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【書籍化決定】無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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6.レイの秘密(2)



 怒られる、と思ったリディアは身構える。しかし、シリルはあっけらかんとした様子だ。


「どうりで! レイが落ちるなんておかしいと思ったんだよな。今年の採用試験感はよっぽどの節穴だと思っていたが、そういうことなら納得だ」

「……師匠、怒らないのですか?」

「怒るも何も、どうせリディアが落ちたから行かないとか言い出したんだろ?」

「あ、はい」


 既に予想されていた。


 そのとき、カタンと音がして「誰?」と声がした。

 ドアの前に立っていたのは、片手に野鳥を持ったレイだ。 


「レイ、おかえり!」


 リディアは笑顔でレイを出迎える。


「リディア、あの人誰?」

「師匠のお友達みたい」

「なんで先生のお友達がリディアを訪ねてくるの?」


 警戒心をありありと浮かべ、レイはカーティスを見据える。一方のカーティスは、レイを見て明らかに驚いたような顔をしていた。


「おい、レイ。何も取って食われるわけじゃないんだからそんなに警戒するなよ」

「俺がいない間にリディアに近づく奴は全員敵だから」

「……お前、もはや重いどころじゃないぞ。笑えない冗談だ」


 シリルは、はあっと息を吐く。


「カーティス・ロウ。王宮魔術師時代の俺の同僚だ。こっちはレイ」

「はじめまして。カーティス・ロウと申します」


 カーティスは慌てたように頭を下げる。顔をあげると、再びじっとレイの顔を見つめた。


 狭い居間に、妙な緊張感が漂う。

 リディアは彼らに椅子に座るように促し、お茶を淹れる。しかし、誰も口をつけない。

 その間も、カーティスの視線はずっとレイへ向けられたままだった。


「おっさん、なんでそんなにジロジロ見るわけ? 気持ち悪いんだけど」

「ちょっと、レイ!」


 レイの失礼な物言いに、リディアは慌てる。

 相手は準貴族。もしカーティスが怒ってしまったら、ただでは済まないかもしれないのだ。


「気分を害されたのなら失礼しました。レイさんは、とても綺麗な銀髪だなと思いまして。染めているのですか?」

「染めてない」


 レイはぶっきらぼうに答える。

 リディアはレイの髪を見る。カーティスの言う通り、今のレイの髪は輝かんばかりの美しい銀髪だ。リディアが彼を買ったときは間違いなく漆黒だったのに、日を追うごとに色が抜けて最終的にこの色になった。


 リディアはこれまで、こんなきれいな銀髪の人をレイ以外に見たことがない。


「レイさんは、ご両親のことを覚えていらっしゃいますか?」

「両親なんていない」


 レイは不機嫌を露わにする。


「レ、レイは物心ついたころから悪い人のフォシニだったんです。だから、ご両親の記憶はないみたいで」


 リディアは慌てて補足する。レイの生い立ちを考えると今の質問を不快に感じるのは当然だと思うが、カーティスの機嫌を損ねるのも避けたい。


「そうなのですか? では、幼い頃の記憶は全く?」


 カーティスは驚いたように聞き返す。そして、眉間に深い皴を寄せた。


「実はレイさんの噂話を聞いたとき、私はレイさんが高位貴族の隠し子であることを強く疑いました。平民でソルヴィア、さらには生成魔力量も多く、魔法も難なく使いこなすというのは極めて稀だからです」

「レイが高位貴族の隠し子?」


 確かに、あり得ない話ではないと思った。魔法使いの素質を持つ者自体、高位貴族出身者が圧倒的に多いからだ。


「しかし、実際にレイさんに会って、今は別の想像が大きくなっています」

「……何かわかったんですか?」


 リディアの問いかけに、カーティスは逡巡するように口ごもる。

 しかし、しばらく黙り込んでから真剣な顔で三人を見つめた。


「結論から言わせていただきます。レイさんは、もしかすると王族の血が混じっているかもしれません」


 予想だにしない言葉に、その場の空気が止まった。


「……は? なんだって?」


 最初に声を上げたのは、シリルだった。

 レイは、なんの感情も籠らない目でカーティスを見つめている。


「んなわけないだろ。フォシニとして奴隷商に売られていたんだぞ?」

「美しい銀髪は、王族の特徴のひとつです」


 信じようとしないシリルに、カーティスは告げる。


「それにしたって、突拍子もなさ過ぎる。もし本当にそうだったとしても、それを証明することもできない」


 シリルは眉根を寄せる。カーティスは考えるように、口元に手を当てる。


「レイさん。少し、触れさせてもらっても?」


 レイは嫌ともいいとも言わなかった。カーティスはそれを「いい」と受け取ったようで、レイの胸の辺りにそっと触れる。数秒後、ハッとしたように手を離した。


「そんなバカな……」


 その表情は驚愕に満ちており、顔色は気の毒なほど真っ青だった。

 明らかに様子がおかしいと、シリルは怪訝な顔をする。


「カーティス? どうした?」

「そんなはずはない……」

「カーティス!」


 シリルが強い調子でカーティスを呼ぶ。すると、カーティスはハッとしたような顔をした。

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