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第7章 最後の晩餐

第7話 最後の晩餐


 「七海 里空?」

 「そう、『こいつできる!』的なオーラムンムンの女刑事ちゃん。刑事にしておくにはもったいないってわけよ」

 バニーの隠れ家、得体の知れない料理が明彦達の前に次々と出されていく・・・。

 「ほら、健全な青少年達が毎日偏った食事ばっかじゃ、体に毒でしょ?」

 「うっ・・・」

 おいしいとわかっていても、味と見た目のギャップはそう簡単にはうまるものではない。

 「んで、その女刑事は裏葉の事何で知ってんだよ?」

 「知らね。何かわけ有りって感じだったけど・・・」

 「そういうの結構大事なとこなんじゃねーの?」

 「あのなー、あんま女ちゃんのプライベートにずけずけと踏み込むってのは男としてどうかと思うぜ?」

 「今はそんな事言ってる場合じゃ・・・」

 「ンチョ、とりあえず飯だよー」

 ギタコは得体の知れない肉の塊にフォークを突き立てている。

 「とにかく、これからの事について色々と話しておきたいから今は落ち着け。心配してるのはお前だけじゃないんだからな」

 「これからって、何か作戦でも?」

 「それをこれから話すんだよ」

 テーブルの上には、バニ子の気味の悪い料理が次々と運ばれ、3人ではとても食べきれない量でごった返している・・・

 「とりあえず、俺なりに色々調べてみたんだが・・・、実はそのステ魔ってヤツは一度逮捕されてるんだ」

 「逮捕って・・・人殺ししておいて、もう外に出てるのか?」

 「そうじゃない。逮捕はされたがすぐに釈放、証拠不十分でな」

 「???」

 「しかもだ、即日の釈放。わかるか?どう考えても不自然だろ?」

 普通、どんな事情があろうとも「殺人」という大罪の容疑のかかった人を例え証拠不十分で釈放するのだろうか。それに警察にもプライドがある。今の世の中、例えはっきりと白だとわかっていてもしょっぴいてきた人を無理矢理犯人に仕立て上げると言うこともざらにある。

 「んで、お前的にはどう思うよ?」

 「・・・、これも権利能力の力だってのか?」

 「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

 「何だよそれ、もったいぶってないで早く言えよ」

 「何人も殺してきたヤツが全然捕まらない。言い方は悪いが、たった一人殺したヤツを警察はそれほど血眼になって探すか・・・と言われたらどう思う?」

 「そんなの当たり前だろ?」

 「そうか?最初はそう言う志しを持っている人だっているし、それを定年まで持ち続けている人だっている。でもな、そういう人間だけじゃないだろ?」

 「・・・、地位ってことか?」

 「そう、まさしくそれ」

 「でも、何の関係が・・・」

 「警察官ってのはまじめに勤務していれば出世できるかといわれたらそんな組織じゃない。成果をあげてこそ、次の席が用意されてるってとこだろ?」

 「だから、なんだって?もったいぶるなよ」

 石神の言おうとしている事に今ひとつ気づけない明彦のイライラはつもりにつもっていく。

 「忍耐力ってのを少しは持って欲しいな・・・、いや、その前に知能ってとこか?」

 「っつ、いい加減に・・・」

 そろそろ明彦の我慢が限界を通りこそうという勢いの中、

 「ギタコなら、他の事件をほったらかしてでも、そいつ捕まえるよ。だって、そんなヤツ捕まえたら、富と名声が頂けちゃうんでしょ?いちごにゅーぎゅーたくさん飲めるしさ」

 「あのなー、ステ魔って言われてるんだぞ?そう簡単に見つからないから捕まらないんだろ?」

 「名前も顔もわかってるヤツが、何で指名手配も何もされないんだ?」

 「えっ?」

 「いいか、そいつがどこの誰かもわからないなら別にして、そいつは一回警察に捕まってるんだ。即日とはいえ、顔も名前も控えられている」

 「だからって、そんなに簡単に見つかるもんじゃ・・・」

 「見つかるとか、見つからないとかって問題じゃない。警察が何百人規模で動く様な事件だぞ?それがもう何年って続いてる・・・、その間に何十件って事件を犯して、捕まらないって事の方が俺はおかしいと思うがな」

