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第1章 第8905回地球征服計画総会議

第1章 第8905回地球征服計画総会議


 「みんなー、今日は誰に尾行されたりぃー、ここの場所を誰かに言いふらしたりぃー、そんな私を裏切るような真似をしないで来てくれたかなぁー」

 薄暗い会場内からは溢れんばかりの歓声が聞こえる。

 「しーっ。あんまり大きな声を出すと、会場の外に漏れちゃうから気をつけてね」

 会場でわけのわからないような言葉を叫んでいる人たちの声は一斉に止む。

 「ありがとぉー。念のため一応確認しとくけどぉー・・・、国家権力の犬なんて紛れ込んでないよね?」

 「jkscbでぃwhdhfwq;dwscふぉ;えqい」

 わけのわからない声が飛び交っているが、とりあえず「そんなやつはいない」的な事を皆は口々にしているのだろう。

 「だから、静にって言ってるでしょっ・・・、もぅ、みんな元気さんなんだからぁ。じゃあ、その調子でいつもの行っくよぉー」

 「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー」

 会場の声が一つになる。

 「せーの、地球征服計画、第1条」

 「我々は、24時間、年中無休で善意の限りを尽くします!」

 「OK、OK。じゃあ、第2条」

 「我々が、ゆりかごから墓場まで、ミルキーであり続けることは神様の決定事項です!」

 「のってきたねー☆じゃあ、一番大事な第3条」

 「ミルクちゃんは・・・」

 その後の言葉は人によって全然違う事を叫んでいる。

 「僕の心のオアシスだぁぁぁぁ」

 「俺の天使の女神様だぁぁぁぁぁ」

 「わたしの絶対的司令官んんんんー」

 「地球のメシアだぁぁぁ」

 ・・・以下省略。

 なりやまない歓声が会場の高揚感をどんどん高めていく。

 「よっしゃーあ、じゃあ、ここに第8905回地球征服計画総会議の開催を宣言しまぁーす」

 そのわけのわからない宣言が行われると、会場の電気が一斉につき始める。

 そして、会場の中央にはピンクの髪の毛をした小さい女の子が会場中のスポットライトを独占している。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 会場は今、最高の盛り上がりを見せている・・・が、この盛り上がりに唖然としている国家権力の犬が一匹・・・

 「なんなんだよ・・・このわけのわからない宗教は・・・」

 「おいおい、お前は馬鹿か?地球征服計画総会議だぞ?」

 「ンチョは残念な系なアレすぎる・・・本当にかわいそうだよ・・・」

 ギタコと石神が席からその身を乗り出しながら大きな声で何かを叫んでいるその傍らで明彦はその光景を冷めた目で見つめている。

 今日この会場では拡声器アイドルとして大ブレイク中のミルクちゃんのライブが行われている。

 会場中の殆どの客はピンクのうちわを持ち、ピンクのはちまきをし、ピンクのTシャツを着・・・と、とにかくピンク一色で埋め尽くされている。

 そして、そこにいるの別に明彦達のような学生だけではなく、小さい子どもから、杖をつきながらフィーバーしているおじいちゃんまで老若男女問わず、幅広い年齢層の男女で埋め尽くされている。

 空席など全く存在していない。

 そして明彦達がいるのは・・・

 「お前のそのひからびたゴボウみたいな顔は何だ?この常任理事席で生みるくちゃんが見れるっていうのに」

 「生みるくって・・・」

 「ンチョはあれだね、ピーターパンシンドロームって病気だね。いつまでも子どもでありたいという幼心が、ンチョの大人への階段をばんばんぶっ壊しているせいで自分の本当の気持ちを隠しているのだね」

 「・・・、もういい」

 明彦は手に持っているチケットの半券をまじまじと見つめる。

 そこには『常任理事席につき、関係者以外立ち入り禁止』と書いてある。

 一般席とは別に客席の上部に位置している個別のVIPルーム的なところ、そこが常任理事席のようだ。

 明彦はそこから下の景色を見下ろす。

 「(もしあそこで見てたら地獄だな・・・)」

 会場中の熱気、そしてわけのわからない言葉を耳元でガンガン受け止めなければいけないと考えると、明彦にとっても確かにここはVIPルームだった。

 「ったく、なんで俺がこんな所に・・・」


 一週間前、明彦が入院している病室。

 「やっと退院かぁ・・・っても3日くらいしかいてなかったけどな」

 流麗との戦いの際に受けた傷は、大げさに後が残った割にはそこま大事には至らず、検査も含めて3日で退院することができた。医者いわく、若さとはメスににも勝るとのことだ。

