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特になんの準備もせずに西の森に着きました。だって近いしまだ時間大丈夫そうだし?
森の入り口付近にはなんというか、その、丸い毛むくじゃらのもふもふ生物がいましたよ。
「……いいもふもふ。もしかしてこれが、子供でも大丈夫な魔物。なんて言わないよね?」
謎のもふもふを撫でつつ堪能してみる。もふもふくんも、MOTTOMOTTO! という雰囲気で寄ってくる。なにこれかわいい。
「って、先に薬草採取しておかないと。……抱えていってもいいよね」
両手で持ち上げ抱いてみる。欠片も害もある気配を感じない。うん、これは魔物ではない! 愛玩……生物だ! 動物かはわかんないし。
「んじゃ探しますか! ……この子喋らないのかな? 口は一応あるけど。まぁなかったらどうやって食べたりするんだって話だけど」
森の中は生物の気配は感じるけどまだ近くにはいない感じ。ただ虫が見えてちょっとイラッ☆っとした際魔力が放出されそれが見事に虫除けに。なので軽く魔力放出して散策中。特に疲れないし
「あれ? この子さっきより元気になってる? うーん……あ、放出した魔力を食べ……てる?」
だとしたら食料不要でその辺の心配もいらないし、元気になっただけで大きくなるってこともないみたいだし……私、マイホーム作ったら……この子と住むんだ……
そんなこんなで薬草見つけました。でもエルフってこういう植物に対して会話ができたり採ると非難されたりとか……なかったっけ?
「採っても大丈夫かな……よし。葉っぱもらってもいいですか~?」
呼びかけてなんも反応なかったらかなり痛い子認定されるんじゃとか不安に思いながらも待ってみる。
イイヨーイイヨー デモイッコニツキイチマイダケダヨー
そんな感じの言葉が聞こえた。気がした。いやだって声として聞こえたわけじゃないし。
「ありがと。もらうね~」
お礼をいいつつ見える範囲の所から一枚ずつ採っていく。……一応一セット分にはなった。けど、
「これ……さすがに十セットは……もう少しがんばるとしても次から魔物相手の素材集めにしようかな」
都度断ってお礼をいいつつ軽い罪悪感に苛まれる作業はなんともいえない。エルフェ……あれ? エルフじゃないんじゃなかったっけ……
それでも今日ぐらいはと探し集め、なんとか十セット分を袋に入れ終わったところで人の声が聞こえた。
「うーん? 近いってほどでもないか。そこまで遠くはなさそうだけど、この場合耳が良くてよかった。のかな?」
聞こえたのがうおーとかうわーとか……そういう風な感じってだけで多少ニュアンスは違うけど、雄たけびが即座に悲鳴になるってどうなの? 首突っ込むかはさておきとりあえず様子見してみようと声のした方へと向かった。
そこは少し開けた場所。二人が倒れ一人がこちらに背を向け、その向こうに大き目の……猪? 豚? みたいな生物がその一人に向かって突進していた。動けないのか動かないのか微動だにしない。一応横入りしたほうがいいのかな?
「ちょっとここで待っててね」
キュイー
喋った!? いるかloveな私にいるかみたいな鳴き声で!! いや実際の鳴き声とか聞いたことないけどたぶんそんな感じ。
「かわいいっ!」
キュイキュイー
思わず抱きしめたその時、
ドゴォ
「あっ」
綺麗な弧を描いて跳ね飛ばされていた。
「……うん、生きてる。死んでないからセーフ」
よくよく考えればこれが初戦闘……どれくらいの力で十分なのかなにもわからない。
「とりあえず……二割ぐらいでいってみよう。」
二割と言っても全力の二割じゃなく、この前力を抑えた上で雲散らした時のね。目測一五㍍。猪豚? がこっちに気づいたときにはもう目前で蹴りモーションにはいっていた。
「いんすてっぷき~っくっ!」
きっとそれなりに吹っ飛ぶだろうと油断していた。いやまさか……
腸ブチマケ……違った、ブチマケル腸も無くなるほどに爆散するなんて……思わないよねぇ?
