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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第四十四話「そっちはハズレかよ。まあ、好きにしろ」

本日二話更新。一話目。

※2026/01/04 22:40 一部修正しています。


 視界が赤く染まっていた。


 激しい怒りに身を任せ、本能のままに動いていたようだ。


 不意に正気に戻ると、目の前には凄惨な光景が広がっていた。


 地面には切り落とされた足や手が転がり、そこから溢れ出した血が土をドス黒く汚している。


 先ほどまで余裕の笑みを浮かべていた男たちが、今は無様にのたうち回り、獣のような悲鳴を上げていた。


 こんなクズ、全員殺してしまえばいい。


 腹の底から湧き上がる殺意に従い、僕は一番近くにいた男の顔の横に突き刺さっていた鬼竜三号を引き抜いた。


 巨大な鎌の刃を高く持ち上げ、その首を刈り取ろうと振り下ろす。


 その刃と男の間に、音もなく人影が割り込んできた。


「黒木様、お待ちください」


 藤田さんだった。


「この者たちにも、利用価値があるのではないでしょうか」


 彼女の目は相変わらず無機質で、感情の色は一切感じられない。


 しかし、その色のない視線が、僕の脳に冷水を浴びせ、沸騰していた頭を少しだけ冷やしてくれた。


 僕を止めてくれた。


 その事実が、溢れる殺意に振り回されていた、僕の心に安らぎを与えてくれる。


 僕は舌打ちを一つして、乱暴に魔道袋から上級回復薬を数本取り出した。


「ちっ、さっさとこれを浴びろ!」


 倒れ伏す男たちに向けて、瓶を投げつける。


 割れた瓶から溢れた薬液が彼らの体に触れると、切断面から肉が盛り上がり、骨が伸びて失われた手足が瞬く間に再生していく。


 何度見ても、生理的な嫌悪感を催す不気味な光景。


 僕は再生が終わったばかりで震えている大男、ベガルタの前に立った。


「聞け。お前たちのせいで、俺様は貴重な下僕を一人失った。その落とし前は、お前たち全員で償ってもらうぞ」


 冷たく言い放つと、男はなぜか恐怖に顔を歪めるのではなく、わずかに口元を緩めて笑った。


 あまりの恐怖に気がふれたのか?


