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最終話


 帰ってきた。

 『Beyond Fantasy memories』よ、俺は再び帰ってきた。

 どこまでも続く青い空、遠くに見える山。美しい湖。

 静かな森の湖畔の影には、真新しいログハウス。サタヤンとその師匠が作ったっていう家。

 俺の新しい人生が、俺の新しい冒険が、これから始まる。


「トモロの帰還を祝してー、パーティ、キノコ大好キーが再び全員揃ったことを祝してー」

「「かんぱーい!!」」

 今日は俺の帰還祝いでバーベキューパーティだ。

 ロード、コレキヨ、サタヤン、速撃ちマック。

 他にも何人か来てる。エールのジョッキを打ち鳴らしてグイッと呑む。

 現実世界の俺だとアルコールを呑んでも気持ち悪くなるだけなんだが、こっちの俺の身体だとその心配は無い。ほろ酔いで気分良くなれる。未成年? 知るか。『Beyond Fantasy memories』の裏面にそんなもん関係無い。


「トモロー! こっちに来たらこれだろ!」

「うぉ! 出た! マンガ肉!」

 コレキヨが持ってきたものを見てテンション上がる。上手に焼きやがれー、と言いたくなるような骨付き焼き肉。赤いソースをたっぷりかけて骨を掴んでかぶりつく。野性味満点。

 噛みちぎって独特の肉っぽい臭みを堪能する。ラムっぽい肉でわざと臭みと固さを残してあるのが、いい感じ。

 イエス! ワイルド! アイアム冒険者!

「トモロー、髪にソースと肉の油がついてんぞー」

「はっはー! 俺ってワイルド?」

「イエス! ワイルド!」

「ゲット! ワイルド!」

「「上手に焼きやがれー!」」

 コレキヨと骨付き肉を高く掲げて笑う。 


「なんでトモロとコレキヨが揃うとおかしなテンションになるんだ?」

「バッカお前らがノリ悪いんだってーの! 上げていこうぜ!」

「そうそう、久しぶりにこうして揃ったんだ。どっかの迷宮(ダンジョン)を攻める計画を立てようぜ」

 俺が言うとロードが止める。

「トモロは明日から先にこっちに来てる人達のとこに挨拶回りだ」

「新参者は顔出しといた方がいいか」

「師匠連とも会っといた方がいいだろ」

 ロードが持ってきたトマトにかぶりつく。ロードの作ったトマトは小ぶりで酸味がある。

「よくまぁ、再現できるもんだ」

「出来映えまで再現されるから、やってみると手間がかかって苦労するのも解る。リアルスキルってアナログで難しい」

「そのわりには楽しそうだが?」

「やりがいはある」


 女がひとり、近づいてきて、

「トモロ、動かないでねー」

 ハンカチで俺の髪の毛についた肉のソースをとってくれる。ちなみにこっちの俺の髪の毛はちょい暗めの青い色で背中に流れる長髪。いーだろ別に、長髪ってなんかカッコいーなーって思ってたときに作ったアバターなんだから。

「はい、とれた」

「ありがと、モリーアン」

 その女の子はモリーアン。カラオケボックスで会った3人娘のひとり、由貴ちゃんだ。


「コレキヨにいきなり彼女ができるとは」

 コレキヨとモリーアンは分かりやすくイチャついてる。なんというかモリーアンがコレキヨにちょっかいかけて反応を楽しんでるようにも見える。

「俺も予想外だわ。人生、何があるか解らんもんだなー」

「で? どーなん?」

「どーって、何が?」

「いや、付き合うとなったらなんかあるだろ」

「トモロのスケベー」

「ちげーよ。何言ってんだこのオッパイスキー」

「俺もいまいちよー解らん。お前らとつるんで一緒に遊ぶノリと変わらんぞー」

「じゃあ、俺もそんな気ぃ使わんでもいいのか?」


 モリーアンの方に聞いてみる。

「いいですよー。なんならトモロも一緒に刀、作ります?」

「なんで、刀?」

「私もコレキヨと一緒に師匠に教えて貰ってるから」

夫婦(めおと)刀鍛治?」

「包丁とか鍋とか作ってます」

 ふんむ、と拳を握って力こぶを作るポーズ。だけど、ムキッと出たりはしない。料理が上手というのは女子力高いのかもしれないが、料理道具を作るのが上手な女の子はいかが?