幸いこっちにかかることはなかったけど向こう側に倒れていた二人には少々かかり、辺り一面ちょっと見なかったことにしたい状態。見た目だけならグロさは無いけど飛び散りまくった液体が……臭いもちょっと……
でもこの惨状をどうにかできるような方法なんて持ち合わせていないわけで……つまり今この場における最良の手段といえば、
「この三人回収してカカッっととんずらっ。もっくんいくよ~」
キュイ~
三人を引きずり(抱えたくないから。臭い付きそうだし)その場を離れた。女の子もいたから野郎二人の上に乗せて。気絶してるだけで重症ってほどではなさそう。あんなのに跳ねられてよくそんなもんで済んだもんだ。……突進を避けれなかった意味はわからないけど。
あと……は、力加減一割~十割じゃなく一~百にしたほうがいいのかな……また調整しないとなのかと少し項垂れた。
――――――
あの場を離れ、たぶん安全そうだなという所で軽症な方の野郎の顔を軽く叩いて起こした。このまま引きずっていきたくないし。……今軽く叩いた際に顔無くならないでよかったと少し安堵してもいいよね。
「ん……ぬあ……あとごふん……」
ちょっとイラッ☆として顔スレスレの位置を足踏みしてみた。直径一メートル程度のクレーターができてびっくりして起きてくれた。他二人も起こしちゃったけど。ふむ、この起こし方……ありだな。
「ねぇよ!?」
地の文に突っ込むとかないわー絶対ないわー。
「口にだしてたよねぇ!?」
「キノセイアルヨ」
「なんでk……!?」
「うん? どうしたの?」
「お嬢さん……パンツ何色でぐふぇぁっ」
どこの園児だと。思わず某有名チョップの悪魔直伝? 斜め四十五度のチョップをかましてしまった。幸い頭にめり込むということはなかった。地面に頭がめり込んだけど。
「あ……れ? エルフって……」
「肉体派な種族じゃなかったような……」
はっ? しまった。理想のエルフ像砕いた!? ……あぁエルフじゃないや。よしここは冷静に、koolだもっともっとkoolに……!
「怪我大丈夫? あと私エルフじゃないみたいですよ?」
「あ、あぁ、はい、大丈夫だと思います。なんとか動けそうなので」
「たぶん助けていただいた方ですよね。ありがとうございます。……エルフじゃないんですか」
「いえいえ困った時はお互い様です。……エルフじゃないそうですよ」
「わ、わたしリィナ・ウェルスです!」
「僕はヴィタ・ライズです。そこの凹んでる失礼なやつはカルマ・ウェルスです。変態とでも呼んであげてください。可哀そうな事にリィナの兄です」
「残念です……」
それでも一緒にいるってことは仲いいんだろうね。
「私はミリア・クロノス。ミリアでもリアでもミアでも呼びやすいように呼んでね」
「みりあ……リアお姉さま」
「えっ?」
「リアお姉さまと呼ばせてください!」
「いや、あの、できれば呼び捨てがいいかなーなんて」
「リアお姉さまと呼ばせてください!」
「いや、その……」
「リアお姉さまと呼ばせてください!!」
「う、うん、お、おっけ」
折れた。だって泣きそう顔して言ってくるし。なんでお姉さまと呼ぶし。
「と、とりあえず町に戻らない?」
「はい!」
「そうですね。そろそろ暗くなってきましたし」
「そういえば……」
「はい?」
「なんであんな所にいたの?」
「あ、その……」
「あー、言えないことだったら別にいいからね?」
「いえ! そんなことないです全然!」
町に着くまでただ黙々と歩くだけなのもなんだかなーって思っただけだけどその辺は言わずに置いておこう。
「僕等傭兵組合に所属しています。それで南からここに流れたということで可能な限り処理という仕事を請けたんです」
「へ~」
「南の森ぐらいのなら大丈夫だろうとまぁ……油断してました」
「気をつけようね~。誰も通らなかったらどうなってたか」
「あ、あの! お姉さま!」
「うん?」
