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第2章 権利能力者のイロハ

第2章 権利能力者のイロハ


 「ここに来たってことは・・・覚悟ができたって言うことかしら?」

 「・・・」

 裏葉の問いかけに神妙な面持ちを見せる明彦、そして、その側には石神とギタコも同じような表情を見せ、ただ黙って下を向いている。

 出されてきた飲み物に全く手をつけようとせず、メニューを見ようともしない。

 「・・・、ことの次第ってのが、1週間であんたにも理解できたってことかしらね?」

 「・・・」

 明彦は黙って頷く。

 「ちょっと、どうしたっての?あんた達、様子がおかしいわよ・・・。そろいもそろって黙りこくっちゃうなんて・・・」

 決断の時を迫られている明彦ならまだしも、たいして関係のない二人まで沈黙しているのはおかしい・・・、そして、心なしか三人は小刻みに震えている。

 「あんた達、どうしったていうの?なんか・・・あった?」

 「・・・、ふぃ、ふぃ、ふぃふふふぁっんふぉふふぁふぁがぁーーーーー」

 わけのわからない言葉とともに三人はいきなり泣き出した。

 「はぁ?」


 ・・・10分後。

 「それで、とにかく最後の歌がな・・・」

 「ちょっと、まだ語る気?」

 いい加減にしてくれと言わんばかりに裏葉が言うと、熱く語る三人はようやくその口を閉じた。

 「んで、要するにあんたらは甘易 美瑠紅にあてられたってこと?」

 「わかんないかな、裏葉ぁ・・・、ミルクちゃんをそんな難しい風に言わないでほしいんだけど」

 「ギタコの言うとおりだぜ。特に生ミルクちゃんの生君虹は・・・」

 石神は今にも泣きそうになるのを必死にこらえている。

 「んで・・・、この二人ならまだしも・・・あんたそういうタイプだったの?」

 ギタコや石神ほど熱く語っているわけではないが、明彦も負けじと涙を浮かべている。

 「だって・・・あれはずるいだろ・・・」

 「ンチョ、全く興味ないふりして一番泣いたよね。・・・むっつり?」

 「そうそう、最初はお前らまじか?みたいな顔してたくせになぁ。こいつをここに連れてくるのにどんだけ苦労したか・・・」

 それ以上は言わないでくれと、明彦は石神の口を必死に抑える。

 「君虹ねぇ・・・、あれだけはあの子、CDに収録しないから・・・」

 独り言のようにぼそっとつぶやいた一言を三人は聞き逃さなかった。

 「あの子?」

 「そう、美瑠紅。知らなかった?社交辞令みたいなもんで何度も顔あわせてるわよ・・・私達」

 「はぁ???」

 「ちょっと待って」

 裏葉は鞄の中からカードがたくさん入ったファイルを取り出し、その中から一枚取り出した。

 「地球爆破計画・・・総督?なんだこれ?」

 「わわわわわっ」

 わけのわからない様子を見せる明彦とうって変わって石神とギタコは急にざわつき始めた。

 「裏葉・・・、お前なんでこれもってんだよ」

 「あの子がインディーズの時にちょっとね」

 「なんで地球爆破計画?」

 状況が把握できない明彦に、石神とギタコはあきれた顔を浮かべる。

 「ンチョ・・・、ミルクちゃんは地球爆破をやめて、地球征服にしてくれたんだよ」

 「???」

 「ようするに、インディーズ時代が地球爆破路線、でメジャーになってからは地球征服路線・・・、おわかりかしら?」

 「路線とか・・・もうちょっとやんわりいえねぇーのかよ・・・」

 裏葉の冷ややかな態度にけちをつけた明彦だったが、

 「何か?」

 「・・・別に・・・」

 目には見えない権力に脅された。

 「んで・・・あんたは、オフ会にでも参加しに来たのかしら?」

