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もしもこの世に 〜婚約破棄とその後〜

掲載日:2016/12/11

勢いで書きました。

反省はしていませんが後悔はする予定です。

俯いて肩を震わせる女性。

泣いているのだろうか。


「ふっ……ふふっ……」


否。彼女は泣いてなどいない。

笑っている。




ーーーこんな状況だというのに?



○○○



「愛しているよ、ルフィア」


そう笑う貴方。

何故そう簡単に嘘を吐けるのかしら。


「……ええ、私も、お慕いしております」


(わたくし)の心も知らないで。

でも。


もう私の声は乾いて冷たくなってしまったから。

貴方には、届かないかもしれませんね。



「殿下。少々お時間を頂いても?」

「ああ。今行く……じゃあね、ルフィア」




去り際に渡された薔薇は真紅。


ねぇ、殿下。貴方は知らないでしょうね。

貴方のその仕草すら、私を殺すことに。




なんて、諦めてしまった私にいう権利はないけれど。



「ルフィア様。帰りの馬車が」

「ええ。帰りましょう」




薔薇を手に私は問う。



ーーああ、もしも。もしもこの世に神が御座(おわ)すというのなら。



どうして私にこんな運命をお与えになったのでしょう。


私は、何かしてしまったのでしょうか。




○○○



平凡な人生を歩む筈だった。


公爵家の娘として生まれて、いつかこの国を支える妃となるために努力をして、殿下と婚姻を結び、世継ぎを生み、そして死ぬ。


平凡とは言えないのかもしれないけれど、少なくとも私はそういう、平坦な人生を歩むつもりでいた。


敷かれたレールに抗うことなどしなかったし、するつもりもなかった。




殿下を愛したのは、自分のこととはいえ誤算ではあったけれど。



私に、不満などあるはずもなかった。




なのにどうして、貴方はあの方を愛してしまうのでしょうね。


あの方は可愛らしい。

器量もいいし、努力家でもある。

教育もちゃんとされていて身の弁え方も、貴族社会でのマナーだってしっかりしている。

ただ一つ惜しいのは、彼女が子爵家の令嬢だったことだ。


殿下があの方を愛すのも、仕方のないことと言えた。




別にそれに、不満はないのですよ。殿下。


……それなのに。


身分の問題で私が正室になってしまうことは目に見えてて。

あの方は側室になれるかどうかすら怪しい。



だから殿下は、私を殺そうとしている。



沢山の証拠と言う名の嘘を並べて、私を妃の座から引きずり下ろす……いや、重罪人にしたて上げて殺す。



その日までもう1週間もない。


1週間後のパーティで、殿下は私を捕らえるでしょう。

その1ヶ月後には被害者である彼女が妃となって。

その2週間後に私は死ぬでしょう。





ねぇ、殿下。


私、貴方のしようとしていることなど全て知っているのですよ。



だからーーー。





○○○



先述したとおり、1週間後のパーティで私は絶体絶命の危機にあった。



私は俯いて肩を震わせる。

泣いているのだろうかと微かな囁きが耳に入る。



泣いている?私が?


馬鹿なことを仰らないで。

公爵令嬢ともあろう私が、公衆の面前で涙を流すとでも?



「ふっ……ふふっ……」



ねぇ、殿下。

茶番はもう飽きたわ。



狂ったか、と殿下が呟くのを顔を上げて見据える。

そのくらいでたじろぐなど、本当に貴方は王たる器ですか。



殿下。隣に立つ彼女の声すら聞こえないのですか。

愛しているとのたまうなら彼女の顔色ぐらいみたらどうです。




「可笑しいですね、殿下」

「何がだ」

「貴方一人、まるで道化のようですよ」



騒めく人の波。

殿下は声を荒げることはしなかったけれど、怒りが滲むのがわかった。



「殿下。貴方に彼女は相応しくありません」

「相応しくない?貴様、レイラを愚弄する気か」

「まさか。私が愚弄するなら殿下。貴方の方です」




不敬罪と捉われるだろうその言葉が、公爵令嬢である私の口から放たれた。


その衝撃は多分大きかったのだろう。


殿下の拳がぐっ、と力強く握りしめられた。



レイラと呼ばれた彼女を見る。


貴女も黙ってないで何か仰って下さい。



その声なき言葉が伝わったのか、彼女は殿下の手からそっと逃げた。



「殿下。…殿下、もうお止めくださいませ」

「何故だ、レイラ。お前と結ばれるためには」

「殿下。殿下には見えていないのですか。今この状況が」



殿下は戸惑ったように視線を惑わせる。




ああ、その程度だったの。


私が愛したのは、その程度の殿方だったのね。




レイラも私と同じ思いを抱いたのだろう。

逃げるように私の隣に立った。




「なっ、何故だ、レイラ。その女は」

「殿下。……申し訳ございません。私はもう貴方のことが信じられそうにありませんわ」

「なっ………」




一層の騒めきと共に、私とレイラはその場を去った。




○○○



「殿下、王位継承権を放棄されてしまったそうよ」

「まぁ。でしたら次の王は第二王子ですね」

「それが、第三王子に渡ったらしいわ。第二王子は殿下と共謀していたことが露見してしまって」

「共謀?殿下と共謀して何かメリットがあったのでしょうか……?」

「もともと私にかぶせようとしていた罪は第三王子の毒殺未遂よ。…でもそれは2人が企んだことのようね」

「第三王子という優秀な弟が怖くなったのですね……それで共謀、ですか」

「よくやるわよね。何故私に分からないとお思いになったのかしら」

「少し抜けている方でしたもの」

「少しどころかだいぶ、ということがこの前証明されてしまったわ」

「ふふふっ………」



かつて同じ人を愛した2人は微笑みあう。

身分の差はあれど、今この場に2人が微笑みあっていることを批判できる人間はいない。


むしろ何の違和感もないと思われているくらいだ。



ーーー()殿下の悪事を暴いた2人ですもの。一緒にいるのも当然よね。





周りは気付かない。



和やかに談笑しつつも、2人の目が悲しみに染まっていることに。




「私たち、正しかったのでしょうか」

「……過ぎたことですわ」





……恋に盲目になってはいたけれど。


政治的な手腕は期待されていたし、確かだった。

優しい方で、気遣いはできるし、民のことだって思える方だった。




なにより、本当に、愛していたのだ。





贈られた真紅の薔薇はもう枯れてしまったけれど。


彼の方の笑顔を見ることはもう二度と叶わないけれど。





「……せめて、忘れないでいますわ」

「…そうですね」





ああ、もしも。もしもこの世に神が御座(おわ)すというのなら。



どうしてこんな運命を私たちにお与えになったのですか。






ーーー愛したひとをこの手で引きずり下ろすなど。


したくありませんでしたわ。…ええ、本当に。


こんな拙作を読んでくださり、ありがとうございました。

ちょっと予想外の方向に進んでしまいました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 婚約破棄ものでヒロインがまともだったらどうなるか、という一種の思考実験ですね。 まともであれば、成り上がりを狙うにしても公爵令嬢の婚約者を蹴落とすなんてしません。 何とか良好な関係を構築して…
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