「さっきの魔物なんですけど、あれ北の丘向こうの魔物なんです」
ふむ? つまり予想GAYだったと。
「んー、でもあれ突進しかできなそうだったし、避けて逃げるぐらい大丈夫だったんじゃ?」
急カーブなんてできそうにもなかったし魔術みたいなことできる感じでもなかったし。
「あの魔物なんですけど通常のとは違って……わたしたちより格上で……」
「うん? 格上だとなにかあるの?」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」
「お姉さま……組合のほうには行かれました?」
「うん、魔術士組合のほうには。傭兵組合のほうはまだだけど」
「あちらでは不要ですしね……ランク基準的に。では説明致します。と言ってもそんな長くなるようなものではないんですが、生きとし生けるもの全てに格があります。それで対魔物に関しては魔物が格上で自分たちが格下の場合威圧や殺意のようなものの影響をしっかり受けてしまい普段の動きができなくなってしまうんです」
「なるなる。つまり、格が今よりも上になってそれを組合から認められればランクが上がる。それでなんとかなる範囲の魔物狩りを紹介される。そんな感じ?」
「はい、そうです。それでも護衛関係の場合はまれによく格上の対処に迫られますが……」
格、ねぇ。まぁレベルみたいなものかな? 魔物倒してれば上がるなんて簡単? なものなら……私も格ってあるのかな?
「ね、格って調べることってできる?」
「かなり大雑把な方法ですよ。組合の幹部の方は格の高い人ばかりなのでその人たちに威圧してもらい影響をどれくらい受けるか、というようなやり方です」
「うわぁ……」
魔物の場合しっかり受けるってだけで人対人でも多少は受ける? だからって……そんなんでいいの?
「そんなわけで基本格下か同格までの依頼しか請けることはないんですよ」
「そっか……割と面倒なんだ。ね~」
キュイー
「……あの、お姉さま。それ、なんですか?」
「うん? もっくん? この森の入り口で拾ったんだけど……だめだった?」
「いえたぶん大丈夫です! ただその……この辺りで見かけたことない生物なのでなんだろうなぁと。……わたしも抱いてみていいですか?」
「うん、もっくんいい?」
キュキュイー
たぶんいいよって言ってるような気がしてリィナに渡してみる。最初はおそるおそるだったけど三十秒もしないうちにもふ具合にやられて堪能している。やはりもふもふは至高……
「あ、そうだ、別に嫌だったら秘密でいいんだけど、みんな何歳? 予想でリィナ16ぐらいのヴィタ20ちょいかなーっと」
「僕は22です、この変態も僕と同じです。誠に遺憾ですが」
「やっぱわたしそれぐらいに見えちゃうんですね……20です。リアお姉さまは?」
えっ 年上だった……だと。年上にお姉さまと呼ばれる……外見で言うならセーフ……?
「……あ、えっと、19歳」
「「えっ」」
「えっ、て……そんな老けて見える……のかな……」
「そんなことないです! その、お姉さまって呼んでも大丈夫かなぐらいには。エルフとは違うっていっても長寿だと思い込んでましたし……」
「っと、僕も、その、綺麗で、せ、成熟した体型と、、大人の雰囲気に……」
「「いやらしい……」」
「う、うわあああああああん」
冷静な眼鏡系(眼鏡は無いけど)だと思ったらむっつりで初心なだけだった。いやなんか違う? まぁいいそれは重要じゃない。
「わ、わたしのこともそんな目で見てたんですねっ!」
「いや、それはない」
「「酷いわぁ……」」
「えええええぇぇぇぇ……」
「え」ってなんか人っぽく見えるよね。どうでもいい? ですよね~
「まぁ」
「いぢるのはこのへんにして」
「酷いっ弄ぶなんて!」
「「……」」
「……ごめんなさい。空気読みませんでした」
そんなノリで歩いてたらもう町のすぐ近くに。ただまだ変態さんは起きない。当たり所が……良かったのかな!