 脱線気味のなっている話を、裏葉が軌道修正し本来の所へともどした。

 「本当に覚悟はできたのかしら?」

 「あぁ・・・」

 結局のところなんのために・・・という明確な理由は見あたらなかった。真っ当な理由もなしに自分の身危険を危険にさらすほど明彦もそこまで馬鹿ではない。

 ただ、明彦をここに導いたのは・・・このまま黙って部外者になるという後ろめたさだった。

 神妙な面持ちを見せる明彦に、ただ、「わかったわ」と一言、それ以上は深く追求してこなかった。

 「まずは・・・、権利能力についてね」

 「あのさぁ・・・、それの話なんだけど・・・、ここで話していいことなの?」

 明彦達がいる場所・・・それは『バニーの隠れ家』だった。

 相変わらず客の姿は見えず、奥の方からはバニ子が何か得たいの知れないものを作っている奇怪な音しか響いてこない。

 「権利能力とかってさ・・・普通の人に聞かれたらまずいとかないの?」

 「確かに・・・普通の人に聞かれればね」

 「えっ・・・?」

 「バニ子も権利能力者よ」

 「はぁ?」

 「お前・・・この店に来て食った飯覚えてるか?」

 「そりゃーもちろん」

 忘れもしない・・・マグロの地獄姿煮。そして・・・カブトムシのゼリー・・・

 「それが何か?」

 奥からバニ子がマグロの地獄姿煮を持ってきた。

 「はい召し上がれ。マグロの地獄姿煮、愛情抜きよ」

 「愛情抜き?」

 気になるワードが含まれてはいるがなんのためらいもなく、どろどろにマグロがとけた真っ赤なスープを口に運ぶ。

 初見の人から見れば驚くべき光景だが、明彦はこの料理が美味しいということを知っている。料理は見た目ではない・・・はずだった。

 「・・・、まずっ・・・てか・・・まず」

 自分の味覚が狂ってしまったのか、明彦はもう一度口に運んではみるが・・・、やはりまずそうな顔を浮かべている。

 ギタコも横から一口味見をしてみたが、拒絶反応を起こしている。

 「まずじゅー・・・、バニ子・・・これドブの味がする」

 「愛情って・・・大事なんすね・・・」

 「そうよ、愛情がなければ料理なんてただ鍋に臓物をぶち込むだけのお遊びよ」

 「それをあんたが言うの?」

 料理における愛情のなんたるかを語ろうとするバニ子を裏葉は止める。

 「バニ子の能力は味覚干渉権よ」

 「味覚干渉権・・・じゃあ・・・」

 明彦は真っ赤なスープを息を呑んで見つめる。

 「そう、これは臓物をぶち込んだただのお遊びよ」

 「あら、そんな言い方・・・、もう少し優しく言って欲しいんだけど。そう思わない、蒼ちゃん?」

 「そりゃ、もちろん。裏葉の言い方が悪いよな」

 「じゃあ、あんたがその素敵な料理頂いたら?」

 裏葉明彦の前にある、真っ赤なスープを石神に差し出した。

 「・・・、話を本題に戻そう。裏葉、進めてくれ」

 バニ子は誰も手をつけてくれない皿をさげ、ふてくさりながら奥の方へ消えていった。

 「ったく・・・」

  もう後には戻れない・・・

  明彦は、権利能力者達の未知の世界へ一歩を踏み出す。

 「まずは権利能力。権利能力には私の知る限りで4種類の力があるの」

 「4種類?」

 「人に対する力『債権』、物に対する力『物権』、自分に対する力『自律権』、そして社会に対する『社会権』」

 「債権、物件、自律権に社会権・・・、んでそれがどう違うかわかんないけど」

 「ンチョ・・・、ダメダメじゃん」

 「っつ・・・」

 「債権は人に対する能力って言ったけど、わたしの能力が正にそれね」

 「死角操作権だっけか・・・」

 「そう。私のは相手の死角に人を入れる事ができるの。簡単に言えば、能力を受けた相手に誰かを見えなくするってことね」

