プロローグ②
目の前には、青空が広がっていた。
口を開くと、「あー」と言う、言葉にならない言葉が出る。
俺は、内心溜息を吐く。
いや、流石にいきなり過ぎるだろう。
あの、問題用紙?に回答した直後意識がなくなり、次にこれだ。
きっと、すぐに転生されたわけでなく、俺の意識がない間にあれこれと何かやってたのかもしれないが、もっと何か前振り的なものがあってもいいと思う。
しかも、赤ん坊の頃から、既に前世の記憶持ちで、意識もハッキリしているって……。
ラノベとかでは良く見かけるパターンだが、実際自分が体験してみると、ある程度成長するまでは、きっと赤ん坊のフリとかもしないといけないだろう。
そう思うと、かなりイタイと思うし、面倒臭い。憂鬱だ。
せめて、五歳位になってから記憶が戻るとか、もっと気を使って欲しかった。
これからの事を考えると、頭が痛くなってくるな。
それにしても、俺は何故外に居るのだろうか?
俺は、どうやら粗めの籠の中で、外に放置されている様だ。
首はまだ、上手く座ってないのか、状態を起こす事も出来ないので、周囲を見回す事もままならない。
ああ、これはもしかして……。
俺は、ある一つの可能性に行き着く。
いや、もしかしたら考えすぎかもしれないが……もしかしたら違う可能性だってあるかもしれないが……こう言う時の『感』と言うものは、嫌という程当たるんだよな。
そして、俺の予想を裏付ける様に、ジャリっと土を踏みしめながら、足音が近付いてきた。
「あらあら……困りましたね」
うっすらと瞼を開ければ、そこには少々窶れた顔をした、美人な女性が俺を見下ろしていた。
ああ…………やっぱり、またか。
何だ?俺はそう言う星の元に生まれたのか?
そんな事を考えながら、俺は内心苦笑するのだった。
「…………捨て子?」
女性は俺をだき抱えると、建物の中へと入り、ある部屋へと一直線に向かった。
ただ、部屋の前でノックをする時に、一瞬躊躇いが垣間見えたのが気になる。
そして中に入ると、髪が大分薄くなった白髪混じりの壮年の男が、不機嫌を隠そうともせずに呟く。
「……チッ!男か」
男が、俺に一瞥だけくれると、舌打ちをしてすぐに視線を外した。
お姉さんが、ビクッと肩を震わす。
…………ふむ。これは典型的な駄目なパターンだな。
しかし、そう思ったのも束の間、男が思い直した様に、もう一度俺をジッと見ると、次には嫌らしい笑みを浮かべた。
「……まてよ。そいつの髪……それに、僅かに耳も尖っている」
髪?髪がどうかしたのか?
それに耳が尖ってるってどう言う事だ?
鏡がないので、当然自分を見る事が出来ず、俺は困惑する。
男は、俺の戸惑いには(当然)気づかず、何やら一人でブツブツ言ってる。
お姉さんも、声を掛けて良いものか分からず、困った顔で立っていた。
「…………成程。ハーフエルフか。これは良い拾い物をしたかもしれんぞ?上手く育てば使えるかもしれん……」
ハーフエルフ?
ハーフエルフと言うとあれか?ファンタジー世界ではお馴染みの『エルフ』と『人間』の混血児?
俺が?
今度、鏡で確認してみよう。
男が考えを纏めたのか、顔を上げると、お姉さんを指さして言った。
「いいか?そいつは、丁重に『調教』しろ。将来、きっと役に立ってくれる」
「っ?!」
歯に衣着せぬ物言いで、男が言い放つ。
それにしても、『調教』と来たか。
当たり前だが、赤ん坊が言葉を理解してるとは思わないんだろうな~。
恐らく、子供の頃から刷り込み何かをして、自分達に逆らわない様に指導をするのだろう。
だからお姉さんも、
「………………分かり、ました」
一瞬、息を詰まらせたものの、逆らう事もせず、項垂れながら了承するしかなかったのだろう。
お姉さんが部屋を退室すると、俺を強く抱き締めながら、「ごめんね。ごめんね」と、何度も謝っていた。
お姉さんは、俺を部屋に揺りかご事置くと、慌てる様に部屋を出ていった。
今、ここには俺一人だけとなる。
さて、これからどうするか……。
どうするも何も、今の俺はただの赤ん坊だ。
口から出るのは、相も変わらず「あー」とか「うー」ばかりだ。
これでは、何かをしようにも、何も出来ない。
意識もハッキリしてるし、記憶もあるのに、暫くは何も出来ないって、どんな拷問だよ!と、正直嘆きたくなる。
ラノベとかなら、「ステータス・オープン」とか念じれば、ステータスが表示されるんだが……。
な~んてーーー
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【名前】トーヤ
【年齢】0才
【性別】男
【種族】ハイエルフ(ハーフエルフ)
【レベル】0/∞
【転生者特典】〈全能〉
【称号】〈転生者〉〈超越者〉〈????〉
--------------------
………………………………出たよ。
マジか。
これって、ラノベとかだけの話じゃないんかい。
流石に、自分が当事者になると微妙と言うか何と言うか……。
現実と非現実の境が曖昧になって危険だな。
気を付けよう。
ステータスは、一般的なものなのだろうか?
