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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第三十八話「俺様は、俺様だ!今までと、何も変わってねーよ!」


 翌朝、僕は新しく与えられた豪華な部屋の中で、ステータス画面を開いたまま固まっている。


 ログアウト……。


 今日はやめておこうかな?


 そうも思ったが、それは時間稼ぎにしからなず、意味がないだろう。


 ズルズルと逃げていても、姉ちゃんの怒りを増幅させるだけだろう。


 僕は、意を決してログアウトを使った。


 リビングで顔を合わせた姉ちゃんは笑顔だった。


 やばい時の笑顔だ。


 僕は瞬時に土下座しようと体が動きそうになるのを堪えた。


 昨夜の脱衣所での騒動は、間違いなく中継されている。


 ゆえに姉ちゃんの怒りは限界突破しているだろう。


 落ち着け。


 予想通りなんだ。


 僕は喉を鳴らし、カラカラの口を動かすため、真剣な表情を作り、姉ちゃんを真っ直ぐに見つめた。


「今日は大事な一戦を控えている……、俺様は、俺様だ!今までと、何も変わってねーよ!」


 態度を崩さずに言い放つ。


 姉ちゃんは少しの間、僕の顔をじっと観察していたが、やがて小さく息を吐いた。


「分かった。変わらないのね?」


 その一言には、多くの感情が混ざっているように聞こえた。


「竜ちゃんも、いろいろ溜まってたんだろうし。でもね、もうダメだよ?あんな強引なことは」


「ちっ、わかってるよ!」


 僕は毒づきながら視線を逸らした。


 本来ならあんな真似、姉ちゃんは絶対に許さない。


 僕を殺して自分も死ぬと言って、実際にそれを行うだろう。


 そう考えながら、過去の惨劇を思い出す。


 それだけで背筋が凍った。


 それ故に、僕は変わっていないよ?良い子にしていたよ?安心してね?


 そんなメッセージを込めた。


 だが、今の返答で確信した。


 姉ちゃんは、僕が空白の神フラッシュ中に何をしたか、あるいは何もしなかったかを察してくれている。


 こちらにも味方がいるという事実は、僕に確固たる自信を取り戻させてくれた。


 いつものように掲示板を確認すると、案の定、僕へのヘイトは最高潮に達していた。


 卑劣漢、性犯罪者、暴行魔、そして殺意を込めた強い言葉が羅列されている。


 並ぶ言葉はどれも凄惨で、リンクされたニュースサイトには「ゲームの中で起こった性犯罪」と題して、僕の目が黒く隠された写真まで掲載されていた。


 分かっていたはずだ。


 今の僕にはそれすら心地よいノイズとして、聞き流すことが、最善の方法だと、分かっていたのに……、キーボードの上の指先が冷たく凍り付く。


 情報を整理し終えると、僕は「最高だったぜ!」と書き込むと、数秒でものすごい数の反応が書き込まれた。


 やり過ぎかも?


