私が黙ってれば毎日がもう少し穏やかになるんじゃないかと思ってきた
なんかある。
いやなんか目の前にある。
午前9時を指す壁掛けの時計を一瞥してから、少女は朝食の時間であることを確認した。
そして視線は眼前に向かう。
なにこの黒いの。いやマジで。
「アルル~?どうしたのよ。ご飯、冷めちゃうわよ」
名前を呼ばれたアルルは台所に立つ姉、リアを虚ろな様子で眺めた。
え、これ食べ物なんですか。べちゃっとしてますけど冷めるものなんですか。もしかして食べたら私が覚めちゃう的なオチですか。
「いつもはお母さんが作ってくれるのに、どうしてお姉ちゃんがやらかしたの?」
「お母さんは毎日家事で忙しいから、たまには私が手伝ってあげなきゃ、ってね。あとお姉ちゃんに当たり強くない?え?嫌なの?」
腕を回して自慢気だったリアは言葉を紡ぐにつれて表情に不安が募る。
「ちょっとお姉ちゃん先に食べてよ」
いつかのお偉いさんは、部下に自身が食べる食事を少しだけ与えて、摂取するにあたって問題がないか確認をしていた。知らんけど。ここではやべぇ朝ごはんを作られた私は被害者だから、なんか強さ的にはあちらに毒味をさせる権利はあるでしょ。知らんけど。
「な、なによ!見た目は悪いけど、味はとってもいいんだから!」
私の言い方から、自分の作った食事に難を付けられたと察したリアは、憤然たる態度で自分のスプーンを取り出す。
「上手に出来たのに、このパンケーキ!」
あっこれパンケーキだったんですね。てっきり泥団子かと思ってました。あと私の記憶だとパンケーキってフォークとナイフで食べるものなんですけど、どうしてスプーンなんですか?パンケーキ汁なんですか?形状間違えてますよ?
見てなさい、と言わんばかりにパンケーキ(汁)をすくいとったリアは、それ(汁)を口に運ぶ。
「お姉ちゃんが食べれたら、アルルもきちんと食べるのよ」
いやアンタ確証ねーのかよ。もっと自分の料理に自信を持てよ。つーかそんなん(汁)しか作れないなら最初から控えとけよ。お母さん助けて私を苦しめるのかよ。
「ほら、いい匂いだし。いただきまーす」
リアは泥団子(汁)、じゃねーやパンケーキ(汁)を口に流し込んだ。
初めてだった。救急車を呼んだのは。