「私とコレキヨで師匠が認める刀を打つのが目標です」

 ふたりでトンテンカンテンやってるのね。

「そしてふたりで作った刀でウェディングケーキに入刀するのが夢です!」

「斬新な刀の使い方を初めて聞いた」

 コレキヨを見るとニヤニヤしてる。

「どうだ、おもしろいだろ?」

「お似合いだわ、お前ら。で、ソックスコレクターマスターは?」


 速撃ちマックの方を見る。腰のところに女の子がしがみついてる。装備品みたいにくっついてる

「まだあとひとつ足りねぇよ」

「速撃ちマックはいつの間に靴下そんなに集めてたんだ?」

「ドロップしたのを放り込んでたら、いつの間にか増えてただけなんだが」

「この前はあと2つって、言ってなかったか?」

「サタヤンと釣りをしてたら、釣れた。青滝の靴下は出現率激低のハズなのに」

「速撃ちマックはなんか狙われてんじゃね?」

「なんで靴下にロックオンされてんだ、俺は」

「で、その子がリトか」


 しゃがんで速撃ちマックの腰にしがみついて、背中に隠れようとしてる女の子と目線の高さを合わせる。

「こんちわー。速撃ちマックの友人のトモロだよー」

 おどおどした感じが小動物のようだ。速撃ちマックが促す。

「ほら、リト。挨拶して」

 リトはちっちゃな声で、こんにちわ、と言う。

「……マック先生の、友達?」

「友達で悪友でパーティメンバーだ。しっかし、マック先生、ねぇ?」

 速撃ちマックを見ると苦い顔をしてる。

「仕方ねぇだろ。俺もなんでこうなったか解らん」

「いったい何やったんだ? お前が子供になつかれるなんて」

「まるで解らん。俺がやらかしたことの何が気に入ったかが解らん」

 手を伸ばしてリトの頭を撫でようとしたら、リトはビクッと身体を震わせて速撃ちマックの背中に顔を埋めて震える。慌てて手を引っ込める。


「トモロー」

 ロードに呼ばれてそっちに行く。後ろでは速撃ちマックがリトに話しかけてる。

「リト、何か食いたいもんあるか? 早くとらないと無くなっちまう」

 なんか、親子みてーだ。


 ロードが近づいて俺の耳に小声で囁く。

「リトには触るなって言っただろ」

「わりい、つい撫でようとしちまった」

 改めてリトを見ると串焼きの魚を食べてる。マック先生がほっぺについたのをとっている。

「なぁ、ロード。『Beyond Fantasy memories』は独自レートで13歳未満はプレイ禁止だろ。リトは小学3年生って聞いてるんだが」

「リトは特別、というか低年齢のフルダイブのテスト、ということになっていた」

「それだけ聞くと人体実験のような」

「リトの現実世界の身体の方は病院で入院中。植物状態だ」

「なんでそんなことに。病気か?」

「虐待だ。酔っぱらった父親が壁に投げつけたんだ」

「……クソな話を聞いた」

「まったくだ。それで男でリトに触っても大丈夫なのが速撃ちマックだけなんだ。これでもずいぶんとマシになった。人が集まるとこにも、速撃ちマックがいれば出てこれるようになった」

 リトにとっては、この世界はなんなんだろう。現実世界の身体がそれでは、まるでここは死後の世界のようじゃないか。


 女神イシュタとした話を思い出す。

「イシュタ、いっそ人を全部、人間アバターにしてしまえばいいんじゃないか?」

『それはダメです。人は現実世界に生きるべきです』

「俺は残りの余生、ずっと『Beyond Fantasy memories』の中でもいいけど」

『ゲームとは一時の娯楽です。ちょっと遊んで、それで生きる活力を取り戻すためのものです』

「クソみたいな現実世界には、俺は戻りたくもないけどな」

『ですので、私達AIが現実世界を、人が楽しく暮らせる環境になるようにします。その間、『Beyond Fantasy memories』の中で、人には生きていくための知恵と技術を身に付ける環境をご用意します』

