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東にあるらしい村の近くへ行く、前に、
「お姉さま! これなんてどうですか!」
リィナに連れられて服を買いにきましたよ? まぁいつまでもミニスカでいるのはどうにかしたかったしずっとこの服もどうかと思うしちょうどいいのかもしれない。
「ひらひらバツ。動きやすくてズボンタイプで」
「え~……」
えーとか言われてもなんでドレスなんて着て殴る蹴るしないといけないのか。・・・殴る蹴る以外の選択肢もそのうち考えよう
……
…………
「うん、これでいいかな」
上下セットのゆったりした着心地。シンプルな色合い。露出控えめ。私は地味~を追い求めるよ!
「う~……服屋誘わずさっきのままで居てもらえばよかったです……」
「ほ、ほら、今度町の外出歩かない日にでもそういうの着るから、ね、ね?」
それだけですっかり元気になりましたよこの子は。どれだけ私を着飾りたいのか……
「では行きましょう、日帰りで済ませたいですから。宿泊費まとめ払いしてるので」
「よーし、走るか!」
「はいはい兄さん落ち着きましょうね」
リィナが保護者にしか見えない。兄の威厳とは一体……うごごごご
――――――
道中さっき途切れた会話を持ってきて聞いてみた。
「あの時の魔物はですね……一応分類としては北にいるのと同じなんですが、稀によくいる変異種だったようで普通のと比べてかなり格上になっていたんです。まぁ……それでもなんとかなるはずだったんですが」
「兄さんは少し反省してください」
「いけると思ったんだがなぁ」
一体なにがあったのか……
「対峙した際、威圧で一瞬怯みましたがすぐ対応して迎え撃とうとした時に……カルマが雄たけびをあげたあと「俺にまかせろー」とバリバリしながら魔術を使用したんです。声そのものに魔術効果を与えて……「今からこの豚をぶった切る!」と……範囲無差別で。あまりの寒さに僕とリィは耐え切れず気絶しました」
うわぁ……それは酷い。戦犯というか犯罪というか……あぁ、だから傷あんま無かったのか。気絶時に倒れた拍子にってぐらい?
「……そうか! ネタがいまいちだったのか! よし次h」
「次やったら絶交です」
「次やったら絶縁です」
「もうしませんすいまえんでした;;」
反省の色が見えない。まるで成長していない……
あれだね、親しき仲にも礼儀あり?
――――――
東の村へは割りと広めの道がある。でも魔物の話が流れてるからか人通りはあまり無い。時折同業者っぽいのを見かけるぐらい。
「んー別に村に行く必要はないよね?」
「ええ、左右の森も途切れて草原に出ますからその辺りを回りましょう」
それから歩くこと数十分。たぶん。開けたところに出、左のほうちょっと離れたところにこの前見た魔物……とは確かになんか違うのがいた。
「そういえば……この前のあれはどう倒したんですか? 武器なにも無いみたいですけど」
「蹴った」
ヴィタの質問に簡潔に答える。前は爆散しちゃったし、今度はもっと手加減……前が2割りだったはずだからそこから四分の一ぐらいでいってみよう!
「え、けっ……え?」
「リィナ、もっくんお願いね。やってくるから」
「はい! お姉さまの勇姿をばっちり焼き付けます!」
もっくんを預け、力を加減し……どうしよう? 今度は殴ってみる? ……よし、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす!右ストレートでry
そう決め、右足を踏み切り……なにかビリィって音がした気がする……猪豚さんの前で左足を踏み込み……またビリィってなんの音だろ……右ストレートを顔に……と思ったけどボディーブローを叩き込む。振った際に袖が千切れ飛んだ。安物掴まされたのかな……?
今度はきっとちょっと吹っ飛ぶ程度でいけると信じ……爆散した。
「……魔物って……繊細な生き物なのかな……実は安全で害の無い生物なんじゃないかな……」
ちょっと現実逃避してみた。でも背けちゃいけない……もっと弱くってどこまで抑えればいいの……
やっちゃった☆という感じで百八十度ターンして振り向いたら3人が目を見開いて固まっていた。うーん……びっくりするような……ことかな……やっぱり……
「リィナー? ヴィター? カルマー? 大丈夫~?」
そう投げかけてみるとようやくリィナが反応し……慌てはじめた。
「ちょ、お姉さま! 隠して! 隠して! って二人ともなにいつまで見てるんですか! はやくあっち向いてください!!」
「すみません!!」
「ありがとうございます!!」
ヴィタが謝罪を、カルマがお礼を言い反対側へ身体を向ける。え……なんで謝られたし。なんでお礼言われたし
「お姉さま! 服! 服見て!」
服とな。ふむ……買ったばかりの旅○の服(仮)(銀貨1枚)が見るも無残な姿に。
足首まであったズボンは両方ふともも辺りまで無くなり、右腕も袖だけじゃなく胸の辺りまで破れていた。なるほど、ぽろりはしていないが下着は見えている。丈夫な下着をくれたシエラさんに感謝しなくては。でももらった下着ははっきり言うと、えろい。さすがシエラさん大人やでぇ……
「……着替えましょう、たぶんあれなら大丈夫ですよ。たぶん」
リィナがもっくんと一緒に預けた服が入っている袋を開き渡してくる。
「そうだね。動いててこの服が破けたことは無いし」
そういえば割と気にせず森とか歩いたはずなのにあの服一切無傷だった気がする。当分外出時は服変えられそうにないなぁ。町中でさえ万が一でも動くことあるかもと考えたらさすがに……気にしないで服変えて全裸になりました。ストリッパーとして有名になりました。なんてことになったら人のいるとこで生きていけない!
リィナに魔術で煙幕を作ってもらいささっと着替える。その後は「わたしたちがやりますからゆっくりしててください。大丈夫なはずですけど万が一の時はお願いします」と言われ三人で魔物に向かっていくのをもっくんと眺めるだけになりましたよ?
まぁつまり暇なんです。加減がんばりたいからもうちょっとやらせてと言ったら「俺のかっこいいところ見ててくれ!」の戯言はスルーしたが「欠片も残さず爆散させられると売り物の素材が取れないのでまた今度にしてください」となんか酷い言われようをしたが事実過ぎたので沈黙しますた。
なんだかんだで三人共いい動きだし連携も十分に見える。みんな魔術使ってるし……べ、別にうらやましいだけなんだからね! 魔力はあるのに……あるのに!
ある程度の数を処理したところで3人共戻ってきた。もっくんをもふもふしつつ不貞腐れてる私のところへ。
「あ、あの、お姉さま? どしたんですか?」
「なんでもないよー……ちょっと鬱なだけだよー……」
「それ一般的には大丈夫じゃないですよね?」
「ふむ、ここは俺が愛の抱擁でもって慰めるところだな!」
「兄さん? それはわたしがしますよ? だからその辺で魔物の警戒をしていてくださいね?」
「い、いや、ここは俺に……すみません、周囲警戒してきます;;」
そんなやりとりを横目で見つつ、いつまでもぐだってても良くないなと立ち上がる。
「よし! お昼にしよう! お腹が空くと気持も滅入りやすいしね!」
「くっ……遅かった……」
リィナ……なにが遅かったのかはわからないがとりあえずは難を逃れたみたいでよかった……のかな?