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#013 フラッシュ

 どうする? って言われても、マサキの顔には『()んな』って思いっきり書いてある。


 どうすればいいのか、あたしの方が訊きたいわ。




 しょうがないので当り障りのない言い訳をする。


「それよりも、ここ留守になったら困るんじゃない?」




 マサキは意気揚々として、写真部の部室にさやかを連れて行った。


 何をするつもりなのか――まぁ、変なことはしないだろうけど。

 ちょっとさやかが落ち込んでいたみたいだから、慰めてあげて点数を稼ぐとか、その程度かしらね。



「付き合っちゃえばいいのにぃ……」

 おしのちゃんが見送りながらつぶやく。思わず笑ってしまった。



「まったく、さやかもマサキも、少しはおしのちゃんを見習って積極的になればいいのにね」

「えぇ? あたし、全然積極的じゃないよぉ。それより、美晴ちゃんは好きな人いないの?」



「どうしてそう卑下するのよ。おしのちゃん、充分積極的だし努力してるし、もう少し自分に自信を持ってもいいと思うわよ」


 あたしが褒めると、おしのちゃんは「そうかなぁ……」と照れていた。


 おしのちゃんは、女の子のキラキラしている要素をそのまま形にしたような子だと思う。女子らしさ全開なのに、同性から見ても嫌味がないその性格は、どう育てられたら出来上がるのかしら。



 嫉妬ではないけれど、あたしとは違い過ぎて羨ましくなることがたまにある。だからといって、あたしが突然おしのちゃんのようにキラキラした女子になれるわけないし、そんなのは美晴(あたし)らしくないし……



 あたしが好きな人は、多分誰も知らない。


 そもそもあたしが恋愛にうつつを抜かすこと自体が、()()()ない。



 それに――ううん、きっとこれは誰にも言えないわ……



 * * *



 森本くんが突然部室に現れたのは、部員が全員揃った頃だった。


 正しくは部員と、その他常連の先輩たち、だったけど。



 あたしとおしのちゃんはぎょっとした。


 とある事情で、今あたしたちは最先端の――ひょっとしたらそれ以上の技術の携帯を所持している。そしてそれは、関係者以外には見られたくないものだった。


 そしてあたしは個人的にも、あの『観察者の眼』にその事実を知られたくはなかったのに……




 ドアを開けるなりきょろきょろと室内を見回す彼に、部長が声を掛ける。


「いらっしゃい……見学かな?」



「ここ、天文部?」



 森本くんは部長の問いには答えず、ドアを閉めながら逆に問う。

 そして窓際にいるあたしたちを認めると、少し安堵したような表情になった。


「あぁ、佐伯と東雲がいる。じゃあ天文部でいいんだな。町田は? いないみたいだけど……来んの?」



 あたしは心の中で舌打ちをする。

 やっぱりさやか狙い?


 それよりも、入って来てすぐあたしと目が合ったのに、どうしてそんな変な芝居を打つんだろう、この人。



 なんのつもりか知らないけど、さやかが言うような『人懐っこさ』とは違う何かを持っている予感がする……面倒なことにならなきゃいいんだけど。





 さやかが何も知らないまま部室に戻って来るよりは、先に忠告をしておいた方がいいかと思ったので呼びに行った。

 でもマサキまで一緒に呼び戻したのは失敗だったかしら――まぁ、マサキのことだから、さやかだけ呼んだところで必ずついて来るんでしょうけどね。


 それに、あの性格ならどのみち何かしでかしていたと思う。

 実際、マサキは森本くんを挑発して追い返してしまったのだし。



 あたしたちや先輩方があの手この手で闖入者の動向をさぐっていたのに、あっという間に撃退してしまった様子を見て、悩むのが莫迦らしくなってしまった。



 自分のオンナなら、最初から自分で守りなさいよね。

 森本くんも挑む相手が悪かったよね。ご愁傷さま――なんて、その時は気軽に考えていた。



 * * *



「ちょっと……何よ、これ?」


 さやかからメールを受け取りサイトを開いた途端、あたしは思わずうめいた。



 少し前からあたしたちが気にしていた『さーやん』なるさやかの偽者の日記のページが、突然荒れ放題になっていたのだ。

 どうやらさやかは、なんの気なしにそのページを開き、自分のことのようにショックを受けてしまっているようだった。


 ネットでの酷い中傷、下品な罵倒――こういうことをする人、そして攻撃対象にされる人は、何かしらのトラブルを起こしている場合が多い。


 でもさやかがそういった人間関係のトラブルに巻き込まれるとは、どうしても考えられない。いつもできるだけ面倒事を避けているのに。




「むしろトラブルメーカーといえば、マサキの方が――」そこまで考えて、今日の放課後のことを思い出す。



 ――まさか、マサキのせい?



 それなら、こういう仕返しをしそうな数人に心当たりがある。特に、一番新しい件に関係のある()は……


 その可能性に思い至って苛立ち、歯噛みする。


 もっと早く、自分の予感を信じて予防線を張っておくべきだった。

 さやかごめん……マサキに任せようなんて、一瞬でも考えたあたしが莫迦だ。




 さやかには『気にしないように』とメールを送る。


 それが、その時のあたしにできる精一杯だった。



 * * *



 相手が悪かったのは、実はあたしたちの方だった。なんて、酷いオチだわ。


 翌日あたしたちは高見先輩に呼び出され、事情を訊かれた。いつもは温和で――というより心の中を見せない――先輩が、珍しく感情的になっていて、それが余計に事の重大さを物語っていた。


 見ていられなかったのはマサキの凹みっぷり。被害者であるさやかの方が気を遣っているようで「ほんと、余計なことばかりして、肝心な時に役に立たない」と思わず心の中で愚痴ってしまう。



 先輩の口ぶりでは、あたしと同じくマサキも森本くんに違和感を抱いていたという話。


 それならそれで、どうして挑発したのか小一時間問い詰めたいところだわ。


 あたしだけが勝手に違和感を持っているんだと思ったから、あえて口出ししていなかったのに。



 * * *



 結局、高見先輩がフォローしてくれるらしく、あたしたちは何も知らないという体で過ごすことになった。

 学校ではマサキが持ち前の威圧感で森本くんを牽制するし、やり方さえ間違わなければ問題なさそう。



 あとはさやかの精神状態だけが心配だった。

 でもやっぱり意外と丈夫だわあの子。エリー先輩からもらったうさぎひとつで、機嫌直っちゃうんだもの。



 その場にマサキがいたらどんな顔したかしら。きっとその場では、なんでもない風を装うんでしょうね。


 ちょっと興味が湧いたけど、同時に少し同情もした。


 ……少しだけ、胸が痛んだ。


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