第三十七話「えっ、待って?やっちゃったの?」
※前回、読み飛ばした人用のあらすじ
アプデで月間ランキングの賞品発表。完全帰還や蘇生などがあり、転生者同士の足の引っ張り合いにより、岡崎たちが三人のクラスメイトを始末と黒木に告げる。激怒し血まみれの制裁を加える黒木。その惨劇に酒井たちと衝突し、苦しさから疲弊した黒木。それを見て動き出す藤田。藤田は黒木に脱衣所に連れ込まれたようによそおい、「だめー助けて―!」と脱衣所へとなだれ込んだ。そして神フラッシュの中、戸惑いながら俺様を続け藤田を威嚇する黒木。脱衣所の鍵を閉めた藤田は……、とうい内容
Side:藤田美織
黒木くんを強引に脱衣所に押し込め鍵をかけた。
私はドアを蹴破られても大丈夫なように、四隅に結界の魔道具を置いた。
かなり高かったけど、その効果は実証済みだった。
イトー商会という最近はやりの店で買った衝撃と音、視覚を遮断する魔道具だ。
そのおかげで、室内の壁に近い部分までが、真っ黒な暗幕で覆ったようになっている。
「これでいいかな?」
私がそう言うと、ようやく口を開く黒木くん。
「お前、下僕の分際で、何をやってやがる!ぶっ〇ろすぞ!」
いつものようにそう言った黒木くん。
私は幸せを感じながらその胸に飛び込む。
「神フラッシュ、始まってるよ?」
「な、何いってんだ!離せ、この、馬鹿野郎!」
そう言って私を突き飛ばす。
「もう!今は、視聴者?って言っていいのかな?見てる人はいないんでしょ?大丈夫。私はもう、全部知ってるんだから!」
そう言って、戸惑う彼の腕を引き、体を寄せる。
「随分前にね、私に気付かずにトイレに入ったでしょ?その時に聞こえたんだよね。黒木くんの弱々しい懺悔の声……」
「な、何を言ってるか、わからねーな!」
まだ隠し通そうとする彼の胸に顔を押し付け。その背中にしがみ付く。
「大好き」
その言葉に返事は返ってこなかった。
「わざと嫌われ役をやって、誰かを守ってるんでしょ?そして、今はみんなを守ろうとしている」
「そんなわけ、ないだろ……」
弱々しい返答。
「ねぇ、黒木くん……。あっちに戻った時に何を見たの?私にも教えて?黒木くんを、貴方を支えたいの!ねえ、私、どんなことでもするから!」
顔を上げ、彼の顔をじっと見つめる。
その目には、すでに涙が溢れだしていた。
私はまた彼の胸に顔をうずめ、手を伸ばし彼の頭を撫でる。
「大丈夫。大丈夫だよ。もう独りじゃない。独りで戦わなくていいんだよ。私は、貴方の命じたすべてを、完璧に熟してみせるから……」
そう言うと、彼は堰を切ったように泣きながら、私に今までのことを打ち明けてくれた。
Side:黒木竜也
理解者がいた。
その事実が嬉しくて、僕の心の堤防をあっけなく決壊、ボロボロと子供のように泣きじゃくった。
とても恥ずかしい。
「なんで、わかったの……」
弱々しく出た言葉。
一人で背負ってきた重荷が、藤田さんの言葉によって軽くなるのを感じた。
彼女はそんな僕を見て、優しく微笑んだ。
僕は、今までのことをすべて話してしまった。
ただ一人、あちらに戻ることのできた僕に対する嫌がらせのような言葉が掲示板に書かれていたこと。
ねじ曲がった正義感により、僕の姉や家族にまで冷たい目が向けられたこと。
みんなの私生活のすべてが中継され、娯楽として消化されていること。
守るべきは自分の姉で、そんな視聴者たちの目を、自身にくぎ付けにさせなくてはと思ったこと。
今はもう、クラスメイトたちを全員連れて帰りたいと思っていること。
彼女はそれを聞きながら、うんうんと、僕の胸の中で相槌を打ってくれていた。
そのたびに、彼女の熱い吐息を胸に感じ、ドキドキとしてしまう。
「ねえ、ドキドキしてる」
「そ、そりゃ……、藤田さんがくっつくから……」
かろうじてそう絞り出した僕の言葉。
