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【書籍化決定】無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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8.あなたと一緒に(7)


「レ……イ、ダ……メよ……」


 リディアは声にならない声で訴える。

 この男がそんな約束、守るわけがない。ダリウスとほんのわずかしか接点のないリディアですら、それはわかった。

 この男はきっと、レイが死んだあとにリディアのことも殺し、余計なことを言う不穏因子を撲滅しようとするはずだ。


「おや、まだ声が出ますか。今は私とこのフォシニが会話中なのです。静かにしてください」


 ダリウスが片手を振る。

 リディアの首に巻かれた魔法の紐がさらに締まった。


「う……」


 リディアは息苦しさから、首に締った紐を振りほどこうともがく。しかし、まったく緩む気配がない。

 意識が薄れて行く。


「やめろ! お前の言うとおりにする」


 レイは叫ぶ。


「よろしい。最初からそうすればよかったのですよ。……そうだ、お前が死ぬ前に最後の魔力供給をしておきましょう。余計なことをさせられたせいで、魔力がだいぶ減ってしまいました」


 ダリウスはレイの破れた上着の合間から見えるフォシニの刻印を見て、目を細める。

 おもむろに彼の体に手を置いた。


 だが、ダリウスが勝ち誇った顔をしていたのも数秒の間だった。

 目を見開き、ゲホッと血を吐く。


「貴様、何をした⁉」

「別に何も? 何かしたのはあんただろ。俺の魔力を奪った」

「……っ! まさか、その刻印は私のではないな⁉」


 ダリウスは体をくの時に折り、もだえ苦しみながらも驚愕に満ちた表情を浮かべる。


「苦しいでしょ。一気に魔力奪ったもんね」


 苦痛に顔を歪ませるダリウスを見下ろし、レイはせせら笑う。

 それと同時に、リディアの首を絞めていた紐が消え去った。


「体内で魔力同士が喧嘩をしてうまく魔法を維持できなくなったんですね」


 カーティスが言う。

 

「レイ!」


 リディアはレイに駆け寄る。そのままぎゅっと抱きつくと、レイは難なくリディアを受け止めた。


「リディア、大丈夫? ここ跡が残ってるね。やっぱりこいつは、楽に死なせちゃだめだな」


 レイはリディアの首に指を添わせ、怒りをあらわにする。


「1時間に1センチずつ、首を絞めていってじわじわ殺すのなんてどう? あんた、首絞めるの好きだもんね。俺の首もよく首輪で絞めてたし、同じようにしてやるよ」

「やめろ……」

「ははっ、おかしいね。あんた、やめてくれって懇願するフォシニの言うことを聞いたことなんて一度もないよね」


 レイはけらけらと笑うと、指さきを軽く振る。

 カーティスの首に、先ほどリディアの首に巻き付いていたのと同じ魔法の紐が現れた。

 カーティスはその紐をほどこうともがくが、外れる気配ない。


 そうこうする間に、リディアは倒れているシリルに駆け寄る。


「うっ、く……っ」


 微かな呻き声が聞こえた。


「師匠! しっかりしてください!」


 リディアは無我夢中で、昔習った魔法を詠唱する。


治癒ヒール


 すると、シリルの無数の傷が癒え、呼吸が落ち着きを取り戻した。


「うっ、……リディア?」

「師匠! よかった!」


 リディアは安心から泣きそうになる。


(効いた! レイに少し魔力を分けてもらっておいてよかった)


 シリルが死んでしまったらなんて、考えるだけでも辛すぎる。シリルはリディアにとって、実の親よりも特別な存在なのだから。


 そのとき、廊下の向こうから複数の足音が近づいてきた。


「ダリウス長官! ダリウス長官! いらっしゃいませんか!」


 どんどんとドアを激しくたたく音。


「一体どうしました?」


 対応に出たのはカーティスだ。息を切らせているのは、魔法庁に所属する中堅の王宮魔術師だった。


「え? カーティスさん? 長官は……」

「長官は今、取り込み中です。それよりなんの用ですか?」

「それが……都市を守っている結界が急に消えてしまいました! 今いるもので修復を試みているのですが、力不足で──」


 切羽詰まった様子の王宮魔術師は現在の状況を早口で伝える。

 それを聞いたカーティスはハッとする。


「そうか! ダリウス長官が魔法が維持できなくなったということは、結界も──」


 それを聞いたダリウスは血を吐きながらもにたりと笑う。


「おい、小僧。聞いたか。私はこの国に必要な人間だ。一方のお前は、もともと存在を忘れ去られた人間だ。どちらが生き残るべきかなど、明らかだろう」

「…………」


 レイはダリスウを見返す。


 ダリウスの言うことには一理あった。

 結界が消えれば、多くの魔獣が侵入してきて多数の市民が犠牲になる。それを防ぐには、ダリウスが結界を作り直すのが一番だ。


「何言ってるの?」


 レイは冷ややかにダリウスを見つめる。


「あんたに作れた結界ぐらい、俺に作れないわけがないだろう? おい、そこの魔術師さん。俺を連れていけ」

「……あなたは?」


 王宮魔術師は戸惑ったように聞き返す。


「彼は私の信頼のおける友人で、大魔術師です。心配ありません。力になってくれるでしょう」


 レイの代わりに、カーティスが答える。


「それであれば……。行きましょう」

 

 王宮魔術師を、レイとカーティスが追いかけた。



 その後、地下室にはリディアとシリルとダリウスの三人が取り残された。ダリウスは床に転がりもだえ苦しんでいる。


(フォシニの契約を結ばずに魔力供給を受けると体内に深刻なダメージを負うっていうのは習ったけど……こんなふうになっちゃうんだ)


 初めて見る光景に、リディアは動揺する。

 けれど、レイを散々苦しませ続け、自分を殺そうとした相手だ。許す気はないし、同情もしない。むしろ、こんなことで終わらせては生ぬるいと思った。


「師匠。私、この男にはどうしても罪を償わせたいんです。レイの私刑ではなく、ちゃんとした刑罰で」

「ああ、俺もそれがいいと思う。ちょうどいい方法を見つけたんだ」

「ちょうどいい方法?」

「ああ、言い逃れのできない方法で、レイが王族でありこいつが何をしてきたのか、証明しよう」


 シリルは自信満々にそう言い切ると、口の端を上げた。

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