 「見つける気がない・・・?」

 「そう。何も個人で探すわけじゃない、国家権力が動いてるんだぜ?もしくは・・・」

 「情報がびちょびちょに漏れてるって線が妥当だよねー」

 「雰囲気壊すなよな・・・お前」

 「まぁ、そんなところだな、つまり、警察に頼るってのは最初からお門違いってわけ。裏葉も最初からそれがわかってたんじゃねーか」

 「それでも、ちゃんと捜査だって行われてるんだろ?逮捕する気はないってことは・・・」

 「んなもん、上層部がいくらでも何とかするだろ?形だけでも動かしておかないとな、一応警察なんだし」

 「そんな最悪のシナリオあるのかよ・・・」

 「あくまでも推測の中の話で、最悪の事態を想定したもんだからこれ以上悪いパターンはない」

 もし、その最悪のパターンに当てはまってしまった場合の一番の問題。

 それは・・・、

 「要するに、裏葉の安全ってのはステ魔が死ぬか、殺すのを諦めるかだな」

 「なんだよそれ・・・、誰が何のためにそんな事する必要があるんだよ?」

 「知らーねよ、てか知りたくもない。ただ、犯人捕まえてフルボッコすれば済むって話じゃないな、今回は」

 「・・・、んで。結局、そのステ魔の正体ってのは誰なんだよ?」

 「そいつの名前か?枯木 死枯だ」

 「枯木 死枯・・・」




 「それで・・・白銀 裏葉は釣れたのか・・・?」

 「そりゃもうね、ほんと完璧だったよー、ねっ、省ちゃん」

 「主導権は完全に握ったかと。ただ、私の力の効力はおよそ3日。その間になんとかしなくてはなりませんね・・・」

 「何言ってんの?3日もありゃじゅーぶんすぎるでしょ?明日にでも殺っちゃう?」

 「私もできれば早いに越したことはないと思いますが」

 「・・・、そうだな。ヤツは特別だからな・・・」

 「時間帯はどういたしますか?私的には・・・」

 「それは・・・任せる。ただ、場所は・・・3年前、それだけ・・・伝えろ」

 「3年前?それだけで・・・」

 「それでわかる・・・はずだ」

 それだけ伝えると、二人を残し席をたっていった。

 「てか、春亜って女どうする?」

 「どうするって、何が?」

 「えーっ、人質とかにしないの?」

 「必要はないだろ。あの時に必要だったのは、相手の動揺を誘い、主導権を握ることだ。それに以外のも大きく動揺してただろ?よほど大事な人間だったんだろう」

 「だからこそそう言うのっていざって時に『切り札』的なカードになるんじゃないの?」

 「わかってねーな・・・、そう言うのは別に手に置いておくってだけが有利に働くってわけじゃない。こちらがいつでも手を下せるって思わせるだけで十分なんだよ」

 「んー?」

 「それに、そこまでリスクをおかしてやる事じゃないさ。下手に動けば、遼さんはともかく俺たちの身の安全は保障できない」

 「そーだけどー・・・」

 「それに今のあいつじゃ、誰に何を言おうが無駄ってもんだ。結局、春亜って女に危険が迫ってるともなにも伝えられないんだよ」

 「省ちゃん・・・、やることがえげつない」

 麻里は顔を引きつらせながら、少しだけ省との距離を置いた。

 「そんなことよりも、3年前・・・」

 「何か意味深?わけあり?そういえば遼ちんは私達が来る前から殺ってたもんね」

