第三十六話「やめて!痛いっ!助けて、いやー!!!」
本日二話更新。二話目。
※今回、残酷な描写が一部あります。ご注意を(淫らな行為は一切なし)
次回の前書きにざっくりあらすじ掲載予定
異世界に転移してから二十八日が経過した。
明け方まで及んだ日課となるダンジョン攻略を終え、僕は宿屋のベッドに身を沈め、目を閉じ精神を落ち着かせていた。
そんな中、脳内にけたたましいファンファーレの音が鳴り響いた。
「またかよ、うっせぇーなぁーっ!」
僕は飛び起きて叫ぶ。
そう叫び耳を塞いでも、その音は鳴り止まない。
完全なる嫌がらせだと思った。
視界の中央に、見たこともないほど巨大な通知ウィンドウが展開された。
『新着情報:月間ランキングの順位賞品発表、及び、月例レイドバトル開催のお知らせ』
メッセージの冒頭に、そんな見出しが添えられ、派手に明滅を繰り返していた。
内容を読み進めるうちに、僕は嬉しさと共に強い不安が込み上げる。
あと七日後、つまり転移から三十五日目に、月間獲得ポイント(今回は今までの累計)の上位三名に対して特別な特典が授与されるという。
提示された五つの特典リストは、この世界の前提を根本から覆すものだった。
一、地球への完全帰還(他者指名可)。
二、全能力値の大幅な向上。
三、使用者に最適な神級武器、防具の付与。
四、特定の転生者の蘇生。
五、任意のスキルレベルに+1の補正(その後のスキルレベルアップ難易度に影響を与えない)
月間ランキングの一位は三つ、二位は二つ、三位は一つを、この中から好きなものを選択できる(重複可)。
完全帰還という項目に、多くの者が心を揺さぶられるのは間違いなかった。
もう一つ、その締め日の前日には、生存している全転生者が強制的に一か所に集められる「レイドバトル」が開催されると記載されていた。
そこでボスを倒せば、貢献度に応じて大量のポイントが手に入る仕組みのようだ。
これらのイベントは、今後も毎月一回、最終の火曜日に行われると宣言された。
僕は拳を強く握り締め、この蘇生という文字を見つめた。
そんな時、ドアを激しくノックする音がした。
面倒そうに悪態をつきながらドアを開けると、藤田さんが立っていた。
「く、黒木様、見ましたでしょうか?」
その声は震えていた。
「本当の闘いはこれからのようだな、どうだ?逃げ出したくなったか?」
僕は思わずそう聞いた。
「私は、黒木様の下僕です!」
藤田さんは僕を睨みつけるようにそう言った。
真意が読み取れず困惑するが、彼女も今回の告知が、僕たち転移者たちにとって、敵対関係を作り出すものだと理解しているようだ。
誰しも、元の世界に帰りたいのだ。
ランキングの三位までに入りさえすれば、日本に帰還することができるのだ。
その日から、街中で遭遇する転移者たちはどことなく殺気立っているように見えた。
クラスメイトたちは互いに疑心暗鬼となり、警戒を強めているようだ。
そして翌日、僕が恐れていたことが起こる。
早朝、宿のロビーで待っていた岡崎たち五人。
岡崎が、僕の元へ歩み寄ってきた。
彼の服には、赤黒い染みが付着していた。
借金となる金貨を持ってきたのだろう。
最初はそう思った僕は、この数秒後に怒りに震えることになる。
嬉しそうに口元を歪め、僕にだけ聞こえる声で話す岡崎。
「黒木様、ライバルを三人ほど減らしておきました!」
岡崎くんの胸元を掴み持ち上げる。
「お前、何をした!」
僕が問い詰めると、岡崎は困惑した顔で答えた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!ランキングを上げるには、上の奴を引きずり落とすか、分母を減らすのが手っ取り早いでしょ?ついさっきですが、この街の安宿に泊まってる三人を、寝ているうちに始末しました!」