 そう思ったほどだ。


「黒木様の、仰せのとおりに」


 その絞り出すような言葉を聞き、僕は一応の服従の意思を確認した。


 殺さなくて良かった。


 冷静になっていく脳内で、純粋にそう思った。


 それに、藤田さんの言うように、この男たちからは情報を引き出さなくてはならない。


 二度と僕たちにちょっかいを掛けられないように、今回のことを主導した人たちには黙ってもらう必要がある。


 それがたとえこの世界の王であったとしても、僕は止まるわけにはいかないんだ。


 最強の悪役。


 その俺様であれば、今回のことは絶対に許しはしないのだから。


 僕は、今回の騒動の全容を知るため、その後の処理を笹田さんに任せることにした。


「三号、こいつらの情報をすべて引き出せ。従わないならその首、落としていいぞ」


「わ、わかった」


 念のため、藤田さんと佐々木くんも同行させる。


 今の彼らの実力なら、心を折ったこの三人に遅れをとることはないだろう。


 この三人用に部屋を取って良いことを伝えると、藤田さんたちは、男たちが乗ってきた馬車に三人を乗せ、御者の男に命じ宿へと出発した。


 それを見届けた後、まだ震えて縮こまっている騎士団員を、瀬戸くんたちに任せた。


 改装前で空いている長屋にでも閉じ込めておけば良いだろう。


 殺されてしまった岡崎くんへの恨みから、瀬戸くんたち三人は冷たい目を向けながらその三人を引きずって行った。


 それを見送った後、僕はその場を後にして、再びダンジョンへと向かった。


 腹の中に残ったドロドロとした不快な感情を、魔物を殺すことでしか発散できなかった。


 深夜のダンジョンを、狂ったように突き進む。


 現れる魔物を片っ端から蹂躙し、壁を壊し、ただひたすらに下層へと潜り続けた。


 夜が明け、空が白み始める頃、僕はようやく落ち着きを取り戻して宿へと帰還した。


 自分の部屋の前に着くと、そこには昨日叩きのめした三人の男が、床に正座した状態で待っていた。


「入れ」


 短く命じて部屋へ入れると、待機していた笹田さんが僕に経緯を説明した。


 彼らは王国騎士団の最精鋭『深淵』に所属する『十傑』と呼ばれる者たちらしい。


 自分で名乗るには恥ずかしくなるような肩書きだと思い、豪快に笑ってみせる。


 さらに報告を聞くと、予想の範疇ではあったけれど、今回の指示はこの国の王からのものだった。


 僕たちの身の安全のため、関わった王族には、痛い目を見てもらわなくてはならない。


 クラスメイト全員の安全を維持するため、徹底的にやるしかないのだ。


 目の前で大人しく頭を下げている三人を、新たな下僕として組み込み、この腐った国と戦う駒にすることを決めた。




 それから数日が経過した。


 まだ不安はあったが、僕が攻略を進めている最下層へ三人も同行させた。


 だが、慣れない強敵を相手に、やや厳しい顔をしていた。


 そんな僕たちは、ついにこのダンジョンの奥深く、百階層へと到達した。


 もちろんまだ先がある可能性もある。


 そう考えながらも、守護者の部屋と思われる装飾が施されている重厚な扉を開ける。


 吸い込まれるように中へと入ると、広大な石室の奥に、不気味なオーラを纏った魔人が待ち構えていた。


 魔人は僕たちの姿を見るなり、耳を突き刺すような高笑いを上げた。


 次の瞬間、詠唱もなしに次々と巨大な火球や氷の礫を放ってくる。


「うっせー!黙って死ねっ!」


 僕は怒鳴りつけながら、迫り来る魔法の嵐の中へ飛び込んだ。


 手に持った鬼竜三号を横一文字に振る。


 死神の鎌を彷彿とさせるこの大鎌は、八十階層の悪魔を屠って手に入れた最高の相棒だ。


 魔力を込めれば込めるほど、その刃は鋭さを増し、物理的な物質だけでなく魔法そのものを切り裂き、吸収する特性を持っていた。


 僕は相棒を風車のように回転させ、魔人が放つ魔法を次々と無効化しながら距離を詰める。


 自分の切り札である魔法が通用しないことに、魔人が初めて怯えの表情を見せ、後ずさった。


「おおおおお!」


 背後から佐々木くんが雄たけびを上げ、盾を構えて突進しながら、僕を追い越すように横をすり抜ける。


 その突撃は魔人の腹部を捉え、壁際まで力任せに押し込んだ。


 佐々木くんが器用に横へ飛び退く。


 その隙間へ、僕は全力で相棒を横に振り抜いた。


 一撃。


 重厚な衝撃と共に、魔人の両足が膝から下で切断された。


 バランスを崩し手をついた魔人に対し、今度は左右から影が伸びる。


 左からは笹田さんの操る鋭利な糸が、右からは藤田さんの短剣による正確な一閃が、魔人の腕を切り落としていた。


 三方向からの同時攻撃を受けた魔人は、声を上げる暇もなく切り裂かれ、光の粒子となって消滅した。


 後に残ったのは、人の頭ほどもある巨大な闇の魔石だけだった。


 期待していた宝箱のドロップはない。


 だが、魔人が消えた壁の奥に、古びた扉が姿を現した。


「あ”?なんだ、まだ先があるのかよ」


 悪態をつきながら扉を蹴破り、中に入る。


 そこは十畳ほどの狭い小部屋になっていた。


 中央にある四つの石造りの台座の上に、それぞれ小さな小箱が置かれている。


「一人一つずつってことか?おい、お前らも取れ!」


 僕は目の前の箱を掴み、蓋を開けた。


 中に入っていたのは、質素な鉄の指輪が一つ。


 他の三人も箱を開けたが、中身はどれも同じような指輪だった。


「三号、見ろ」


 僕は笹田さんに指輪を差し出した。


 彼女は僕を一度鋭く睨みつけた後、最近習得した『鑑定』スキルを指輪に向けた。


「スキルアップの指輪。任意のスキルレベルを+1する。対象のスキル変更は一日に一回可能、です」


「おっ、当たりだぜ!これは使える」


 僕は迷わず指輪を指に嵌めた。


 強化対象には、もちろん『ログアウト』を選択する。


『ログアウト・Lv4:毎日一時間、元の世界に帰還する。外部音声の聴取、1名に限り共有空間に招待することが可能』


 どうやら時間が伸びただけのようだった。


 だが、いずれにしてもスキルレベルは上げていかなくてはいけない。


 舌打ちをしながら残りの三つの鑑定結果を確認した。


 残りの三つはそれぞれ、回避、速度、耐久の向上だった。


「そっちはハズレかよ。まあ、好きにしろ」


 僕は興味なさそうに言い、三人にそれぞれの指輪を使わせた。


 この階の報酬は、取得者がその瞬間に最も望んでいた能力、あるいはそれに準ずるものが反映される仕組みなのかもしれないなと考えた。


 結局、この先の階層は存在せず、その奥にあった魔法陣の描かれた床の上で魔力を放出すると、ダンジョンの入り口まで転移で戻ることができた。


 最下層である百階層の攻略。


 ギルドに伝えると、ギルド長が出てきて「情報を」と詰め寄られたので、それらは三人に任せ宿へと戻っていた。


 今後のことを考えなければならない。


 もうすでにあのダンジョンは修行にすらならない。


 新たな狩場が必要だ。


 そう思いながらもう一度ステータスを開く。


 指輪の効果により、僕の『ログアウト』スキルはレベル四へと引き上げられた。


 現実世界に戻れる時間は一時間にまで伸びた。


 しかし、一時間というその時間は、正直持て余す長さだなと感じた。


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