 「3日日で済んで良かったわね。でももう少しゆっくりしていったらどうかしら」

 「あの部屋にもう少しだぁ?『三日間は何とかしてあげるけど、その後は自己責任で』ってのはどこのどいつだよ。いくらとられるか恐ろしくていれたもんじゃねーよ」

 「人の好意をそうやって・・・素直に礼くらい言えないのかしら?育ちが悪いのね」

 裏葉はあざけ笑うかのような視線を明彦におくる。

 「それはどうも・・・。(そもそもお前だって俺の事蹴り飛ばしたくせに・・・)」

 「何か言ったかしら?入院費、自分で払って頂いてもかまいませんけど」

 明彦のぼやきも裏葉の耳は見逃さなかった。

 「いや、大変裏葉様には感謝致しております・・・、これで満足?」

 「感謝しなさいよ、ほんと」

 もう少し可愛げあるような事が言えないのか・・・、明彦は昨日裏葉に言われた「ありがと」という言葉を思い出した。

 あれくらい素直になれば申し分ないほどの異性とみれるのに・・・

 残念そうに裏葉の顔を見ていると「何よ」とギロリとにらまれる。

 「まっ、無理なはなしか・・・」

 「何よ、勝手に自己完結しないでくれるかしら」

 「いや、何でもない。裏葉様にはとるにたりないような事ですので・・・」

 裏葉「あっそ」と不機嫌な顔を浮かべる。

 「んで、お前は何でここにいんだ?まさか俺が退院するからって迎えに来てくれたわけじゃねーだろ?」

 間違ってもそんなことはないと思いつつもとりあえず聞いてみたが、

 「あんたの退院祝いよ」

 「えっ?お前が退院祝い?」

 裏葉は驚いている明彦に一枚の封筒を差し出した。

 「いや、なんか悪いなぁー」

 思っても見ない裏葉の優しさにちょっぴりキュンときた明彦はその封筒の中身を確認した。

 「ん?」

 中にはチケットが三枚入っていた。

 「・・・これは?」

 「チケット」

 「いや、んなの見ればわかるけど・・・」

 「あたしはこれからちょっとばかし海外に飛ばなきゃいけないのよ」

 「海外?」

 「そっ、高校生でも白銀家のご令嬢ってことで色々と外にも首突っ込まなきゃいけないのよ」

 「この前んなことがあったのに大変だなぁ」

 改めて裏葉がこういう存在のなのだと、そして、こういったところに生まれたのだと明彦は再認識した。

 「んで、これとそれと何の関係が?」

 「ギタコと約束してたのよ、あんたが外に出たら一緒に行こうって・・・。あの子、ミルクちゃんってわかる?あの子が好きらしくてね、いっつもラボん中でテレビにかじりついてたの・・・」

 「そっか・・・」

 狭いラボの中にいたギタコにとってアイドルとかそういったたぐいの人は、いろんな事ができる自由の身、そういう子に憧れるのも無理はない。

 「でも、あたしはいけなくなったから、ギタコと一緒にあなたがどうかしらって思って」 

 「俺が?」

 「だって、ギタコには知り合いなんていないのよ。ラボにいた時だって、みんな研究熱心であの子の相手をしてたのはあたしと蒼くらいよ」

 「あぁーなるほどね。それじゃしょうがないよな・・・」

 「どう行ってくれるかしら?」

 「その前に、色々と聞きたいことがあるんだけど」

 ブラフだとか権利能力だとか、まだわからない事だらけで頭の中が気持ち悪い。できるだけ早く、今の事情を飲み込みたい明彦だったが・・・

 「この一週間よくもう一度考えなさい。話を聞いたらあんただって当事者になるのよ。今回はこれだけで済んだ・・・、でも次はそうとは限らない」

 「でも、ギタコが危険な目に遭うんだろ?それを部外者としてみてるなんて俺はそんなに器用じゃないぜ」

 「・・・、それに半ば私の復讐だって入ってるのよ・・・。だからもう一度よく考えなさい。そして一週間後、それでも当事者になりたかったらライブが終わった後、蒼とギタコと一緒に来なさい。あんたも知っている場所で待ってるわ」

