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[完結]小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第六十二話「さ、さあ、久しぶりに、情報を拾っておこうかな?」


 ついに、約束の日がやってきた。


 拠点の広場には、帰還を希望する者と、この世界に残ることを決めた者が全員集まっている。


 僕は空中に浮かぶメニューウィンドウを操作しながら、最後の操作を進める。


「じゃあみんな。いいかな?」


 僕が合図を送ると、ざわついていた場が静まり返る。


 帰還者の名前を一人ずつ、点呼をとるように何度も見返す。


 誰一人として漏れがないか、慎重にチェックを繰り返す。


「じゃあ、使うよ」


 すでに各自、現地で親しくなった人々や、仲間たちとの別れの挨拶は済ませてある。


「いくよ!」


 決定ボタンの上に置いた指が、わずかに震える。


 これを押せば、クラスメイトの多くが、元の世界へと去っていく。


「じゃあ、帰る人も、残る人も、本当にいいんだよね?」


 僕が最終確認のように問いかけると、後方から野次が飛んできた。


「早くしてー!」


「いつまでも待たせないで、決意が鈍っちゃいます!」


 宇野くんや岡崎くんたちが、笑い混じりに叫んでいる。


 僕は大きく深呼吸をして、腹を決める。


「行きます!」


 声に出して、ログアウトのアイコンを強く押し込んだ。


 次の瞬間、僕の視界は真っ白な光に包まれた。


 意識が遠のき、浮遊感に身を任せる。


「あれ?」


 てっきり僕は転移しないものだと思っていた。


 残る側の僕は、光が収まったあとも、その場に取り残されるはずだった。


 だが、気が付くと僕は見慣れた部屋にいた。


 狭く、けれど落ち着く、僕の自室。


 一瞬、パニックになりそうになる。


 しかし、目の前には六〇分の数字を刻むタイマーが表示されている。


 何より、その表示の先には、こちらを見る姉ちゃんが見えていた。


 迷わず姉ちゃんを招待すると、今にも泣き出しそうな顔をした姉ちゃんが、僕に向かって飛びついてきた。


 久しぶりに感じる、この世界の空気と姉ちゃんの温もり。


 スキルレベルが上がってからの一週間、ログアウトは使用できなかった。


 毎日使っていたこの機能は、あっちに残る決断をした時点でもう使えないものだと諦めていた。


 だから、姉ちゃんに会うことも二度とできないと覚悟していたのに。


 きっとこれが、神様がくれた最後の時間になるだろう。


 そう思うと、自然と涙が溢れ出してきた。


「終わったよ、姉ちゃん。でもごめんね。僕、あっちに残ることになったから」


 掠れた声で報告すると、姉ちゃんは優しく笑った。


「わかってる」


 今日の姉ちゃんは、気合を入れた時の一張羅である特攻服姿だった。


 その場にそぐわない派手な刺繍が、今は妙に頼もしく見える。


「もう、我慢しなくていいんでしょ?」


 姉ちゃんの言葉に、僕は子供のように頷いた。


 甘えるように身を任せると、姉ちゃんの手が僕の頭を優しく撫でる。


 あのパワーはどこから出るのか?と疑問に思う程の、細く柔らかい指先。


 温かいその感触が心地よかった。


 しばらくして、少しだけ冷静になった僕の頭に恥ずかしさが込み上げる。


 僕は顔を真っ赤にして、姉ちゃんの体から離れた。


 心を落ち着かせるために、念のためとスキル欄を開いて確認する。


 そこには、信じられない記述があった。


『ログアウト・Lv7:毎日一時間、元の世界に帰還する。帰還人数を三名まで拡張。外部音声の聴取、三名に限り共有空間に招待することが可能。共有スペース内でのスキル使用を許可』


