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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第四十二話「あんなもの、売れてるのか?」


 それから数日。


 ダンジョンへと通いつめ、階層を上げてゆく。


 そんなある日、岡崎からの報告を受ける。


 日本食の再現はかなり進んでいるようで、評判も上々。


 見本として持ってきた宇野くんの書いた読み物は、どこか聞いたことのあるものであったけど、この世界には無いのだから問題ないだろうと思った。


 それなりに売れているらしい。


 中島さんの見本誌については、岡崎くんが気まずそうに僕に手渡してきた。


 数ページ見た後、乱暴に投げ捨てた。


 予想はしていたが、冒頭から想像以上に濃いものだった。


 笹田さんから、中島さんは街の図書館で王族や貴族の歴史書を読み耽っていたと聞いた二日後には、創作意欲は溢れ24時間書き続けていると嘆いていた。


「あんなもの、売れてるのか?」


「それが、予想以上に問い合わせが多いようで、もっと数を売れ、続きを作れと。どうやらどこぞの貴族令嬢を中心に流行っているようで、早く読みたいと圧力もありました。今、複写スキルを持つ業者に頼んで増版してます」


 僕はそれに対して何も言えずにため息をついた。


 正直これで稼ぐ気は無かったけれど、高橋さんがまとめてくれた収支報告書も見ると、すでに初期投資の金貨一万枚を回収しそうな勢いのようだ。


 その成果にホッとする。


 もし帰還することが叶わずとも、そこに安全な街を作り上げさえすれば、彼らの身は守られるのだから。


 たとえ、僕が途中で死んだとしても。


「二十四時間、死ぬ気で働いて金を稼げと伝えておけ!」


 岡崎くんにそう伝え、またも修行の日々を過ごした。


 掲示板では案の定、「黒木の奴、生き返らせた奴らを奴隷にして荒稼ぎしてる」という批判が相次いだ。


 だが、その批判の熱量は以前より少しだけ落ち着いたようにも感じられた。


 それでも僕は、俺様を演じ続ける。


 もし僕がここで少しでも優しさや弱みを見せれば、必ず極一部のアンチたちがその隙を突き、最悪の事態だって招きかねない。


 今はまだ、僕が全てのヘイトを一身に浴び、盾となるべきだ。


 姉ちゃんも、悟さんたちも、警察も、僕を「危険な存在」として強く認識している視聴者の暴走に、充分に警戒をし続けてほしい。


 そのために僕は、視聴者を煽り続けるのだ。


「新たな下僕は金になるな!寝ていても金が増えてゆく!俺様の才能が怖いぜ!ああ、笑いが止まらんわ!」


 そう言って笑いながら、視聴者を煽るための書き込みをする。


 味方がいる。


 その事実が、僕の行動を揺るぎないものとした。




 それから数日。


 今月も中盤が過ぎた。


 新たにカウントを始めたポイントは、現在、僕が一位をキープしている。


 この流れを維持できれば、次のサイクルでも六人のクラスメイトを確実に蘇生できるだろう。


 任せた店も順調だ。


 このまま毎月蘇生し続ければ……。


 安堵を感じた僕は、最終目標である全員を帰還させる方法を考える。


 現状はランキング報酬、可能性としてはログアウトスキルのレベルアップ。


 その他の方法を考えた時、まずはダンジョンの最深部には何かがあるかもしれないと考えた。


 僕は連夜、一人でダンジョンにこもった。


 時には暗い洞窟のような作りに小型の魔物が密集し、それを斬撃で一気に蹴散らす。


 時には広い空洞に沼地、視界を遮る霧の中を突き進み、気配を頼りに襲い来る魔物をなぎ倒す。


 常に未知の領域である階層を、名も知らぬ魔物たちが蠢く領域を走破し続ける。


 孤独と恐怖が背中をなぞるが、僕には気持ちを酌んでくれる仲間がいることを思い浮かべながら、さらに深い階層へと目指し駆け抜ける。


 全員を、連れて帰る。


 そのためなら、僕は喜んで泥を被り、この道で突き進もう。


 僕は三号となる相棒、闇の魔力を喰らう大鎌を振り回した。



◆◇◆◇◆



Side:ルミナス王国 レインダーズ・デ・ルミナス国王陛下



――― ルミナス王国王城・玉座の間。



 静寂が支配する広大な広間に、重厚な革靴の音だけが規則正しく響いていた。


 ルミナス王国の頂点に君臨する男、レインダーズ・デ・ルミナスは、精緻な装飾が施された玉座に深く背を預け、目の前に跪く情報部隊、『影』に所属する者を見下ろしていた。


 窓から差し込む夕光が、王の白髪混じりの金髪を鈍く照らす。


「報告を続けよ。その『テンイシャ』とやらの動向をな」


 低く、地を這うような重低音の壁が、隠密の背を打つ。


「はっ。数週間ほど前から城塞都市バルドを中心に出没している件の集団ですが、彼らの活動は、もはや無視できる段階を越えているでしょう」


 その報告を聞き、レインダーズは静かに目を閉じる。


「彼らは突如として現れ、既存の魔導理論では説明のつかない稀有なスキルを行使。特に冒険者として登録された数名は、各ギルドの記録にある、ダンジョンの最高到達階層を次々と塗り替えております」


