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やなりん

作者: 羽生河四ノ

家が家鳴りを頻繁に行う。

「うわあ・・・」

ぎし、ぎい、みし、ばり、どん、がん、がんがん、等々バラエティは豊富。大袋のお菓子アソートパックくらいのバラエティ。それが時にはばり、っていうショートだったり、時にはばりばりばりばりっていうロングだったりする。あと組み合わせも多種多彩だし、ぎしとばりだったり、みしとがんがんだったり、三種盛だったり四種盛だったり、とにかく総合的にみるとバラエティは豊富だ。なんていうかな、自由。許容がすごい大きいというか、なんでもいいよみたいな。例えば昼間はこのクーポン券は使えませんみたいな飲食店って結構あると思うんだけども、家の家鳴りはそういうの全然気にしない。いいよいいよ、全然いいよ。組み合わせも自由だよ。数も好きなだけいいよっていう感じ。クレープ屋さんとかだったらすごい思うけどでも、これはクレープ屋さんの話ではなく、我が家の話なので、そこに住ませてもらっている側としては気になる。それはもう気になる。


ばん、

「おおう・・・」

最初のころは驚いてつい声とかも出していた。最近はさすがに慣れてきたので声は出さないけども、それでも一瞬伺うみたいなときはある。天井を見る時は今もある。あまりにも不意を突かれたりすると、どきってする。


みしし、

「・・・」

特に夜中とかはドキドキする。もちろん昼間もドキドキするんだけども、やっぱり夜のほうがドキドキする。


以前住んでいたところではこういうことはなかった。あと、ここに住む前から事前情報として知っていたんだけども、家鳴りっていうのは別になんでもないことらしい。家が鳴るのは当たり前で、別に騒ぐようなことではないし、ましてや、霊・・・ちがうな、死・・・ちがう、おば・・・生きていない・・・半透明・・・卒業生のことを考えるようなことではないそうだ。


家鳴りは卒業生とは何の関係もないことだという。


だから私だって別に気にしているわけではないんだけども、でも、まあ油断しているときに音がしたらびっくりするじゃない?


ばり、

とか、そういうのが夜中誰もいない時にしたら驚くじゃない?そういう話。


あとホラー映画とか見た後とかなんか妙に気になったりする。見なきゃいいんだけども、でも見たいのに見ないっていうのはもう気にしているということになりかねないので、それはみる。映画見ているときはイヤフォンもしているし、そういうことから気持ちをそらせられるという効果もある。


「うわ、うわあ・・・」

でもホラー映画が怖すぎる時、特に何か出そうな間合いのシーンの時、振り返って誰もいない。また正面を見る、そんで主人公の背後にピントが合ってない、何が出そう。みたいな時とか、怖すぎて薄目で観つつ、音楽も怖いので、イヤフォンもすこし外し目にしているときとか、

がたん、

ってなると、うひいいいってなる。それはもう首とか肩とか背中とかつる。釣り堀に行った時よりもつる。酷いときは下半身もつる。死ぬって思う。


めきき、

家のそういう家鳴りについて何もしたことがない。例えば盛り塩とかもしない。そんなことしたら何かあるといっているようなものだし、してしまったらそれの原因を半ば特定してしまっているようなものだし、だからお札も張ってないし、数珠も持ってない。天井裏を開けてみたりもしてないし、押し入れの上のところから頭を突っ込んでその先をライトで照らしたりもしたことない。

がたがた、

だってそんなことしてなんかあったらどうするの?例えば、油紙に包まれたなんかふっるいぼろぼろの紙の束とか変色した白黒写真とか、フィルムとかビデオテープとかあったらそれはもう、それはもう後戻りできない事態である。そんなもん発見と同時に始まってるみたいなもんだし、終わってるみたいなもんだし。


ぎいい、

あともっとモロだったらどうするの?束ねられた髪とかさ、骨とかさ、のぞいた瞬間そこに青白い皮膚の人、あ、卒業生がいたらどうする。はいお疲れーみたいなもんじゃないの。はいはいもうはいはい。みたいな感じじゃん。


だから何もしてない。


引っ越しも考えてはいるけども、でも面倒だよなあ。引っ越し。ドラマとかでそういう時すぐ引っ越したりする人がいるけども、引っ越しって面倒だよなあ。引っ越しの面倒さがドラマとかにはない。そこを描いていない。抜けていると思う。


めきい、

だからそれもできたらしたくない。隣の人がおかしいとかだったら、そういうことも検討しなくてはいけないかもしれないけど、でも、今のところ家鳴り、一定の距離を保った家鳴り。のみ。


もろが出たらそれはもう、無理だけどね。


うん。


めきり、めきりめきり、

「ふー」

こうしてやっている間にも家鳴り。


ずぼん!


いつもよりも派手な音がして、さすがになんだ?と思って見上げたらそこに足があった。

「わ、わー!」

突然、天井から足が出てきた。


家から飛び出し、近所のコンビニに走って、そこから携帯で警察に電話した。


家の天井に見たこともない他人が住んでいたらしい。


「住めるようなスペースがあるんですか?」

事情聴取で警察の方に聞いてみたら、

「いや、普通の人は住めないようなところにいつからか、住んでたみたいです」

とのことだった。


で、驚いたのはそういうケースはいくつもあるんだという話。普通だったら絶対に住めないようなところに時として人は住んでるんだと。


その後現場検証の終わった家に帰った。

「あーあ」

天井を見ると穴が開いていた。


誰が修理するんだろうなあ。と思いながら、とりあえず家での些事をこなした。そんでお風呂に入って、眠くなってきたころパソコンの前にいたら、


ぎい、

と音がした。

とっさに天井の穴を見たらそこに顔があった。

知らない人の顔。

それがこちらを見ており、

一心に見ており、

私と目が合っており、

やがて私にめがけて、

しずくのように垂れてきて、


そこからの記憶はない。


気が付いたら廊下で寝ていた。天井を見るとまったく覚えていないんだけども穴がふさがれていた。荒い、へたくそな、とにかくふさぎました的な修理だった。


家鳴りは今もする。


ただ、私は最近とてつもない発明をした。


家鳴りのことを家鳴りんとか、家鳴りちゃんとか呼ぶようにしたのである。そしたらぎいとかばりとか、がたんとか、かたとかっていう音がしても怖くなくなったし、気にならなくなった。


ねえ、とかちょっと、とかおい、とか言われても気にならなくなった。

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