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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第五十五話「やれー、やっちまえー。さっさと終わらせろよー」


 五月も中盤に入ったある日の早朝のことだった。


 王都にある僕たちの拠点に、招かれざる客がやってきた。


 ダンジョンへ向かおうとしていた矢先のこと、入り口の扉が音もなく開き、一人の男が悠然と中に入ってくる。


 エメラルドグリーンの長い髪を靡かせた男だった。


 その瞳には、僕たちを見下すような冷ややかな光が宿っている。


「ここにいると聞いたからな。クライアントからは、拠点を破壊はしないようにと言われている。今すぐ前回戦ったあの場所に来い」


 男は事務的な口調でそう言い放つと、背を向けて歩き出した。


 逆らう選択肢など、今の僕たちにはないし、新たな力を試す機会でもあった。


 僕は鬼竜四号を肩に担ぐようにして、静かに男の後を追った。


 すぐさま飛び去った男を見送った後、三人で転移陣を使い長屋街へと飛ぶ。


 すぐそばの荒野へと移動した。


 そこには、あの赤髪の男が立っていた。


 それだけではない。


 少し離れた場所に座り込む青い髪の男と、金髪の男もいた。


 赤、緑、青、金。


 あまりにもカラフルな髪を持つ男たちが揃っている。


 適当にキャラ設定をしたであろう神の様子を想像し、少しだけだが苛立ってしまう。


 周囲には、緑髪の男の放つ刺すような殺気と圧倒的な魔力が渦巻いていた。


 普通なら、ここで絶望を感じて動けなくなるだろう。


 しかし、僕は精いっぱいの虚勢を張り、皮肉を口にする。


「信号機かよ。なんたら戦隊か?一人足りねーぞ、ブラック連れてこいよ」


 僕はわざとらしく鼻で笑ってみせたが、四人はそれに反応を示さなかった。


 すでに酒井くんたちもその場に待機していた。


 戦闘に参加する意思のあるクラスメイトたちが、武器を手にその場に集結していた。


「これで全員か!」


 緑髪の男が、僕らの方を向いて尋ねる。


「そのようだな。逃げ出した鼠はいないようだ」


 赤髪の男が、冷酷な笑みを浮かべて頷いた。


「さあ、狩りを始めよう。人族の分を分からせてやる」


 赤髪の男がそう告げた瞬間、戦いの火蓋が切って落とされた。


「お前の相手は俺だ!」


 緑髪の男が酒井くんに向かって雄叫びを上げながら迫る。


 藤田さんには、酒井くんに加勢するようにアイコンタクトを送る。


 僕の前には、赤髪の男が立ち塞がる。


 他の二人は、戦う気すらなさそうだった。


 金髪の男は、地面に尻をつけ座り込んでいる。


「やれー、やっちまえー。さっさと終わらせろよー」


 どこから出したのか、串に刺さった肉を食いながら、無気力な声援を送っている。


 この状況で飲み食いするその姿に、苛立ちを覚える。


 その隣では、青い髪の男が胡坐をかいて顔を下げていた。


 寝ているのか、瞑想しているのかはわからない。


 だが、今は彼らにちょっかいを出すべきではない。


 少しでも油断し、早々に二人を片付けておきたいのが本音だ。


 僕は目の前に立つ、名も忘れた赤髪の男に視線を戻した。


「死ね、人族」


 赤髪の男が、右手を軽く振るう。


 それだけで、大気を切り裂くような不可視の衝撃が飛んでくる。


 僕はそれを避けながら、魔導袋から取り出した強化剤を飲み干し叫ぶ。


狂戦士(発狂しろ)!」


 心臓の鼓動が激しくなり、視界が赤く染まる。


 腹の底から湧き上がる破壊衝動を剥き出しにする。


「うおぁーーーっ!!!」


 僕は咆哮し、鬼竜四号、村雨を強く握る。


 魔力を限界まで込めると、刃から黒い陽炎のような魔力が立ち上る。


 男の手刀を村雨の腹で受け流し、そのまま踏み込んだ。


 赤髪の男は、冷静に指を弾いて雷撃を飛ばしてくる。


 以前の僕なら、これだけで手も足も出なかっただろう。


 だが、今の僕には見切りのスキルに反応できる身体能力がある。


 極限まで高められた警戒心が、能力を向上させた僕の肉体に驚くほど馴染んでいた。


 雷撃の軌道を予測し体をそらす。


 以前は見えても体が追いつかなかったが、今は違う。


 僕は最小限の動きで雷撃を躱した。


 そのまま村雨の刃先の行方を変え、男の足元を薙ぎ払う。


 男は軽々と跳躍してそれを避けた。


 僕は着地の瞬間を狙い、右足に雷撃の魔力を込めて追撃を放つ。


 しかし、その蹴りは男の足の裏で完璧に止められた。


 バリバリという激しい音と共に、強い衝撃が僕の足を襲う。


 だが、それと同時に男の表情に驚きが走ったのを、僕は見逃さなかった。


 反動を受け、一歩後ずさる赤髪の男。


 以前は一方的に弄ばれた僕が、今は彼の攻撃を凌ぎ、反撃を当てようとしている。


 その事実に、僕は少しだけ安堵した。


 まだやれる。


 再び両足に力を込め、追撃をするために距離を詰めた。


多重斬撃(フルバースト)


