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プロローグ 子~弐ツ字~

外では小さな声で雀たちが会話をしている。

その声は心地よくたちまち覚醒しようとしてる脳を妨害する。

このまま再度眠りにつきたい衝動に駆られる。

ただ現実は無情にも時が1秒1秒と刻を刻む。

重く瞳に覆い被さった瞼をゆっくりと重力に抗うかのように持ち上げる。

真っ白くぼやけた世界が映し出され、水晶体と角膜がズレたピントを鮮明に修正させていく。

顔を横に傾けるとカーテン越しから溢れ日が差し、朝の訪れをボケた脳みそが明確にしていく。

「そろそろ起きようか」と内心呟いていると、「ピピピピッ…」心臓を内側から手で引っくり返すようにけたたましい電子音が耳を叩きつける。

瞬間的に時計の方に目を向けると6時58分50秒を指していた。

まぁこの時間も精確ではないが。

この一見古臭く見える目覚まし時計は幼少時から使用しているが、目覚まし機能が秒指定で設定出来る珍しいもので、僕としては今は頼れる相棒となっている。

ただし一定の時期に再設定しないといけないのが難点だが、今では日常化してしまいこれといって苦痛も感じなくなったわけだが…。

そんな無駄な事を思い老けてる間にも電子音は徐々に音を増大させ、この空間を無機質に鳴り響きかせている。

その音の根源を止めるにはシンプルでただこの目覚しい時計の突起しているボタンを指先で押し下げてやればいい。

「ガチャ」っと静かに押し込まれたボタンと同時に、今までの轟音を鳴り響かせていた張本人は蛋白に時を刻む「物」として静寂を貫いていた。

今日から月が変わって3月だがまだまだ寒さが解けきっていなく、ベットから這い出るとぶるっと一度身震いをしてしまう。

朝は相変わらず憂鬱だ。

毎日同じように飽きもせず繰り返し、憂鬱になる事が更に憂鬱を加速させているのだろう。

ただし休日や祝日長期休みだけは例外で、時間に縛られることがない朝だけは幸福の時でもあるのだが。

自分の寝室を後にし下の階に降りる降りていく。

階段を下りたすぐ横の部屋にはリビングと台所があり、台所に向かい冷蔵庫のドアを開け朝食の準備をする。

「今朝は簡単なものでいいか。」

冷蔵庫の中から食パンとジャム、昨晩のお弁当の残りで余った卵焼きと牛乳を取り出し、食パンをトースターにセットする。

焼ける間にヒーターのスイッチを入れ冷え切ったこの部屋の温度を上昇させる。

テレビをつけると、毎朝見かけるニュースキャスターが全国のニュースを淡々と報じていた。

テレビ画面には7時20分と表示されていた。

トースターから食パンを取り出すと適当に朝食を済ませる。

その間テレビに目を向けてはいるがその映像は目を通して脳に送り届けてはいるが、脳は記憶しようとしても興味ないものには瞬間的に削除の繰り返しだろう。

こういう時は大概思い出に老け変えることが多い。

それも嫌な方向の話だ。

僕の両親は僕が小さい時に事故で亡くなっている。

うちの両親はお互い同じ職場に勤めていて、出張から二人で帰ってくる時に対向車とぶつかり死んでしまったらしい。

らしいと言うのは丁度その時僕達は親戚の家に預けられていて事故現場にも居合わせておらず後から聞くことになったわけだ。

その後は父方の弟夫婦に預けられ育てられることになったわけだが、叔父さん夫婦は骨董品を海外から集めてそれらを売る古物商みたいな事をしている。 日本に帰って来てもすぐに海外に飛び立ってしまうため実質国内にいるのは50日いるかどうかだろう。

「よし」

テーブルに手をつけ椅子から立ち上がり洗い物を済ませ身支度を済ませる。

鞄を持って玄関で靴を履き替えていると、バタバタとけたたましい音を立て階段を降りくる妹の姿だった。

「どうしてお兄ちゃん起こしてくれなかったの?朝弱いの知ってるでしょ?あー遅刻する。」

「ごめんなさい…」

「え…ううん言い過ぎたごめんね?もう出るの?」

「うん…」

「忘れ物とかない?あっ!携帯持った?いつも持ちあるかないから連絡つかないんだからね?」

「今日はいいよ…どうせ使わないし…」

「いつもそうやって持ち歩かないじゃない。ダメだよ緊急時とかどうするの?何かあってからじゃ遅いんだよ?」

「ごめん…そろそろ出るね…行って来ます…。」

「ちょっとお兄ちゃん待って…ぁ…。」

会話の途中にも関わらず、半ば強引に玄関を閉める。

妹の佳憐は一つ下の妹で中学生だ。

性格は明るく優しく無邪気で男女共に人気があり僕とは正反対な性格だ。

顔は少し童顔でよく小学生と間違えられる。

それが彼女自身コンプレックスの様だが。

ただ僕と決定的に違う所は時間にルーズな所と運動がちょっと苦手な所。

勉強の方は特別悪いわけじゃなく特別いいと言う事はない普通であり普通以上でも以下でもないようだ。

ただそんな他人に敬われる妹だが僕は苦手だ。

苦手であって決して嫌いなわけじゃない。

ただし目を合わせる事も会話することも、同じ空間に居ることさえもが苦手だ。

同じ屋根の下に住んでいるがなるべく妹の時間と同じく被らない様に食事やお風呂、帰宅の時間や出かける時間も調整している。

今日はたまたま顔を合わせてしまうミスを犯してしまったが…。 何日ぶりに話しただろうか。

僕は内気な性格であまり人と話すのが苦手だが佳憐は更に苦手だ。

彼女が無邪気に僕に話しかけてくる姿に僕は困惑し憎しみすら感じている。

自分自身の責任なのに…。

人は知らずに人を傷つけてしまうことがある。

相手は無自覚で自分だけが馬鹿の様に傷ついていく。

この傷は時が解決してくれるのだろうか?いやその時すら忘れている佳憐だから嫌なのだろう。

不機嫌に一歩一歩踏み出す足に若干の呆れを覚えつつ腕時計に目を向けると時間は8時20分を過ぎた所だった。


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