「こんな貧相な体でも?」
顔を上げた藤田さんは、いたずらっ子のような笑顔でそう言った。
そして思い出す。
以前、助けた後のこと、話を聞いた時に、さわりたい?と聞かれた時、貧相な体、さわるわけないと、確かにいってしまったことを。
「それは、その……、わかるでしょ?」
すべてを知られたのなら、僕が虚勢を張ったことが分かるはず。
彼女は僕を強く抱きしめてくる。
「貧相かな?」
「それは……、とても、素敵です……」
彼女は嬉しそうに僕の胸にグリグリと顔を擦り付けてくる。
「あの、この後、どうしましょ?」
情けないなと思ったけれど、彼女の思惑も聞いておかなくてはと思った。
「最初は、話だけして逃げ出したようにしたかったけど、随分時間、経っちゃったよね?」
「それは、藤田さんがこうしてるから……」
再び顔を上げ、不機嫌そうに頬を膨らます。
「最近呼んでくれないけど、美織って呼んで!」
「えっ?えっ?」
頭が混乱する。
彼女はじっとこちらを見ている。
「み、美織?」
嬉しそうに笑顔を見せ、また顔を伏せる。
そんな彼女の耳が赤みを帯びている。
「こんなに時間が経ったら、もう、事後だって思っちゃうよね?」
僕は何も答えることはできなかった。
この後、ほんとに……、どうしたら良いのだろうか?
一度はそう言う事も覚悟した。
相手は笹田さんにだけど。
まさか強制的にこうなるとは、思っても見なかった。
「私、やられちゃったことにして、感情が死んだ感じでどう?」
「どうって言われても……」
彼女は何を言っているんだろう?
「物言わず、黒木くんの言われた通りに動く人形のような女?」
「それは……」
確かにそれなら、でも待って?姉ちゃんにはなんて言われるか……。
僕は背筋に冷たいものが走る。
「どうしたの?不安?」
「いや、姉ちゃんに、どう言ったら良いのかなって」
「ああ……、それは、頑張って」
「待って、何か良い方法考えてよー」
藤田さんは笑うばかりで何も答えてはくれなかった。
明日、ログアウトしづらいな……。
そう思った。
「ねえ、そろそろ出た方が良いんじゃない?」
「うーん、もうちょっと?」
そんなことを言いながら僕にしがみ付く藤田さん。
そんな時、四隅に置いてあった結界装置がピーピーと鳴き始めた。
「あっ、やばっ!」
藤田さんは慌てたように僕から離れると、床に転がっている短刀を拾いあげる。
装備を脱ぎ捨てると、自身の上着をずらし、ズボンを切り裂いた。
そして、装備を胸に抱いたところで、結界装置から光が消え、覆っていた黒い結界が消える。
戸惑う僕は、脱衣所のドアがあった場所を中心にして、大きく破壊された壁の先にいる佐々木くんたちと目が合った。
無言でその人だかりを抜け逃げ出した藤田さん。
僕に向かって暗器を振り下ろす笹田さんを投げ飛ばす。
佐々木くんが突進を繰り出し、僕は盾で押さえつけられるが、全力でそれを蹴り上げ抜け出した。
「何してんだ下僕ども!ちょっと仕置きをしてやっただけだろうがっ!反抗するなら、お前たちもただじゃすまねーぞ!」
そう言って怒りの視線を向ける。
集まった野次馬がわいわいとはやし立てている。
「お前らも、みせもんじゃねーぞ!どっかいけっ!」
相棒を取り出し振り回してみせる。
壁に接触し、その一部が破壊される。
散り散りになって逃げだす野次馬。
「黒木ぃ!見損なったぜ!」
そう言って飛び掛かってくる佐々木くんを投げ飛ばす。
悔しそうにする佐々木くんは泣いていた。
心が痛い。
笹田さんはこちらを睨み、そして、藤田さんの名を呼びながら背を向け行ってしまった。
きっと何とかしてくれるだろう。
「お客様、こんなことされちゃ、困ります……」
泣きそうな顔をした宿の関係者と思われる女性が、震えながらそう言った。
