最終話「美織ちゃんは僕のお嫁さんなんだから!ちょっかいかけないでよ、この、クソ勇者ー!」
数年後。
度重なるレイド戦を乗り越え、僕たちは穏やかな、けれど少し騒がしい日々を過ごしている。
神はこの世界に興味を無くしたのか、現れるのはただレベルが上がるだけのレイドボスばかり。
毎回、ステータスの強化や武具、スキル強化を選択し続けている僕たちにとって、それはもはや月一の定期作業に過ぎなかった。
僕もあのログアウトを三つ上げたレイド戦の次月以降、ダンジョンにこもることも無くなった。
それにより、僕と美織ちゃん、酒井くんの三人以外も、月間のランキング報酬を得てさらにパワーアップしていた。
それでも、たまにランクインしてはスキルを上げていた。
一閃と斬撃がスキルマックスになった後、空斬というスキルに統合され、レイドボスと言えどフルでドーピングしたら一撃で倒せる域まで達していた。
酒井くんもギガスラッシュと肉体強化がマックスになったところで、メテオスマッシュというスキルに統合され、バフ込みならやはり一撃必殺となっていた。
藤田さんと井上さんも、同様に統合スキルの影響で、難なくソロでレイドに対抗できる域に達しているので、またあの神が余計なことをしない限り、特に危険はないだろうと思っている。
また、毎日使っていたログアウトは、ここ数年では週に一度しか使っていなかった。
日本に帰還した人たちが集まって近況報告をしたり、この世界に残ったメンバーとその家族との交流を楽しむために使っている。
ただ、ここ最近は姉ちゃんに「毎日使え」と急かされているけれど。
日本に帰還した彼らは、全員が少しだけ身体能力が向上し、こちらで得た技能をそれなりに活用できていると言っていた。
薬師だった中島さんや、裁縫師の峰里さんなど、細かい作業が得意になったり、体力が増えたり、力がちょっとだけ上がったり、それなりの変化があったようで、今はそれぞれが元気に働いているようだ。
みんなが幸せを満喫し、とはいっていないようだけど、それなりに楽しく生活できているらしい。
何より、みんな知名度は抜群で、就職先には苦労しなかったようだ。
そんな、のんびりとした日々を過ごす僕。
当然のようにこちらに残った仲間たちの近況も、風の噂や、直接の訪問で耳に入ってくる。
伊藤くんの「イトー商会」は、今や王国中を牛耳るほどの巨大な組織に成長していた。
彼はその功績から、男爵位を与えられたらしい。
「御貴族様だからな!伊藤男爵様ー、って敬えよ黒木!」
そう言った伊藤くんを思わず蹴り倒し、拠点から叩き出した僕だが、その行動は間違っていると思ってはいないし、反省もしていない。
その側近の永井くんは、美のカリスマとして、新たなコスメを次々に展開している。
そのコスメの愛用者である公爵令嬢に気に入られ、婿入りし、次期公爵となるべく勉強をしながら、今は幸せを満喫しているという話だ。
つい先日、本人がここに来て、自慢げに話していた。
さすがに伊藤くんのような態度ではなかったけれど、どことなく鼻につく態度も目立ったので、一睨みしたらそそくさと帰って行った。
松村さんは、使役した魔物たちによるセラピーを展開し大成功を収めている。
特に冒険者の男性に好評なようで、店舗数も増え、イトー商会の収益の一角を担うほどの大事業になっているとか。
僕ももふりに行きたいけど、「それなら私をなでてよ」と美織ちゃんに言われ、未だ行くことができていない。
そんな松村さんは、伊藤くんと付き合っているのだが、どうやら伊藤くんは現地の年上女性数人とも良い関係を築いているらしい。
松村さんは度々ここに来て、藤田さんたちに愚痴をこぼしている。
その度に「男ってほんと、いやーよねー」と、僕をちらりと見て言うのはやめて欲しい。
酒井くんは勇者として、この国をあちこちと回り、難易度の高い依頼をこなす旅を続けている。
国王から、第一王女との婚約を打診されているとは聞いているけど、それには返答していないのだとか。
池田くんと堀田さんも、酒井くんに同行しているけど、二人はすでにお付き合いをしているようだ。
旅の途中、二人の熱々ぶりに当てられた酒井くんからも、度々愚痴を聞かされる。
酒井くんも早く良い人を見つければいいのに、と思うのだが、彼はうちに来るたびに余計なことを言う。
「藤田さん、こいつに不満は無いかい?いつでも言ってくれよ。俺ならいつでもOKだからさ」
そんな軽口に、僕は毎回声を荒らげる。
「美織ちゃんは僕のお嫁さんなんだから!ちょっかいかけないでよ、この、クソ勇者ー!」