 人が楽しく遊べる環境作り、それがゲームのAIのお仕事。

『傷つき、疲れた心をゆっくりと癒し、生きることそのものに喜びと楽しみを見いだせるように』

 俺のように現実逃避でゲームに没頭する奴を見て、AIは人が心配になった。そのAIが、イシュタが、私がなんとかしなきゃ、と思わせてしまった。

 それが始まりだったという。


 さて、それが上手くいくのかどうか。人はAIのように賢くも無い、優しくも無い。俺はマトモな大人なんて見たこと無い。自称ちゃんとした大人はみんな気違いばかりだった。

 マトモな人なんてのも探せばいるのだろうが、それも全体の2割いるかどうかというところだろう。

 AIが社会を変えてくれるというなら、それは楽しみだ。俺の人権でも選挙権でもなんでも使ってくれ。

『私達が現実世界の方がゲームより魅力的になるように、デザインしましょう』


「どうした、トモロ? ボーッとして」

「あー? ちょいと考え事」

 ロードが俺のジョッキにエールを注ぐ。いいよなー、この木のジョッキって。雰囲気ある。

 これもサタヤンが作ったもの。これがリアルでも作れるっていうのか。

 エールを呑んでロードに聞いてみる。

「俺たち女っけ無かったのになんでこうなったのやら」

「裏面には独特の社会ができてるから。モリーアンもマッハもネヴァンも俺たちより先にここに来た先輩で、それで世話になった」

「その流れでくっついた、と」


 コレキヨはモリーアンとイチャついてる。というか、ふたりでたこ焼き作って、ひとつだけマスタード入れてロシアンたこ焼きを作ってる。

 速撃ちマックは椅子に座って焼きそば食ってるが、膝にはリトが座ってる。ロリコンに目覚めたか。

 サタヤンはダークエルフのネヴァンと並んでバーベキュー焼いてる。その最中、ネヴァンの手がサタヤンの手に触れて、

「あ……、」

 とか言ってふたりでモジッモジッとか、してる。思わず、サタヤンに叫んでしまった。

「他所でやれっ!」


「なんだよトモロ、急にどうした?」

「いや、ロードの心の声が俺の口を使って勝手に」

「待て、なんで俺に回ってくる?」

「ひとりものがロードだけになってたから」

「ひとりものは他にもいるが?」


 ロードの視線の先に3人娘のひとり、マッハがいる。赤ワイン呑みながらリトがサザエのつぼ焼き――サザエより大きいけどサザエのような――から中身をほじくり出すのを手伝ってる。

