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【書籍化決定】無能魔女の甘すぎる誤算 ~成り行きで助けた最強魔術師様が熱烈に求愛してくるのですが~  作者: 三沢ケイ


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5.正体不明の追っ手(4)

 リディアは平静を取り戻そうと、レイから少しだけ離れる。すると、お腹に回ったレイの腕によってまた引き寄せられてしまった。さっきよりより一層、体が密着する。


「リディア」


 低く、囁くような声。


「レ、レイ……離れて」

「やだ。お願いだから、俺から逃げないで」


 その言葉に、胸が締めつけられる。


「逃げないわよ」


 安心させるように告げると、レイの腕に力が籠った気がした。



 ◇ ◇ ◇


 翌日。太陽がしっかりと上った時刻になってから、リディアは恐る恐る自宅へと戻る。誰かが待ち伏せしていたらどうしようかと不安だったが、それは杞憂だった。


 住み慣れた部屋に戻ったリディアは、レイのほうを振り返る。


「レイ。服を脱いで」

「え?」


 驚いた顔で固まるレイを見て、リディアはハッとする。以前脱げと言ったらレイが全裸になってしまったことを思い出す。


「怪我を見たいの! 昨日の連中とやり合ったときに怪我したんじゃないかと思ったの。だから、確認させて」

「うん」


 レイは頷くと、服を脱ぎ始める。大きな怪我はないものの、ところどころに痣や傷がある。

 

「薬塗るね」


 リディアは塗り薬を手に取ると、レイの肌に指を沿わせる。


「リディア、くすぐったい」

「我慢して」


 身を捩るレイに構うことなく作業していると、フォシニの刻印が目に入った。だいぶ薄くなったが、やっぱり消えることはない。


「あと少しなのに」


 リディアは、再び薬を指先に付ける。


「リディアがこの上から刻印したら、目立たなくなるかも。リディアにだったら、喜んで魔力をあげるよ」

「そういうこと言わないで」

「本当なのに」


 レイは悪びれる様子もなく口元に笑みを浮かべる。

 リディアはレイの発言を軽くながし、再び刻印に視線を落とす。


(誰がレイにこれを入れたんだろう)


 その〝誰か〟であればレイの刻印を消すことができるのに、と思わずにはいられない。

 リディアは刻印を覆うように手で撫でる。そして、手を離して驚いた。


「……あれ? 薄くなってる?」


 たった数秒の間に、レイの刻印は明らかに薄くなっていた。ほぼ消えているといってもいいかもしれない。


「なんで⁉」


 驚いたリディアは、すぐにレイを連れてシリルのもとに向かった。

 リディアはシリルに、自分が手をかざしたら刻印が薄くなったことを説明する。


「……なるほどな。確かに消えてるな」


 話を聞いて刻印があった位置を確認したシリルが腕を組む。


「私、実は師匠を超える魔法使い──」

「それはない」


 全部言い切る前に、ぴしゃりと否定される。


「わかってますよ。そんなに強く否定しなくても──」


 リディアは肩を竦める。

 リディアが魔法でできることなんて、薬の調合ぐらいだ。王宮魔術師試験でもほとんど点数を取れずに落ちたのだから。


「じゃあ、なんで薄くなったんでしょう?」

「……これは推測でしかないが」


 シリルはリディアを見る。


「お前の力だな」


 リディアは目を瞬かせ、自分の後ろを振り返る。誰もいない。


「お前って?」

「リディアだよ」

「んん?」


 思わず気の抜けた返事をしてしまった。

 さっき、リディアがすごい魔法使いであるという可能性を完全否定したのはシリルだ。


「すごい魔法使いとかそういうんじゃなくて、お前の特技だろ。魔力調和」

「魔力調和、ですか……」


 魔力調和とは異なる性質を持つ魔力をうまく混ぜ合わせる技術のことで、リディアが薬を作る際にいつもやっているものだ。これをうまくやらないと、それぞれの持つ魔力がお互いに悪い方向に作用してしまい、効果が十分に発揮でされない。


 リディアが得意とする、唯一の魔法だ。

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