 そう思ったが、まだ僕の戦いは続くのだ。


 今はそれで良い。


 そう思いながら、カウントダウンするタイマーを見つめていた。


 いよいよ明日に迫ったレイドバトルに向け、仕上げの段階に入る。


 部屋の前に待機していた藤田さんは、宣言通り「心を壊された少女」を見事に演じているようだ。


 焦点の合わない瞳で虚空を見つめ、僕が近づくと機械的に膝を折る。


「黒木様、おはようございます」


 感情を一切殺したその声に、背後の二人も凍りつく。


 演技だと分かっていても、胸の奥がチリチリと痛んだ。


 佐々木くんと笹田さんは、僕を冷たく射貫くような目で見つめている。


 僕はそれを鼻で笑い、部屋を出る直前、藤田さんの腕を掴んで強引に自室へ引き込んだ。


 二人の目の前で抱きしめる。


 その瞬間、彼女が僕の手のひらに小さな紙切れを押し込んできた。


 僕は彼女を軽く押し返し、「ちょっと待ってろ!」と頬を歪ませながら怒鳴った。


 そのまま脱衣所へ駆け込み、神フラッシュの発動を確認してから手紙を広げた。


 そこには、笹田さんには昨夜直接話し、佐々木くんには今朝手紙で真相を伝えたと記されていた。


 最悪の事態は回避されている。


 僕は深く安堵し、手紙を破り捨てゴミ箱に投げ捨てた。


「すっきりしたぜ!」


 思わせぶりな台詞を吐きながら脱衣所を出ると、待ち構えていた二人が凄まじい怒りの表情を向けてきた。


 その迫真の演技に、僕は一瞬「本当に手紙を読んだの?」と不安になる。


 しかし、今は疑っている暇はない。


 僕たちは険悪な雰囲気を維持したまま、ダンジョンへと赴いた。


 五十階層付近での狩りも、ようやく安定してきた。


 僕はついに、三人だけで守護者を狩らせる決断を下した。


 本当は僕も加勢したかったが、攻略済みの僕が参加すると、通常ドロップ品が出なくなる。


 あの魔石と素材は金になる。


 そう考え、不安を押し殺し、何かあればすぐに帰還札を使えと言って、三人を送り出した。


 数分後、藤田さんが一人、転移札を使って戻ってきた。


 表情は相変わらず死んでいるが、無傷。


 そして、その手には戦利品が握られていた。


 巨大な地属性の魔石と、岩の塊。


 後で情報を調べたところ、この岩の塊が異世界あるあるなアダマンタイトと金剛石が混じった原石だったようだ。


 そして、短刀よりも少し長い、歪な刀のような形をした武器だ。


 僕はそれを一度袋に入れ、その名を確認する。


 名前は「牙突」。


 試しに相棒に何度か叩きつけてみたが、折れる気配はまったくない。


 握った瞬間に、僅かな魔力を吸い取られる感覚があった。


 何らかの特殊な付与がなされているのは間違いない。


「お前が有効活用してみせろ!」


 武器を投げ渡すと、彼女は小さくコクリと頷いた。


 その日も夕方まで狩りを続け、深夜には各々の修練に励んだ。


 四人での連携では六十階層手前まで到達したところで夕方となり、僕は単独では八十階層までたどり着いていた。


 そして、ついに二十七日目の朝を迎えた。


 つい先ほど戻った僕は、ベッドの上で目を瞑り集中力を高めていた。


 そんな中、またも脳内にファンファーレが鳴り響いた。


 正午にレイドバトルへの強制転送が始まるという神の告知だ。


 その情報に、三人が部屋へとやってきた。


 僕はめんどくさそうに「俺様に頼るな!勝手に準備をしておけよ!」と怒鳴りつけ、冷たいシャワーを浴びて心を落ち着けた。


 迫りくる決戦に備え、僕たちはそれぞれのやり方で最後の休息を取る。


 己の目的を達成するために……。



Side:酒井幸助


 俺たちはついさっきまでダンジョンにこもり、自身の能力を高めていた。


 宿に戻ると、狩りている休憩筆と呼ばれる大部屋で、みなといっちょに心を静めていた。


 それを見計らったかのようなタイミングで、脳内にファンファーレが鳴る。


 鳴り止むのをやや苛立ちながら待つ。


 その間に、今朝のことを思い返していた。


 苦労の末、ついに五十階層の守護者を撃破することができたのだ。


 青い肌に強固な岩の鎧をまとった巨人。


 戦闘自体はそれほど苦戦しなかったが、敵の硬い外殻に阻まれ、想定以上の時間を浪費してしまった。


 振り回される戦斧が、少しでも掠れば死を予見させる戦いだった。


 それでも俺たちはやり遂げたのだ。


「幸助、絶対に上位独占しような!」


「幸助は今、総合トップなんだから。普通にやってればキープできるよ、きっと」


 池田くんと堀田さんはそう言って俺を鼓舞してくれる。


 だが、レイドバトルでどれほどのポイントが付与されるのかは未知数なのだ。


 一発で順位がひっくり返るような、膨大なポイントが設定されている可能性だってある。


 何より、黒木との実力差が気にかかる。


 あいつは単独で、俺たちの遥か先を歩んでいるはずだ。


 俺が今トップなのは、早い段階から仲間と手分けして、ギルドの依頼を効率よくこなしてきたからに過ぎない。


「今更だな」


 そこまで考えて、俺は思考を打ち切った。


 直前になってジタバタしたところで、結果は何も変わらない。


 俺は立ち上がり、周囲に声をかけた。


 新しく加わった三人との連携も、この数日で完璧に磨き上げた。


 個の力では負けるかもしれないが、集団としての総合力なら絶対に負けない。


 俺はそう自分に言い聞かせ、しばしの休息に身を委ねた。



Side:伊藤満


「永井くん、できそうかな?素材はいくらでも使っていいからね」


「うん。任せて!」


 永井くんは舌をぺろりと出して、山に積まれた高価な素材を次々と物色し、結界の魔道具を強化しようと試みている。


 レイドバトルで大量のポイントを稼ぐ?


 そんな発想、馬鹿げている。


 戦う力を持たない弱者に対するいじめに他ならない。


 俺は冷めた目でこの状況を見ていた。


 変えようのない残酷な現実に抗うため、俺はレイドボスから逃げ延びるための魔道具開発に、すべての力を注ぎ込んでいた。


「いいかい、金はあるんだ。何でもよい。集めたもの以外の素材を、もっと集めてきてよ!」


 俺は護衛の新田くんと三木谷くんに指示を出し、ギルドへと走らせた。


 新たな魔道具を形にするには、まず素材となる現物に永井くんが触れる必要がある。


 手当たり次第に珍しい素材を探らせ、さらなる防御性能の強化を目指す。


「とにかく命を守る魔道具を。そして、イトー商会の力を、みんなに見せつけてやるんだ!」


「「おおっ!!」」


 俺の激励に、店のスタッフたちが一斉に呼応した。


 決戦は明日だ。


 商人としての俺の戦いは、ここからが本番だった。


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