 「最近、あの人の考えてることがわからなくなってくる時がある・・・」

 「なんでよー?まさか、興ざめしちゃったとか?」

 「そうじゃない・・・、ただ、白銀 裏葉は殺す必要があるのかってな・・・。あいつは一体何をしでかしたのかってっな」

 「確かにー、別に誰に頼まれたわけでもないし、何したわけでもないし。個人的な恨みでもあるのかなー?」

 「あの人はそんなもんで動くような人じゃないのはお前だってわかってるだろ?」

 「そりゃーもちろん」

 「・・・だろ?だから余計にわからないんだよ」

 「・・・、てか、省ちゃんさ、遼ちんがあたし達にしてくれたこと忘れてなんかないよね?」

 「忘れるわけないだろ・・・そんなの」

 「だったらさぁ、もうそう言うのやめにしよ。私たちの正義は法とかルールとかじゃないでしょ?私たちの正義は遼ちんだよ」

 すると、突然、省吾は大げさに笑い始めた。

 「何よーその変な笑い方・・・。あたしそんなおもしろいこと言った?」

 「いや、そうじゃない・・・。ただ、馬鹿はうらやましいと思っただけだ」

 「何、それ?うらやましーってか、馬鹿にしてんじゃん」

 「いや、本当にうらやましいと思っただけさ・・・」

 「どうだかねー、省ちゃんも遼ちんみたいにどっか人には見せない変なとこあるからねぇ」

 「くどいんだよ、お前は。とにかく・・・」

 省吾は素早くメールを作成すると、送信ボタンを押した。

 「どっちみち、今更何言っても戻れる距離にはいないから・・・、俺もお前も」




 「枯木 死枯って・・・、なんか随分、こう・・・やばそうな名前だな」

 「そう?ギタコ的には中々ハイセンスな活かした名前だと思うけどな?」

 「まぁ、こいつが100%ステ魔って保障はないが・・・、一番有力な候補だといっていい。んで、これから俺たちが採るべき行動は二つに一つ」

 「二つ?そんなん、裏葉を探すしか・・・」

 「ンチョ、裏葉はどこの誰を捜してるのかな?」

 「そう、ステ魔・・・、枯木 死枯を探してるんだ。つまり、そいつを俺たちの手で何とかする・・・っていうパターンもあるって事だな」

 「んなこといってもよ、俺たちの誰もそいつにあったことがないだろ?なんなら裏葉を見つける方が手っ取り早いんじゃないのか?」

 「逆に、裏葉の方がやっかいだろ。なんせ、あいつは俺の能力を知ってるから何かしらの対策は施してあるだろ」

 「対策って・・・なんでそんなこと」

 「だ・か・ら、裏葉は黙って行っちゃったんだよ、ってことは、ンチョについてくんなって言ってるんですけどー」

 「そう、だからステ魔のが探しやすい」

 「ちょっと待て。んなん言ったて、肝心のステ魔の臭いがわかんねーだろ」

 「現場とかーに、行ってみれば?たちしょんしてるかもよー?」

 「おいおい、俺にしょんべんのにおい嗅げってのか?そりゃ勘弁」

 「じゃあ、どーすんんだよ?」

 「そんなん、決まってるだろ。警察だよ、警察」

 「あのなー、証拠品なんてあっても俺らにみせる義理はねーだろ。しかもお前さっきいっただろ。警察が絡んでるって」

 「誰も正面切って行くなんて言ってないぞ。なんのためにギタコがいるんだ?」

 「ギタコ?・・・、なるほどね」

 「二人とも、頼ってくれるのはうれしいんだけどさ、見返りは必要なんだよ」

