僕達は我に返る(4)
お待たせしました! 本日は会計のワンコ?でお送りします。
とある良く晴れた日の、お昼休み。僕は、たまたま通った渡り廊下で、何か聞こえた気がして、辺りを見た。確かに話し声がした気がしたんだけど。まわりを見るけど誰もいなくて、窓辺に向かってみる。下を見ると、どうやら人がいるみたい。手にお弁当を持っているから、お昼を食べてるみたい。しかし次の発言に、僕は眉をしかめた。
「いやー、今回の乙女ゲームのキャラがね! うちの生徒会の会計にそっくりなの! それもね? シナリオがさー、自分の闇を照らしてくれて、本当の自分を見てくれたから好きになったって奴でね?」
まだまだ話していたけど、僕はフリーズしてしまった。ゲームに僕とそっくりな人がいる? 何か気持ち悪い。何なんだろう、下の三人組は。失礼だよ、それ。でも乙女ゲームって何だろう? ポケットから携帯を出して、ポチッと意味を検索してみる。
僕の家は由緒正しい華道の家柄で、皇族とも縁戚に当たる。その僕が、あんな三人娘に馬鹿にされるなんて、我慢出来るはずないでしょ?
検索した結果………それを見て、僕はまた眉をしかめた。ゲームの話だよね? それも今流行の恋愛シミュレーションゲーム? ふざけんな!! 内心、激昂する僕を余所に、下では会話が続いていた。
「うちの生徒会って〜、まさに乙女ゲームみたいだよね〜? 生徒会長も〜副会長も〜先生も〜、会計と書記もありきたりな乙女ゲームのキャラと被ってるし〜」
ふんわりした話し方の少女の言葉に、何故か二人の少女達が頷く。僕の胸に何かが突き刺さる。周りはそう見ていたのかと。
「この学園が乙女ゲームの世界だったりして!」
「確かに皆さん、テンプレですね」
「確かにねー、会長なんてまんまよねー」
「副会長は確かに必ずいる眼鏡キャラだしね」
「でしょ〜? 皆、御家がビックなのも〜一緒だよね〜?」
なんなんだ、この会話は。そういえば、会長と副会長は、それぞれ姫を捨てて、婚約したんだっけ。あ、何かイライラしてきた。まあ、ライバルが減って、僕は嬉しいけど。最近、姫はイライラしてる。会長や副会長が来なくなって、先生が別の女性と婚約して。姫は信じられないようで、凄く落ち込んでいたりもした。
「はあ、姫に会いたいよ」
そう呟いた時だった。心臓を鷲掴みにされたような、そんな言葉が聞こえたのは。
「そういえば〜、自分を本当の意味で〜見てくれない人に〜、何で生徒会の皆は〜好きになったのかな〜?」
えっ?
「あー、それ、あたしも会長に聞いたんだけど、何か凄い惹かれたんだって」
「それは副会長も言ってました、彼女しか見えなくなったって」
それは僕も一緒。最初に会ったのは、この学園のガーデンスペース。薔薇園だったり、他の花だったり、ここには専門の世話をする人もいて、僕のお気に入りの場所なんだ。そこで、地味な小さな花を見ていた彼女に、何となく声をかけた。僕は家柄、大輪の花を生ける事が多いから、それが新鮮に映ったんだ。小さな花なんて、脇役なんだとすら、その時の僕は思ってた。それが姫によって覆られたんだ。目が覚めたような、そんな衝撃が走ったんだ。コンプレックスだった童顔も、姫は個性だと言ってくれて、僕は全く気にならなくなった。僕はそんな姫に夢中になった。
……………でも、もしそれが、僕を手に入れる為の、演技だとしたら?
