第四十話「何やってんだよ姉貴!ばっかだなー!」
本年もよろしくお願いいたします。
レイドバトルが終わった。
ドラゴンの粒子が消え去った後、空中に煌びやかなウインドウが表示される。
そこには貢献度ランキングと、獲得したポイントが記されていた。
――――――
一位、藤田美織 10,000ポイント。
二位、黒木達也 9,800ポイント。
三位、酒井幸助 4,500ポイント。
――――――
どうやら、順位によって固定のポイントが貰えるという単純な仕組みではないらしい。
バトル中の貢献度がそのまま数字になったようだ。
だが、貢献度による加算は確かに大きいが、これだけで今月の累計順位をひっくり返すほどではなかった。
そして、独特のファンファーレが広場に鳴り響く。
『明日の正午に月間ランキングの結果を発表。商品の授与もこの場で行われます!』
視界にそんなメッセージが流れた。
直後、視界は歪み、眩しさの後、見慣れた宿の部屋へと戻っていた。
その日はもう、外に出て何かをする気力も起きなかった。
僕はただ、ベッドに横になり、部屋で時間をつぶした。
今から無理に動いても、月間のトップとなることは不可能だ。
転移の初期、まだこの世界の仕組みがわからなかった頃にポイントを稼げなかったことが悔やまれる。
僕は天井を見つめながら、静かに時が過ぎるのを待った。
まずは一つ、やり遂げた。
これで最低でも三人は生き返らせることができる。
全員で、この世界から帰還するのだ。
そう考えながら、布団をかぶり意識を遮断した。
そして一夜明ける。
目覚めるとログアウトを実行した。
目の前のドアは閉まっていた。
今日はいないのか?
そう思ってPCに向かう。
数秒後、大きな音と共にドアが開く。
振り向くと、またも鼻眼鏡をつけ、三角帽子をかぶった姉ちゃんが涙目で立っていた。
手に持っている大きなクラッカーを鳴らすと、けたたましい音と共に中身が飛び出し、見えない壁にぶつかり跳ね返っていた。
それを焦った様子で受け止めようとする姉ちゃんを見て、素で笑ってしまった。
「何やってんだよ姉貴!ばっかだなー!」
取り繕うようにそう言ったが、目には涙が溜まっている。
「あー、おっもしれー!」
そう言いながら涙をぬぐった。
僕は気を取り直し、掲示板などを徘徊する。
蘇生させる人はなるべく大人しいものからが理想的だ。
自我が強いものを選べば、状況が読めずにまた死ぬか他の者を害する可能性がある。
そう言ったタイプの人間を生き返らせるなら、最後の方が良い。
もうすでに、全員帰還の形ができている時に、数の力であからさまに威圧できるようになった時にだ。
そんなことを考えながら、ニ十分間の現実が終わった。
「もうすぐこのゲームも終わる!お前たち、首を洗って待ってろよ!」
そう言いながら笑い、僕は見慣れた宿へと戻った。
正午となり、部屋には昨日と同じメンバーが揃った。
時間が来ると、またログアウトのような感覚に襲われ、あの白い円形広場へと転送された。
広場の中央には、昨日まではいなかった存在が立っていた。
男のようにも、女のようにも見える。
直視しているだけで、本能が危険を察知して体が小刻みに震えだす。
「選ばれし皆さん、ご機嫌如何かな?そういえば、僕の姿を見せるのは今回が初めてだよね?」
その声を聞いた瞬間、その場にいた全員が目の前の存在が神なのだと理解しただろう。
神は改めて順位の発表を口にした後、僕らを見渡した。
「じゃあ、選択の時間だ、上位三名には願いを叶える権利が与えられる」
僕は恐怖を押し殺し、叫んだ。
「俺様からで良いか!」
「ん?まあ、いいけど?」
神はあっさりと許可を出した。
僕は内心安堵し、用意していた言葉を吐き出した。
「蘇生だ。宇野翔太と倉田舞」
それはクラスの中でも目立たない、大人しい奴らの名前だった。
「No.76、本当にそれでいいのかい?」
神が僕の顔を覗き込む。
「文句あるか?」
僕は努めて不遜に、睨みつけるように答えた。
だが、内心では今すぐにでもこの場から逃げ出したいほどの恐怖を感じている。
「まあいいや。じゃあ、その二人をそーせいっと」
神がパチンと指を鳴らす。
その瞬間、何もない空間から宇野くんと倉田さんが姿を現した。
二人は周囲の状況を見て混乱し、怯え、そのまま地面に座り込んで泣き出した。
「次は?」
神が視線をずらす。
藤田さんは、僕を見た。
「黒木様」
月間三位にランクインしていた藤田さん。
そんな彼女は僕に次の指示を仰ぐ。
「中島琴音」
僕は新たな死者の名を告げた。
「中島琴音を蘇生して」
藤田さんは僕の言葉をそのまま神に伝えた。
「うーん、No.54、帰還じゃなくて良いの?」
神の問いに、藤田さんは無言で頷いた。
「まあいいか。んじゃ、そーせい」
新たに中島さんが蘇生された。
彼女は一瞬、恐怖に顔を引きつらせたが、すぐにへらへらと笑い始めた。
かなり精神を病んでいるようで、後でケアが必要だと感じた。
僕らの選択を見ていた酒井くんは、狼狽えていた。