 「安心しろ、新発売のめろんにゅーぎゅーでどうだ?」

 メロンにゅーぎゅー・・・定価150円。

 警察署内部へ勝手に侵入し、そして、大事な証拠品を持ち去ろうという、法を明らかに犯そうと危険な行為に対しての対価が、たったの150円。

 普通の人間であれば、そんな安値で動くわけがない。むしろ、何十万と積もれても断るものが多いだろう。

 だが、彼女は普通ではない。

 「えーっ、いちごじゃなくていいの?めろんでいいの?」

 「随分安いな・・・お前の能力・・・」

 「そういうなって、仲間だからこその特権だよ。ギタコ、これは裏葉には内緒だからな」

 「OK、アオジ。もーまんたいだよ」

 近い将来、ギタコが「にゅーぎゅー」で上手く利用されないかと明彦は心配になった。

 「まぁ、作戦としては・・・、ギタコとりあえず、まずは里空さんを探すんだ」

 「ななみー?」

 「そう。たぶん、あの人はこの事件について色々知ってそうだからな。あの人の近くに何かしらあると思う」

 「ななみー、貸してくれるかな?」

 「言っても貸してくれないだろ。だから、黙って持ってきちゃっていいから」

 「泥棒するの?」

 「うーん、ちょっと借りるだけ、すぐ返せば大丈夫だから」

 「なんか・・・気、進まないんだけど」

 ギタコの精神年齢を考慮すると、小さな子どもに万引きをさせるようで・・・

 「そう言うなって。とにかくギタコ、なんでもいいからそれっぽいのを拝借してこい」

 「OK、ボス」

 「・・・、そう言えば気になったんだけどさ。ギタコの能力って何なの?この前、裏葉に聞きそびれたんだけどさ」

 明彦が知っているのは、ギタコが姿を消せるということだけだ。

 「一つは周波数変更権、相手の耳から入ってくる音を操作できる。つまり、普通なら聞こえない音を聞かすことができたり、また、音を聞こえなくさせたりできる。ちなみに、そのキーがこれだ」

 そういうと、石神はギタコの側にあるギターを軽く叩いた。

 「ちなみに発動時間は、曖昧でな、大体音楽1曲分ってところだ」

 「一曲?」

 「そうね。曲が聞こえてこなくなるとガス欠で、ギターぶっ壊れてはい、終了ってな感じ」

 「んで、もう一つの方は?見える隠密って言われてるんだろ」

 「・・・そっちは未開拓ってな。お前と一緒さ」

 明彦と一緒、つまり、それは「権利の上に眠る者」ということ。

 だが、そんなことは問題ではない。

 問題なのは・・・

 「ちょっと、待てよ。じゃあ、こいつは何で当たり前の用に姿を消せるんだよ・・・。例え権利能力者として目覚めて無くても、キーさえあれば能力は使えるって聞いた。でも、こいつのそれはどーみたって覚醒済みだろ。なんせ、意識的に力を使ってる時点でそうだろ?」

 理屈の上でなら、ギタコも自分も、同じ「未覚醒」の分類に当たるのだろうが、そこには大きく差が開きすぎている。

 意識的に能力を使えるギタコ。

 無意識にしか使えない明彦。

 とても同じ線の上にいるとは思えない。

 「『信じる力が無限のパワーをひきだすのさ』って、よく漫画の主人公は言ってるよ」

 「まぁ、そんなもんだろ。ただでさえ非現実的な力だ。単純な理屈や道理で何とかなる次元のはなしじゃないだろ。それに・・・、例えそうじゃなかったとしてもお前の頭じゃなぁ・・・」