その言葉に心臓が串刺しにされたような痛みが走る。
「何をそんなに怒って―――」
戸惑う岡崎をそのままロビーの床に叩きつける。
その様子に、彼らの背後にいる四人も、困惑した表情をしていた。
激しい怒りにより制御不能となった感情により、気付けば僕は、相棒を取り出し岡崎くんの右足に振り下ろしていた。
ぐしゃりという音と共に、床に鮮血が飛ぶ。
周りからの悲鳴が響く中、僕は叫ぶ。
「ふざけるなよ、お前、下僕の分際で、何をやったかわかってるのかっ!」
佐々木くんが僕を羽交い絞めにして、二撃目を振り下ろそうとしている鬼竜二号を止めてくれていた。
「何って……、なんなのよ!健吾が何をしたって言うの!」
痛みで泣きながら潰れた足を抑えている岡崎くんの代わりに、高橋さんが涙を浮かべながらそう聞いた。
「俺様の未来の労働力、それを削るやつは、絶対に許さねえっ!」
僕が恐れていた事態。
ランキングを上げるためには、上のものを潰せばよい。
こうなることは予想していた。
だからこそ、藤田さんや佐々木くんを鍛え上げたのだ。
蘇生という報酬がぶら下げられた僕は、警戒を怠っていた。
いち早く、下僕として制御可能となったクラスメイトに釘を刺してくべきだったのだ。
僕は自身の過ちに気付き、人目もはばからずに叫んだ。
僕は泣きわめく岡崎くんを引きずるように外に出す。
それを見て、藤田さんが高橋さんと瀬戸くんを捕まえ後を追ってきた。
佐々木くんと笹田さんは、躊躇しながらも残りの二人に外に出るように促した。
五人を宿の前に出すと、徹底的な制裁を加えた。
死なない程度に何度も潰れた手足を痛めつける。
「誰一人、殺すことはゆるさねぇ!」
たとえ女性であっても躊躇はしない。
高橋さんを担ぎ上げ、地面に背中を叩きつける。
「いいか?俺様は無敵だ!己の力でトップを奪い取るんだ!」
逃げ出そうとする瀬戸くんを藤田さんが押し戻す。
それを受け止め腕を捻り上げ、叩き折る。
「そして、全員を俺様のものにする!殺すな!傷付けるな!その行動を妨げるな!」
叫びながら徹底的に痛めつける。
大丈夫。
この痛みで五人を制御するんだ。
僕は、正しいことを……。
逆流する異物を強引に飲み込み、僕は上級回復薬を投げつけるようにぶつける。
血と涙で顔をぐちゃぐちゃになりぐったりとしていた岡崎くんたちは、光を放ち全回復した。
そして、地面に這いつくばり僕の足にしがみつく。
「すみません、二度とやりません!忠誠を誓います!助けてください!」
彼らは恐怖に震えながら、再び僕への絶対の忠誠を誓った。
「黒木、やり過ぎだ!」
その光景を見ていたのだろう。
酒井くんが僕の肩を掴みそう言った。
彼の目は冷たく、軽蔑の色が混じっていた。
背後には酒井くんのパーティメンバーと思われる五人が、僕に怒りの目を向けている。
「そんな甘い考えじゃ、明日には死んでるかもな……、お前の、その大事な後ろのメンバーの誰かが……」
僕は酒井くんの目をジッと見て、静かに言った。
「なんだとっ!」
掴むその手に力が入り肩が痛む。
僕はその手を払いのけ、周りを睨みつけた。
明確な敵対関係が、そこに成立した。
苛立ちを見せながら部屋に戻った僕は、ベッドに横たわりながら暗い天井を見つめた。
誰かが釘を刺さなければ、毎日のように誰かが死ぬ。
たとえ月間で一位を取ったとしても、三人の蘇生しかできない。
今回のことで、少しは僕の怒りも周知できただろう。
悪い流れが止まれば良い。
