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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第四十六話「ご一緒にポテトもいかが?ってやりたかったのに」


 薄暗いダンジョンの奥底で、僕は一人、魔物を狩り続けていた。


 次々と現れる魔物たちは、今の僕にとっては羽虫にも等しい存在だった。


 手応えのない作業のような狩りを繰り返し、気づけば一夜が明けていた。


 時刻を確認すると、日が昇るには少し早い時間帯。


 僕は予定よりも少し早めにダンジョンを抜け、宿へと戻ることにした。


 宿の部屋へと戻り、ログアウトを発動する。


 視界がホワイトアウトし、次の瞬間には見慣れた室内の景色に切り替わる。


 鼻を突くのは、異世界の乾燥した空気ではなく、自室の少し濁った匂いだった。


 正面の常に開け放たれているドアの所には、いつものように姉ちゃんがこちらに笑顔を向けて立っていた。


 今日は某コンビニの制服のようにみえる。


 そこで調達したのか不明のその姿で、手にはトングを持っている。


 僕は姉ちゃんを部屋に招き入れると、残念なことにトングは床に放置する結果になった。


「ご一緒にポテトもいかが?ってやりたかったのに」


「姉貴、それはコンビニじゃねーだろ?」


 そんなたわいのない言葉を一言二言交わした後、僕はPCで情報を確認する。


 その間、姉ちゃんは僕のベッドの端に腰掛け、黙って僕の様子を観察している。


 掲示板は相変わらず僕への罵詈雑言で埋め尽くされている。


 その様子に安堵する。


 その奔流のような悪意の中に、一つだけ気になる書き込みを見つけた。


『黒木は王都で池垣たちに返り討ちにあえばいい!』


 その一文に、心臓の鼓動が少しだけ速くなるのを感じた。


 慌てて王城のある場所をマップで確認し、クラスメイトたちの動向を探った。


 昨日までは誰もいなかったそこには、五人のクラスメイトの名前があった。


 リーダー格である池垣くんの活動ログを確認する。


 彼は昨日の夜、王国の騎士団に士官したというポイントが記録されていた。


 さらにログを読み進めると、王家が管理する「最古のダンジョン」への侵入ログまでもが残っている。


 彼らは、僕らと同じようにやってきたであろう騎士団たちの誘いに乗り、王国の兵力として取り込まれてしまったようだ。


「馬鹿な奴らだ。このタイミングで俺様の前に立ちはだかるなんて。ギタギタにして泣かしてやるぜ!」


 僕は努めて明るく、楽しそうな口調で言い放った。


 背後で姉ちゃんが「ふふっ」と小さく笑う。


 しかし、僕の内心は穏やかではなかった。


 非常に面倒なことになったと考えていた。


 この五人は、バルドには来なかったグループだ。


 ランキングも低く、戦力として障害になるとは思っていない。


 けれど、顔見知りと敵対するのは、やはり精神的につらいものがある。


 それでも、僕は止まるわけにはいかない。


 王家を屈服させるためには、彼らごと踏み越えていく必要がある。


 僕は自分に言い聞かせるように、彼らのログをじっと見つめ続けた。


 時間が来ると、僕は再び意識を異世界へと戻した。


 宿の部屋に戻ったが、約束の時間まではまだ少し余裕がある。


 僕は火照った体を冷やすために、乱暴に装備を脱ぎ捨てると冷たいシャワーを浴びた。


 冷水が頭から滴り、思考を強制的にクリアにしていく。


 また、クラスメイトと対立することになる。


 あの五人は、僕がいじめを受けていた時、遠巻きに見ながら笑っていた連中だ。


 助けてくれるわけでもなく、かといって積極的に加担するわけでもない。


 ただ、僕の苦しみを娯楽として消費していたグループだ。