そう言って、彼を拠点から叩き出すのが、もはや恒例行事になっていた。
そんなことでも、幸せを感じる自分がいた。
そして、姉ちゃんと美織ちゃんのご両親の要望により、今日もログアウトを使う。
僕と美織ちゃん、そして、愛する我が子である長男の正也を連れて。
自室で待ち構えていた姉ちゃんと、美織ちゃんのご両親を即座に招待。
ご両親は、すぐに美織ちゃんと正也の元に駆け寄っている。
正也が生まれてから、ほぼ毎日のように繰り返されるつかの間の幸せであった。
美織ちゃんと正也はご両親と、僕は姉ちゃんと、それぞれの時間を過ごす。
と、言いたいところだけど、ほとんどの日は僕が一人取り残され、三人ともが正也の元へと集まるのだ。
「ねえ、美咲ちゃんと真紀ちゃんは安定期に入ったのよね?」
姉ちゃんの問いに、僕は気まずさを感じて言いよどんだ。
「えっ、まあ、そう聞いてるけど……」
「まだ連れてくるのは難しい?」
「いや、レイド戦の時も転移してるし、問題ないとは思うけど」
「それなら一度連れてきて欲しいけど、でも、100%、安全ってことも言えないんだよね?」
「まあ、そうだね」
「じゃあ出産まで待とうかな?そのかわり、あんたがしっかりケアしてあげなさいよ?」
姉ちゃんの叱咤に、僕は小さく頷く。
「わ、わかってるよ」
「生まれたら必ず連れてきなさいよ!あの子たちの親御さんも、首を長くして待ってるんだからね!」
「う、うん」
そんな、胃が痛くなるような時間を耐え忍び、ただただ時が過ぎるのを待った。
「それにしても、美織ちゃんは本当に良かったの?こいつ、猿のようにやりまくりやがって!」
姉ちゃんの露骨な言葉に、僕は思わず耳を塞ぎたくなる。
僕もあの夜はどうかしてたのだ。
美織ちゃんは恥ずかしそうに、けれど慈愛に満ちた表情で答えた。
「いえ。竜ちゃんを我慢させるわけにはいきませんし、それに二人も真剣に竜ちゃんを愛してくれています。二人は戦友でもあるので、彼女たちと竜ちゃんを共有してもいいかなって、そう思ったんです」
その言葉に、僕は泣きたくなった。
彼女が妊娠中、美咲ちゃんと真紀ちゃんに熱烈に迫られ、何度もそんな現場を美織ちゃんに見られていた。
そんなある日、美織ちゃんが「竜ちゃんさえ良ければ、受け入れてあげて」と、背中を押してくれたのだ。
混乱しながらも四人でしっかりと話し合った。
「こんな世界なんだから、重婚だってありでしょ?」
彼女たちのそんな言葉に甘え、僕は複雑な思いを抱えながらも、少しずつそんな雰囲気になればなと、その時は軽く考えていた。
その数日後、いくら美織ちゃんから許可が出たからって……、その日、気づけば僕の記憶が飛んでいた。
意識を取り戻した後の惨劇を見て、やってしまったのだと認識した。
欲望のままに、気付けば猿のように致してしまったのだと。
幸いなことに神フラッシュが発動していたので、こちらには具体的な様子は分からないのが救いであった。
そして今、二人とも僕の子を授かり、やっと安定期に入っているところだ。
幸いなことに、二人ともつわりのようなものは無いらしく、順調だと言われ安心している。
美咲ちゃんの鑑定によれば、二人とも女の子らしい。
思ってもみなかった異世界ハーレム。
けれど実際に経験してみると、それは意外なほど大変だと実感する。
常に三人に気を使いながらの生活は、魔物を狩り続ける方が幾分ましだとさえ思えるほどだ。
それでも……。
拠点へ戻り、美織ちゃんと子供の笑顔を眺め、そして互いに体調を気遣いあう三人の姿を眺める日々。
「パァーパ」
「ん、どした正也」
こちらに小さな手を伸ばす正也に、優しく指を差し出すと、それをキャッキャとはしゃぎながら叩く正也に幸せを感じる。
僕は、この場所で生きることを選んで、本当に良かったと心から思う。
神の気まぐれに始まったこの遊戯の果てに、僕は、かけがえのない幸福を掴み取ったのだ。
小心者の僕は虚勢を捨て、今日も、この世界で幸せに生きてゆく。
小心者の僕は俺様として虚勢を張ってイキる!
おしまい
最終話は少し字数少なめですが、これにて終了です。
今回、各話4000文字以上と、いつもより字数アップで頑張ってきましたが、書きたかったことが概ねかけたので、満足しています。
上手く表現できたかわかりませんが、楽しんで頂けたら幸いです。
ブクマ、評価、本当に励みになります。
一言でも良いので、皆様の感想をお待ちしております。
ではまた、次作でお会いできれば。
安ころもっちでした。




