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太陽の恋人への執着

作者: 響 ゆかり

まずはお試しで載せてみます!楽しんで下さったら幸いです。

「助けてくれ!」


大粒の雨が振る中、大きな音を立てて店の扉を開けてフードの被ったあの男がやってきた。


これで何度めだろうか。こんな路地裏の小さな店にくるのはアイツしかいない。


「私の恋人を返してくれ!」


魔法薬と魔道書で埋もれた部屋の中で優雅にコーヒーを飲む時間がまた壊されてしまい溜息をつく。


「何故魔女の罠にかかったのですか」


毎度聞くのも飽きてきた質問をする。


「俺は……ただ……」


「貴方はいい加減したらどうです?毎回毎回浮気野郎の戯言を聞かされうんざりしてるんです」


彼は何を言ってるのかよく分からたいという顔をした。

さっきのは失言だったかもしれない。


何度も繰り返して生きてるのは俺だけなのだから。


「今回も彼女を連れてきてくれ!お前なら可能だろう?」


彼は床に這いつくばって懇願する。

やっぱりそうくるか...でももう...彼女を連れてくるのは不可能だ。


「彼女の魂はすり減っていますよ。これが最後です」


魔法陣の書かれた円盤を投げ渡す、そこには炎が雫に映って光っていただけだったが色が淡く彼女の魂が明らかに減っている。


俺はこの狂った話を終わらせることを決断した。


「貴方...1度は記憶を失ってみたらいかがです?幾度も記憶があるからこそ失敗するのでは?」


「はあ!?恋人を忘れろというのか!?」


浮気した癖に今更恋人というのか...。


俺は何度も繰り返した中で別の言葉を紡いだ。

そうだ、別の世界線で生きる彼女ならこの茶番を終わらせられるかもしれない。


「チャーム」


魔法の呪文を唱え俺への抵抗として鎖で剣を抜こうとした彼を捕らえる。


「や、やめろ!記憶だけは!頼むから」


「アンテレ」


頭に手をかざし記憶を消す呪文を唱える。

これでおしまいだ。

魔法陣を描き彼女を連れてくる準備をする。

願わくば今度こそは彼女が幸せになりますように。


「ソレイユ・ラ・ヴァン」


愛しい彼女の名前を唱えた。


「......さん!陽子さん!!」


はっと!顔を上げる。目の前に怖い顔をした先輩スタッフがいた。


「ちょっと大丈夫?これから開場でお客様がくるのよ?ぼっとしてる暇なんてないんだから」


「すみません...」


今は仕事中でぼっとしてはいけないのに...そう思いながから頬を叩く。


誰かが私の名前を読んだ気がしたが先輩だったようだ。


私 田中陽子は名前の通り平凡な人生を歩んできた。外見も黒髪ポニテ 平凡な顔立ちに体型...まあ要するにどこでもいる一般女性である。


今はある劇場で誘導スタッフとして働いている。


お客様を席まで案内し帰りはお客様を見送りその後座席のチェックをする仕事だ。


「それにしてもこの舞台人気よね」


先輩は開場する前各々の持ち場に行く時にポスターを見て呟いた。


【大人気小説 『太陽の恋人』舞台化!!】


『太陽の恋人』とは太陽の名前を持つ主人公が恋人である皇子と結婚するが歌姫に惚れ込んだことで破滅へと向かっていくストーリーとして隅っこに書かれていた。


「私は悲恋よりハッピーエンドが好きですけどね」


「全く陽子さんらしいわね」


冗談を交わしながら各々の位置につき開場を待つ。


大人気小説の影響は凄まじくたくさんの人々がきた。


慌ただしくしてるうちに閉演となり会場のチェックに来たときだった。


閉演なのにまだ人がいた。

確かに全員帰ったと思ったのに。


「おや。すみません」


彼は私の存在に気づくと立ち上がってお辞儀をした。スラリとした長身にスーツ、長髪を1束に編み込みした切れ長のグレーの瞳...ものすごくイケメンだ。


だが寝不足気味なのか目にうっすらクマがある。


「お客様閉演ですのでご退場お願い致します」


「君はこの舞台の小説を読んだことがあるかい?」


唐突な質問にキョトンとしてしまった。


「私はハッピーエンドが好きなので...読んだことがありません」


「ふふ、そうか。君ならそう言うと思ったよ」


彼は可笑しそうに笑い、スーツのポケットから珍しい形のカメオブローチを渡してきた。


「あげる。君へのプレゼントだから」


そしてさっさと出て行ってしまった。雫型のペンダントは黄金に輝きまるで太陽の欠片のようだった。


その後客席に忘れ物がないのを確認して更衣室に戻った。


初対面の人から貰ったということで迷ったが、名前も知らないし捨てるのも勿体ないということで付けた。


「雫型なんて珍しい」


ロッカーの小さな鏡を見てTシャツにジーパンのこの姿だと異様だなと思い外そうとしたら


「取れない...嘘!?」


そしてペンダントは突然、光り輝き思わず眩しさに目を閉じた。


また再び開くとそこは見知らぬ天井だった。


「ふかふかの布団気持ちいいなあ」


うん?ふかふかな布団?ここはどこ?


ぼっとしてるとコンコンとノックをする音が聞こえる。


「お嬢様、朝の用意を致します」


私か返事をしないのに彼女は無断でカードを持って入りこちら側に向かってくる。

そしてベッドの布団を剥ぎとった。


「いい加減起きてくださいってば」


ピンクのボブヘアーに大きめの髪とお揃いの瞳。可愛らしいメイド服を着た女の子だ。


「あ、あの鏡を下さいますか?」


彼女は私の反応にびっくりしながらカートから手鏡を取ってくるとそれを受け取り覗きこむ。


そこには、整った眉毛、スラリとした鼻。

唇は口角のあがったちょうど良い形をしていて瞳は二重のくるくるの大きなペリドット、肌も白く弾力があり髪色はダークブラウンの腰のあたりまで伸びていた。間違いなく美人の部類に入るだろう。


だけどその顔は...


ポスターで見た悲劇のヒロイン

ソレイユ・ラ・ヴァンのものだった。


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