僕は金貨を魔道袋からジャラジャラと落とす。
「すまんな。俺様には狭すぎたんだ。下僕が無茶しやがっって……、これは詫びだ!悪いが俺様の為に、最高級の部屋を用意してくれ!」
そう言いながら、逃げるように夜のダンジョンへと逃げ込んだ。
僕の悪名はいっそう高まったが、心の中には藤田さんという理解者の存在が確かに残っていた。
数日後のレイド戦に向け、僕は明確な決意をもって走り出す。
僕の周りの環境は、さらに大きく歪み始めた。
Side:藤田美織
黒木くんと情報を共有したあの夜、部屋を飛び出した私は、自室へと駆けこんだ。
鍵をかけ脱衣所へと入ると、嬉しさを爆発させる。
「やったよ私!すごいよ私!ミッションを完全にこなせたよ!」
そう大声を上げ、そして口を塞ぐ。
「やばいよね!浮かれ過ぎだよね!」
そう思って声の音量を落とす。
深呼吸を繰り返しながら、先ほどまでの出来事を思い返し、まだ胸に残る温もりを包み込むように、自分の体を抱きしめる。
「さて、せめて二人には弁明しとかないとね」
そう思って手紙を書こうと魔道袋から紙とペンを取り出した。
そんな時、ドアと激しくノックする音と共に、真紀ちゃんの声がした。
「美織、大丈夫?話、聞くから!だから、お願い、そばに、いるから……」
今にも泣きだしそうな声。
キュっと胸が締め付けられる。
最近は黒木くんのことを敵視することも抑えているようだったけど、このままじゃ危ないよね。
そう思って表情を作る。
被害者として、心を殺した無表情を。
無言で鍵を開けドアを開ける。
すぐに私は抱きしめられた。
私はそれにおびえるように突き放すと、脱衣所に逃げ込んだ。
ドアは閉めない。
彼女なら、きっと追ってくるだろう。
部屋のドアが閉まり、鍵がかかる音がする。
背後には彼女の気配。
「怖かったよね。大丈夫、もう抱きしめたりしないから……、だから話でも―――」
そう言っている彼女に振り返り、脱衣所に引き込むとドアを閉めた。
すでに神フラッシュは表示されていたけど、彼女が中にはいらなくては、どう映っているかが分からなかったから。
「神フラッシュ、出てるよね?」
「えっ、うん、出てるけど?」
私は安堵し、先ほどのできごとを伝えた、
「黒木くんから、二人には話しても大丈夫って言われたんだよね。ある程度信用されたってことじゃないかな?」
最後にそう付け加えて。
「じゃあ、あいつはずっとそうやって、私達を守ろうとしていたってこと?」
「うん!」
私はそう言いながら笑顔でうなずいた。
呆れた様子の真紀。
「じゃあ、何もなかったってことよね?」
「あったよ?とっても心地よかったの」
「えっ、待って?やっちゃったの?」
私はそう言われ、恥ずかしくなる。
「待ってよ。さすがにそこまでは……、抱きしめあって、黒木くんの体温を感じただけだよ?そりゃ、したかったけど……」
真紀が頭を抱えてうずくまっている。
「なんだか馬鹿らしくなってきたよ」
そう言う真紀にこれからの予定を伝えておく。
私が無口キャラに変身すること、黒木くんはランキングのトップを目指し、全員を蘇生すること、そして、何とかして全員を帰還させる方法を探すこと。
私も全力でそれを応援するけど、二人も黒木くんを恨みつつ強くなって貢献する形で協力して欲しいと考えていること。
真紀は渋々ながら了承してくれた。
「佐々木はどうすんの?相当切れてたみたいだけど?」
「アレは、また手紙でも渡すよ」
軽口でそう言う私に、真紀は何度目かのため息をついていた。
私は、真紀を先に出てもらうと、しばらく後に脱衣所を出て、布団へと潜り込んだ。
明日から全力で無口キャラを演じる。
そう考え、英気を養うため、意識を遮断した。
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