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越後の軍神に愛された男〜軍神の正体は女性でした。傍に居続けたのは俺だけです〜  作者: 大夢虎鈴


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第九章 塩の道 第9-3話 宇佐美の過去

夜営の焚き火は、海岸から少し離れた場所に作った。


宇佐美うさみが一人で火を見ていた。


いつの間に来ていたのか、灯真は気づかなかった。才助も「え、いつから」と言って目を丸くした。


「軍師というのは、人目につかない歩き方をするものだ」と宇佐美が言った。


「忍びですか」と才助が聞いた。


「似たようなものよ」


宇佐美が笑った。


焚き火の前に三人で座った。


景虎はすでに宿に入っていた。


波の音が、遠く聞こえていた。


才助が「宇佐美様は昔、海の近くに住んでいたんですか」と聞いた。


うっかり聞いたように聞こえた。たぶん本当にうっかり聞いた。


宇佐美が遠い目をした。


「……若い頃の話だ」


「海が好きなんですか」


「好きだったな。昔は」


「恋人とか、いたんですか」


才助が続けた。


本当に、何も考えずに聞いていた。


宇佐美が才助を見た。


「いたよ」


「え、本当に!」


才助が身を乗り出した。


「驚くな。儂にも若い頃はあった」


「す、すみません。でも——どんな人だったんですか」


宇佐美が焚き火に目を戻した。


しばらく、炎を見ていた。


「……越後の海岸の近くに、琵琶びわを弾く娘がいた」


低い声だった。


いつもの軽さが、なかった。


「どんな人でしたか」


才助が静かに聞いた。


さっきとは声の色が違った。


「笑い方が、静かな娘だった。泣く時も静かで——儂は長いこと、その娘が泣いていることに気づかなかった」


焚き火が、ぱちりと鳴った。


「……病で、早くに逝った」


才助が黙った。


灯真も黙っていた。


焚き火の前が、静かになった。


波の音だけがした。


「戦がなければ」と宇佐美が言った。


「もっと側にいてやれた。……戦に出ている間に、逝った。側にいてやれなかった」


灯真は焚き火を見ていた。


「……だから儂は、景虎様の戦を、できる限り短くしたい。勝つならば早く勝つ。長引かせない。戦の中で誰かが誰かのそばを離れる時間を、少しでも短くしたい」


「……宇佐美殿は、そのために軍師をしているのですか」


「それだけではない」


宇佐美が灯真を見た。


「しかし——それが一番、儂が負けたくない理由だ」


灯真は答えなかった。


答える言葉が、見つからなかった。


焚き火が揺れていた。


才助がいつの間にか眠っていた。焚き火の前で横になって、静かな寝息を立てていた。


宇佐美が「よく眠る男だ」と小声で言った。


「才能です」と灯真が答えた。


宇佐美が小さく笑った。


しばらく、二人で焚き火を見ていた。


「……お前も、何か守りたいものがあってここにいるのか」


宇佐美が聞いた。


灯真は少し考えた。


「……一人、目が離せない人がいます」


宇佐美がそれを聞いた。


「……そうか」


それだけ言って、また海を見た。


波の音が続いていた。


遠く、暗い海が、ただそこにあった。

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