 「アッキーはもろに受けたからよくわかってるだろ?」

 ギタコが見えなくなった、という瞬間は見えなかったというものの、裏葉自信が消えたという瞬間は明彦もしっかりと確認していた。

 「んで、お前の能力ってそれだけじゃねーだろ?」

 裏葉にはもう一つの力がある・・・

 明彦の体をいとも簡単に吹き飛ばし、いとも簡単に持ち上げる。

 とてもじゃないが何かしらの能力がなければそんなことはかなわないだろう。

 「違うのよ・・・それがね」

 「まさか・・・お前・・・」

 「ンチョ・・・、裏葉がガチマッチョとか言ったりしないでよね」

 「・・・、うん」

 「いわゆる『債権の特別効』よ」

 「特別効?」

 耳慣れない言葉に明彦は聞き返した。

 「債権者にある、特別な力。それは『債権者の債務者における優位性』よ」

 「???」

 明彦の様子を察し、石神は、

 「簡単に言えば、金を貸して方と貸された方、立場的には金を貸した方が立場が上になれるってことだ」

 「じゃあ、裏葉の力が馬鹿みたいに大きかったのは・・・」

 裏葉は明彦に向かって拳を突き立てた。

 この前とはうってかわって、明彦の体はびくともしない。

 「馬鹿は余計よ。・・・でもこれでわかったでしょ?債権者は債務者よりも優位な立場になれるってことに」

 「・・・」

 明彦は殴られた所を必死に抑えている。

 「能力自体はキーを破壊するとか、解除する以外は継続し続ける。だけど、優位性を保つにはキーを所持してなければいけないのよ」

 裏葉はバックの中から電池式の懐中電灯を取り出した。

 「これが私のキー・・・」

 「・・・」

 「キーはいくつだってもてる。懐中電灯なら何でもいいのよね・・・。でも、優位性を保つために必要なのは相手に能力を行使したキーのみ・・・」

 「能力を行使したキー・・・」

 明彦は裏葉に懐中電灯の電源を切りに行かされた時のことを思い出した。


 「でも、お前すげーパワーあるんだろ?俺をけっ飛ばしたみたいな」

 「・・・、・・・。そうね、でも必要なのよ」


 「あん時は・・・悪かったな・・・ごめん」

 例えそのことを知らなかったとしても、シラフの女の子を残してしまったことに罪悪感を感じた。

 「結果オーライでしょ?今更いいわよそんなこと」

 「・・・」

 「そして、もう一つの欠点。多重債務禁止。債務者にはかけられる債権能力は1つのみ。そして、上書きはできない」

 「それはなんとなくわかる、あの時軽く説明うけたから」

 それに、そんな説明を受けなければ、裏葉を一人置いてなど行かなかった・・・

 「もうちょっと細かく説明すると、例えばAという人にBという債権能力が課される。Bの能力が効いている間はCという能力はAにはきかない。逆に言えば、Bの能力が効いている間はBという能力をかぶせてAにしようすることはできないから、一旦能力を解除してかけ直す必要があるの」

 「それで多重債務禁止ってわけか・・・」

 「ただし、多重債務が禁止なわけで、複数の人間には能力をかけることができる」

 「入学式のスピーチの時か・・・」

 「あれ、あんた入学式はいなかったはずでしょ?」

 「春亜が教えてくれたんだよ、色々とな」

 「春亜が・・・そう・・・」

 裏葉はうつむいた表情をみせた。

 「ほいほい、んじゃー今度は自律権についてだな」

 「はぁ?お前がか・・・」

 裏葉の説明は明彦にもちゃんとわかりやすいものだった。

 こういう複雑な話をするにあたってはそのことをより理解している人に話して欲しい。そうなると、当然、裏葉が話している間、ギタコとわけのわからない話をしていた石神よりかは裏葉に話してもらったほうが何十倍もわかりやすいだろう。

