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三題噺:カフェオレ、夜ふかし、夢

作者: 柊木 深月

 誰もが一度思い描いたことがあるだろう「夢」それは時には叶ったり、敗れたりその繰り返しが夢の醍醐味だと翔は考えていた。翔もまたその「夢」があった。自室に篭りながら文字をリズムよく書いていく。シャープペンシルでの心地がいい音を聞きながら彼は酔いしれていた。翔が夢を追いかけ始めたのは中学に入学してまもなくだった。そのきっかけは些細なものでただ単に憧れという動機でしかなかった。その夢を実現するにはとても大変だと実感はしていなかった。俺なら出来ると考えたすえの小さな「夢」であった。今も翔はこの夢を追いかけては、いるがそこまでの意識はない。ただ趣味同然として書いていた。むしろこの紙にシャープペンシルでの筆跡音に酔いしれることで翔の欲望を支配していると言っても過言ではない。翔が書くモノは謂わいる「詞」というもので、歌に乗せたり出来る言葉である。彼が中学入学当初、一つのバンドに出会ったことが関係してくる。そのバンドの「歌詞」にはとても透き通るような思いが胸に直撃してくるのだ。それが心地よくて自分にも書けたらななんて思い始めたのが翔の「夢」のはじまりだった。しかし、翔には音楽を奏でる才能は皆無で有り、「詞」を綴ることしかできないため「歌詞」とはならずにいた。彼の「夢」もまた破れかけていた。

「どうせ翔の書いた詞なんて意味が無いんだ」

そんな言葉が、毎日飛び交っている中で翔は「詞」を書き続ける。破れかけてた夢もまた一つの救いの手によって実現になることを翔はまだ知らないでいる。「夢」に向かって進むものは救われるなんてことは「夢」を追いかけている者の戯言であり、事実でもあった。それは翔にも突然訪れようとしていた。


 翌日、学校の掲示板に掲示されていた一つの張り紙が目に止まる。

「言葉を大募集」と大きく書かれたものだった。「貴方の言葉を思いのままに書いて音にのせてみませんか?私達が音を作ります。」という内容があった。

「俺の詞が歌になるのか」

 翔はワクワク感を抑えながら掲示されているものを凝視する。どうやら掲示しているのは軽音部らしい。翔は早速、軽音部に足を運んだ。

「すいません。掲示物みたんですけど」

「はい。何かわからないことでもあったんですか」

 軽音部員らしい人は翔を見て首をかしげた。

「そうですね。ちょっとした質問なんですけど、ただ大募集と書かれていたので様子がちょっとわからなくて……」

「あぁ、そうですか……募集をかけたのはいいんですが、全く集まらなくて、もしたくさんの作品があれば、候補を上げて、曲を作ろうと言う話だったんですけど……」

「そうなんですか。そちらでは歌詞を書く人はいないんですか」

「いるにはいるんですけど何かが違うって言い出して書かなくなってしまったんですよ。だから募集してみようってなったんです」

「そうなんですか。ありがとうございます」

「はい。貴方の言葉まってますね。あ、私サユっていいます」

 そう言って軽音部員は翔に笑顔を向けた。翔もつられて笑顔になる。翔は会釈してその場を離れた。こんなチャンスを逃さまいと翔は帰路を走っていく。途中コンビニ寄り、大好きな甘めのカフェオレを買った。今夜は眠れない。そんな気がした。人に向けた詞を書くのは初めてであるが、翔はいつもより気合が入っている。どんな詞を書けば相手に伝わるだろうかを延々と悩む。原点に戻るため憧れたバンドの曲をイヤフォンを通じて直接耳で聴く。最初は、心地良いドラムやベースのリズムが流れ、次第にギターやキーボードがそのリズムに併せて流れてくる。そして自然にボーカルの声が音に併せて流れてる。それが心地よくて翔はこのバンドが大好きになっていった。

「ただいま」

 誰もいない家に翔が帰ってきたこと伝える。両親は共働きで夜まで帰ってこない。姉が一人いるが、姉は、県外の大学へ進学して一人暮らしを全うしている。たまに帰ってくるがうるさくてしかたがない存在である。翔はリビングに行かずに自室へ向かう。今ならいい詞が書けそうな気がしたからだ。気持が高ぶると書くものすべてがいい作品に見えてくるのが傷だが今は関係ない。書けるものを精一杯書けることに意義を見出す。

