#4 電話
その日の夜、ベッドの上に寝転がりながら少年へメールを送った。
『皐月クンって彼女いるの?』
・・・・いきなりこんなメールは変かな・・・と思ったけど、昨日あたしも聞かれたし良いか。
(聞き返してやろう。)
只今PM10:35。
・・・・中学一年生なら、まだこの時間起きてるよね?
少なくともあたしは起きてたぞ。
そんな心配は虚しく、数分で少年のメールは返ってきた。
『いないよ。ていうか、メールしてくるの遅すぎ。』
・・・なんて生意気なメールを返してくるんだ。
あたしが勝手にアドレス渡されて、メールしてやったつのに!
『あたしにも都合があんの。』
1分もしないうちに返信。
『どんな?』
短い・・・
『勉強とか。』
そしてすぐに返信。
『それだけじゃん。』
ムカつくなぁ。
『君返信するの早すぎ。』
・・・・ちょっと文句を言ってみる。
遅いよりは良いんだけどね。
『だって優さんとしかメールしてないし。』
・・・・友達いないのか?少年は・・・
あたしだけって・・・・
悲しすぎるだろ、それは。
『友達とは?』
いつもよりゆっくりの返信と思いきや、ただいつもより文章が長いだけだった。
『アドレスは知ってるけど、学校で話してるし別にメールしなくても良い。』
・・・・こいつ中1のくせに冷め過ぎ。
仲良い子同士だったら、学校以外でもメールしたり電話したりしたいだろ。
そんなこと思うのって、あたしだけ?
それとも、女子と男子の感覚は違うの?
それでも違ったら何?
今時の子ってあたしの世代より冷めてるの?
『君、絶対自分からメールしないタイプでしょ。』
少し攻撃的なメールにありつつあるような・・・
と思いながらも送信。
『する時もあるよ。』
ホントかよ。
『どんな時?』
『用事のあるときに決まってるじゃん。』
やっぱり・・・
『無愛想。』
一言文句を言ってあげようじゃないか、少年。
返ってきた内容は、
『優さんのケー番教えて。』
・・・・・何でよ?
とは言わずに、素直にあたしのケー番を送信すると、
♪〜♪〜♪
すぐに電話がかかってきた。
「もしもし。何?メールしてんだからわざわざ電話かけてこなくても良いじゃない。」
電話で聞く少年の声は実際に会って話すよりも、少しだけ低く感じられた。
『僕メール嫌いなんだよね。』
「あたしに言われても困る。」
『文章だけって気持ち悪くない?』
「さぁ。」
『それに電話の方が絶対的に早く話が進むじゃん。』
「まぁそうだけどね。でもメールの方が安いし・・・」
『何時間もかけて、くだらない文章打ち込んでる方が僕にとっては苦痛なの。』
「皐月クン、中1っぽくない。もっと可愛く話しなよ。」
ちょっと嫌な感じか?あたし。
『それ先輩に言われたことある。』
・・・・苦笑気味に返される。
「女?」
『うん。』
ちょっと悔しい気持ちがしたのは、気のせいだと思っておこう。
「・・・・・・・・・・。」
・・・あたし的には電話の方が苦手。
沈黙ってあんまり好きじゃない。
ていうか好きな人いないでしょ。
(気まずいし・・・)
『・・・ぅ・・何・・チ?』
電波が悪いようで、少年の声が途切れて聞こえてきた。
「は?」
『・・・やっぱなんでもない。』
今度はちゃんと聞こえる。
「言い出したことは最後まで言いなさいよ。」
『どうでも良いことだから。』
「・・・あっそ。別に良いけど・・・」
『うん。』
少年が頷くと、再び沈黙が訪れる。
今度はあたしから口を開いた。
「今何してんの?」
『勉強。』
「好きだねぇ。」
『好きじゃないよ。お母さんがうるさいだけ。』
おばさんがそんなうるさそうな人には見えないけど・・・
やっぱり外と家の中じゃ違うのか・・・
「厳しいの?」
『甘いよ。』
「なら、何で?」
『今までのテストで良い点取ったから期待されちゃってさ。』
「あぁ・・・そういうこと。期待に応えてるわけだ。」
『期末ダメだったけどね。』
「何位だっけ?」
『6。』
「それでダメなんて言ったら、あたしなんてもうダメ以下だっつの。」
『アハハ、そっか。』
少年の笑い声が可愛い。
と、感じてしまうのはあたしが少年よりおばさんだからなんだと思う。
『優さん。』
いきなり名前を呼ばれて驚く。
「ん?」
『お母さんに電話してるのバレそう。今日はもう切るね。』
「あ、うん?」
『じゃあね。』
「うん。」
『おやすみ。』
「・・・・ぇ・・あ、うん・・・おや・・・・あ・・・・切れた・・・・」
・・・中1のガキが、年上に向かっておやすみなんか簡単に言うか?普通。
ビックリしすぎて、すぐに反応できなかったじゃないか・・・
「・・・ふぅ・・・」
やけに大人っぽい声で言われるから、一瞬トキめいてしまったじゃないか。
どうしてくれるんだ。
あたしにも愛の年下好きが移った?
(・・・別に・・・好きなわけじゃないけど・・・)
年下に、しかも中1にドキドキしたあたしって、やっぱり変かなぁ・・・
(いや、あいつがマセ過ぎなだけだって!)
「・・・・・・・・・・はぁ。」
何、焦ってんだか・・・
ベッドの上にある枕を思い切り抱きしめながら、あたしは火照った脳みそを冷やしていた。
年下に振り回されるなんて、まっぴらごめん。
カッコ悪すぎ。
しばらく頭の中で反省をしていると、やがて眠気が襲ってきた。
明日になれば、少年のことなんてすぐに頭の端に追いやられるに決まってる。
ゆっくり目蓋を閉じると、もうそこから何も考えられなくなった。