 「っつ、余計なお世話だ」

 「ともかく、善は急げだ。ギタコ、後頼んだぞ」

 「んちゃ☆」

 そう言うと、ギタコは店を後にした。

 「あいつ、一人で大丈夫かな・・・」

 「心配はいらねーよ。もし見つかっても、ちょっとぶっ飛んでる女の子で話がつくだろ」

 「まぁ、そうだけど・・・」

 「ともかく、今の俺たちにできるのはギタコの成功を祈るだけさ」

 「・・・」

 「ほらほら、いい男がそろいもそろって辛気くさい顔なんてしてないでさ、これでも食べな」

 カウンターの方からバニ子が差し出してくれたのは青い何かの塊だった。

 「お、お気遣い感謝いたします・・・」




 「七海さーん、」

 「なんだ、騒がしい・・・」

 「これ見てください」

 部下の男はノートパソコンを差し、画面を突っついた。

 「『赤の天秤』?これは何だ」

 男はパソコンの画面をスクロールしていく。

 「こういったサイトなんて何も珍しいわけじゃない。マニアかなんかが興味本位で作ったものだろ」

 「いや、そうではなくて・・・、ここです」

 「この掲示板・・・、!!!」

 「先日の害者、『高橋 恵』の断罪依頼について書かれています。この女、男をひっかけては金を盗み、結構な人間から恨みを買っていて、ここに書き込まれているのも数十件に上ります。」

 「他の害者もまた然り・・・か。」

 「とりあえず、このサイトの管理者をあたってみます」

 「あぁ、頼む・・・」

 部下が小走りで去っていくと、、

 「そんなもんを調べたところで、何の足しにもならない・・・。」

 里久は不満そうにつぶやくと、財布を取り出し、それをじっと見つめた。

 「唯一の手がかりは・・・この財布だけ。数年、もがいて、もがいて出世して、その結果は意外と残酷なものだな・・・。あの時の私の判断は間違っていたというのか、それとも・・・」

 里久が、物思いに老けていると、デスクの電話が鳴りだした。

 「こちら七海」

 「先ほど、署内の3階において不信人物を発見いたしましたところ、なんでも七海さんのお友達とか申しておりますのですが・・・」

 「友達?」

 「髪の毛が茶色の女子高生で、なんというか・・・」

 「わかった。とりあえずこっちに通してくれ」

 里久が受話器を置くと、署内が急に騒ぎ出しくなりはじめた。


 それから数分後・・・

 「お前か・・・」

 「ななみーの友達って、あらくれものが多いね」

 両脇をしっかりとつかまれながら連行されてきたのは、紛れもなくギタコだった

 「七海さん、こいつどうしますか?」

 「いや、私の客だ。手間をかけたな」

 「客じゃなくてダチだよ、ダチ」

 「は?・・・」

 呆気にとられた部下を見て、

 「すまない、席を外してくれるか」

 「わ、わかりました」

 そういうと部下は去って行った。

 「んで、神崎さんだったかな?今日はどうしてここに?」

 「神崎じゃなくて、ギタコだよ。今日はななみーにお願いがあってきたの」

 「お願いか・・・、それは交番のお巡りさんや、生活安全課の方で事足りないのか?私はこう見えて忙しいんだ」

 「ななみーじゃないと駄目だよ。だって、財布持ってるのってななみーでしょ?」

 「財布?・・・、これのことか?」

 里久は財布をギタコに見せた。

 「こいつは先日の事件、ここ数年続いている連続殺人の唯一の物証だ。これがどうかしたか?」

 「うん、それ貸して」

 「貸す・・・」

 里久は思わず聞き返してしまった。

 世間一般の解釈では、このような事態はまず起きない。重要な証拠品をおいそれと、貸し出すような機能を警察署は兼ね備えていないからだ。そして、そんなことはいわずもがな。

