もしもこの世に 〜婚約破棄とその後〜
勢いで書きました。
反省はしていませんが後悔はする予定です。
俯いて肩を震わせる女性。
泣いているのだろうか。
「ふっ……ふふっ……」
否。彼女は泣いてなどいない。
笑っている。
ーーーこんな状況だというのに?
○○○
「愛しているよ、ルフィア」
そう笑う貴方。
何故そう簡単に嘘を吐けるのかしら。
「……ええ、私も、お慕いしております」
私の心も知らないで。
でも。
もう私の声は乾いて冷たくなってしまったから。
貴方には、届かないかもしれませんね。
「殿下。少々お時間を頂いても?」
「ああ。今行く……じゃあね、ルフィア」
去り際に渡された薔薇は真紅。
ねぇ、殿下。貴方は知らないでしょうね。
貴方のその仕草すら、私を殺すことに。
なんて、諦めてしまった私にいう権利はないけれど。
「ルフィア様。帰りの馬車が」
「ええ。帰りましょう」
薔薇を手に私は問う。
ーーああ、もしも。もしもこの世に神が御座すというのなら。
どうして私にこんな運命をお与えになったのでしょう。
私は、何かしてしまったのでしょうか。
○○○
平凡な人生を歩む筈だった。
公爵家の娘として生まれて、いつかこの国を支える妃となるために努力をして、殿下と婚姻を結び、世継ぎを生み、そして死ぬ。
平凡とは言えないのかもしれないけれど、少なくとも私はそういう、平坦な人生を歩むつもりでいた。
敷かれたレールに抗うことなどしなかったし、するつもりもなかった。
殿下を愛したのは、自分のこととはいえ誤算ではあったけれど。
私に、不満などあるはずもなかった。
なのにどうして、貴方はあの方を愛してしまうのでしょうね。
あの方は可愛らしい。
器量もいいし、努力家でもある。
教育もちゃんとされていて身の弁え方も、貴族社会でのマナーだってしっかりしている。
ただ一つ惜しいのは、彼女が子爵家の令嬢だったことだ。
殿下があの方を愛すのも、仕方のないことと言えた。
別にそれに、不満はないのですよ。殿下。
……それなのに。
身分の問題で私が正室になってしまうことは目に見えてて。
あの方は側室になれるかどうかすら怪しい。
だから殿下は、私を殺そうとしている。
沢山の証拠と言う名の嘘を並べて、私を妃の座から引きずり下ろす……いや、重罪人にしたて上げて殺す。
その日までもう1週間もない。
1週間後のパーティで、殿下は私を捕らえるでしょう。
その1ヶ月後には被害者である彼女が妃となって。
その2週間後に私は死ぬでしょう。
ねぇ、殿下。
私、貴方のしようとしていることなど全て知っているのですよ。
だからーーー。
○○○
先述したとおり、1週間後のパーティで私は絶体絶命の危機にあった。
私は俯いて肩を震わせる。
泣いているのだろうかと微かな囁きが耳に入る。
泣いている?私が?
馬鹿なことを仰らないで。
公爵令嬢ともあろう私が、公衆の面前で涙を流すとでも?
「ふっ……ふふっ……」
ねぇ、殿下。
茶番はもう飽きたわ。
狂ったか、と殿下が呟くのを顔を上げて見据える。
そのくらいでたじろぐなど、本当に貴方は王たる器ですか。
殿下。隣に立つ彼女の声すら聞こえないのですか。
愛しているとのたまうなら彼女の顔色ぐらいみたらどうです。
「可笑しいですね、殿下」
「何がだ」
「貴方一人、まるで道化のようですよ」
騒めく人の波。
殿下は声を荒げることはしなかったけれど、怒りが滲むのがわかった。
「殿下。貴方に彼女は相応しくありません」
「相応しくない?貴様、レイラを愚弄する気か」
「まさか。私が愚弄するなら殿下。貴方の方です」
不敬罪と捉われるだろうその言葉が、公爵令嬢である私の口から放たれた。
その衝撃は多分大きかったのだろう。
殿下の拳がぐっ、と力強く握りしめられた。
レイラと呼ばれた彼女を見る。
貴女も黙ってないで何か仰って下さい。
その声なき言葉が伝わったのか、彼女は殿下の手からそっと逃げた。
「殿下。…殿下、もうお止めくださいませ」
「何故だ、レイラ。お前と結ばれるためには」
「殿下。殿下には見えていないのですか。今この状況が」
殿下は戸惑ったように視線を惑わせる。
ああ、その程度だったの。
私が愛したのは、その程度の殿方だったのね。
レイラも私と同じ思いを抱いたのだろう。
逃げるように私の隣に立った。
「なっ、何故だ、レイラ。その女は」
「殿下。……申し訳ございません。私はもう貴方のことが信じられそうにありませんわ」
「なっ………」
一層の騒めきと共に、私とレイラはその場を去った。
○○○
「殿下、王位継承権を放棄されてしまったそうよ」
「まぁ。でしたら次の王は第二王子ですね」
「それが、第三王子に渡ったらしいわ。第二王子は殿下と共謀していたことが露見してしまって」
「共謀?殿下と共謀して何かメリットがあったのでしょうか……?」
「もともと私にかぶせようとしていた罪は第三王子の毒殺未遂よ。…でもそれは2人が企んだことのようね」
「第三王子という優秀な弟が怖くなったのですね……それで共謀、ですか」
「よくやるわよね。何故私に分からないとお思いになったのかしら」
「少し抜けている方でしたもの」
「少しどころかだいぶ、ということがこの前証明されてしまったわ」
「ふふふっ………」
かつて同じ人を愛した2人は微笑みあう。
身分の差はあれど、今この場に2人が微笑みあっていることを批判できる人間はいない。
むしろ何の違和感もないと思われているくらいだ。
ーーー元殿下の悪事を暴いた2人ですもの。一緒にいるのも当然よね。
周りは気付かない。
和やかに談笑しつつも、2人の目が悲しみに染まっていることに。
「私たち、正しかったのでしょうか」
「……過ぎたことですわ」
……恋に盲目になってはいたけれど。
政治的な手腕は期待されていたし、確かだった。
優しい方で、気遣いはできるし、民のことだって思える方だった。
なにより、本当に、愛していたのだ。
贈られた真紅の薔薇はもう枯れてしまったけれど。
彼の方の笑顔を見ることはもう二度と叶わないけれど。
「……せめて、忘れないでいますわ」
「…そうですね」
ああ、もしも。もしもこの世に神が御座すというのなら。
どうしてこんな運命を私たちにお与えになったのですか。
ーーー愛したひとをこの手で引きずり下ろすなど。
したくありませんでしたわ。…ええ、本当に。
こんな拙作を読んでくださり、ありがとうございました。
ちょっと予想外の方向に進んでしまいました。




