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プロローグ

○用語解説○

『権利能力者』

特別な力を持つ人間


『キー』

権利能力を使うにあたり、必要となる使役物。能力によって異なる


『シラフ』

一般人。権利能力を持たざる者。


『ブラフ』

ギタコをねらう集団。裏葉と何らかの因縁を持つ。


『権利の上に眠る者』

権利能力者ではあるが、自分の能力をわからない無自覚な人間。キーさえ持っていれば自分の本来の力の一部をなんとなくで使うことができるが、上手くコントロールすることはできない。


『見える隠密』

ギタコ(神崎 詩音)のこと。

プロローグ


 いかがわしい光が輝くネオン街、酔っぱらいのサラリーマンが手みやげ片手にふらふらと俳諧していたり、露出の激しいキャバ嬢が手当たり次第に声をかけるなど夜の都会らしさをこれでもかと言わんばかりにその大通りに詰め込んでいる。

 「あら、そこのお兄さん・・・、今日はこの後何かご予定わ?」

 背丈はおよそ190㎝ほどの無愛想な大男が格好からして軽そうな女に捕まってしまう。

 「逃がさないわよ」といわんばかりに腕を巻き付けられるが、それを嫌がるわけでもなく、そして相手にするわけでもなく男はただ前だけを見つめて歩いていく。

 「ねぇ、ねぇ、まだまだ夜は長いのよ、そんなに急がなくてもいんじゃない?」

 全く見向きもしてくれない男に、女性は自分の武器を男の腕に突きつける。

 たいていの男はここで「誘われてる」と感じ、自分によこしまな好意を持ってくれる・・・、女はそれをわかっている。

 だが、この女の目的は別にそんなことではない。

 ホテルに行き、シャワーを浴びているに隙にというアレだ。

 まだ、二十代前半とも思われる彼女が数多くのブランド品を身につけているのも、そういうとこから得た産物と言うことになるだろう。

 女に言わせれば、こういったのっぽで無口なやつはいわゆるカモだ。

 ちょっと無愛想なふりをして社会に向かい孤独が好きだとか、俺は多くを語らないてきなことをアピールして自分に酔っている・・・その反面、抑えている弱々しい自分のよりどころを彼らは探している。

 そうゆうやつほど、いざって時に子どもみたいにはしゃぎ、猿のように馬鹿になる・・・、女は数多くの経験からその方程式を完成させ、毎晩のように実行にうつしている。

 だが、男は全く彼女に興味を示さないどころか、彼女を見ようともしない。ただ、前だけを見ている。

 自分の方程式に狂いが・・・、だが女の中ではこれしきの事は想定内、別に大した問題ではない。

 そして女は次の行動へうつる。

 「ちょっと、そこに入らない。わたし・・・気分悪くなっちゃったかも。ちょっとだけ・・・ね」

 「・・・」

 子犬のような眼差しをみせる女にようやく観念したのか、男は彼女の後ろに手を回し建物の中に入っていく。

 建物のすぐ側には「らぶのきゃっする」と書いてある。

 フロントを通り、足早にエレベーターに乗り込むと、女の方はここぞとばかりに男に体を密着させる。

 「今日は・・・、楽しい夜にしようね」

 ここでこんな事を言われれば、部屋につく前に×××という事になってしまうのだろうが、それでも男は顔色一つ変えずにただ前だけを見つめている。

 「なぁに?もしかして、まだなの?・・・、優しく教えてあげるね」

 女は男の指と指の間に自分の指を入れ手を絡める。

 「(はい、落ちたー。ちょろいもんね)」

 女はただ前だけ見ている男に注意を払い、男の後ろポケットにある財布を確認する。

 「(ポブリーの金ボタン・・・、今日は大当たりー)」

 女はその財布をじっくりと見つめ、どれくらいの金額が入っているか胸に期待を膨らませながら男に顔をすり寄せる。

 およそ30秒程でエレベータのドアは開き、二人は部屋に向かって狭い通路を歩いていく。

 部屋にの扉を開け中に入ると同時に、女は最後の仕上げに取りかかる。

 自分の指をしゃぶるようになめ、男の唇にこすり当てた。

 「(ゲームセット、ほら、さっさと退場しなさい)先・・・、シャワー浴びてきて・・・。わたし・・・、今体がほてってて・・・これ以上あったかくなったら・・・、爆発しちゃう・・・ね」

