ex7.6 嫌な予感だけはそれなりに当たる
雨上がりの空の下、山頂のごつごつはしていても平坦と言ってもいいぐらいの道なき道をひたすら歩いた。
寒さにはひたすら我慢である。頻繁にくる雨はアーリとパロスさんで移動しながら持っているテントでやりすごしつつ進んでいるためそこまでいいペースとはいえない。
ただそのおかげで濡れずに済んでいるから、先日のような下着だけで寝るようなことにはなっていない。……代わりに下着無しで寝ているけど。別に露出狂ってわけじゃないよ? この服汚れは弾いてくれるみたいだから(血も弾いてたし、水は汚れじゃないからダメみたい)、中では仕切りつくって体を拭くぐらいはできてたし。魔法さまさま。魔法で水を作ったじゃなく、魔法で水分を周囲から集めた、らしいけど。
だから下着も洗濯したかった! それにまぁ、「この前敷物を買っていたのを忘れていました。ふぉっふぉっふぉ」とか言って出てきた物は見事に地に体温吸われるのを防いでくれるという代物があったわけで、先日のように抱きついて寝ずに済んでいるから……もしもなことも無いからね! 寝ぼけて以下略なんていちいち考えてたら何もできなくなるし。
道中は何もなすぎて(魔物も動物も)食料は大丈夫なのかなあとか思ったが、杞憂なほどにリュックから出るわ出るわ……もう魔法のリュックと思っていいのかな? ならあんなでかい必要も無いだろうし……うーん……
「どうしたの?」
「なんでも、な……は……は……っっくしゅっ……う~……」
「大丈夫ですかな?」
「うん、ちょっとむずむずしただけだから」
体調が悪いとかは無い。なんか急にきた。風邪の前兆じゃないことを祈ろう。誰かに噂されるようなことはここではしてないし……向こうで心配かけてるのかなぁ……
それからもう少し進むと、
「あそこまで行けばもうテントは仕舞ってよろしいでしょう」
バロスさんの見る方向にうっすらと何か建物がある、ように見えた。……それより気になったのはもっと手前にある緩やかな、舗装された坂道だった。
「ねぇ、あれって、道?」
「道ですな」
「道だね」
「……」
そういえば道中特訓的なこといってたっけ。私がいなかったら雨も気にせず進んでいたんだろうか……? いや、さすがに無いか。長旅は体調管理大事。
着いた中継地点的な村で一泊だけし翌朝すぐ発ち、また人通りの無い方向へと歩き出した。
そこまで歩かない距離で崖端に着き、とりあえず景色でも堪能しようかと思った、が、
「では行きますぞ」
「うん、それじゃミリア、前と後ろどっちがいい?」
いや抱える側のことを言ってるのはわかってる、だけど、なんか卑猥に聞こえる! 不思議!
てか……ここ下るんだ……垂直ってわけでもつるっつるってわけでも無いけど、……ここを?
「……後ろで」
「しっかり掴まってね。行くよ!」
どう下るのかと思った。滑っていくのか、小さい足場を見つけてそこを跳んでいくのか、と。
そうだったらまだよかった!
「ひぃあああぁぁぁぁぁっっ「口閉じて! 危ないよ!」~~~っっ!!」
崖を駆け下りだして叫ぶなとか言われても!? 舌噛みそうで確かに危ないけど!
両手両足に可能な限り力をこめアーリにしがみつく。目とかもう無事に着くまで開けない。
「ぐっ……(心頭滅却いってんよんいちよん……」
一度だけがくっとなったがその一回のみで後は安定して地上まで走り抜けた。……この世界の人の身体能力基準はどんなん……? いや、基準をそもそも間違っている気はするけど。
下に着いて一安心できると思った。けど、
「む」
バロスさんが降りてすぐの崖側、横の方に何かを見つけ……洞窟?
「なんだろ?」
「わかりませんが行きましょう」
「……あぁ、なるほど。わかった」
何を納得し……あぁ、幅があまり無く暗い場所での警戒と立ち回りとか、かな?
入り口から緩い下り坂、ちょっと滑りやすいかも。
そんな坂を降りきった所、地底湖っぽいものがあった。
「何も無さそう、かな?」
「ふむ、この岩……いや、岩とは少々違う、動かせそうな気配は……」
なんだろう、ここ、人気は無いのに何かぞくっとする……
「……。……!」
坂道横の壁を叩いていたセレナが手招きしていた。
「……ほほう、空洞がありますな。……ぬんっ!!」
気合一発、壁を蹴り壊し、その先に小部屋が見つかった。
てっきり隠し通路のスイッチでも探すもんだと思ってたのに……!
「箱だね」
「箱ですな」
「箱以外のなにものでもないね」
小部屋のど真ん中に宝箱? 怪しさ大爆発である。
「罠臭しかしないんだけど」
「そうですな……っっ! ぬわっ!?」
破壊した入り口が妙に綺麗で、調べるのに入り口で待機していたバロスさんが吹っ飛んで壁に激突……しかけたけどくるっと回転して壁を蹴って戻るように飛んでいった。……ちょっとかっこいいとか思ってしまった。不覚……
「くっ、さっきの岩ですな……はぁっっ!!」
入り口を隙間無く塞いでいる岩を蹴り砕こうとしていたが傷一つつかない。頑丈な……
つまり侵入者を閉じ込めるトラップと。こんなとこに? なんで? 理由はともかく、この状況。地下、洞窟、水辺、隠し部屋、密室。すっごい嫌な予感しかしない。
「これ、すっごくまずいよね」
「……その箱になにかあるといいのですが……!!」
アーリとバロスさんも今まで一度も見なかった切羽詰った表情をしている。私もこの3人ならなんとかなると楽観していた。が、そんなことは無いという現実を突きつけられた。
セレナもさっきから何かの魔法をぶつけているが、それでも傷をつけられない。
そこに追い討ちをかけるように、ガコンッという音と共に水が流れ出してきた。
「うあっ!」「掴まって!」
勢いよく流れてきた水に足を取られそうになる。この勢いと部屋の大きさ的に身長までくるのに10分もかからない気がする。
「バロスっ、箱の中身は!?」
「……紙が一枚、ただ一言。『だーい』と」
「なに、それ?」
「わかりませぬ……」
なんだろ、わかる気がする。凄く簡潔に、ただひたすらに殺意だけが篭ってるイメージが……
だーい……
……
……die?
その言葉を理解して、背筋が凍りつきそうになる、刃物を突きつけられている気さえする。
さすがに水死は嫌! けど塞いでいる岩も、壁も頑丈でアーリの剣も……!!
―――剣よっ!!
「アーリどいて!!」
とても勢いいいように聞こえるが、ふらふらしてるし水でばしゃばしゃしながらで様になって無すぎである。それはまぁさておき、岩に向かって振り下ろす。期待通りに、傷一つつかなかった岩も壁もあの時と同じく欠片の手ごたえ無く切り裂いた。体力か生命力かわかんないけど吸われて倒れそうになるのを堪え必死に、隙間を作るように斬りつける。
さすがに再生機能は無く、隙間ができて緩んだところを押し出すことに成功した。
「は……ふ……」
「ミリア! 助かった!」
「あ、はは……よかった……」
体力を剣に持っていかれてもう動けない。アーリに抱えられなんとか洞窟からは抜け出せた。坂途中まで水が来てたあたり予想以上に水の流れはあったっぽい。結構ぎりぎりだったのかなぁ……




