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召喚の王道

 たかが魔王、されど魔王。だがそれは後の話だ。

 千里の道も一歩から。まずは地盤固めだ。


「なんでもありません。それより先ほどのお話を詳しく」


 キョトンとしている少女に続きをうながす。


「は、はい。しかしここで全てをお話するわけにもまいりませんので

 父・・・いえ、王との謁見をお願いしたいのです」

「わかりました。お任せします」


 やはり王女か。だがまだこの少女の立ち位置や性格はつかめていない。

 ここは慎重に行く必要があるな。


 王女とその従者と見られる女性数人に案内されて歩いている今のうちに

 授業の復習をしておこう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 共通学科【転移パターン編:召喚の王道】


 王族の魔術による勇者召喚。これは物語でも多く見られる手法で異世界召喚の王道とも言える。


(補足:ただし勇者の数が多いというわけではない。集団転移の場合、一般的に勇者はその中で一人だけである)


 相手は王族、こちらが無礼な態度をとるといきなり不敬罪で投獄という事もありうる。

 何もわからないうちは下手に出ておくのが最も安全だろう。

 しかし下手に出すぎて舐められてはいけない。無礼と卑屈のバランスを見極める事が重要である。


 ちなみに元勇者、荒木先生(男性:34歳独身)は勇者特進コース最初の授業でこうおっしゃった。


「王族には最初からガツンと行け!なめられた勇者は奴隷にされるぞ!

 特に桜井!お前は特になめられやすそうだから全力で飛ばしていけよ!!」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今なら言えます、佐々木先生。あなたは説明が得意ではありませんね。

 全力で何をすれば良いのでしょう。

 ですが僕なりにやってみます。何せ自分の命がかかっていますからね。


 少なくとも今までのやりとりでこの王女から傲慢さは感じなかった。

 チラチラとこっちを見ている。若干顔も赤い。

 ふむ、召喚の成功に興奮冷めやらぬ、といったところか。

 しかし衛兵らしき者たちもおらず、警戒する素ぶりもない。

 王族にしては危機管理が甘く、少々危なっかしい気がする。

 いや、騙されてはいけない。相手は忌まわしきあの王族なのだ。

 奴隷は死んでもごめんだ。


「こちらが謁見の間です、勇者様」


 いよいいよご対面か。よし、ガツンと全力だ!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 玉座にふんぞりかえっているように見える王の前にひざまずく。

 ちらりと見た感じでは人の良さそうな中年親父に見えるが、油断は禁物。

 王族は見た目で判断してはいけない。荒木先生、わかってますよ。


「そなたが伝説の勇者か?」

「わかりません!自分は何も聞かされておりませんので!」

「ええーっ!?」


 僕の勢いに若干たじろいだようだ。先制パンチはひとまず成功というところか。


「あの、なんか怒ってる?」

「いえ、怒ってません」

「怒ってるよね、いきなり連れてこられたもんね。ごめんね」

「お気になさらず」


 ちょっと効きすぎたか。王は隣の大臣に「どうしよー、絶対怒ってるよー」と

 不安げに話しかけている。ちなみに大臣はそっぽを向いている。

 反対側の王女もおろおろしている。これでは話が進まないな。少し勢いを緩めよう。


「王様、王女様に魔王から世界を救って欲しいと言われたのですが詳しい話をお聞かせ下さい」

「あ、そうそう、それね勇者ちゃん」

「ちゃん?」

「いや、オッホン。そなた、名は何という?」

「ユーイチ・サクライです」

「ふむ、勇者サクライ。わしはエルスト11世。このエルスト王国の王じゃ」


 先ほどの醜態はやはり油断させるための罠だったか。急に毅然とした態度になった。

 大臣のほうから「シャンとしろよ、おい」と聞こえた気がするが気のせいだろう。

 しかし、自分の名前を国名にしているのか。なんと傲慢な。

 いや、今は話を聞こう。


「この国は今、危機に瀕している。今まで400年間沈黙していた魔王がこの国に

 宣戦布告してきたのじゃ。我々も頑張って戦ったのじゃが多数の魔物と強力な魔法に

 軍は既に壊滅状態じゃ。この王都に魔王軍が攻めてくるのも最早時間の問題。

 そこで伝説に倣い、異世界から勇者を召喚して魔王に対抗しようと考えた。

 そして召喚に応じて来てくれたのがお主、伝説の勇者よ!どうかこの世界を救ってくれまいか?」


 王の話はおおよそ授業で例としてあげられた内容に準拠していた。

 これなら特に問題はなさそうだ。魔王軍の力がどれほどかが懸念事項ではあるが。


 だがその話を鵜呑みにするのは危険だ。今この男は自分の国を世界だとのたまったのだ。

 まさに傲慢!まさに王族!!


 ちなみに学園OBによる特別授業では魔王軍は実はただ平和に暮らしていた魔族の国で

 豊かな資源を奪うために勇者を利用しようとしたとんでもない国もあったと聞いた。

 真実は自分の目で確かめるのだ。そのためにはまずは行動だ。


「わかりました。お引き受けしましょう」

「おおっ、そうか!」

「ただし、こちらにも条件がございます」

「おっ?」


 無論タダでは働かない。勇者をなめてもらっては困るのだ。


「この国の、宝を所望します!」

「なんと!」

「ゆ、勇者様!?」


 とりあえず何かはわからないが大切そうなものを要求してみよう。

 これは授業で同じクラスの中川君と異世界謁見シミュレーションをしていた時に

 出たセリフを再現したものだ。ふふふ、どうする傲慢なる王よ?

 全力でガツンといきましたよ、荒木先生。


「お、おお、しかし。余の一存では・・・」


 ん?何を言っているのだろう。王が決められないのなら誰が決められると?

 エルスト11世はおろおろと王女を見ている。一体なんなのだ?


「あ、あの・・・勇者様!」


 王の態度をいぶかしんでいると、王女がおずおずと口を開いた。


「わたくしでよければ・・・。この身を捧げさせて頂きます!」

「おおお、エリィ、そなた・・・良いのか!?」

「はい、お父様。わたくしも勇者様を一目見たときから・・・その・・・」


 話が見えない。親子で何を盛り上がっている?何か地雷を踏んでしまったのだろうか。

 内心の焦りを抑えている僕を余所に王女は続ける。


「お慕い申しております。勇者様、いえ旦那様!」

「エリィーッ!国のためにそこまで尽くすとは!こんな立派に育って妻も天国で喜んでおるぞ!」

「はい、お父様!」


 ま、まさか・・・この国の宝とは!?


「よかろう、勇者よ!魔王撃退の暁には、吟遊詩人に国の宝と謳われた余の娘を差し出そう!」


 何ーーー!?


 荒木先生、中川君。

 僕はいきなり大変な事をしてしまったのかもしれません。

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