 そんな彼らが、今の僕の言うことを素直に聞くはずがないと思ったが、考えてみればすでにレイド戦で圧倒的な力を見せた僕の姿を見たはずだ。


 大丈夫。


 なんとかなる。


 それでも前に立ちはだかるのなら、彼らに僕の圧倒的な力を見せつけなければならない。


 彼らの手足を折り、戦意を完全に砕かなければならない。


 そう考えると、胸の奥がぎゅっと締め付けられ、息苦しさを感じてしまう。


 僕は水をかぶりながら壁に手を突き、その苦しみを吐き出すように叫んだ。


 声は狭い空間に反響し、消えていく。


 僕はまだ立ち止まることはできない。


 僕がみんなの安全を確保し、いつか日本への帰還を実現させなくてはならない。


 それはきっと、僕にしかできないことだ。


 使命感のような重い感情を心に深く刻みつけ、内側から湧き出る苦しさを強引に誤魔化した。


 シャワーを止め、乱暴に体を拭くと支度を終わらせる。


 部屋のドアを開けると、そこにはすでに全員が集合していた。


 藤田さん、佐々木くん、笹田さん。


 そしてベガルタたち三人の深淵の王国騎士。


 その背後に、見慣れない二人の中年男性の姿があった。


 二人はこちらを窺うように、床に正座させられている。


 グイードが冷たい声で、その二人を紹介した。


「黒木様、こちらが我が部下、竜騎士の二人でございます」


 紹介された男たちは、どこか僕を侮るような視線を向けていた。


 子供一人に何を大げさな、と言いたげな、やや反抗的な態度だ。


 僕はその視線に応えるように鼻で笑い、威圧的な態度で彼らを牽制した。


「俺様の足を引っ張るようなら、その首を竜の餌にするぞ。分かったらさっさと案内しろ!」


 僕たちは宿を出ると、手配していた馬車で街外れの開けた場所まで移動した。


 竜騎士の二人が空に向かって指笛を鳴らし、合図を送る。


 すると、はるか上空から巨大な影が二つ、猛スピードで舞い降りてきた。


 飛竜。


 その灰色の肌は、元の世界でワイバーンと呼ばれていた架空の生物にそっくりの姿だった。


 近くで見ると、その巨体と鱗の硬質感に圧倒される。


 見送りに出てきた佐々木くんたちも驚いているようだ。


 二人の竜騎士はそれぞれの相棒であろう飛竜へと乗り込んだ。


「黒木様は、こちらへ」


 グイードに目の前の飛竜を指示される。


「美織、行くぞ」


 そう言いながら、僕は藤田さんと一緒にその飛竜に乗った。


 もう一頭には、ベガルタたち三人が、手慣れた様子で乗り込んでいた。


 飛竜の背中に跨ると、独特の獣臭と温かさが伝わってきた。


 竜騎士が短い合図を出すと、飛竜は力強く羽を広げ、ふわりと浮かび上がった。


 やはり異世界。


 物理的な羽ばたきではなく、魔法的な何かで飛ぶようだ。


 凄まじい勢いで、景色が小さくなっていく。


 風圧などは特に感じなかった。


 魔法的な何かで守られているのだろう。


 内心はそれらすべてに興奮しながら、僕たちは王都を目指し、一直線に飛び立った。




 雲を突き抜け、数時間の飛行を経て、巨大な城壁に囲まれた都市が見えてきた。


 この国の中心地、王都。


 飛竜は速度を落とすことなく、その中心を目指す。


 そして、高く聳え立つ城に接近し、そのまま王城の中庭へと急降下した。


 土煙を上げて着地した瞬間、周囲を無数の兵士たちが取り囲んだ。


 大きな盾を持つ部隊が、背後の魔導士と思われる風貌の者達を、守るように壁を作っていた。


 その少し前、最前線に池垣くんたちの姿があった。


「黒木……!?お前、何しに来たんだよ!」


 池垣くんが叫びながら戸惑うも、奥に控えていた男の「殲滅せよ!」という号令に従い、スキルを発動させようとする。


 他の四人も武器を構え、僕と対峙しようと動き出した。


 一瞬身が竦む様な圧迫感を覚えた。


 僕はため息をつき、一気に「狂戦士」のスキルを解放した。


 視界が赤く染まり、思考が加速する。