 それを訴えかけるように裏葉に目をやるが・・・

 「実際にこういうのはその持ち主に聞くのが一番わかりやすいのよ」

 「持ち主?」

 明彦は周りをキョロキョロして見せた。

 「俺、俺、俺だって」

 「んで、蒼の能力は?」

 「なんだよ、その全く興味ありません的なノリは・・・。俺のはビックリするぜ」

 「ビックリ?」

 石神の言葉にちょっぴり興味を示した。

 「なんと・・・それは・・・女ちゃんの下着をかぎ分けられる能力・・・だ」

 少しの沈黙・・・。

 そして・・・、

 「うぉーーーーーお、なな、んだと!そんなけしからん能力がぁぁぁ?」

 「もちろん。下着に使われている材料を全て把握さえすればメーカーはもとより、着色料も把握すれば・・・」

 「どのどこのメーカーの何の下着を使っているか・・・わかるというのか?」

 「YES、ブラーザー」

 盛り上がりを見せる二人に、あきれかえった裏葉は冷たい一言。

 「最低・・・」

 「ンチョは黒いのが好きなの?それともべたにピンクとか?」

 「やめなさい、・・・ギタコ」

 ギタコに変な影響が出ないように、裏葉二人との距離をあける。

 「おいおい、それはひどいだろって・・・。ふむふむ、裏葉の今日の下着は・・・」

 「いい加減にしろ・・・、うちの経済力なめんなよ・・・明日の朝日・・・みたいだろ?」

 「・・・」

 場の雰囲気が一瞬にして凍り付く。

 そして裏葉のようなお金持ちが言うとなんだか嘘には聞こえない。

 「で、では、そろそろ本題にはいりますよ」

 「は、はい先生」

 「・・・最初からそうしてればいいのよ」

 「はい・・・理事長・・・」

 二人は声を揃えた。

 「んで、俺の力は嗅覚拡張権。簡単に言えば鼻がきくってことだ」

 「犬?」

 「馬鹿にすんなよ。1キロだったら完璧にかぎ分けられて、その位置だって特定できる。人の一億倍の嗅覚をもつ犬だってんなことはできねーよ」

 「んじゃーさっきのって・・・」

 「あながち間違いってわけでもないわよ。言い方は下品ではしたなくて、最低だけど」

 「まぁ、まぁ、裏葉が黒のネイティブ・ルルージュのブラつけてるなんて死んでもいわねーって」

 「・・・」

 裏葉懐中電灯を石神にむけると、

 「死ね」

 懐中電灯の電源を入れる。

 「ちょっと待・・・」

 石神の体は裏葉の片手で吹っ飛ばされ、壁に激突する。

 「復習よ・・・債権の優位せいのね・・・わかったでしょ、これで」

 「・・・はい」

 床でのびている石神にギタコが近寄りつんつんするが全く動かない。

 「アオジ・・・死んじゃってるよ?」

 「いいのよ、ったく・・・」

 「アオジ・・・、そうじ?」

 「あいつがしゃべると余計なことになるからあたしが説明するけど・・・問題あるかしら?」

 明彦は首を大きく横に振る・・・振らされた。

 「さっきも言ってたけど、あのチャラ犬の能力は嗅覚拡張権。言っての通り犬以上の嗅覚をもてる能力。あいつがいち早く寒凪流麗にたどり着けたのはそのおかげよ」

 「そうだけどさ・・・。それは、元の鈴木沙紀の臭いを嗅いであることが前提だろ?あの子は実際学校には一度もきてないはずじゃないのか?」

 鈴木沙紀は春休みに事故に遭い、今も入院中。寒凪 流麗の隠蔽により、退院したとされていた。

 と、すれば、石神ははおろか、裏葉だって鈴木沙紀とは面識がないはず。

 本物の鈴木沙紀の臭いを嗅いだことはないはずだが・・・

 「確かに鈴木沙紀に会ったのは、あんたが入院した時に同じ病院にいるということがわかった時が最初。でも、彼女は一度学校に来てるわよ。入学試験の時にね」

 「いや、それだって・・・」

 「試験用紙はすべてあたしが回収し、蒼に渡してあるの。蒼の能力を最大限有効活用するためにね」

 試験用紙に書かれた名前、そして臭い・・・。

 言わば蒼には最高のプロフィールというわけか・・・

 「そんで、あんたが鈴木沙紀がギタコと接触したという証言を蒼にした。もちろんその時に蒼はおかしいと気づいたんじゃない?なんで、見えるはずのないギタコがその子にってね。それで、あんたの体についた鈴木沙紀の臭いと、試験用紙から放たれる臭いを嗅ぎ比べて確信を持ち、次の日に本物の鈴木沙紀の入院を確かめに行った」