すらすらと詞を書いていく思いの通り、何も考えず感じた物を詞にしていく。これが気持ちよくて、翔は詞を書いているんだと感じていた。何かをきっかけにして「夢」は一気に動き出す。一つの歯車を添えてやるだけで効率良く回っていく様な感じで翔にもその歯車が、見付かった。ただそれだけの事である。今まで書いてきた功績は全く皆無だが、その書いてきた努力は実り、翔は自信作をかき上げる。それは透明で、翔の素直な気持ちが込められた詞である。翔は色々なバンドの曲を聴いて来たが、大体いい曲は歌詞を見ただけで、これはいい曲だなって翔は思った。

「だから、この詞も……」

 きっといい歌詞になっていい歌になるのではないか。そんな事を思いながら書いていく。これからも、書いて行く詞は動きがあるようなものがかけたらなと思い始めていた。

「ご飯よぉ」

 リビングから翔の母、友梨佳の声。気づけば時計は夜九時を指している。とても長い時間詞を書いていた事になる。翔は「早いな」なんて思いながらリビングにいる友梨佳へと返事をする。リビングへと入ると上機嫌な友梨佳は、ご飯を作りながら鼻歌を歌っている。翔の父、将也は椅子に座りながらテレビを見ていた。

「父さんも帰ってたんだね」

「お、おう。たまたま母さんとあってだな。一緒に帰ってきたんだ」

「へぇ、めずらしいね」

 将也は苦笑いしながら外で酒が飲みたかったとジェスチャァしていた。

「まぁ……たまにはいいんじゃないの。家族で食べるご飯て結構美味しいよ。姉さんいないけど」

友衣子ゆいこは仕方ないだろう。県外の大学へ行ってるんだから」

「たしかにね」

 そんな会話をしながら、翔は盛られた料理をテーブルへと運ぶ。

「今日は、野菜炒めだね」

「えぇ、母さん特製の野菜炒めよ」

 自信満々に、友梨佳は胸を叩いた。確かに料理が得意である友梨佳は、実に色々なものを作る。これまでにも和、洋、中華といった食べ物が食卓へと並んだ。それはすべて美味しものであった。

「今日はいつもより美味しい気がする、やっぱり家族揃って食べるご飯はおいしいね」

「何を言ってるんだお前は」将也は当たり前だろうという顔で翔に言う。

「確かにより多くの人と食べるご飯は美味しいわよね。母さんもそう思う」

「なんだ母さんまで。なんか今日は二人とも変だぞ。でも確かに、落ち着いて食事が出来るのはいいことだな」

 自然と、笑いが起こる。家族団らんの一時は何か暖かくて翔はいいなと思った。こういう感じも詞で出来るのかもしれないという考えが翔の中に出来始めてた。

食事が終わり、翔は自室へと戻る。再び詞を書き綴る。自分が体験した全てのこと生かして詞を書く。それは今までやってきたことではあるが、今書いている詞が重みがついたようなそんな感じを翔は自分で感じ取っていた。詰まった時に飲もうと思っていた甘いカフェオレには一切手を出さなかった。翔は、ふと横を見、カフェオレの存在に気づく。それを見つけると喉が渇いたという衝動に駆られた。カフェオレのキャップを捻って開ける。開封時の音が聞こえキャップを完全にとり、飲みくちに口を当てカフェオレを流しこむ勢いで飲む。喉の渇きを潤すカフェオレは、コーヒーの苦味とミルクと程よい甘さの後味がお気に入りだった。飲みながらふと横目に携帯がちらりと見える。時計が表示され、午前二時ということを伝えていた。それと一件のメールが受信されていた。

「誰からだろ」なんて疑問に思いながらもメールを開く。

「いつもお疲れ様です。もう二時だぞ。夜ふかしには注意だ」

 差出人は向かいの幼馴染である。文面からしてその人物も起きてる事が伺える。翔はため息をつきながらも返信する。

「お前も、夜ふかしはいかんぞ。お前は起きれないだろ」

 翔は携帯を置くと、続きを書き始める。終盤へと差し掛かったその詞はとても綺麗な詞だった。まるで、詞がリズムを持つような感じでその詞々が、主張している様な感じがする詞だった。一つの作品をかき上げるということは立派な達成感であり、生み出せたという高揚感が生まれる。しかし、その書きあげた作品はまた後日見直し、誤字脱字があるかを確認する。翔は、それが苦痛で仕方ないが「いい作品に近づけるならその作業は絶対やるべきだ」と、インターネットで書いてあるのを見た。だから、翔はその作業を怠らないでいる。いい作品を作りたいという思いが、翔の中には一番にあるのだ。目指すはあのバンドの歌詞のような詞を書けるようになりたいからだ。


