1-3 調教と言う名の英才?教育?
三歳になると、施設で本格的な『調教』が施された。
実は、それまで何もされていなかった訳では無い。
人が寝てる時、ほぼ毎日と言っていい程、耳元で誰かの囁く声が聞こえていた。
曰く、「院長には逆らうな」
曰く、「院長の言葉は全てにおいて正しい」
曰く、「院長には身も心も捧げよ」
曰く、「院長の命令には忠実であれ」
等々。
一種の催眠術ーー洗脳である。
ぶっちゃけ、ウザかった。
スキルのお陰で、俺にはそう言った精神攻撃は通用しない。
それでも、気が滅入るのは仕方ないだろう。
調教を施されるのは、何も施設の子供全員ではない。
素質のある者に限定される。
子供は全部で二十三名(意外と多い)居るが、俺を含めて、現在八名が|調教される側だ。
その七名(俺抜きで)は、どうやら既に洗脳済みの様だ。
俺達の指導を行うのは、マイラさん(俺を拾ってくれた人)だ。
この人、意外にもこう見えて、凄腕の暗殺者らしい。
拾ってくれた時はそうは見えなかったが(暗殺者って、何か血も涙もない冷血で無感情のイメージがあるじゃん?)、今ならそれも納得だ。
指導をする時の彼女は、正しく暗殺者然としていた。
冷たい瞳に感情の抜け落ちた表情ーー不謹慎かもしれないが、こんな時なのに、美波先生を思い出してしまう。
授業の内容は、主に午前中が読み書きや計算、この世界の地理などだ。
午後が、実技の訓練に宛てがわれた。
暗殺者が読み書きや計算をするのかと意外に思ったが、潜入が必要になってくる場面などを想定してるらしく、それを聞けば成程と納得する。
地理に至っても、暗殺者は世界の何処にでも出向出来る様にとの事。
正直な所、読み書きは兎も角、計算は前世の記憶を持っている俺には殆ど不要だし、地理についても、ある程度はアシスに時間のある時に既に学んでいた。
なので、退屈以外の何物でもなかった。
それでも、無知である筈の子供が、最初から何もかも知ってるなど、常識的に有り得ないので、それらしく装う必要がある。
午後の授業に関しても、前回も説明した通り、本来スキルとは反復練習をして漸く手に入れるものだ。
けれど、俺は一回経験すればスキルが解放されてしまう。
なので、此方も悟られない様に上手く調整する必要があった。
総合的に言って、授業内容よりも、周囲に気を配る事に神経を使って疲れた。
それから、これは誰も知らない事だが、皆が寝静まった頃、解放されたスキル(〈隠蔽〉や〈気配遮断〉など)を駆使して、俺はこっそりと施設を抜け出し、夜の森に出掛けていたんだ。
理由は当然、自身のレベルを上げる為。
最初は苦戦した。
何せ、俺はスキルはあっても、まだレベル0の全くのド素人なんだから。
なので、アシスのアシスト(駄洒落じゃ(略))を受けながら、罠を仕掛けたりして、何とかこうにかやりくりしていた。
生き物を殺す忌避感?
引かれるかもしれないが、あまりそう言うのはなかったな。
こっちも、生き残るのに精一杯だし。
でも苦戦してたのは最初の二~三回までだ。
レベルが上がるにつれ、ステータスの恩恵もあって、徐々に体への負荷も減っていった。
これには、レベルを上げる以外にも理由があって、スキルの解放も目的としている。
日常では解放されないスキルも当然あるので、実践でスキルを解放しつつ、慣らしていく必要があった。
こうして俺は、五歳になるまでを、毎日過ごしていたんだ。