 「やるときはやるんだな・・・あいつ」

 明彦はギタコにつつかれ、アホみたいにのびている石神にそっと目をやる。

 「最大のミスは、はじめっから本気で探さなかったことね。入学式の段階で蒼に頼ってれば簡単にみつけだせたんだろうけど・・・」

 裏葉は拳をぎゅっと握りしめる。

 自分の敵であるブラフの連中ならば自分の手でたたきつぶしたい。そんな気持ちが優先してしまったのだろう・・・。

 「でも、最大のラッキーは寒凪流麗の人格形成権ではにおいは変えられないということがわかったことね。これで少なくともあんたと蒼で二重の対策ができるわけだし」

 「そうだな」

 あんたと蒼・・・。

 自分もすでに頭数に入れられているということか・・・

 「んで、蒼の能力は・・・自律権って種類だったかな?それは債権とはどう違うんだ?」

 今の裏葉の説明を聞いたところで、裏葉と石神の二人が特別な力を持っているということぐらいしか明彦には理解できなかった。

 「債権が相手にかける力だとしたら、自律権は自分にかける力」

 「自分にかける?・・・じゃあ、寒凪流麗の能力も自律権ってことか・・・」

 明彦は紙を食ってパワーアップした寒凪流麗を思い出した・・・

 「自律権が債権と大きく違うのは・・・永久効の存在よ」

 「永久効・・・?」

 「言葉の通り永久に続く力よ。債権には時効が存在するの。能力によってその長さは違うからはっきりとしたことはわからないけど、何十年というものもあれば、ほんの数分で切れてしまうものもあるの。私のは大体・・・3日くらいかしら」

 「3日・・・、そんなはずねーだろ」

 裏葉が能力を行使したのは入学式、それは全校生徒には少なくとも一週間以上を能力が効き続けたということになる。裏葉の説明は例え誤差があったとしてもつじつまが合わない。

 「そうね・・・、でもそれはあくまでもルール上のもの。グレーゾーンが存在するのよ」

 「グ、グレーゾーン・・・」

 「変なもん想像してる?まぁ、いいけど。確かに私のは大体3日で能力が切れてしまう。でも、それは電池が切れて懐中電灯の光が消えるからよ」

 「???」

 「電池が切れれば懐中電灯の光は失われ能力が切れる。逆を言えば電池が有りさえすれば能力は無理矢理継続し続けるってこと」

 「それで、充電か・・・」

 充電さえしていれば電力は供給され続ける。つまり、電池が切れる心配がない。

 「だから、大体3日なのよ。ずーっと電気つけっぱなしでも持つ時間がね」

 「時効っていうよりも・・・キーの使用期限みたいな感じだな」

 「まぁ、そんなとこね。だけど、自律権は永久に能力が効き続けるのよ」

 「その永久ってのが良く理解できないんだけど」

 「要するにキーを壊さない限り、能力がずーっと働き続けるのよ。例えば、「病気を操る力」があったとする。債権の力によって病気にさせてもらっても、時効があるから数日したら病気は治ってしまう。だけど、自立権の力をその子自身が持っていたとしたら、ずーと病気でいられるってことよ」

 「例えが悪質・・・そんなやついるかよ」

 「あくまで例え。寒凪流麗はノーカーボン紙を使ってたでしょ。あいつだって片方の紙を燃やさない限り、やろうと思えば永遠に別人になりすますことができたはずよ」

 「・・・恐ろしいなそれは・・・」

 明彦には、流麗の能力が通じなかった。だが、それは流麗が明彦になりすませないというわけではない。次の日にはあいつが自分になりすまし犯罪を起こすかもしれない・・・

 「特別な魔法とかでも思ってた?それが権利能力の神髄よ。あたしの能力だって使い方によってはこの世から人一人を消すことだってできるんだから・・・。ほんと恐ろしい力よ・・・」

