恋し金木犀
――――――恋を致しました。
貴方はいつもこの道を友と共に歩いていました。
帰り道なのか、行く道なのか。
この道を通る貴方を見るのが、私の幸せでした。
私に「いい香りだね」と、優しい笑顔で言って下さいました。
夏の名残の半袖が長袖になり、風が冷たく吹いてきても、私は貴方を待ちました。
貴方の好きな香りをまとって……。
叶わぬ恋だとわかっています。
声をかける事も、この愛しい想いも。
きっと間違いなのです。
それでも貴方が笑うから、私は、私は。
届かぬ事は、わかっているのです。
貴方の唇が優しく私に触れてくれても、私には返すぬくもりはありません。
叶わぬのなら、何故恋などしたのでしょうか?
苦しい、悲しい。
辛い、触れたい。
泣けぬ私の代わりに空が泣きました。
雨粒にこの気持ちが流れてしまえばいいのに。
やがて来る寒く静かな白い冬。
越えて私は咲くでしょう。
貴方を想い咲くでしょう。
「あぁ。いいにおいだと思ったら、今年も咲いたんだな」
「何が?」
「これ。好きなんだ、この香り」
「ふーん。早く行こうぜ。電車遅れる」
「あぁ、わかってる」
――――――――――――――――叶わぬ恋を…………致しました。