表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

勇者なら元の世界に戻りました

作者: 秋空 夕子

げほ、げほ……いやあ、残念だったなあ、王子。あいつならもう元の世界に戻ったぜ。

あ? こんなことをして許されると思っているのかって?

別に俺はあんたらから許されたいなんてこれっぽっちも思っちゃいねえさ。

あいつは本当によく頑張った。

いきなり異世界に連れてこられて、世界を救ってくれだなんて頼まれて……

嫌だっただろうに、怖かっただろうに、苦しかっただろうに、それでも、あいつは世界を救ってくれた。

それなのに、元の世界に戻れないと聞かされた時、あいつがどんな気持ちだったかあんたらにわかるか?

わからねえよな。

あんたらはあいつを自分たちの都合のいい道具としか思ってなかったんだから。

最初は世界を救う間だけでもていよく使ってやるつもりが、想定以上にあいつが使える奴だったから、これからも利用してやろうっていう魂胆だったんだろうな。

……まあ、それに関しちゃ俺も偉そうなことは言えねえけどよ。俺も、あいつのことなんてどうでもいいって思ってたしな。

こんなこと思うぐらいなら、初めて会った時、もっと優しくしとくんだったぜ……

……あんた、あいつのことを側室にして囲い込むつもりだったんだろう。

勇者が自分の味方なんだと周囲に見せつけておけば、王位争奪戦で優位になるし、諸外国にも牽制できる。

だから、もう元の世界には戻れないなんて言って、あいつを騙した……

だが、あんたらはわかってなかったな。

元の世界ではただの学生だったあいつが今まで頑張ってきたのは、元の世界に帰るためだったんだ。

戻るためにやりたくもない剣の特訓をして、覚えたくもないのに魔法を覚えて、戦いたくもないのに戦ったんだよ。

それが、やっと帰れるって思った矢先に、帰れませんからずっとこの国で暮らして欲しいだぞ?

はい、わかりましたなんて受け入れられるわけないだろう。

勇者として持て囃され、金を湯水のように使う贅沢三昧な生活をさせればあいつが喜ぶと思ったか?

そうだとすれば、あんたらは最後の最後まであいつの勇者っていうレッテルしか見てなかったってことになるな。

あいつはな、普通の女の子なんだよ。

家族のところに帰りたいだけの、どこにでもいる、ただの、人間だったんだ。

あいつが出奔したのは、誰かに唆されただとか拐かされたからなんかじゃない。

元の世界に戻れないと言われて、自暴自棄になってしまったんだ。

俺があと、少し見つけるのが遅かったら……あいつは本当にどうなっていたことか……

……本当に、間に合ってよかった…………

あーくそ、意識が保てなくなってきたな……まあ、こんなに血が出たら当然か……

体中が寒い……死ぬってこんな感じ何だな……

は? なんで、今まで権力には目もくれず、剣の道に生きてきた俺が、ここまでするか、だと?

はは、んなこともわからねえ、のかよ……

惚れた女には……幸せになって、ほしい……だろうが……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 悲しい物語は苦手ですが、男の生き様・思考、願いには素直に敬意を払いたいと思いました。 [気になる点] 作品中盤の「側室」という単語が出てくるまで勇者が男の子・少年だという思い込み・先入観が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