 「・・・」

 彼女の言葉に男は何も言わず、従うようにシャワー室へと向かう。

 女はベットに横になり、シャワーから水が流れる音をそっと待った。

 そして一分後・・・

 薄暗いその部屋から水の流れる音がし始める。

 「ちっ、これで終わり?もう少し楽しませてくれるとか思ったけど・・・、まぁいっか」

 女はベットから飛び上がり、シャワー室へと向かう。

 シャワー室には脱ぎ捨てられた男の服があり、そのすぐ側でシャワーを浴びている男のシルエットがうつっている。

 女は息をひそめ、男のズボンのポケットから財布を取り出した。

 「結構入ってる・・・さすがポブリー持ってるだけはあるわね」

 女は普段は財布の中身だけを抜き取っていくのだが、よほど興味を惹かれたのか財布ごと自分のバックに放り込むと、

 「早く・・・出てきてね・・・、私我慢できなくなっちゃうから・・・」

 それだけ言い残すと、女はそっと部屋を後にした。

 ホテルを出ると女は少し離れた人通りの少ないファミレスに入り財布の中身を確認する。

 「28、29、30、31・・・普通こんなに入れとくか・・・でも、たまんない・・・。こんなんならあのままやらしてあげても良かったかなー。顔だって悪くなかったしね」

 財布の中の札を何度も数えながら、女はうれしそうな表情を浮かべる。

 札もさつことながら男の財布の中には数多くのカードも存在していた。

 だが、女はカードになんか目もくれていない、わざわざ足がつくような真似はしないということか・・・

 女は自分の財布に札だけそのまま写し入れ、そして、男の財布を空にしようとカードやレシートなどを全て引っ張り出した。

 「でも、やっぱり今日の報酬はポブリーの金ボタンよねー」

 女は盗んできた財布を顔にこすりつけながらはしゃいでいる。

 そんな中、女は一枚のレシートに目を奪われた。

 「メモ?」

 レシートを裏返すとその後ろには細かく、赤いボールペンで文字が書かれている。

 よく見ると、そこには人の名前ばかりが書かれている事に気付く。

 「なにこれ・・・気味悪っ」

 不気味に思い、すぐさまそのレシートを折りたたもうとしたが、女の手は止まる。

 「えっ・・・」

 女はレシートに書かれている文字を見直した。

 「この人って・・・、たしか連続不審死の被害者・・・」

 女の顔は一瞬にして凍り付く・・・

 そして自分がした取り返しのつかないことに気づいた。

 「これって、犯人の財布・・・」

 先ほどまでなすりつけていた財布を急にテーブルの上に手放した。

 「嘘でしょ・・・何なのこれ」

 女は携帯を開き、連続不審死の被害者について調べ始める。

 そして、レシートとに書かれている名前と照らしあわせる。

 「・・・、・・・。一致してる・・・」

 偶然にしてはでできすぎている・・・

 だが、気になったのはその後だった。

 「私の・・・名前・・・」

 一番最新に不審死とされたすぐ次の名前の後ろには、女の名前が書かれていた、そしてその後にも何人かの名前が書かれている・・・

 「次はあたしってこと・・・」

 そして女はどこからか視線を感じた・・・

 恐る恐る窓の方に目をやると、遠くから先ほどの男と思わしき人物がこちらをじっと見つめている。

 「やばい、やばい、やばい」

 女は泣きそうな顔でテーブルにあるものを全て自分のバックに詰め込むと、一目散にファミレスを後にする。

 「なんでよ、なんでよ・・・こわい・・・こわい・・・」

 時刻は深夜1時。ネオン街からは少し離れた所に位置しているため、人の影もほとんどない。

 「はぁ、はぁ、はぁ」

 とにかく彼女はできるだけ遠くに走った。

 どこに向かうとかそういった目的があるわけでもなく、ただ走る。

 警察に電話しようともそれだけはできない・・・

 このときになって彼女は自分がしてきた数々の所行を後悔し始めた。

