第2話 知夏_店長の笑顔は今日も胡散臭い
「莉奈さん、おはよう!」
大きなだみ声にいささか驚く。私が所属している渋谷店の藤本店長のずんぐりした顔が、満面の笑みでお出迎えしてくれた。今日もピシッとスーツを着こなしてベイズリー柄の派手なネクタイが様になっている。源氏名で呼ばれることにすっかり慣れた私は、礼儀正しく頭を下げながら挨拶を返した。
面接で初めて対面した時には、この満面の笑みがずいぶん胡散臭い印象を受けたが、一緒に仕事しているうちにこの笑顔が素の笑顔であることに気が付いた。それに気づいたのも店長と会長、他の姉妹店の店長と飲みに行ったときに、酔っ払いながら陽気に笑っている店長の顔が、胡散臭いと思った笑顔と全く同じだったのだ。
素の笑顔を向けていても胡散臭い印象を与えてしまうのは、ちょっと損をしているような気がするが、この人は誰よりも売り上げに責任を持って仕事をしている、と知った時には感心したものだ。この店長のおかげで順調に稼ぎ、借金の返済ができている、と言っても過言ではない。
藤本店長に挨拶を返して扉をくぐると、大理石の床から落ち着いた色合いの深紅の絨毯に切り替わる。すぐ右手にカードキーをかざさないと開かない扉があり、その扉の向こうが店長をはじめ私が事務スタッフとして働くフロアである。
その扉を通り過ぎて少し進むと左手側に飴色をした革張りのソファーセットとガラス板のテーブルが置かれており、右手には赤みを帯びた木のカウンターが設置されている。カウンターには一人掛けの革張りのイスが3脚設置されており、ソファーセットと同じ色合いをしているので、おそらく同じメーカーのものだろう。
カウンターの上にはコロナが発生した時に飲食店でよくみられた仕切りが設置されている。透明なプラスチック製のものではなく、すりガラスのような仕切りに淡い色合いの絵が飾られているので、仕切り越しに隣の様子を横目で伺うことができないような配慮になっている。
ここがキャスト、いわゆるお店に在籍している風俗嬢のお給料の清算する場所だと面接時に教えてもらったときには、なんてお洒落な空間何だろう!と感動してしまった。
初めてこの店に足を踏み入れた時に、私が今まで在籍をしてきた風俗店の事務所とあまりにも異なるため思わず「ホテルのロビーのようですね」と感想を口にすると、店長は我が意を得たり!と言った様子で得意そうな表情でこの会社について説明してくれた。