 気づいたら朝というパターンは何度か翔は経験している。難しい本を読むとだいたいそうだ。だがしかし、昨日は詞を書いていたはずだ。あまりにも集中しすぎて寝てしまったのだろうか。詞は完成されており、残るは誤字脱字を見つけたり、おかしな文章になっていないかを確認するだけだった。これは帰ってからやろうと決めた。

朝ごはんを食べ、学校へと向かう。起きた時間はいつもどおりで遅刻はなかった。学校へと着くと、向かいの家の幼馴染が席に座り口を大きく開けていた。

「よう。何を夜ふかし、してたんだ?」

「それはな、今日は英語の豆テストがあるからに決まってるじゃん。翔はそのために起きてたんじゃないのか」

「違う違う。詞……書いてたんだよ」

「珍しいな、あんな遅くまで書くなんて」

「そうかな。でも今回のは、軽音部が募集してたからさそれを書いてみようって思ってさ」

「なるほどなぁ。お前も歩み始めたってことか作詞家としてさ」

「べ、別にそんなんじゃないよ。ただいい詞書けたらなって思うだけで」

「すごいよなぁ、お前がこんだけのめり込むとは思いもせんかったし」

「こら、それどういう意味だ」

「べつにぃ」と幼馴染がおどける。

「それより、英語の豆テストってなんだよ、俺そんなん聴いた覚え無いぞ」

「え?単元終わりには毎回テストあるじゃん」

「そう言われてみれば……」

 翔は思い当たるフシがあった。英語を担当する先生は厳しく単元終わりには必ずその単元に出てきた英単語を使えるかどうかを確認する。それが今日だとは翔は思いもしなかった。英語の授業は午後一で気づいたら居眠りしているということがたたあったからだ。つまり、やばい状況ということだった。

「んで、どうするの?授業前にさらっと復讐でもしとくかい」

「お願いしていいっすか、孝司」

「お前の頼みなら仕方ないな」

「恩にきりますぜ。杉原さん」

「苗字で呼ぶなってば」

 翔たちはお昼に英語の勉強をし、なんとかテストを乗り切った。下校時刻になり家に帰ろうとした時に見たことのある人を翔は見た。

「あ、サユさん」

「あぁ。昨日の作詞家さんですね。順調ですか?」

「えぇ、まあ。まだ仕上がってはないですがね」

「そうなんですか。私達、軽音部ってコピーバンドでは無いんですよね。必ずオリジナルだから…って何話してるんですかね。言葉……楽しみにしてますね」

「はい。頑張っていい詞を持ってくるようにしますね」

 そう言って、翔は自分の家へと戻った。家には珍しく友梨佳がいた。ただいまと声をかけると友梨佳は、おかえりと返し、何かを読んでいた。それは紛れも無く翔が昨日書いた詞だった。翔は恥ずかしくなり、取り返そうとするが母が早く、翔は取り返せずいた。

「ちょっと母さんやめてよ」

「いいじゃないの減るもんじゃないし」

「そうだけどさ…」

 じゃれていた友梨佳は真剣な顔付きになり、翔を見る。

「あんたいい詩書いたわね。これ母さん好きよ」

「なんだよ急に……」

 人に思いを伝えることが出来る詞は人を魅了させる事が出来る。それが詞であり、それに楽器の音が付けば歌詞へと変貌する。そして、人に更に評価され良し悪しが見つかる。そんなことを思い知ることができることも詞のいい所であると翔は実感した。翔は母に礼を告げるとそれを取り自室へと戻る。何かほめられたことが嬉しかった。

「母さんにほめられるなんていつぶりだろう」なんて言葉にして思い返してみる。しかし、それほど無くて、だから嬉しいのかと翔は実感した。この詞を更に良くするために声に出して読んでみる。そうする事で何か違和感を感じる事が出来る気がする。そうやっていつもやってきた。詞のリズムを聞きながら違和感がないかを自分の耳や口や目で感じる。そうして修正をしたり書き加えたりするのだ。