否定は、残念ながら、出来なかった。だって、僕も感じてたんだ。姫が僕を見てない事くらい…………。
会長がいた時は、彼には真っすぐに物を言って怒ってたし、副会長の時はお淑やかで頭のいい少女に見えたし、先生の時は大人びた姿。書記の時は、度々、大人びた感じに見えたけど、無邪気に笑ってた。
それぞれで違う顔を見せる姫。僕は不安で仕方なかったんだ。姫を失うなんて、嫌だったから。
「でもさー、ゲームならまだしも、逆ハーなんて現実で見たら最悪だよねー、つまりキープ君なわけでしょ?」
「だね、私も自分がそれをされたら嫌だな………」
「ゲームなら萌えるけど〜、現実だと〜周りから白い目で見られるのがオチだよね〜」
僕の胸にグサグサと刺が刺さっていく。何となく感じていた事に対して、こうも真っ直ぐな言葉を言われて、僕はふと思ってしまったんだ。
僕もキープ君なのかな………って。
そう思ったらダメだった。姫が気持ち悪いものに感じて、これから先、ずーっと一緒いたいとは思えなかった。それどころか、嫌悪の対象に見えて、今まで姫に夢中になってた自分さえ、気持ち悪いものに見えて、足元が覚束なくなった。後悔で一杯になる。誰でもいいから、僕を認めて欲しい………。
「でもね〜? わたしは〜、ワンコの会計って〜ありだと思うんだよね〜」
えっ? 本当に?
「確かにそうだよねー、あのキャラがいないと、乙女ゲームが成立しないし」
「それは分かりますけど、私はやっぱり副会長の方が」
「それならあたしは会長かな?」
「え〜!? 絶対にワンコだよ〜!」
このふわふわした声の主は、僕でいいと言ってくれた。それが本当に嬉しくて、顔が見たいと思った。この場所からは、頭の旋毛しか見えないし。向こうの教室に行き、庭を見てみる。
いた!!
三人の少女達は楽しそうにお弁当を食べてた。そして何より驚きなのは、皆それぞれがタイプの違う美少女だということ。ふわふわした話し方から見るに、一番左にいる子がそうなんだと思う。
か、可愛い!!
ふわふわした髪に、優しさを感じる顔立ち。何より、笑顔が可愛い! 僕も可愛いと言われるけど、やっぱり女の子がする笑顔が可愛いのなんの!
本気で一目惚れした瞬間だった。
でも、だ。僕は彼女の名前も分からない。これじゃ、家の権力もつかえないじゃないか!
僕はまた先程の渡り廊下に戻ってきた。もしかしたら、名前を言うかもしれないと思って。
どうやら下では、全く別の会話になっていた。
「そういえば〜、会長も副会長も〜、生徒会の仕事、きちんとやってるんだよね〜?」
「うん、そうみたい、補助の子達が嬉しそうに話してたよ?」
「あと蓄まってるのは、会計と書記だよねぇ」
「本当〜、あの女子生徒と遊ぶ暇があったら〜、真面目にやればいいのに〜、そしたら誰も文句言わないのにね〜」
「確かに」
「ですよね」
その言葉に、僕は心臓が止まるかと思った。確かに僕は、しばらく生徒会室に行ってない。え、一目惚れした子に嫌われるわけ!? まだ直接、話したこともないのに? そんなの我慢ならないよ!
僕は放課後になると、すぐに生徒会室に向かった。その時は、姫の事なんて、空の彼方まで飛んでいってた。
「ナニコレ」
思わず片言になるほど、僕は驚いた。山積みになった種類の山。机には置ききれない分は、床に布がひかれ、そこに置いてあった。僕が来なかったのは、多分だけど3ヶ月くらい。それでこの量がたまっているんだから、目眩がしそうだった。でもやる! あの子を手に入れるためにも!!
とりあえず、山を一つ一つ片付けていく。二つ目の山に手を伸ばした時だった。ガラッと扉が開いて、二人の少女が入ってきた。
「えっ!? 千宮寺さん!?」
「本当!? やっと戻ってきてくれたんですね!?」
嬉しいのか、ウルウルした目で見られて、怯んだ僕は何とか頷いた。
「えーっと、終わった書類、片付けてほしいんだけど、いいかな?」
多分、顔は引きつっていないはずだ。その証拠に、二人の少女達は薄らと顔を赤らめている。
さて、今日一日で半分位の書類を片付けた。途中から、会長や副会長も来て、手伝ってくれた。二人も同じだからか、苦笑してたけど。
「ねえ、中庭でお昼食べてる三人って誰か分かる?」
途中、そう聞くと、何故か会長と副会長がぎょっとしたけど、気付いていない二人の補助の子達が教えてくれた。ふわふわした子の名前は、大和田 友佳里さん。うん、ふわふわした彼女にピッタリの名前だ! それに彼女は、大和田食品の社長令嬢だそう。うん、家の権力つかえるじゃん!!