 「知ってる場所?」

 裏葉が行くのだから当然、想像するのは紅茶が美味しいオシャレな店だろうが・・・、そんな所に明彦は全く心辺りがなかった。

 「じゃあ、私はもう行くから」

 裏葉は病室を去っていった・・・

 「アイドルのライブねえ・・・、まぁこういうのも有りなのかな・・・」


 「って・・・全然有りじゃねぇー」

 ライブというもの辞書で引いた事くらいしかなかった明彦にとっては、ライブとは『音楽を楽しむためのもの』という全くそこら辺に興味がない人のよくありがちな模範解答のような知識しかなかった。

 「ったく、馬鹿馬鹿しい・・・」

 そういった途端、すぐ隣で盛り上がっている石神とギタコの敵意むき出しの視線が気になった。

 「あぁん?」

 副音声で「お前は人の事を馬鹿にできる立場ではねぇーだろ」と二人に言われたような気がした明彦は、その声に「いや、何でも」と、怖じけることしかかなわなかった。

 「ちょっと便所」

 二人の異常な熱気と妙な威圧感に当てられたのか、明彦は一人VIPルームから脱出しようとする。

 だが、ギタコはそれを黙って見過ごすことはなかった。

 「ンチョ・・・、もしかして・・・でかいアレしに行くの?」

 「・・・、はぁ?」

 せめて女の子だから・・・と口走ろうとしたが、こいつに理解を求めるというのは無理な話だと明彦は言葉を飲み込んだ。

 「おいおい、アッキ―頼むぜ、便所くらい先行っとけよ。お前みたいなマナーの悪いミルキーがいるから、アンチが増えるんだぜ」

 「ミルキー?」

 「ンチョ・・・、本当に残念な系なアレだよ・・・。ミルキーはね、アレをアレするアレなんだよ」

 「そうそう」

 「・・・、・・・んじゃ、行ってくる」

 『アレをアレするアレ』、ギタコは本当にそれで説明しているつもりなのだろうか・・・

 そして、ギタコのいう『アレ』。オブラートにつつんだり、食卓への配慮を考えるなどそういった便利活用をしている自覚はあるのだろうか・・・

 明彦は疲れたようにVIPルームから出て行く。


 「はぁ・・・、疲れる・・・」

 休憩所で明彦は自動販売機から飲み物を取り出すと、その缶のタブをあける。

 ライブ中ということもあり、広い休憩場には明彦の姿しか見あたらない。

 大きなソファーに一人贅沢に腰をかける明彦は裏葉の言葉を思い出していた。


 『話を聞いたらあんただって当事者になる』


 確かに前回の一件は、半ば強引に巻き込まれたようなものだった。

 全く何も知らない明彦はたまたまギタコが見えてしまったがために裏葉に目をつけられ、流麗とか言うやつにひどい目に遭わされた。

 言わば完全な部外者であった。

 やつらの狙いはギタコの能力。ただ権利能力を有しているだけで襲われるのであれば、真っ先にねらわれたのはその素性を知られているという裏葉だ。

 それに明彦の能力がブラフの脅威になるとは到底考えられない、野放しにしておいても全く害はないだろう。

 つまり、首を突っ込まれなければ明彦は完全な部外者としてその安全は保障され続けるだろう。

 別にそれはギタコを護りたくないないとか、そういったものからくるものではない。できる事なら裏葉達とともに彼女を護ってやりたい・・・だが。

 明彦はギタコに助けられた時の事を思い出した・・・。

 あの時、あそこにギタコがいなかったら、今の自分はここにはいない。それ故にギタコへの感謝の気持ちも十分にある。

 だが『護らなければいない相手に護られてしまったということ』、『命を失っていたかもしれないということ』が明彦の中でその決断をしぶらせている。

 そして何よりもこの前裏葉に言われた一言・・・

 『何故そこまでギタコに固執するのか』

 ギタコの存在を問いただし時に裏葉から言われた一言。

 あって間もない、それも数分程度の関わりしかないギタコを必死に探し回っていたわけだが、そこには明確な理由がなかった。

 石神が何故、裏葉と行動しているのかは知らない。

 裏葉にはギタコを護る以前に『父の敵を討つ』というはっきりとした理由がある。

 ギタコを護る、それにつては明彦の良心だって大いに賛成している。

 だが明彦には大きな怪我をし、もしかしたら命を失うかもしれないという危険を犯してまでギタコ護ることについて・・・、そこまでして彼女に固執することについて理由がなかった・・・。