そこも、要検証だな。
それにしても、既に名前が決まってるんだな。
少なくとも、名無しで捨てられた訳じゃないって事?
………………分からん。
まあ、今考えても詮無き事だな。
それはさて置き、このステータスを見て気になるのが、【転生者特典】の『全能』と、【称号】にある『????』てやつか。
『????』は、恐らく何か条件をクリアする必要があるとして(ラノベの定番なら)、『全能』って何だ?
そうして俺が頭を捻っていると、何処からともなく、声が響いてきた。
〔〈全能〉とは、読んで字のごとく、『全ての能力』と言う意味です〕
?!は?!誰?!
〔初めまして、マスター。私は、マスターの補佐を務めささせて頂きます、〈人工全知〉です〕
あ、アーティ……?
[呼び方は、お好きにどうぞ]
はあ………………って!いやいやいや!そうじゃなくて!!何処から声がしてんの?!
俺は慌てて、視線だけをキョロキョロ動かす。
[探しても、何処にも居ませんよ?私は、所謂マスターが持つ【能力】の一つに過ぎませんから。姿形もありませんし、会話は脳に直に語りかけていますので]
な、なるほど……。
言われてみれば、確かに頭に直接響いてる様だ。
…………少し落ち着いてきた。
で?要は君は、俺の補佐をしてくれるって事でいいのかな?
[はい]
その理由を聞いても?
[記憶保持者である方々には、ステータスにもあるように、【転生者特典】と言う物が付いています。こちらは、一般的なスキルよりも強力でして、そう言った方には、私の様なサポーターが付く事が希にあります]
ふーん。つまりは、誰にでも付く訳じゃないって事?
[はい]
それじゃ、次の質問だけど、君はどんな質問にも答えられるの?
[残念ですが、全てを答えられるかは、質問内容にもよります。『全知』といいましても、制限が掛けられてる内容にはお答えしかねます]
制限、ね。なるほど。
なら、答えられる範囲で構わないから答えてくれる?
[畏まりました]
俺が居た白い空間内に居た人達で、実際にどれだけの人が記憶を持って転生出来たのか。それと、記憶を持たなかったとしても、転生出来たのか。
[あの場に居たのは、全部で二一三六名で、その内の三割程が記憶保持者として転生しております。更に四割の方が、記憶を消去されて転生されました]
三割か……多いのか少ないのか、微妙な所だな。
つまり、残りの三割は転生する事すらなかった、と?
[はい。そうなります]
そう…………。
もし、彼女が居た場合、どちらに該当するのだろうか。
流石に、そこまでは答えられないだろうな。
それじゃ、次の質問だけど、さっき言ってた俺の能力の〈全能〉……あれは、他にも持ってる人達が居たりする?
[はい。居ます。但し、マスターが持つ〈全能〉と、他の方々の持つ〈全能〉は違いますが]
ん?どゆこと?
[申し訳ありません。そこまではお答え出来ません。私は、あくまでマスター個人の能力の範囲内をお教えする事は出来ますが、流石にまだお会いしてもいない方の能力まで答えるのは…………ルール違反となりますので]
そりゃそうか。
なら、俺の能力〈全能〉についての詳しい情報と、身動きが取れない赤ん坊でも何が出来るのかの、効率の良い方法があったら教えてくれる?
[承知いたしました。マスター]
うん!宜しくね?『アシス』。
[…………アシス、ですか?]
うん。呼び方は好きにって言ってたから、アーティなんちゃらだと長いし呼びにくいし、サポートって呼び名も変だし、だから、助手って事で『アシスタント』ーー略して『アシス』にしたんだけど……嫌かな?
[……いいえ。光栄です]
良かった。あ、俺の事も、『マスター』じゃなくて『トーヤ』でいいから。
「畏まりました。トーヤ様」
こうして、俺はアシスのアシスト(駄洒落じゃないよ?)を受けながら、異世界で前世の記憶を保持したまま、新たな人生を歩むのだった。
【短編】より
ステータス表記に、【性別】を追加しました。
それから、最後のアシスの台詞をカットしました。