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#007 暗中模索

 * * *



「王子様と知り合いだったんなら、もっと早く教えてくれれば良かったのにぃ」


 鼻に掛かった甘え声で、あたしたちを非難するおしのちゃん。



 おしのちゃんには何故か、こういうメルヘンチックな表現や甘え方をつい許してしまうような雰囲気がある。


 そばかすとたれ目と、可愛い笑顔とウェイビーヘア。

 おしのちゃんの容姿は、外国の児童文学から抜け出て来た登場人物そのもののよう。それだけでもかなり恵まれている気がする。



 あたしにもそばかすがある。でもどちらかというとこれはシミに近い感じで……比較する意味もないけど、チャームポイントにはなり得ないのは自覚してる。


 それに、もしもあたしがおしのちゃんみたいな声を出したら、周りは一斉に引くと思うし。




「王子様なんて言われても、多分わからなかったわよ……高見先輩って、あたしの中では全然そんなイメージじゃなかったもん。むしろ――うーん、まあそれはいいんだけどね」


 さやかが苦笑しながら答えている。



 その言い方は、少し意外だった。

 マサキほどじゃないにしろ、さやかにも高見先輩に対する崇拝のようなものを感じていたのだけど……それは勘違いだったということかしら。




 ちなみに、当の『王子様』は、自分の用事を済ませるとさっさと帰ってしまった。


「掃除とか、気を遣わなくていいよ。鍵だけ返しておいてくれればいいからね」

 完璧な笑顔でそう言い残して。



 * * *



 ことの始まりは、おしのちゃんがうちの学校の裏サイトとやらで、トラブルに巻き込まれたらしい、という話からだった。


 巻き込まれたというより自分から渦中に飛び込んで行ったようなので、単純に自業自得なのかも知れないけど。



 おしのちゃんは()()りものに目がなく、美味しそうな餌が目の前にあったらホイホイとすぐ釣られる性格のため、そういった危険な目に遭うのは理解できる。

 だけど何故かさやかもその件に関わっていたらしい。それから、高見先輩はその解決に関係しているとのこと。


 そして――どういういきさつなのか、高見先輩にそのトラブルの件を相談をしたのが、さやかだというのだ。




 最初に浮かんだ疑問は、『トラブルの件を、さやかは誰から聞いたの?』ということだった。

 だって、自宅でインターネットができるような話は聞いていない。さやか自身も携帯すら持っていないのに。


 あたしに相談してくれなかったことを責めるつもりはないけど、ちょっと面白くないのもまた事実だった。



 それに……何故高見先輩に頼ったの?

 ただのスクールカウンセラーだという、あの人に。


 そこが最大の謎。



 先輩は多少武道の心得があるらしく――カオリ先輩の件で、それっぽい場面を見たこともあるけど、でもそれだけの理由とは思えない。

 マサキに相談して高見先輩に繋いでもらったのかとも考えた。しかしそうではないとのこと。


 じゃあさやかが個人的に先輩と親しくなったのか、と――ううん、ありえない、というかそこのラインは想像もできない。


 そのせいで、ますます高見先輩の存在が怪しく思えて来る。



 ただ、マサキもこの件に関しては何も知らなかったらしく、それだけがあたしを少し安心させる。

 その程度でプライドを保ったつもりになってるあたしも、情けないけどね。





 おしのちゃんの件を解決して、それですべてが終わるのかと思ったら、どうやら終わらなかったらしい。そのサイトには、同様のトラブルなどが時々起きているのだという。


 まぁ、こういった学生が集まるようなサイトにはありがちよね。全国規模のサイトじゃなかった分だけ、トラブルの規模もまだ小さく済んでいるんだと思う。



 でもマサキは何が気に入らないのか、「サイトを潰さないんですか?」なんて言い出した。


 他人が管理しているサイトを潰せるのなんて、よほどの権力の持ち主か、その管理人に影響を与えられる立場の人間か――なんにせよ、一個人である高見先輩にそこまでの権限があるはずはないのに。

 よほど心酔してるのね。




 手伝って欲しい、と高見先輩は言った。


 『裏サイト』が、普段の学校生活の中で生徒たちにはどのように認知されているのか。そして、どんな人たちが利用しているかを、利用者目線で調べる必要があるのだ、と。



 もちろん、そんな素直な頼み方じゃなくて――全然違ってて。

 それもあたしの気に障る原因のひとつだけど。


 でも、あたしはその話に乗るしかなかった。



 だって、この顔触れを見てよ……




 『王子様』に洗脳されてるんじゃないかと思うようなおしのちゃん。

 『師匠』の命令には逆らえない――逆らう気もないマサキ。



 こんな人たちを放っておいたら、余計なトラブルが増えるだけじゃない。




 ――それに。



 あたしは自分のために理由を付け加える。


 それに、この件に関わるということは『高見アキラ』にも今まで以上に関わるということ。



 上手く行けば、先輩が何者なのか少しは見えて来るかも知れない――ううん、多分あたしなら何か見つけられるはず。


 だからあたしは、あたしのために『助っ人』とやらになってあげるのだ。




 もちろん、どうにかしてさやかも誘うつもりをしている。


 話題が増えれば、さやかのことももっとわかるかも知れないし――問題は、さやかの身近にはネット環境がまるでないことなんだけど。



 図書館のインターネットコーナーでは多分そういうサイトは閲覧できないと思う。だとしたら、誰かにノートタイプのコンピューターを持って来てもらって――でもそれも負担が大き過ぎるわよね。



 とりあえず目下の問題は中間テストだから、サイトの件はまだ本気を出さなくてもいいとして……


 でも、テストが終わるまでの間に、何か方法がないか考えてみなきゃ。



 * * *



「――今日はほとんど勉強できなかったわね」


 図書館からの帰り道。あたしがそう言ってため息をつくと、さやかはくすりと笑った。



「でも美晴も、勉強そっちのけで興味津々だったじゃない」

「あれは……」


 言いかけて思い直す。



 確かに興味をそそられる内容ではあったけど、別に興味本位なだけじゃない。あたしにはあたしの考えがあって――でも、それをいちいち説明したってしょうがないじゃない。


 考えや行動をすべて伝えたところで、それが相手に正しく伝わるとは限らないのだから。



 むしろそのせいで疎まれたり、悪意を持たれたりもすることだってあるのだから……あたしは良かれと思ってしたのに。




「――あ、ごめん、あたしなんか悪いこと言っちゃった?」

 さやかが慌てて謝る。


 あたしがうっかり自分の考えに沈み込んでいたのを、不機嫌になったかと思ったらしい。


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