 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

 彼女は必死に懺悔する・・・

 だが、そんな彼女に弁解の余地がないのだと言わんばかりに、周りからは人は薄れ、そして彼女は全く知らない路地裏に紛れ込んでしまう。

 「ここ、どこよ・・・」

 辺りを見回してもあるのは高くそびえる建物の壁と、その上に綺麗に輝く満月のみ。

 そして。所々から聞こえる、不気味なもの音・・・

 彼女は携帯を開き、とにかくこの状況を誰かに伝えようとしたが・・・

 「電池切れ・・・嘘でしょ・・・」

 不運にも彼女が携帯を開いたときに、「goodbay」の文字とともに携帯の光る画面は一瞬にしてその光を失った・・・

 何度も電源を入れ直しては、もしかしてという可能性にかけてみたが携帯の画面は光って消えるのみ。

 「もうやだよ・・・」

 彼女はその場にしゃがみ込み、恐怖に動けないでいると、

 『コツ、コツ、コツ』

 路地の奥、見えない闇から足音が聞こえてくる。

 「嘘でしょ・・・嘘でしょ・・・」

 彼女はすぐにでもその場を立ち去ろうと、起きあがろうとする・・・だが、立てない。

 何度も何度も試みようとするがそのたびに言うことをきかない体はただ、その場にとどまろうとする。

 彼女はただ祈りを捧げ、声をひそめる・・・

 ・・・、・・・。

 足音はやみ、辺り一帯は不気味な程の静けさに包まれる。

 「どう・・・なったの・・・」

 女は這うようにして辺りの様子をうかがった。

 だが暗くてよく見えない。

 「巻いたってこと・・・。はぁ・・・」

 彼女どっとため息をつくと、今までの緊張が解けたかのようにその体を起こした。

 「ったく、びびらせないでよね」

 女はゆっくりと暗い路地を歩き出す・・・

 少し歩くと何本かの街灯が照らす小道が目に入ってきた。

 そこには数人の人影も見える・・・

 「助かったぁ・・・」

 彼女は額から垂れる汗をぬぐい、その路地を出ようとする・・・が、

 突然後ろから首根っこを掴まれ、暗い路地の奥に引きずり込まれた。

 女は必死に声をあげようとするも、口を何かで覆われてというよりも、その恐怖から声を出すことさえできなかった。

 そして女が連れて行かれたのは路地の一番奥に位置する塀に囲まれた行き止まり。

 そこには2人の人影があった。

 「なんあのよ・・・あんた達」

 女は壁に投げつけられる。

 そして女はその目で確認した、自分をここまで引きずり込んできたには先ほどの大男だと・・・

 「おいおい、この女殺す前にやっちゃってもいいだろ?」

 一人の男が口走る。

「確かに、いたずらしたくなっちゃうようないかがわしさがあふれ出てきてるわぁ・・・」

 そういと怯えている彼女の顔を舌でなめ回した。

 「ひぃっ・・・」

 女は自分の顔をなめる女を払いのけた。

 「あら、逆にそういうのがそそるってこと知らなーい?」

 「おいおい。俺が先だろ」

 「何いってるのよ。レディーファースト、知らない?」

 「んなら女は男の三歩あとを歩くって知らないのか」

 怯えている女を尻目に二人は言い争いを始める。

 それを見かねたのかようやく大男が口を開く。

 「黙れ・・・、麻里、省吾」

 大男のその一声でふたりはぴしゃりと口を閉じる。

 「これは俺の獲物だ・・・」

 「それはそうだけどぉ・・・、ちょっと位・・・味見したいなぁ」

 麻里が冗談半分に言うと大男はにらめつけた。

 「・・・」

 「わ、わ、わかってるって遼ちん。冗談だって」

 「とにかく、遼さん。早いとこ殺っちまいましょうぜ」

 「・・・あぁ」

 遼と言われる人物は胸にかけてあるクロスのネックレスを握りしめる。

 「さっきはわ、悪かったわ・・・、反省してるから・・・」

 遼はぶつぶつとなにかつぶやいている。