 そのマッハに近づくとマッハの方から、

「トモロさん、ありがとうございます」

「なんでいきなりお礼?」

「さっきの叫びで少しスッキリしました」

「あれ、ロードじゃ無くてマッハの心の声だったか?」

「まったく、モリーアンもネヴァンも急に色気づいて、これはパーティ解散の危機ですね」

「それは、うちのパーティメンバーが迷惑かけてすまんこってす。マッハも誰かお持ち帰りしないか? このロードなんてどう? 残り物には福があるっていうし」

「俺を売れ残りの残り物の割引きシール付きみたいに言うな」


 ボトルをとってマッハのグラスに赤ワインを注ぐ。あれ? 高2になるとこだったか? グラスを傾けるのが様になってるからいいか。

「ロードさんもいいとは思いますが……」

 マッハは肩を並べて肉を焼いてるサタヤンとネヴァンを見てる。あいつら新婚のような空気を出してやがる。

 マッハはそのサタヤンを見ながら、

「トモロさんは略奪愛とか寝取りとか、どう思います?」

「うん、そーゆー後を引きそうなイベントは回避したい」

「冗談ですよ。酔いが回ってるみたい」

 ほんとに冗談なのか? 目がマジっぽいんだが。


 速撃ちマックの膝にちょこんと座るリトが可愛く首を傾げる。

「……ねとり?」

「リト、エスム貝の中身が出たぞ。はい、アーン」

 速撃ちマックがリトの口に貝の身を食べさせてごまかす。先生というより子煩悩のお父さんのような。小学3年生の女の子にNTRはまだ早いか。

 マッハが俺を見る。

「トモロさんはひとりものじゃ無いんですか?」

「俺は、まぁ、なんというか」


「……明日太」

 この間まで使ってた、過去の名前を呼ばれて振り向く。

「明日太、じゃ無くてトモロだよ、ヤマねーちゃん」

 見覚えの無い女が、見覚えのある表情で恥ずかしそうに立っている。

「私も、ヤマねーちゃんじゃ無くて、リリス」

「遅かったじゃないか」

「心の準備が、ちょっと」

 リリス、もとは影追(かげおい)夜舞(やまい)、ヤマねーちゃん。

 その姿は『Beyond Fantasy memories』の異種族、猫獣人(キャットテイル)だ。

 猫の耳、猫の尻尾がついてる以外は軽装の女戦士のような姿。


 『Beyond Fantasy memories』はプレイヤーの種族は人間ばかり。というのもフルダイブするにあたり、人間の身体について無い器官のある種族をアバターにしても、尻尾とか動かせないからだ。極端にもとの身体からサイズが違うもの、性別が違うものをアバターとして使うことができなかった。

 なので普通は本来の身体に近い体形、同じ性別のアバターを使う。

 何度ものバージョンアップを重ねて、違う性別、人では無い種族もアバターとして使えるようになった。ただし、ゲームに慣れてないと上手くいかない。

 なのでゲーム慣れした中級者以上のプレイヤー向けに、異種族でもアバターとして使える転生というシステムができた。

 エルフにドワーフに獣人系がポツポツと増えている。

 

「なんで猫獣人(キャットテイル)? 転生したのか?」

「だってこれなら、ほら」

 リリスが胸を張る。その胸はぺったんさんだ。現実世界のヤマねーちゃんの巨乳とはまるで違う、平坦な胸。

 ぺったん()


 猫獣人(キャットテイル)の特徴は、魔法の苦手な戦闘型種族。猫耳、猫尻尾というありがちで可愛いもの。

 そして種族特徴として、女は貧乳。

 これは種族ごとの特徴を出すため、なんていう説明があったりもするが、これは猫獣人(キャットテイル)をデザインした奴の趣味だろって言われてる。

 アバターを作る際のバストの上限設定が最大でBカップだとか。

「これなら、明日、じゃなくて、トモロも大丈夫でしょ?」

「いや、まぁ、たぶん、大丈夫だと思う」


 俺の巨乳恐怖症を心配してなのか? やれやれ。NPCのヤマねーちゃんが言ってた、似た者同士って、これのことか。

 エールのジョッキをテーブルに置いて、リリスに近づく。

「ちょっと試してみてもいいか?」

「え?」

 返事を聞かずに頭ひとつ背の低いリリスの身体を抱き締める。驚いたのか猫の耳がピンと立つ。

 うん、ぴったりくっついても、むにゅんとはならない。おぇってならない。

 俺の母親恐怖症も、これなら反応しない。

「うん、大丈夫」

「よかった」

「久しぶり、か」

「ずっと、待ってた」

 リリスが小さく震える。俺にしがみついて、腕の中で小さく泣き出した。頭を撫でて、背中をポンポンと叩く。泣き止むまで好きにさせる。

「「……他所でやれ」」

 マッハとロードの呟きがハモった。


 話を聞いてみると、ロードもコレキヨもサタヤンも速撃ちマックも、リリスとは会っていたし、リリスから俺の話は聞いていたらしい。

 そーゆーの、なんか恥ずかしいな。

「それで、なんで名前がリリス?」

「♪し~ら~べ~は、夜魔(ヤマ)リリスって、知らない?」

「知らない」

「んむ、」

 リリスのジョッキにエールを注ぐ。俺もなんか酔っぱらってきた。飲み過ぎか?


 コレキヨは俺に武器を勧めてくるが、

「俺がトモロの新しい武器を作ってやるって」

「俺は司教で後衛で剣は使わねぇっての」

 ロードとサタヤンは日本再生計画みたいなのを話してたりする。そのロードの視線が俺に向く。目が座ってないか?