 レインダーズは眉をわずかに寄せた。


 ダンジョンの最高到達階層の記録。


 それは、この国の軍事力の指標でもある。


 命知らずの猛者たちが数十年かけて積み上げてきた到達点を、名もなき若造たちが数週間で超えていく。


 それは、長年この地を統治してきた王家にとって、明白な不協和音であった。


「特に、黒木竜也と名乗る少年が率いる一団。彼らはダンジョンの深層から、見たこともない素材や、伝説級の魔道具を次々と持ち帰っております」


「クロキ、とな?早く、続きを申してみよ!」


 その名を口にしたレインダーズはさらに続きの報告を急かす。


「はっ、今やバルドの経済は、彼らを中心に回り始めており、領主すらも彼らに便宜を図っていると状況を確認できております」


 レインダーズの手が、椅子の肘掛けを強く握った。


 バルドの領主は無能ではない。


 むしろ、食えない男だ。


 その彼が靡くほどの力が、そこにはあるということだ。


「再興、あるいは簒奪か……」


 レインダーズが独りごちる。


 歴史を紐解けば、稀に現れる稀有な者たち。


 それらは国を興し、あるいは滅ぼした記録がある。


 彼らの持つ異能は、この世界の(ことわり)を書き換えるほどの理不尽さを秘めている。


 だが、レインダーズに恐れはなかった。


 あるのは統治者としての冷徹な計算と、強固な自負である。


「取り込む。それが叶わぬなら、芽のうちに摘み取るまで。我が王国の秩序を乱す不確定要素を放置することはできぬ」


 レインダーズは立ち上がり、玉座の背後に広がる巨大なタペストリーを指した。


 ルミナス王家の紋章。


 それには『深淵に差す光の剣』が描かれている。


「影よ。深淵十傑にすべての情報を伝えよ!可能な限り懐柔、もしくは……、わかるな?」


 目の前の影は、小さく震えた。


 この王城の地下には、建国以来、王家が秘匿し、独占し続けてきた最古のダンジョンが存在する。


 そこは、通常のダンジョンとは比較にならないほど高濃度の魔力が渦巻く魔境。


 王家は、選りすぐりの精鋭たちを、その深淵へと送り込み、日夜、死と隣り合わせの訓練を積ませている。


 組織的に行われたそれは、多くの強者を生み出した。


 その選ばれし者たちの中でも精鋭たる十名に与えられた称号こそ、深淵十傑であった。


 巷の冒険者や騎士団のレベルとは、前提からして異なる彼ら。


 魔物の血を浴び、深淵の闇を食らって育った、王家直属の圧倒的な強者。


 レインダーズが持つ自信は、そんな化け物じみた者たち存在があってことのことだった。


「バルドに現れた若造どもが、少しばかり階層記録を更新したとて、我が王家の深淵で鍛え上げられた爪牙(そうが)に及ぶはずもない。彼らの能力は、我が国の発展のために捧げさせる。それが彼らに与えられる唯一の価値なのだからな」


 レインダーズは、卓上に広げられた地図のバルドの地点に、鋭い短剣を突き立てた。


「近衛魔導騎士団、および隠密特殊部隊から三名ずつ。これにバルドへの急行を命じる。それに十傑から同じく三名を護衛として付け、そのクロキという男に接触させよ!」


 そう命じた後、レインダーズが小さく笑う。


「表向きは、そうだな。王国の発展に寄与した功績者への恩賞、使い物になるならどのような形でも良い、鎖を繋げ。傲岸不遜な態度を見せるなら、その根性を叩き直せ。万が一、抵抗するようであれば……」


 レインダーズの瞳に、冷酷な光が宿る。


「その場で処理しても構わぬ。死体さえあれば、研究の素材程度にはなるだろう?」


「御意に……。直ちに手配を」


 影が消えるように去った後、レインダーズは独り、広大な玉座の間に残された。


 窓の外、バルドの方向を見据える王の顔には、揺るぎない自信と、未来を見据えた確信があった。


 ルミナス王家が数百年かけて築き上げてきた、絶対的な暴力の蓄積。


 地下の深淵で、常人には耐えられぬ魔圧に晒されながら、鋼の意志を研ぎ澄ませた精鋭たち。


 百名ほどいる深淵の部隊の中で、十傑となれるのは文字通り十名だ。


 当然ながら、十傑と成れぬ者たちであったとしても、そこらの者では太刀打ちできない強さがある。


 彼らこそが、この国の、王家の真の剣であり、新参者の異能ごときに屈するはずがない。


「テンイシャよ。貴様らがどれほどの天賦を持とうとも、この大地の重みを知らぬ若造に、我らは負けぬ。王の威光というものを、その身に刻んでくれるわ」


 王の嘲笑が、虚空に消えていく。


 レインダーズは、自分の派遣した精鋭たちが、バルドで「黒木竜也」という少年の異常性を目の当たりにし、その自負が粉々に砕かれる未来など、微塵も想像していなかった。


 それは、永きに渡り君臨してきた支配者の、致命的な盲信であった。


 深淵を飼い慣らしていると信じているのは自分たちだけであり、真に深淵に魅入られた者が、今まさにバルドで牙を剥こうとしていることを、王はまだ知らない。


 静かな夜の闇が、王城を飲み込んでいった。


 それは、王家がこれまでに経験したことのない、激動の前夜であった。


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