 「何でもするから・・・、あんたの言うこと何でも聞くから・・・」

 女は必死に寮に頼み込むが、全く相手にしようとしない。

 「何でもってか・・・、逆にそういう献身的なのって冷めるな・・・」

 「あさりんも冷めるぅー」

 隣では麻里と省吾がうっすらと笑みを浮かべている。

 「・・・・・・・・・」

 「お願いだから・・・、お願いだから・・・」

 女は必死に寮に訴えかける。

 「・・・、お前の罪は何だ?」

 「えっ」

 突然、遼はすがりつく女に話しかけた。

 「それは、貴方の財布を・・・」

 「それだけか・・・」

 その言葉を聞いて女は何を思ったのか、

 「実は・・・父が借金を抱えたまま家を飛び出して・・・母は幼い頃になくなって・・・。今わたしに残っているのはたくさんの借金だけなんです・・・。今は自分の体を売って・・・それで・・・」

 「・・・」

 遼はそれを黙って聞いている。

 「でも、もう精神的に限界で・・・、初めてこんな事を・・・。本当にすみませんでした。お金はお返しします・・・だから・・・」

 女は男から奪った財布とお金を差し出した。

 だが、男はそれを女に突き返す。

 「・・・もう・・・いい」

 男の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 「(まじかこの馬鹿・・・、こんなべったべたの作り話に涙してるっていうの・・・。隣の二人は少しやばい感じがするけど、リーダーっぽいこいつさえ落とせば・・・)ですが、このお金に手をつけるわけには・・・」

 女は再度男にお金を突き返すも、男はやはりそれを払いのける。

 「(ラッキー、これもらっていいって事?)あの、もしかして、これは御好意という事なのでしょうか・・・」

 思ってもみない幸運、女の心の中は踊っている。

 まさか、先ほどのような状態が、このような展開になろうとは・・・

 たが遼は首を横に振った。

 「それは・・・、お前の罪・・・。お前はその罪を抱えたまま・・・裁かれるのだ」

 「えっ」

 女は動揺する。

 「お前のその悪行が奪ったのは・・・お金だけではない・・・。お前が盗んだお金の性で・・・失われた命もある・・・」

 「・・・何言ってるの・・・」

 「そりゃお前は知らないよな、自分が金を盗んだ男達の後日談を・・・」

 「特に、どっかのリーマンなんか取引先のお金、全部あんたにぱくられて会社首になって自殺・・・、エグっ」

 そんな事を女は当然知るよしもなかった。

 だが、何故こんな初対面のやつらが自分のことをそこまで・・・

 その時、女は先ほどのレシートに書かれいる自分の名前を思い出した・・・

 「まさか・・・」


 最初からねらわれていたのだ


 「・・・、お前の罪は・・・重い。そして・・・この腐れきった世の中では・・・お前を裁けない・・・。だから、俺が・・・お前を裁く」

 遼は懐に隠してある銃を取り出し、女に突きつける。

 「やっ・・・、やめてよ。もうしないから、反省するから」

 女のすがるような声は届かない。

 「さっき最後のチャンスを遼さんがやったって言うのに・・・馬鹿な女だな」

 「逆にこう、馬鹿過ぎるっての萎えるぅー」

 女は逃げようとするが、何かに縛り付けられているような感覚に襲われ身動きがとれない。

 「神よ、我に裁きを下す力を与えたまえ」

 男は首にかけてあるクロスを銃を持っていない方の手で握る。

 そして、こうつぶやく。


 「釜木 遼の名において、断罪権を主張する」


 男が引き金を引くと、騒ぎ声を上げていた女の声は途絶えた。

 「この世は汚れている・・・悲しいことだ・・・」

 遼は涙を流しながらそういうと、二人とともに闇の中に消えていった。


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