 裏葉にはあんな事を言ってしまった手前、そのことを深く考えるともしかしたら自分の運命を大きく動かしかねない分岐点にいるのではないか・・・。

 ここ数日はそんな事を屁とも思わないでいたつもりが、いざ決断の時となるとやはり重くのしかかってきた。

 「俺は・・・、なんのために動くんだ・・・」

  整理のつかない自分の気持ちに頭をかきむしり、明彦はどっとため息をついた。

 「あの・・・、どうされました?」

 気づくと明彦の隣には、青色の長い髪でボーイッシュな格好をした女の子が座っていた。 

 「うぉっ・・・、びっくりした・・・」

 いきなり現れた彼女に少し驚いた表情を見せた明彦だったが、それ以上に明彦の声を聞いた女の子はそれ以上に驚いた表情を見せた。

 「す、すみません。別に驚かすつもりはなかったのですが、何かお悩みでしたのでお力になれたらと思ったのですが・・・」

 女の子は今にも泣き出しそうな寂しい表情を見せた。

 「いや、いや・・・、誰かに相談したいなぁーって悩んでたんで本当に助かります」

 その言葉を聞くと女の子は満面の笑みを浮かべる。

 「僕なんかで力に慣れるのでしたら、是非ともお話してください」

 「僕・・・?」

 女の子が僕?

 これが世に言う『B級娘』なのか?

 「平成にとっくに絶滅していたと思われていた珍種にこんなところで出会うとは・・・、でも64のが昭和だからいても不思議はないんのか」

 明彦は自分の学校にいる昭和の頑固オヤジ『64』の事を思い出した。

 「あの・・・、何かおかしいでしょうか?」

 女の子はぶつぶつ行っている明彦の顔を伺った。

 「気にしないで、こっちの話ですから・・・」

 自覚がないところをみると天然なのか・・・?

 ここで突っ込んで聞いてみたい気もしたが、彼女の笑みをぶち壊しかねない。

 明彦は自分の中にそれをとどめた。

 「それで、何をそんなに悩んでいたのですか?」

 「そっ、それは・・・。自分がなんのために一生懸命になっているのかわからなくなりまして・・・」

 「それはまた、随分な悩みをお抱えですね」

 「理由なんて付け加えればいくらでもあるんですが、どれもそこまで必死になるような理由じゃないっていうか・・・」

 「自分を動かす動機が見あたらない、それでも一生懸命になってしまうと、こういうことですかね?」

 明彦はうなずく。

 「・・・、僕とはちょっと違いますね」

 「あなたも何か悩んでるんですか?」

 女の子は少し照れくさそうに笑う。

 「音無 萌仁花と言います。すいません、相談にのると言っておきながら・・・」

 「俺は大紋 明彦です。萌仁花さんは何にお悩みで?」

 「実は・・・、こう見えて歌手を目指してるんです」

 「歌手ですか?結構でけー夢持ってるじゃないですか。すげーなぁ」

 「夢見るだけなら誰でもできますから」

 言葉とは裏腹に萌仁花はうれしそうな顔を浮かべてている。

 「で、未来の歌姫は何悩んでるんですか?」

 「はやし立てないでくださいよぉー。僕のは、なんていうか・・・途方もくれない旅に出ているって感じですかね」

 「途方もくれない・・・旅?」

 「もう何年も路上ライブをやっているのですが、全く聞いてくれる方がいなくてですね。普通は何年もやってると誰かしら『ガンバレ』とか『応援してます』とかそういった温かい声をかけてくれるファンとかも出てくるんですけどね」 

 「ファンがいないことが悩み?」

 「それとは違うのですが・・・、僕の歌を誰も聴いてくれないです・・・」

 「・・・、それは・・・その・・・」

 「歌が下手だから?」

 明彦がいい辛そうにしているのを見かねた萌仁花は、それを察し答える。

 「自分で言うのもなんなんですが・・・結構上手いですよ・・・僕」

 そういうと萌仁花は携帯の画像を明彦に見せた。

 それはカラオケの採点で100点を採った時の画像がだった。

 「100点って・・・すごいじゃないですか」

 「えへへ・・・、でも・・・何にもすごくないですよ・・・。機械に褒められたって・・・」

 「そんなことは・・・」

 「歌い終わった後・・・、僕は一礼するんです・・・、誰もいない観客に向かって。そのあと、誰にも拍手されずに静に後かたづけ・・・。思っちゃうんですよね・・・、どうせ集まらない観客に向けてなんで・・・歌うたってるのかなって・・・」