自分たちが元の世界へ帰ることを選ぶか、クラスメイトの誰かを助けるかで葛藤しているだろう。
やがて酒井くんは声を詰まらせながら絞り出した。
「死亡した者のリストを……、出してくれ……」
その声と同時に、目の前に現れたリストを震える指でなぞる酒井くん。
「飯田徹、柏木俊、長谷川萌。この三人を、生き返らせてあげてくれ……」
酒井くんが宣言すると、すぐに三人が蘇生された。
飯田くんが酒井くんに駆け寄り、事情を聞いて号泣する。
他の二人も酒井くんにすがりつき、感謝の言葉を漏らしていた。
本当は、みんな帰りたかったはずだ。
そんな当たり前の希望を封じ込めてしまったこの空気に、僕はわずかな息苦しさを感じた。
「じゃあまた来月。楽しみに見てるよーん!」
神は軽い挨拶を残して姿を消した。
僕の視界は、悔しそうにこちらを睨みつける酒井くんの顔を最後に、宿の一室へと切り替わった。
いつもの三人がそばにいる。
そして、少し遅れて光が収まると、僕らが蘇生させた三人の姿がそこにあった。
宇野くん、倉田さん、中島さんだ。
今は少し落ち着いているようだが、急な環境の変化にまた混乱し始めている。
なるほど、蘇生を願った者の近くに蘇生者は現れる仕組みらしい。
僕はそれを見て、にやりと口角を上げた。
死の淵から救ってやったのだ。
これからこの三人に、僕への絶対的な忠誠を誓わせなければならない。
No.74 宇野翔太
天賦は神官で治癒スキルを持つ。
No.68 倉田舞
天賦は舞闘家、肉体強化が使用可能。
No.3 中島琴音
天賦は薬師、回復薬生成のスキル持ちは貴重だ。
戦うことを拒み、早い段階で死んでしまった三人だった。
僕はゆっくりと彼らに歩み寄り、行動を開始した。
Side:酒井幸助
「みんな、すまん……」
俺は、パーティメンバーに頭を下げる。
レイド戦の前、約束していたことが果たせなかった。
それは、三人の完全帰還。
後から加わった三浦さん、浅井くん、望月くんの三人を完全帰還させ、来月は俺たち三人が帰還すると、そう決めていた。
それなのに、黒木のあの行動により蘇生を選択せざるを得なくなった。
「仕方ないよ。それに……」
池田くんがそう言いながらチラリと蘇生された三人を見る。
「あの、僕たち、今どういう状態なんでしょうか?」
その三人の中の一人、飯田くんが訪ねてくる。
「それは……」
俺は今までの状況を話し、やんわりと帰還したかったことを伝える。
蘇生された三人は混乱し、泣き始めた。
「す、すまない!だが、こうするしかなかった……、向こうには、待っている家族がいる。転生させられた全員が、帰りたいと思っているんだ……」
弁明しながら、足の引っ張り合いが始まっていること、それで何人かが殺されてしまったことを伝える。
その話に絶句する三人。
「それでも、蘇生してくれたことには、感謝しています」
「私も、ありがとう、酒井くん」
「ありがとう、ございます」
お礼を言われた僕は、口の中が苦くなり顔を歪める。
後味の悪い雰囲気に、三浦さんが立ち上がる。
「全部黒木が悪いのよ!」
その言葉にも質問が飛んでいた。
「あいつが、やりたい放題やっているから、だから私たちは、あいつらを倒して、そして全員帰還させれば良いのよ!」
そんな逆恨みのような三浦さんの言葉に、高橋くんも賛同する。
「そうだ!あいつが悪い!あいつを殺して、美織ちゃんを助けるんだ!」
室内は異様な空気だった。
結果、六人が蘇生を果たした。
結果だけ見れば良いことなのだ。
だが、彼は蘇生させた三人をどう扱うのだろうか?
場合によっては、保護しなくては……、そう思った。
「ねえ、黒木ってもしかして、全員蘇生させるつもり、だったりしないかな?」
堀田さんのその言葉に、心臓が跳ねた。
「そんなわけないだろ!」
池田くんがそう叫ぶ。
そんな中、今まで言葉を発していなかった浅井くんが立ち上がる。
「とにかく、来月もトップを狙うのだろ?このメンバーで協力して、やるしかないだろ」
その言葉にうなづくが、蘇生されたばかりの三人は暗い表情のまま、俯いていた。
「戦いたくない者は、今はゆっくりと体を休めるといい。ここで、心を癒してほしい」
かろうじて、そう言うことだけで精一杯だった。
三人を改めて眺める。
No.61 飯田徹
天賦は剛剣士、スキルは重力斬を持っており、攻撃力の底上げを狙えるだろう。
No.51 柏木俊
天賦は魔導師、雷撃スキルを持つので、堀田さんと一緒に攻撃参加できそうだ。
No.48 長谷川萌
天賦は結界師、金剛結界というスキルは貴重だ。
だが、俺たちの戦いについてこれるとは限らないだろう。
そう考えてしまう自分を、とても冷酷な人間に思えてしまう。
こんな俺が、勇者という天賦を授かったという現実。
分不相応なことだったのだと、無性に恥ずかしくなってくる。
俺は、その恥ずかしさを、唇を強くかむ痛みでごまかしていた。
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