳を両手で包む。



「え?」


格好つけて決めたものの、久遠のいきなりの行動に遼太郎は驚き照れてしまう。


「ちょっとこう…してもよいか?」


そんな遼太郎の気持ちなど露知らず、久遠は不思議そうに首を傾げる。


「いや、ちょっと驚いただけ。大丈夫だよ」


「そうか…。どうやらな、我は思っていたより弱い人間のようでな…。この広い屋敷に人が一人二人増えたり減ったりしたところで対して変わらんと思っていたのだがな。実際はそうではなかったのだ…」


ポツリポツリと久遠が言葉を漏らす。考えれば普段一緒にいるはずの結菜が居らず、この屋敷に久遠は今一人きりなのだ。


「こんなことをお前に言えば、きっと責任を感じてしまうかもしれんが、今日だけ、少しだけで構わない。一緒にいてくれはしないかだろうか…」


「…ああ、いいよ」


再びひよ子と転子が戻ってくる一時の間、二人は言葉も交わさずそのまま幾ばくかを時だけが過ぎていった。





ーーーーーーーーーーーーーーーー





それから数日後、ついに決戦の日となる。久遠から秘密裏に夜に出陣すると聞いていた遼太郎は一人、城下町を歩き久遠の屋敷へと赴いていた。久遠は準備の為すでに家を空けている。


遼太郎は玄関の戸をあける。


『帰蝶ー、来たよ。ただいま?お邪魔します?どっちだろ』


『はいはい、それ何で疑問形なのよ。久遠の夫なんだから、ただいまでいいのよ。もう』


『あはは、そっか。じゃあ、ただいま帰蝶』


『はい、お帰りなさい遼太郎』


一人で来たときのそんなやり取りのあった玄関を抜ける。


久遠が使う広間の廊下を通り抜ける際にもある日の事が脳裏によぎる。


『おーす。遊びに来たよー』


『お?遼太郎か、通い婿ならばもう少し足茂に通ってくれてもいいのだぞ?』


『通い婿って…。まぁ間違いじゃあないんだけどさ、その呼び方はどうにかならないのかな』


『ふふ、悔しかったら自分でかんがえるか、もっと頑張るのだな』


『そうね、頑張りなさいよ。通い婿さん?』


『帰蝶までそう言うのかよ…』



遼太郎はある部屋の前に立ち止まり、その襖を開く。


その部屋は、やはり時代からであろうか他の部屋同様に物が少ない。

唯一と言ってもいい木の箪笥の上に目的の物が綺麗に飾ってあった。


そう、それは結菜が残した髪止めである。


遼太郎はそれを手に取る。


「待っててくれ結菜、久遠。二人の日常は絶対に取り戻して見せる」


戦前にもう一度遼太郎は覚悟を入れ直すため、ここに現れたのだ。連れ去られた結菜だけでない。先日の屋敷で見せた久遠の一面を見て、久遠のためにも今回の責任をとり、やり遂げなければならないと遼太郎は思ったのだ。




そして、遼太郎が髪止めを置きなおし部屋を後にしようとしたときであった。


その髪止めを置いた小物入れの箪笥の一番したの大きな引き出しが光出したのだ。


「こ、これは一体………」


遼太郎はその光る引き出しをゆっくりと引く。そこにあったのは……



「閃光手榴弾に、焼夷手榴弾…」



決戦の時はもうすぐそこである



※登場武器の補足

・閃光手榴弾

形大きさは炸裂形の手榴弾とほぼ同じの非致死性の武器。ピンを抜いて数秒の後に強烈な光と音で付近の相手の視覚聴覚を奪い行動不能に追い込む。有効範囲は手榴弾系最大だが、目視の方向に入れないと効果は半減以下。室内で使用すれば効果は倍増。


・焼夷手榴弾

形大きさは炸裂形の手榴弾とほぼ同じ。ピンを抜くと数秒後に激しい化学反応を起こして炎があがる。有効範囲は手榴弾系の中で最小の半径1メートル強程度。勿論、燃えやすい物の近くに投擲すれば火が燃え移る。



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