 「君は何か勘違いをしているな。ここはそういうところではない」

 「そういうとこ?だって、警察官は一般ピーを守るのが仕事でしょ?今ギタコは困ってるんだよ。裏葉を探すにどうしてもその財布が必要なんだよ」

 「・・・、初めて君と会った時、どこかおかしいと感じていたが、君はまるで子供だ。知性はあるようだが、常識がまるでない。それとも・・・ビジネス電波か?」

 「ビジネス電波?」

 「キャラを作って、演じているのかと聞いているんだ。君の場合は、幼く見せてたり、不思議ちゃんを演じて可愛さをアピールするとかそういったことじゃないのか?」

 「うーん、ギタコはそんなことしなくても結構いけてるからな・・・。でも、世間の男はアホばっかだからそういう子に弱いってのはわかるよ」

 「・・・、すまないが時間の無駄だ。用がないなら帰ってくれ」

 「だから、財布を貸してって言ってるんだけど」

 ギタコの非常識な態度に、里久もさすがに取り乱し始めた。

 「君はふざけてるのか?これは、事件の唯一の物証なんだ、つまり、これが犯人を捕まえるための唯一の手がかり。それを君に渡したところで事件は解決しないだろ?」

 「するよ」

 里久は思いっきりデスクを叩いた。

 「・・・、三年前からずっと追い続けた事件を、君みたいな素人がそう易々と解決できるわけないだろ。なんのために私が・・・ここまで出世したと思ってるんだ」

 刑事のプライドというよりも、自分の長年の苦労をあざ笑われたかのようなギタコの軽い発言に、里久は我慢できなかった。

 「・・・、ギタコは嘘を言ってるつもりはないよ。ななみーがどれほど苦労しのかも知らない。ただ、ギタコは裏葉を助けたい。それだけなんだけど」

 「それはわかってる。でもな、君に渡したところで・・・」

 「アオジが何とかする。アオジはすごい嗅覚をもってる。」

 「嗅覚・・・、なめてるのか、犬でもあるまいし」

 「なめてない、本気だよ」

 「・・・」

 いている内容はともかくとして、里久はギタコの変化に気づきつつあった。

 「ならば、賭けををしよう」

 「賭博?」

 「そうじゃない。君にチャンスを上げるといってるんだ」

 そういうと、里久は警察手帳と、10円玉を一枚取り出して見せた。

 「今から君にどちらかの手にコインを握ってもらう。そして私が握っている手を当てる。ただそれだけ、簡単だろ」

 「楽勝♪」

 ギタコはコインを手に取ると、里久の目に入らない場所でコインを握りしめてきた。

 「さぁ、どっちだー」

 「・・・、一つルールを言い忘れていた。君は私からの質問に「イエス」か「ノー」で答えなければならない。もちろん嘘をついても構わない。」

 「いいけど、なの意味があるの?」

 「刑事の感と君と裏葉の友情、どちらが勝るかってところだ。君が本気で裏葉のことを心配しているのなら、私をだませるはずさ」

 「・・・、ななみーは裏葉が心配じゃないの?」

 「心配さ。だから君に任せるわけにはいかない」

 「・・・」

 「では、行かせてもらおうか。『君がコインを握っているのは右手』か?」

 少し考え、

 「『イエス』」

 ギタコがそういうと、七海はクスッと笑った。

 「君は正直だな・・・。答えは右手だろ」

 ゆっくりとギタコが右手を開くと、そこにはコインがしっかり存在していた。

 「残念、君の負けだ」

 「・・・でも・・・」

 「ルールだ。君もわかるだろ?ルールは破ったら存在する意味はない。そして、法律というルールを破ったものを捕まえるのが私たちの仕事だ」

 「・・・」

 「法律に規定されていないからといって、ルールを破る。それを覚えてしまえばいずれ、悪に手を染めてしまうことだってある。わかるな?」

 「・・・」

 「友達思いなののは結構、でも、私たちを信用してほしい」

 「それでも、それでも・・・。裏葉を助けたいんだ」

 「やはり、子供だな・・・」

 「ギタコはまだまだ子供だよ。でも、アオジの力は本当だよ・・・。アオジなら何とかできるんだよ」

