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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第五十話「意外と鬼畜なんだって聞いたよ?」


 事の発端は、僕が久しぶりに長屋街を見物に行こうと思い立ったことだった。


 内心ではワクワクしながら、以前よりもずっと賑やかになった大通りを歩く。


 すれ違うクラスメイトたちの反応は様々だった。


 僕に冷たい視線を向ける者もいれば、恐怖で身をすくませる者もいる。


 その一方で、感謝の表情を浮かべて笑顔で手を振ってくる者もいた。


 僕はあえて各店舗に立ち寄り、横柄な態度で俺様ロールを繰り返した。


 並んでいる商品を断りもなく勝手に持ち去り、ヘイトを貯めるための小細工を重ねる。


 周囲の反感を感じ取りながら、僕は心の中で謝り倒していた。


 その後、長屋街の運営本部へと向かった。


 豪華なソファにだらしなく座り、岡崎くんから現状の報告を受ける。


 こちらの世界の人たちも、かなりの数を雇い入れているようだ。


 この街が順調に市民権を得ている現状を知り、胸が熱くなった。


 報告が終わると、僕は一人で関係者専用の浴室へと向かった。


 シャワーを浴びながら、こみ上げる嬉しさを抑えきれずに呟く。


「ホント、良かったー!」


 計画通りに進んでいる喜びを、湯気の中で存分に噛みしめた。


 さっぱりした気分で脱衣所に戻り、服を着終えた時のことだった。


 不意に脱衣所のドアが開き、彼女が入ってきた。


 最近この街で流行り始めた、白シャツにタイトスカートという装いの井上さんだ。


 どこかのオフィスにいる秘書のような姿で、なぜか彼女は満面の笑みを浮かべていた。


 予想外の事態に、僕は思わずその場で固まってしまった。


「使用中だ!見てわかんねーのか?さっさと出てけ!」


 かろうじて絞り出した言葉を、彼女は気にせる素振りもなく一歩前に進む。


「ねえ、黒木くんって、みんなを生き返られせ、この街を作って、ボスとして君臨してるんでしょ?」


 彼女のその言葉を聞きながら、戸惑い乱れていた僕の思考が、ゆっくりと回復しはじめた。


 僕はいつものように俺様の仮面をかぶり、威圧的な態度を演じてみせた。


「あ?それがどうしたってんだ。それより、こんなところまで来やがって、何されても文句はねーってことか?」


 ほんの一瞬、怯むような素振りを見せた井上さんは、すぐに笑顔へと表情を変えた。


 今は『神フラッシュ』の最中なので、この様子が地球に配信されることはない。


 だが、彼女に弱みを見せるわけにはいかない。


 彼女は良き協力者になりえないと感じ、打開策を考える。


 僕は、徹底して悪役を演じ続ける必要があると判断し、身構えた。


「ねえ、何かしたいって……、思ってくれるの?」


 そう言って、神妙な面持ちになった彼女が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。


 表情がコロコロ変わり、言いようのない恐怖を感じた。


「はっ、何言ってんだ!」


 彼女の意図が読めずに戸惑いながら、両手を広げて呆れたポーズをとる。


「こんな、汚い私に……、何か、してくれるの?」


 彼女が寂しそうな顔を浮かべ、ぽつりと漏らした言葉に、僕は何も返すことができなかった。


「黒木くんはあっちに……、日本に帰れるんでしょ?むこうでは、私たちの生活が中継されていて、そして……、私に何があったかも、黒木くんは全部、知ってるんだよね?」


 その瞬間、僕の心の底からどす黒い憎悪が湧き上がった。


 あの凄惨な事件で彼女が味わった恐怖、尊厳を奪った者たちへの激しい怒りが再燃する。


「ねえ、私、黒木くんのことをみんなから聞いたの。昔、黒木くんに酷いことをしたでしょ?それなのに、黒木くんは私を救ってくれた。私、今更ながら感謝してるんだよね」


 蘇生させてからの彼女は、依然と変わらずの酷い態度だった。


 でも、目の前位にいる今の彼女が、初めて反省の言葉を口にしたことに驚いていた。


「黒木くん、あのさ……、遅くなっちゃったけど、ありがとう」


 そう言って恥ずかしそうに笑う彼女から、僕はたまらず目を背けた。


 僕をそんな目で見ないで欲しい。


 僕が全員を生き返らせようと思っているのは、一人だけ便利なスキルを貰ってしまい、楽に力を得ることができたことへの詫びなのだから。


 言いようのない罪悪感を抱えながら心苦しく感じている中、彼女はそっと僕の胸に指をそえた。


「だから、お礼がしたいの。私、頑張ってるよ?回復薬も強化薬も、寝ずに作り続けているの!いっぱい稼いで、黒木くんも恩返しがしたいから。だって、私にはそれしかできないから……、心も、体も、汚れてるから……」


「汚れてなんかねー!」


 悲しげに俯く彼女を見て、僕は反射的に叫び、彼女の肩を掴んでいた。


「お前は汚れてなんかねーよ!あれは全部、村の連中が悪いんだ。お前は何も悪くねー。それに、今の体は神が復活させた真っ新な体だ!汚れてなんかねーんだよ!無駄な心配してんじゃねーよ!」