 レベルは、いつの間にか7に戻っていた。


「えっ、姉ちゃん!凄いよ、まだログアウト使えるって!」


 僕は跳ね上がるように叫んだ。


「しかも三人までだから、後二人も同行できるってさ、二人も!」


 本来の僕。


 ただの引きこもりだった弱虫な僕に戻って、はしゃぎながら説明していた。


 姉ちゃんもその報告を聞いて、驚きながらも笑顔を見せてくれた。


「ほんと、やったね竜ちゃん!じゃあ明日……、伊織ちゃん連れてきなさい!絶対よ?」


 姉ちゃんの目が、獲物を狙う猛禽類のように鋭く光る。


「姉ちゃん、どんな子なのか、じっくり確認しなきゃならないからね?」


 凄まじいプレッシャーを感じて、僕の頬を冷や汗が伝う。


「さ、さあ、久しぶりに、情報を拾っておこうかな?」


 僕は逃げるようにして、起動したままのPCに向かった。


 そこには、膨大な数のコメントが流れ続けていた。




『おめでとう!』


『よくやった黒木!』


『俺様な黒木も、泣き虫黒木も大好きよ!』


『信じてたぜ!』


『伊織ちゃんのことは許してないけどな!』


『でもあの様子みるかぎり、全部演技だったんだろ?』


『それな!俺は最初から信じてたし!』


『黒木神、降臨!』


『まだログアウト自体は使えるっぽ?』


『おお! 同行者有りか! んで、さっそく姉が姑と化して……』


『黒木ー、とうとう擁護板の存在、知らんで終わったな』


『あっちでは黒木のこと、早い段階から応援してた奴も多かったしな』


『俺はそこの常連だからな! 最初から応援してた! ほんとだぞ?』




 画面の端に、気になる単語を見つけた。


 そこに貼られた『擁護板』というタイトルのURLを、僕は吸い寄せられるようにクリックした。


 掲示板のスレッドが開き、膨大な過去ログが目の前に現れる。




『いえーぃ!黒木、完全攻略成功!』


『朗報、俺様の仮面、遂に脱いでむせび泣く』


『信じてたぜクロちゃん!』


『くろちゃんです!』


『やめーい!それ違う人ー』


『さて、黒木は誰とくっつくの?』


『いや、普通に美織ちゃんだろ?』


『美咲のあの体……』


『隠者は夜に忍び込み……』


『嫁「ダメー!」』


『伊織ちゃん乙w』


『やっぱ美織ちゃんや美咲ちゃんは、黒木に襲われてなかったってことでおk?』


『美織ちゃんも、全部終わってから急に普通に会話してたしな』


『そもそもあれ、美織ちゃんから押し倒した感じだし』


『殺してやるーと言いながら、黒木を押し倒す美織っち』


『まあなんだ。幸せになれよー! 黒木ー!』




 スレッドを遡ると、僕が「俺様」を演じていた初期の頃から、僕の意図を察して応援してくれている書き込みがチラホラあるようだった。


 僕が孤独に戦っていると思っていた時も、画面の向こうには味方がいたのだ。


 なぜ僕はそれを見つけられなかったのか……。


 そもそも、僕のあの行動に意味が無かったようにも思えた。


 でも僕は、それを見て、また涙があふれてしまった。


 時間の許す限り、過去の書き込みを読み漁る。


 あまりにも早い段階で僕の「素」が見抜かれていることに、猛烈な恥ずかしさが込み上げる。


 それでも、胸の奥が温かい何かで満たされていくのを感じた。


 やがて、終了の時間が近づき、僕は姉ちゃんの方を見た。


 姉ちゃんは薄らと涙を溜めながらも、凛とした表情で立っている。


 僕は軽く手を上げた。


「じゃあ、また明日」


「うん、行ってらっしゃい!」


 姉ちゃんの力強い送り出しの言葉を聞きながら、僕は光の中に消えた。


 そして、拠点へと戻った瞬間、体に重い衝撃を受けて僕は倒れ込む。


 耳元で、激しい泣き声が聞こえた。


「ぐろぎぐーん、一緒にがえっちゃっだどおもっだー、うわーん、よかったよぉー!」


 藤田さんが僕にしがみつき、顔をぐちゃぐちゃにして泣いている。


 他のメンバーも、安堵と驚きが混ざったような顔で僕を囲んでいた。


「こ、ごめんよ。ごめんて。まさか一緒にログアウトするなんて思わなくて」


 僕は彼女の背中をさすりながら、必死に宥める。


「でもさ、無事、戻ってくることができたんだ。それに、今度は一緒に行けるよ」


「へ?どういうこと?」


 泣きじゃくっていた藤田さんが、不思議そうに顔を上げた。


「今度は三人で、同行者を二人、連れていけるんだって!」


「ほ、ほんとか黒木!」


 酒井くんが弾かれたように、僕に縋りつくようにして横に来た。


 彼の目にも、隠しきれない涙が浮かんでいた。


 それから、ようやく落ち着きを取り戻したみんなと話し合いを再開する。


 毎日のログアウトを利用して、ローテーションを決めて日本へ帰ることになった。


 明日の同行者は、もちろん藤田さんだ。


 笹田さんと井上さんも同行したいと言っていたが、まずは藤田さんを優先させて欲しいとお願いした。


 彼女の両親も、きっとこの中継を食い入るように見てくれているはずだ。


 明日は、僕がその再会を見守る番だ。


 そんな明日を控え、僕は興味津々で僕を見つめる酒井くんたちに、一週間前は伝えていなかった、これまで隠してきた秘密をすべて白状することにした。



◆◇◆◇◆



――― バルド領内・黒木商会ブラックマーケット


 黒木商会の本部にある会議室に、各店舗の代表たちが集まっていた。


 室内には、どこか寂寥感が漂っている。


「琴音店長、もう帰っちゃったのかな?」


 ポツリと漏らしたのは、調剤薬局の新しい店長だった。


 彼女も琴音と同じ薬師の天賦を持っており、師と仰いでいた存在がいなくなった穴の大きさを感じていた。


「私だって、可憐さんがいなくてやっていけるかどうか、不安しかないよ」


 ブティックの新しい店長を務める女性が、自嘲気味に笑う。


「でもさ、やるしかないんだって。あれだけ丁寧に教えてもらって、資料もいっぱい作ってもらったんだから」


 彼女は不安を振り払うように、瞳に強い意志の光を宿した。


「そう言えば、イトー商会の人も手伝ってくれるんだろ?」


「黒木さんと同郷なんだろ。あの大商人の伊藤さんって」


「そうみたいだね。販路も万全みたいだし、あとは僕たちが、今まで通りしっかりと動くだけなんだよな」


 代表たちは互いに顔を見合わせ、頷き合う。


 去っていった者たちへの寂しさは、消えることはない。


 けれど、託されたこの場所を守り、発展させるという情熱が、彼らを突き動かしていた。


 新たな体制で頑張ろうと、誰もが息巻いている。


 近い将来、この場所が王国一の巨大マーケットへと成長することを、この時の彼らは……、ほんの少しだけ確信していた。


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