 「力・・・」

 「さっきも言ったけど、アオジの嗅覚はななみーの下着だって当てられるんだよ。だから・・・」

 「くくくっ・・・、本気だな、君は」

 先ほどの緊迫をうちやぶるかのように、里久は笑い出した。

 「ななみー、壊れた?」

 「いや、気にしないでくれ」

 「んー???」

 「実はな、先ほどのゲームは絶対に私が勝てるようになっていたんだ」

 「ななみーズルしたの?」

 「ズルではないな。ただ、フェアでなかったのも事実だ・・・。だから・・・」

 そういうと、里久はギタコに財布を差し出した。

 「借りたら返す、約束だぞ」

 「うん」

 「それと、私が渡したなどと外部に漏らすなよ、約束だ」

 黙ってうなづくと、ギタコは一目散にその場を後にした。

 里久は深々と椅子に腰を掛けると、天井を見上げた。

 「魔が差した・・・かな。そういえば、あいつ何で署内に入れたんだ?入口の警備も随分とサボっているのだな・・・」




 「ギタコのやつちゃんとやってるかな」

 「あいつは割としっかりしてるぜー、まっ、お前行かせるよりかは安心できるな、うん」

 「随分信用無いのな、俺。それにしたって遅いな・・・」

 ギタコが店を後にしてからもう2時間が経とうとしていた。

 「やっぱなんかあったんじゃ・・・」

 その時、店の扉を叩く音が聞こえた。

 「噂をすればなんとやらか。ギタコ、お疲れー」

 石神が、扉を開いたがそこには人の姿は見えなかった。

 「誰もいない・・・、ん?」

 代わりに紙袋がポツンと置いてあった。

 「ギタコは?」

 「いや、代わりにこれがな」

 中身を確認するが手紙も残されておらず、ただ、茶葉が入った瓶が2つあった。あるだけであった。

 「あら、紅茶かしら」

 バニ子が一つの瓶の蓋をあけ匂いを嗅いでみる。

 「無臭?紅茶って普通匂いがするものだけど・・・。とりあえず入れてみましょうか」

 バニ子がお湯を沸かしている間に、ギタコが帰ってきた。

 「作戦成功だよーん」

 「随分遅かったな・・・、なんかあったのか?」

 「なんもね」

 「はっ、こっちは心配してたってーのに」

 「ンチョ、心配してたの?」

 「そーだぜ、半べそかきながらな」

 「んなわけねーだろ」

 「ハイハイ、喧嘩はそこまで。お湯沸いたわよ」

 熱いお湯が紅茶の茶葉の上に注がれていく。

 「やっぱり、匂いは無いわね・・・それに・・・無色」

 「無色?ただのお湯じゃーん。おいしくないじゃーん」は

 「こういう時、裏葉がいればなー・・・」

 「・・・、これ知ってる」

 明彦は紅茶の色をいた瞬間に思い出した。

 無色、無臭の珍しい紅茶。

 「サンタル・ミ・ケーフ・・・裏葉か?」

 「なんだよ、それ」

 「この間、裏葉にボコボコにされる前に飲まされた紅茶。別名『真実の扉』だ。この紅茶は珍しいらしい。だから、間違いなく裏葉からのものだと考えていい」

 「一応、もう一つの紅茶も入れてみたけど・・・、これはちょっとエグイわね」

 バニ子が差し出してきたのは、紅茶というよりも・・・

 「バニ子さん、こういう時にこういう冗談いらないです・・・はい」

 「何よ、その言い方。あたしだってこんな色したもの作らないわよ」

 それは真っ青な色をした液体・・・。

 「ンチョ、これはなんていうの?」

 「いや、知らない・・・」

 「つかえねー、ダメダメじゃん」

 「俺がいなきゃ、裏葉からかどうかもわからなかっただろ?」

 「待て待て、こんな珍しい色した紅茶だ。ネットで調べれば・・・出た」

 石神は一同に携帯の画面を見せた。

 「レイト・ル・ルルーク・・・別名『最後の晩餐』」

 「最後の晩餐・・・ってことは」

 「裏葉が無事でいられる可能性があるのは・・・長くて明日の晩餐が始まるまでだ」



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