 自分でも混乱しているのが分かったが、吐き出す言葉を止められなかった。


 冷静な心は、今は完全に崩壊していた。


「じゃあ……、私を抱ける?」


 唐突な問いかけに、僕の思考はまたも完全に停止した。


「やっぱり、嫌だよね?」


 沈黙の後、泣き出しそうな彼女の顔を見て、僕の口が勝手に動いた。


「い、嫌じゃない!」


 否定したものの、そこから先はどう動けばいいか分からない。


 対照的に、井上さんは嬉しそうに表情を輝かせ、僕に体をよせる。


 強い力で押され、僕は床に押し倒された。


 既視感を感じる中、僕の上に跨った彼女が、楽しそうに笑う。


「ねえ、藤田さんともやってるんでしょ?黒木くん、意外と鬼畜なんだって聞いたよ?」


 胸に手を置く彼女の掌から熱が伝わり、僕の鼓動は異常なほど早くなった。


「ねえ、黒木くんがどんな****をするのか……、私、気になるなー」


 彼女はそう言うと、シャツのボタンを一つ外した。


 艶っぽい笑みを浮かべて舌を出す彼女。


 僕は必死に逃げる口実を探したが、どう切り抜けていいのか分からなくなってしまう。


「ねえ、黒木くん、緊張してる?」


 鈴を転がすような、甘く、それでいて逃げ場を塞ぐような声。


 また一つ、ボタンを外す彼女を見て、僕はついに観念した。


 僕はガバッと体を起こすと、彼女を強引に押し倒す。


 そして、飛び跳ねるような勢いで後ずさりし、そのまま床に頭をつけた。


 完璧なまでの土下座だった。


「ごめん!全部、嘘なんだ!」


 僕は震える声で、今までの自分の行動、目的、そして隠してきた全てを彼女に告白し始めた。



◆◇◆◇◆



――― ルミナス王国王城


 王城の奥深く、窓のない暗い部屋で一人の男が椅子に深く腰掛けていた。


 この国の第一王子、ラルサンズ・デ・ルミナスである。


 彼は本来であれば、輝かしい未来を約束された次期国王として君臨するはずだった。


 だが今、彼の眼光は苛立ちと憎悪で濁っている。


 ラルサンズは呼びつけていた外交大臣に対し、低い声で問いかけた。


「計画はどうなっている。進行状況を報告せよ」


「はっ。聖天教会からの支援は無事に取り付けました。代償として、かなりの国庫を削る高い買い物となりましたが……」


「構わん。この国が連中に乗っ取られ、私の地位が脅かされるよりはマシだ」


 ラルサンズは吐き捨てるように言った。


 彼はテンセイシャと呼ばれる集団に媚び諂い、彼らを野放しにしている父王を既に見限っている。


 たとえ一時的に国力が衰退しようとも、自身が頂点に立つ時に邪魔な存在がいることは、どうしても許せなかった。


 特に、黒木と呼ばれる青年が率いる一団の台頭は、彼のプライドを激しく逆なでした。


 その対抗手段として選んだのが、大陸最北端に位置する聖天教会の戦力だった。


 聖天教会は、表向きは海に近い極寒の地で祈りを捧げる修道僧の集まりだ。


 だがその実態は、凶悪な犯罪者たちが送られる過酷な流刑地であった。


 そこでは神の裁きという名の下に、日々凄惨な処刑が繰り返されている。


 修道僧たちは、流刑地にある唯一のダンジョンで、血生臭い修行を積んでいた。


 彼らは強さを売りにした犯罪者たちの命を、神への祈りと共に効率よく刈り取る。


 この世界には、魔物よりも人間を殺す方が遥かに効率よくレベルを上げる仕組みがある。


 特に、魔物を狩って魂を磨き上げた強者を殺すほど、奪える力は強大になる。


 その血塗られた歴史の中で、突出した力を持つ四人の美しい修行僧がいた。


 彼らは「四聖」と呼ばれ、彼らを知る一部の権力者から恐れられている。


 その正体は、数百年という長き(トキ)を生きてきた「エビルエルフ」という、長命種族の生き残りであった。


 彼らは罪人を殺すだけでなく、その臓物を喰らうことで能力を完全に奪い取ってきた。


 また、金で奴隷達を買い集め、ダンジョンで命と引き換えに魔物を狩らせたりもした。


 その成果が頂点に達した瞬間にその者を屠り、その臓物を喰らい、その血を浴びた。


 道徳や倫理などは微塵もなく、ただ己の能力を高めることだけに執着する怪物たちは、権力や富には興味を抱かず、己の強さと、そして美に対する探究のみに明け暮れていた。


 王太子ラルサンズは、この四聖に対し、長屋街に「未知の強者」がいると伝えた。


 さらに莫大な報酬を提示し、それらを完全に駆逐するという契約を交わしたのだ。


 ラルサンズは暗闇の中で、邪悪な笑みを浮かべた。


「残り少ないその命、今は謳歌しているがいい……、奴らを殺し、この国に平穏をもたらるのは私だ!」


 何も知らずに平和を享受するテンセイシャたちに、死の影が確実に迫っている。


 強欲な王太子と、血に飢えた四聖。


 その結託が、彼らに新たな悲劇を招こうとしていた。


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