◇◇◇◇◇
「ただいま〜」
家の玄関を開けると、何故か困り顔の両親がいました。あ、申し遅れました〜。わたし、大和田 友佳里と申します♪ この巨大な自宅の持ち主たる大和田食品社長のご令嬢でもあります。
けれど、どうしたんでしょうね〜? いつもはニッコリとお出迎えしてくれるのに。
訳もわからないまま、両親に茶の間に連行されました。
「ねぇ、友佳里ちゃん? 落ち着いてきいてね?」
そういうお母様が、落ち着いてないよ?
「そうだぞ、友佳里、落ち着いてきいてくれ」
お父様まで緊張してどうしたんでしょう。
「あのね、友佳里ちゃん、貴方に婚約の話が来てるのよ」
「華道の千宮寺家からでな」
はい? 千宮寺ってあの歴史が古くて皇家と縁戚の〜?
「お父様、お母様、冗談はよし」
「「冗談なんかじゃありません(ない)!!」」
て下さい、と言いきる前に、二人に言われてしまいました。あれ? でも、婚約?
「あの〜、この前、取引先の小林食品の方からも、婚約の話が来てましたよね?」
そう、我が家には既に、婚約の話が来ているのです。それもうちと同じくらいの会社でゆくゆくは、合併して一緒にやろうと言うほどに仲のいい会社さんなんですよ。
「ああ、うちも言ったんだがなぁ、流石に千宮寺家を敵にまわすなんて出来ないしなぁ………」
「千宮寺家の方は、友佳里を是非ともって言うのよ」
二人共に、深い溜め息を付いてますね。うちには、わたしの他に妹が二人います。確か、小林食品の方はわたしより一つ年下でしたね。
「お母様、小林食品の方は、妹に婚約して頂いたらいいんじゃない? 妹の方がお似合いだと思うの」
「構わないけど、貴方はそれでいいの?」
わたしは頷きました。内心、会計ワンコ来たぁぁぁと、思っていても、両親には絶対に悟らせないように、笑顔をみせて。
◇◇◇◇◇
会長、副会長、先生と婚約が続いた学園に、またしても全校生徒が上から下まで騒ぐ、とある噂が広がった。あのとある女子生徒に夢中になっていた会計である千宮寺家の若様が、自分からお相手に婚約を願ったと。そのお相手が、とある女子生徒では勿論なく、由緒ある大和田食品のご令嬢である。普通なら、ファンクラブが悲鳴を上げるはずなのだが、ファンクラブは涙ながらに、この婚約を祝福したという。何せ、全く仕事もせずに、あの女子生徒に首ったけだったのだから。それが婚約を始めた辺りから、真面目に生徒会の仕事をこなし、昔以上に立派な姿を見せているのだから、ファンクラブも一般の生徒達も、心から喜んだのだ。
一方、千宮寺家の方では、本人が是非にと望んだというご令嬢に、息子を元に戻してくれたと、ご両親が土下座して嫁に来てくれと涙ながらに頼んだという、逸話まで出てきたほど。
さて、またしてもトリプル通り越して、四度も逃げられた女子生徒は、勿論、取り戻すべく行動を起こした。が、攻略対象たる彼は既にご令嬢に夢中で、彼女には一瞥さえせず、ご令嬢に恩があるファンクラブからは、睨み付けられる始末。やはりというべきか、彼女はまたしても攻略を失敗したのであった。中庭にて何やら騒ぐ姿があったとか。しかしそれもすぐに、別の話題に塗り潰されたのだった。
読了、お疲れ様でした。
ようやく書けました。第四段、ワンコ編は如何でしたでしょうか?
あんまり甘い部分とかありませんが、このまま突っ走ってまいります!
あと残るは、宿敵たる奴のみ! でございますm(__)m 書けるんでしょうか? 流石の秋月も、不良さんは書いた事ありません( ̄ロ ̄;) 不良じゃなくて、超真面目な無口君とかどうでしょう? それともガキみたいなムードキャラとか?
次のキャラは、取り敢えず考えてみます。
さて、このシリーズも、あと三編で終わりとなります。完結まで折り返しがきました。秋月、最後まで頑張りますよ!
では次回のお話で、お会いしましょう。
本日は、作者が連載で書いているファンタジー作品、『天と白の勇者達』が更新されています。興味のある方は、よろしければ覗いてみてください。