 翔は前にクラスに小説を書いている人がいて、その人は「完成しても完成ではない。完成したところからスタートだ」と自負していた。その時は何を言ってるか理解できなかったが、詞を書きはじめてその人が言っていたことが理解できたような気がした。同じ言葉を操るということは一緒だと翔なりに実感していた。しかし、詞と小説は何か違う気がしているのも心の片隅にある。

「今日はここら辺でいいかな」

 少しづつ修正を加えることでよりいい作品にするのが翔なりのやり方で一つの詞に長い時間を書けるのが当たり前だった。他のものにも時間をかけなければいけないと思っているからだ。まだ学生で本業は勉学だと思いもあるが、なかなか手付かずで勉強は嫌いの部類だった。

「翔、ちょときてぇ」と、リビングから友梨佳の声。リビングに向かうとなにか良い匂いがした。「今日は時間があるから手の込んだ料理を作ろうと思ってね。味見してれないかな」

「わかったけど……何を作るのさ」

「んー……今回は和食かな。翔の読んでたら和食が食べたくなっちゃった」

 友梨佳は、料理を通じて人に自分の気持ちを伝えるのが得意である。和食は文字の通り和やかな食べ物で非常に落ち着いた食べ物である。中でもお味噌汁は心が落ち着く食べ物だと翔の中で理解している。

「んー和食にしてはちょいと濃いんじゃないの。和食って薄味のイメージあるけど」

「そうかしら、すまじ汁とか結構味濃いのよ。うちは、カツオのだし汁をベースにして醤油を効かせて味付けをするから」

「そうなんだ知らなかった」

「まぁ母さんはね。母さんの母さんつまりお祖母ちゃんがそう教えてくれたの。家々で味付けは違うんだけどね。だから料理は楽しいのよ。その人の味や気持が楽しめるのも。だから私は外食が好きなのよ。まぁ……自分が作る料理が一番なんだけどね。結局……あ、でもお祖母ちゃんには勝てないかも」と苦笑い。

「確かにお祖母ちゃんのご飯はおいしいね」

「悔しいけどね」

 勝てない存在が有ることはきっといいことなのかもしれない。強い憧れが勝てない存在を超えようとする。切磋琢磨する中がいると伸びる様な感じである。翔の中ではあのバンドの歌詞が、勝てない存在で有ることは翔自信わかっていたことなのかもしれない。


 翔はかなりの時間をかけて、詞を完成させた。一週間かけただろうか。それを軽音部へと持って行く。

「あ、あのこれ」そう言って差し出した一枚のルーズリーフは綺麗に清書され、翔の自信作が書かれていたものだった。

「あ、作詞家さん。持ってきてくれたんですね。嬉しいです」

「でも、拙い詞ですがこれに音をつけて歌ってもらえるなら僕はそれだけでいいんです」

「いえいえ、全力で私達も音楽を作りたいと思います。これを秋にある学園祭で発表したいと思います。出来ればお名前をお伺いしたいのですが……」

「あ、そういえば、名前言ってなかったですね。大宮翔です」

「翔さん…ですね。では翔さんの言葉を私たちの音楽で更にいいものにしたいと思います。ぜひ、学園祭の時には足をはこんでくださいね」

 詞を渡して数ヶ月。秋の学園祭に近づいた頃、翔は眠れない夜が続いた。自分の詞が歌詞になり、歌われるのが何か恥ずかしいからである。軽音部のメンバーとも仲良くなりつつも詞を書きためていた。これがこの軽音部で使われたらなと思いながら。

学園祭では、見事に、大盛況だった。歌詞がいいとライブを聴いたお客さんの言葉が半分、リズム、音楽がいいというのが半分。中にはよくない、悪いなどと言った意見もあったが、いい意見の方が多く、大成功という形で事が収まった。

「翔さん……お話があるのですが」

「え?あ、はい。なんでしょう」

「これからも私たちの音楽で言葉のせて見ませんか」

「それは、こちらからもお願いします。ぜひ僕の詞を、歌詞にして皆に届けてください」

「……よかった。私も言葉を渡されて、それを読んでこの人の言葉なら私たちの音楽にあいそうだなって思ったんですよ。これからもよろしくお願いします」




                 END

          

 「夢」それは敗れたり、叶ったり複雑に膨らんでいつ割れるかわからない人が夢をみるから「儚い」という。ひょんな事からすんなりと夢を叶えられたりして夢を追いかけた者は必ず口をそろえてこう言うだろう。

「夢はみるものではないんですよ。自分が動かないと夢は叶えられない」と。



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