 池垣くんの天賦、死霊使いのスキルである「憑依」を、強制的に解除してみせた。


 動き出した僕の目には、兵士たちの動きが止まっているかのように遅く見えていた。


 一歩踏み出し、池垣くんの腹部に鬼竜二号で軽く打撃を叩き込んだ。


 続く一瞬で、残りの四人の武器を叩き折り、蹴りを放ち地面に転がした。


 悲鳴を上げる暇さえ与えない圧倒的な力による蹂躙。


 僕は狂戦士化した本能のままに獣のように吠える。


「や、やっぱり、レイドの時のあれは夢じゃなかったんだ!」


 地面に伏した池垣くんは、口から血を流しながら、怯えた表情で僕を見上げる。


 その目は、かつて僕を見下していた時の光を完全に失っていた。


 続いて王国の魔導師や騎士団の精鋭が魔法を放とうとする。


 僕はその面々を確認しつつも、その背後に控えていたのは、にじみ出る強者の風格から、深淵の残りの七人なのだろうと考え、警戒を強めた。


 そして、王国の魔導師たちが一斉に魔法を放つ。


 僕は鬼竜三号へと武器を持ち替えた。


 放たれた魔法による攻撃を、相棒を振り回し次々に食い尽くし、無効化していく。


 それを見た七人の男たちは前へ出る。


「やれやれ、役に立たないやつらばかりだな」


 その中の1人が、ため息まじりで呆れていた。


「それにしても、あの天下のベガルタ様も、今や冒険者のしもべかよ。嘆かわしいことだ!王国騎士の恥さらしめ。その恥、死して償いやがれ!」


 別の男がベガルタを罵倒する。


 そして、ゆっくりと前に出る七人。


 その彼らに対応するように、ベガルタたち三人も静かに前に出る。


 一触即発の空気の中、ベガルタが腹の底から響くような大声で吠えた。


 彼が放つ威圧感により、王国側からの攻撃はすべて無効化され、中庭は静寂に包まれた。


「無礼者共め。黒木様の前でなんたる暴挙、頭が高い!」


 続いてグイードが、冷たい声でそう言い放つ。


 七人は一瞬狼狽えはしたが、まあ戦意は消えていないようだ。


「ええぃ!何をしている、さっさと此奴らを血祭りにせんか!」


 奥から指示を出していた、豪華な装束を着た男が檄を飛ばす。


 次の瞬間、その男の背後には藤田さんの姿がみえた。


 男の喉元に短剣を突きつけている。


 男は顔を真っ青にし、ガタガタと震え始めた。


 藤田さんは、命乞いを始めた男を蹴飛ばし、地面へと転がした。


 それを見た兵士達は、緊張を見せながら後ずさり、僕たちに道を開けた。


 その中には、深淵と思われる七人の姿もあった。


 そのまま僕たちは、ベガルタたちに案内されながら城の心臓部である「玉座の間」へと踏み込んだ。


 そこには、震えながら椅子にしがみつく老王がいた。


 僕は不遜な態度で玉座の前に立ち、鬼竜三号の鎌先を王の鼻先に向けた。


「王様。あんたのところの連中が、俺様の財産に手を出したんだ。その落とし前を付けてもらおうか」


 冷たい脅迫に、王は屈服するしかなかった。


 僕は最古のダンジョンの自由な使用許可をその場で書面で出させた。


 さらに、城のすぐそばに僕たちのための拠点を設けさせた。


 一連の行動はスムーズに進んだ。


 僕らに逆らう者は誰もいなかった。


 その日から、僕たちの活動拠点は王都へと移った。


 飛竜の背に乗ってここまでやってきた竜騎士の二人も、僕に服従し、忠実な下僕として働くようになった。


 便利な足として利用させてもらおう。


 夕方にはバルドに残していた二人も連れて来てもらい、新たな拠点での修行を開始する。


 新たなダンジョンの入り口を前にして、僕は再び魔物を屠る作業に没頭することになる。


 このダンジョンの奥には、さらに謎が眠っているはずだ。


 僕は仲間たちと共に、最古のダンジョンへと足を踏み入れた。


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