 「・・・それが悩み?」

 「・・・はい。昔から僕って人から嫌われやすいんですよね。友だちとかも全然いなくて・・・。でも、それで・・・僕の歌声も嫌われるなんて思ってもみなかったから」

 「・・・そっか」

 「今日ここに来たのは少しでもカリスマ性的なものを感じられるかなぁーって思ったんですけど・・・馬鹿ですよね・・・僕。そんなのかなわないってわかってるのに・・・」

 萌仁花は目を袖で拭いながら、精一杯の笑顔を明彦に向ける。

 その袖は飲み物をこぼしたかのようにじんわりと滲んでいた。

 「・・・、どこでうたってるの?」

 「えっ?」

 「たまたまさっ・・・、その萌仁花さんの歌を理解できない?・・・っていうかなんていうか・・・」

 萌仁花は首をかしげる。

 明彦は何とか励ましの言葉をかけようと必死に言葉を探るが中々出てこない。

 「とにかく、萌仁花さんの歌ってるとこ見たいっていうか・・・」

 「誰も聞いてくれないんだよ?」

 「その・・・上手く言えないんですけど、人の価値観なんて人それぞれでしょ?良いとかさ悪いとかさ・・・そういったものは世間が決めるもんじゃなくないですか。誰かがその歌をいいと思えば、他の誰が何と言おうと最高な歌になると思うんですけど・・・って、伝わりましたかね?」

 「・・・、そうだね。そっか、そっか・・・」

 明彦なりに色々考えつき、思った言葉、不器用ながらそれは確かに萌仁花に届いていた。

 「じゃあ、これ・・・いつも配ってる招待券」

 可愛らしい文字で一字一字書かれた招待券を明彦に差し出した。

 「なんかすみません、あなたの悩みの相談にのるつもりが・・・」

 「いいですって、俺のなんかは・・・。おっとそろそろ戻んないと・・・あいつら適当な想像膨らませてそうだからな・・・」

 「では、僕はこれで・・・来てくれるの楽しみにしてますね」

 萌仁花は少し晴れたような顔で去っていく。

 「はぁ・・・、俺もさっさと戻んねーとな」

 明彦は缶の中に残っている飲み物を一気に飲み干すと、急いで戻っていった。


 「ンチョ、随分でっかかったんだね。何メートル?」

 明彦が二人の所に戻ると、汗だくで二人は大はしゃぎしていた。

 そのせいか・・・なんだか蒸し暑い。

 「お前、何してたんだよ?次でもうラストだぜ?」

 「わるい、わるい。ちょっとな」

 「・・・なるほどね。随分いいにおいがすると思ったら・・・女か?」

 「なんでわかった?」

 「・・・、普通否定しろよなー。そこは」

 「ンチョ、女の子とアレしてたの?」

 「そこでアレって言葉使うなよ、何か変な感じするだろ」

 「じゃあ、う」

 「やめろ」

 次に出てくるワードは大方予想がつく、ギタコの口からその言葉を言わせまいと必死にそれを止めた。

 「おいっ、静にしろよな。伝説の歌・・・来るぞ」

 石神はいつになく真剣な面持ちで二人を黙らせた。

 「伝説?」

 「ンチョ、黙って」

 ギタコもマジな顔をしている・・・、こいつはこんな顔できたのか?

 明彦も二人がここまで言うのだからと、ステージの方を見つめる。


 「みんな・・・今日はありがとねー☆みんなのおかげで地球征服の日程が15年早まりましたぁー、やたぁー」

 会場からものすごい歓声が上がる。

 「でも、残念なことに・・・、もうそろそろこの会議場を国家のダメポ(ダメポリス)どもに突き止められてしまう時間です・・・しょんぼり」

 会場からはものすごい悲鳴が響き渡る。

 「だから・・・、最後にこの歌を皆さんに届けます・・・。バケツの準備忘れないでね」

 すると先ほどまで身を乗りださんとばかりにはしゃぎ回っていた観客達は一斉に自分の席に座りだし、会場は無音に包まれる。

 そして、ギタコも石神も・・・

 「どうした・・・お前ら?」

 明彦が尋ねるも全く返事を返さない。

 ステージの上に立つミルクは今まで持っていたマイクを置き、自分の代名詞とも言われる拡声器に持ち替えた。


 「では・・・聴いてください。

 『ある晴れた日に君と見た七色の虹を私は今でも覚えているよ」

 です。」


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