「これからは政治も経済も軍事もAI任せの時代になる。と、なれば人の仕事は一次生産業。自分の衣食住の心配が第一になる。トモロもそう思うだろ?」

「あ? まー確かに、イシュタは人に生活の原点を思い出させるとかなんとか言ってたか?」

「そんなわけでトモロ、俺と畑やるぞ。トモロの畑作るに開墾からやるぞ」

 サタヤンはサタヤンで、

「先にトモロの家を作るのはどうだ? トモロはどんな家がいい? ついでに俺と木工を極めないか?」

「だから、サタヤンのはそれ、木工じゃなくて大工だろ」

 膝の上にリトを乗せたままの速撃ちマックは、

「トモロにはこっちのVR学習塾を手伝って欲しいんだが」

「なんで俺に?」

「トモロならイカれた親を持つ子供の気持ちが解るだろうし、向いてんじゃないか?」

 それを聞いたリリスが割り込んで、

「それならトモロはカウンセラーになるべき、きっと素質あるから、私が証明」

「あのなぁ、俺はまだこっちに来たばかりで、ちっとは遊びたいんだよ」


 バイヴ・カハ3人娘の方を見る。

「じゃあ、2パーティ合同で迷宮(ダンジョン)攻めますか」

「なにか欲しい素材かアイテムってある?」

「未踏破のとこで、レベルの合うとこってどこよ?」

「ちょっと待って、ダークエルフに転生したからレベル下がってるんですけど」

猫獣人(キャットテイル)になって、あんまりレベル上げてないんだけど」

「じゃあ、レベル上げにいいとこで、ナルスタン炎獄火山?」

「アホか! ガルストラ炎鳥に餌食にされるわ!」

「あそこならヒヒイロ鉱石取れるからよー」

「もうちょい楽なとこで、ラグナ紫水大滝とか」

「あそこなにがあったっけ?」

「レベル上げるにはいいのか?」

「パッとしねーな。未踏破じゃねーし」

「未踏破のとこは、どこも適正レベル高いじゃねーか」


 酒の回った頭であーだこーだと言ってると、

「……あ、あの、」

 ちっちゃな声が聞こえた。速撃ちマックの膝に座ってるリトだ。みんなで静かにして促してみる。

「……あの、ちょっと、調べてみました」

「何を?」

「……白銀の靴下の、出現条件を、」

 ……白銀の、靴下?

「「あははははははははは!!」

 頭を抱える速撃ちマック。それ見て笑いが止まらない。


「これはもう、やるしかねーな! ソックスコレクターマスター!」

「最後のひとつだったな! 白銀の靴下は! ソックスコレクターマスター!」

「お前、靴下の方に狙われてるって、ソックスコレクターマスター!」

「なんでこうなる?」

「1番入手難度の高い青滝の靴下を釣り上げてしまったら、狙うしかないな! ソックスコレクターマスター!」

「サタヤン! お前が釣りに誘ったんだろうが!」

「よし、俺の復帰1戦目の獲物は白銀の靴下で! 速撃ちマックにソックスコレクターマスターの称号を!」

「合い言葉は、靴下をよこせ! で!」

「靴下を狙うなんてサンタクロースみたいね」

「いきなりサンタクロースがディスられてる」

「あれってサンタが靴下のスメルに満足したら、お礼にプレゼントを貰えるんだっけか」

「そうそう、最上級には宝石のついた指輪とか貰える」

「ただの不法侵入のマニアじゃねーのか、それ」

「お前らな、リトに頭の悪い話を聞かせんな」

「マック先生、ノリが悪いでーす」


 バカな話で盛り上がる。やっぱりこっちは楽しーわ。

 そーだな、俺もちょっと遊んだらなんか面白そうなリアルスキルでも習得するか。そしてこのゲームの世界から、変わっていく現実世界を見物してやろう。

 緩やかに大きく変化していく現実世界を。

 やがて『Beyond Fantasy memories』に暮らしてる奴等がこう言い出すのだろう。


『ゲームに飽きたから、ちょっと現実世界で遊んでくる』


 そんな時代が近づいてきてる。

 さて、俺はどうするか。

 まずは白銀の靴下を手にいれて、それからロードと畑でもやってみるか?

 寝惚けてよりかかるリリスを支えて、日が落ちてポツポツと星が出てきた夜空を見上げる。

 俺はゲームに在りて、世は全て事も無し。

 そんなとこか?

『Beyond Fantasy memories』の夜空は現実世界の夜空よりも、綺麗に見える。




読了感謝

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