 大きな力を持つが故の悩み・・・、自分が何かしらの権利能力者だと知らされたことで明彦はちょっぴり裏葉の悩みを理解できた気がした。

 「裏葉ぁー、ギタコがトークする時間はまだなのかYO!」

 石神につんつんし飽きたギタコがふてくされている。

 「あとちょっと。これ使っていいから」

 裏葉はバックから化粧道具一式を取り出してギタコに投げた。

 「ギタコ、あんたも学校通うようになるんだから化粧の練習しておきなさい。目の前にいい練習台がいるでしょ」

 「アオジ?男も化粧するの?」

 「時と場合にね、バニ子ちょっと来て」

 裏葉が呼ぶと奥からふてくされてバニ子がやってきた。

 「何よー」

 「ギタコに化粧の仕方教えてあげて、あいつ好きにしていいから」

 裏葉が石神を指さすと、人が変わったようにバニ子は喜びだした。

 「そういうことなら、まかせなさーい。ギタコ、あたしは厳しいわよ」

 「ほい、師匠って呼ぼうか?」

 「姉御でいいわよ、姉御で」

 急に客のいない店内がにぎやかになり始めた。

 「やっぱりギタコは学校に行かせるのか?」

 「・・・、確かに危険だけどあの子はそれを強く望んでるわ。誰もにも姿が見えないってわかっててもあの子は毎日学校に行くってね。とりあえず、一段落ついたからもう姿は見せていいよって言ってあるわ。そしたら、あの子すごくはしゃいじゃってさ・・・。たかが学校なのにね・・・」

 「俺もギタコが学校にきてみんなと過ごすのは賛成だよ。俺自身だってもっとあいつのこととか知りたいしさ。何より青春・・・だろ」

 「青春?・・・暑苦しっ」

 あきれた顔をするもののどこか笑っている。

 裏葉がギタコの話をするとどこか悲しそうな目をする。

 ギタコに自分達がしてきたこと、例え自分が直接にかかわらずにいたとしても、何をしていたのかわからなくとも見過ごしていたという罪悪感があってのことだろう。

 できる限り、その辺りには深く踏み込まないように明彦は軽く冗談を言って見せた。

 「んで、後の二つ。物権と社会権は?」

 「知らないわよ、そんなの」

 「へっ?」

 「それが存在してるってのは知ってるけど詳しくは知らないのよ」

 「どういうこと?知るも知らないも、知ってなきゃそんなことわかんないだろ?第一、さっきまでだって詳しそうに話してたじゃんか」

 「・・・、この前も言ったけど、研究は凍結。研究チームは解散して所在は掴めず。研究資料なんかも全部その人たちが持って言っちゃって。そんなもんを残して行かれるのも迷惑だって今のTOPがね。無理を言ってギタコだけは何とか引っ張ったけど、それとおまけについてきたのがさっきの知識ってとこ。結局お父さんがどんな研究をしてたのかも具体的にはわからなかったわ」

 「そっか・・・」

 「でもいいのよ。今私がやらなきゃいけないのは・・・ギタコを守ることだから。下手に資料とか残ったら意地でもやっちゃうタイプでしょわたし・・・」

 「・・・」

 無理に冗談を言って強がる裏葉は余計に寂しく見える。

 「とにかく、物件と社会権は私にはわからない」

 「そっか・・・それでも充分役にたったぜ」

 債権、自律権・・・、それだけわかっただけでも、昨日まで殆ど無知だった明彦にとっては充分だった。

 「最後にブラフのことだけど・・・私が知ってるのは組織の名前と、ギタコをねらってるってことと・・・敵だってこと・・・それと・・・」

 裏葉は口をつぐむ。

 「それと?」

 「・・・、うざいってことよ・・・」

 「・・・なんだそりゃ?」

 「うざいもんはうざいのよ。あたしの話はもう終わり。ギタコ、次はあんたの・・・って・・・」

 誰だかわからない位顔が白くなり、赤い口紅が際だつ石神が横たわっており、その側では綺麗に化粧されたギタコが疲れて寝ていた。

 「あんた達、話長いんじゃないの?ギタコもダウンしちゃったわよ」

 「・・・ずいぶん可愛くなったじゃない・・・ギタコ」

 裏葉はギタコの側により、顔にかかっている前髪をそっと耳にかけた。

 「すっかりお母さん?お姉さんかしら?」

 「そんなんじゃないわよ・・・」

 「そういえばギタコってちっちゃい頃からラボにいるって言ってたけど親って物心ついたときには亡くなってたってことか?」

 「・・・」

 裏葉もバニ子も黙り込み、店内には重苦しい空気が漂う。

 「ごめん、やっぱいいわ・・・」

 「あの子は・・・売られたのよ」

 「えっ?」

 「ちょっと裏葉っ」

 「お父さんが言ってた・・・ギタコは小さい頃、親に売られたって・・・」





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