そう思ってはいるけれど、涙が止めどなく溢れそうになり、苛立ちを見せるように叫びながら脱衣所へと逃げ込んだ。
いつまでこの悪役を続ければいいのか……。
冷たいシャワーを浴びながら、声を出して泣いた。
そして僕は、弱さのすべてを吐き出し、また孤独な戦いに身を沈めるのだ。
Side:藤田美織
あの日から、黒木くんの様子がおかしい。
私は不安を胸に彼の様子を伺っている。
あの宿の前での惨劇の後、常に神経をとがらせている黒木くん。
時折、不安そうな表情を出してしまっていた。
彼は俺様を維持するのに必死だったようだけど、私から見てもその仮面がはがれかけて見える。
もう限界なのかもしれない。
黒木くんはきっと、あの神から提示された蘇生という言葉に希望を見出したに違いない。
そんな矢先、制裁を受けた彼らは、三人のクラスメイトを始末したのだという。
五人の愚かな行動。
一度その腐った命を終わらせても良かったほどの愚行。
でもそれは、黒木くんにさらなる重荷を背負わせることでもある。
私は酒井くんたちにもそれとなく事情を説明した。
だけど、彼らもまた、黒木くんを歪んだ視点から見ていた。
そして、感じたままに恨み言を発することしかできていなかった。
腹立たしい無能だと感じた。
でも、そこですべてをぶちまけることは、彼のこれまでの行いを無にする愚行だ。
私は、悩んだ末に前々から計画していた策を実行に移した。
それはもしかしたら、彼をさらに追い詰めることになるかもしれない。
でも、やらずにはいられなかった。
その日の夕方、いつものようにダンジョンから一時戻る。
本来であれば、これから黒木くんと離れ、三人でダンジョンに行く予定だ。
真紀ちゃんも佐々木くんもそのつもりで、未だに気を張っている様子だった。
「黒木様、報告があります。一度部屋へ戻っても……、黒木様のお部屋へお邪魔しても、良いでしょうか?」
黒木くんはギョッとした顔をしたけれど、すぐに表情を俺様へと戻していた。
「あ”?生意気に何を言ってんだ?ここで話せないようなことだってのか?」
私はコクリとうなずいた。
「ちっ、さっさと終わらせるぞ!」
そう言って彼は上へと歩き出す。
その後を追いながら、その愛おしい背中を見つめる。
私はやれる。
やってみせる。
そう強く意識して、私は彼の部屋の前までたどり着いた。
そして、部屋へと入ったその瞬間、短刀を抜き、彼に襲い掛かった。
「黒木、殺してやるっ!」
腹の底からそう叫ぶ。
周りに聞こえるように。
そして、彼の部屋の脱衣所に目掛けて体全体を使って突き飛ばす。
「えっ、ちょ、くっ―――」
戸惑う彼にしがみ付き、彼を力の限り押す。
もつれ合いながら、短刀は中へと投げ込んだ。
私はさらに叫ぶ。
これを見ている下種な視聴者に向けたメッセージを。
「くっ、やめて!嫌っ、いやー!!!」
その声に動きを止める彼の手を掴み、私の頭へと持ってくる。
「やめて!痛いっ!助けて、いやー!!!」
そう言いながら、私は脱衣所へ飛びこみ、ドアを閉めた。
黒木くんの体を押し、私の手が脱衣所に入った瞬間、神フラッシュという文字が出ていたのは確認した。
私は勝利した。
そう思ってそのまま彼を押し倒す。
倒れ込む私を、黒木くんはしっかりと抱きとめてくれた。
その嬉しさに涙が出た。
「やった……!やってやった!」
彼の胸に顔を擦り付けるようにしてそう叫ぶ。
彼は、まだ戸惑っているようで動きは無い。
「あっ、そうだ!」
私は名残惜しさをふりきり、彼の手から抜け出すと、脱衣所の扉の鍵をかけた。
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