 溢れ出る破壊衝動に身を任せ、村雨による幾重もの斬撃を叩き込む。


 黒い閃光が、網の目のように男を包み込んだ。


 打ち込むたびに金属音が響き渡る。


 しかし、その斬撃のほとんどは、男の周囲にある見えない障壁にかき消されてしまう。


 それでも、完全に無効化されているわけではなかったようだ。


 障壁を乗り越え切り裂く手ごたえを感じ、男の服の袖が僅かに裂けている。


「ちっ」


 僕は舌打ちをしながら距離を取り、乱れた呼吸を整える。


 すぐに背後から、宇野くんと宍戸くんの援護のスキルが飛んできた。


 思考が少しだけ冷静さを取り戻す。


 視界の端で、酒井くんたちの様子を確認した。


 緑髪の男を相手に、酒井くんと藤田さんがうまく連携して戦っている。


 ランキング報酬で能力を高めた二人は、驚くほど善戦していた。


 酒井くんの重い一撃を緑髪の男が防ぎ、その隙を藤田さんの短刀が急所を狙う。


「よそ見とはな」


 赤髪の男の低い声が、耳元で聞こえた。


 反応が遅れる。


 僕は反射的に、村雨の刃を前に突き出した。


 キン、という高い音と共に、村雨を持つ手が大きく跳ね上げられ、体勢が崩れた。


 目の前には、掌をこちらに向け魔力を集中させている赤髪の男。


「人族風情が」


 男が一撃を放とうとした、その瞬間だった。


 男の背後に、気配を完全に殺していた笹田さんが姿を現した。


 彼女は男の肩に、何枚か重ねられた爆札を素早く貼り付けた。


 すでに魔力は込められているようで、光を放っている。


「離れて!」


 彼女の叫びを聞く前に、僕は全力で後ろに飛んでいた。


 次の瞬間、男の肩で爆札が爆発した。


「ぐっ……!」


 爆煙の中から、赤髪の男が顔を顰めて現れる。


「卑怯者め。隠れて不意打ちとは、人族らしい浅ましさだ!」


 男のその言葉に、怒りを感じる。


「卑怯だと?理不尽に殺しに来た連中が、よくもそんな口が叩けるな!」


 湧き出る怒りを燃料に変え、次の攻撃を叩きつけるために地面を蹴った。




 それから、どれほどの時間が経っただろう。


 僕たちの体は傷だらけになっては回復薬を浴び、精神疲労が蓄積し続ける。


 足取りは重くなり、呼吸は荒く、立っているのが精一杯の状態だった。


 強化剤の効果も切れ、全身が鉛のように重い。


 酒井くんも藤田さんも、肩で息をしながら武器を構え直している。


 一方で、敵の二人は余裕のある表情を浮かべていた。


 あれだけ攻撃を叩き込んだのに、彼らには決定的なダメージが入っていない。


 赤髪の男が、僕たちを見下ろしながら静かに口を開いた。


「驚いたな。短期間でここまで強くなっているとは。王族が警戒するわけだ」


 男の瞳に、初めて僕たちを敵として認識するような色が混じる。


「良いぞ。殺すには惜しい。時にお前たちは、不思議な術を使うと聞いている」


 男は顎に手を当て、何事かを確認するように問いかけてきた。


「もう少し待てば、お前たちはまだ強くなれるのか?どうなんだ?」


 その言葉を聞いて、僕は理解した。


 こいつらはただの執行人ではない。


 強い相手と戦うことを悦びとする、戦闘狂なのだ。


 僕は唇の端を吊り上げ、ハッタリをかますことにした。


「ああ、その通りだ。俺たちは、月の終わりに貰える特別な力があってな」


 僕は重い腕を上げ、男を指差した。


「来月にはまた、今の何倍も強くなるって寸法だ。多分、来月にはお前たちなんか、俺様一人で相手できるぐらいになっちまうぜ?」


「人族風情がっ!その減らず口、今すぐ引き裂いてやる!」


 緑髪の男が顔を真っ赤にして激昂し、武器を構える。


 だが、赤髪の男は冷静だった。


 彼は手を挙げ、緑髪の男を制した。


「本当なんだな?」


「本当だ。それとも、怖くなって今すぐ俺様を殺すか?」


 僕はわざと挑発するように、笑ってみせた。


 赤髪の男は、しばらく僕をじっと見つめていたが、やがてフッと口角を上げた。


「面白い。ならば、その力を完成させてから喰らってやろう」


 男は仲間に目配せをし、背を向けた。


「来月の始まりの日にまた来る。美味しく食せるよう、身綺麗にして待機しておれ」


 その言葉を最後に、赤髪の男は空中に跳び上がった。


 緑髪の男も忌々しそうに僕らを睨んだ後、彼に続く。


 座っていた金髪の男と、寝ていた青髪の男も、いつの間にか姿を消していた。


 彼らの気配が完全に消えたことを確認した瞬間、僕の膝から力が抜けた。


 地面に手をつき、荒い呼吸を繰り返す。


「ははっ、助かったのか」


 酒井くんが、力なく笑いながらその場に座り込んだ。


 クラスメイトたちの間にも、安堵と困惑が広がっている。


 どうやら、来月も蘇生どころではないようだ。


 神の報酬をすべて自分たちの強化に回さなければ、次は本当に殺される。


 だが、絶望だけではない。


 今の僕たちでも、油断している奴らになら一太刀報いることができると分かった。


 今のうちに、もっと、もっと強くならないと……。


 そう思い、震える手で村雨を握り直した。


 奴らが再び現れるまでの猶予は、あと一ヶ月。


 その間に、想像を絶するような高みへ到達してみせる。


 僕は空を睨みつけ、次の戦いへの決意を固めた。


 立ち上がるための力はまだ戻らないが、心の中の炎は、激しく燃え上がっていた。


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