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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第三十五話「お前がいなくなると寂しくなるな」

本日二話更新。一話目。


Side:伊藤満


 この世界の西にあるニールセンの街。


 僕は天賦である商人のスキルを駆使し、この街で成り上がっていた。


 今やこの国一の大商人となったと、自信を持って言えるほど、生活に不自由は感じていなかった。


 同じ転移者であるクラスメイトたちを護衛として雇い、様々なアイデアをもとにヒット商品を連発していた。


 はじめは本当に大変だった。


 街の近くに転移し、必死の思いで逃げ込んだ町では、門番の兵士たちに蔑まされる日々を送った。


 それでも僕は耐え忍んだ。


 僕のふくよかな尻は彼らにとって蹴り応えがあるようで、毎日蹴りを入れられては、情けとして小銭を恵んでもらった。


 ある日、いつも通りに蹴られ続け、銅貨を三枚ほど顔に投げつけられた。


 その瞬間に僕は新しいスキルを覚えることができた。


 それが『先見の念』というスキルだった。


 存在は知ってはいた冒険者ギルドに、何の気なしに訪ねようと思った。


 戦闘能力が皆無の僕は、異世界チートで無双できるような身分ではない。


 やはり気のせいかと諦めかけた帰り道、裏路地でガタガタと震える永井くんを見つけた。


 お互いクラスでは目立たなかった同士ではあったけれど、それほど親しくはなかった。


 しかし、あまりの寂しさから、僕は彼に話しかけてしまった。


 思わず手に持っていた、むき出しの硬いパンを彼に差し出した。


 虚ろだった永井くんの目は見開かれ、彼はそのパンに猛然とかぶりついた。


 この世界では食事は必須ではないようだが、それでも食べることで幸せを感じるものだ。


 僕は永井くんから、彼の天賦が錬金術師だと聞かされた。


 なんたる宝の持ち腐れだろうと思った。


 僕は彼を連れ、兵士の宿舎を訪ねる。


 そして、馴染みの兵士から薬草の生息地を教えてもらうことにした。


 またしても蹴られることと引き換えに、僕はその場所を知ることができた。


 永井くんは、魔物がいるという森に入ることを激しく拒んだので、勇気を出し一人で森へと入ると、手当たり次第に草をむしって、両手に抱えながら戻ってきたのだ。


 恐怖のあまり、泣きながらの帰還だった。


 町はずれに蹲る永井くんに、僕は持ち帰った草の山を見せた。


 その山の中に手を突っ込んだ永井くんは、無造作と思える動作で草をいくつか取り出した。


 永井くんが「生成」と小さく呟くと、一瞬で小さな薬瓶が出来上がった。


 ここが異世界なのだと、僕は初めてその時に実感した。


 永井くんは嬉しそうに残りの草の山をあさり、結果として三つの薬瓶が完成した。


 一つだけ色が違うものがあったので確認すると、初級回復薬が二つと、解毒薬が一つだと教えてくれた。


 僕はそれをギルドへ持ち込むと、小銀貨三枚で買い取ってくれるという。


 価値にして3,000$。


 でもこれで、少しはまともな食事ができる。


 そう思った僕は、永井くんといっしょに屋台で串肉を買えるだけ買って食べた。


 今まで生きてきた中で一番の御馳走に思えた。


 それからは、命からがら森で草を取ってきては、永井くんに生成してもらう日々を過ごした。


 やがて僕の活動はギルドに認められ、こちらから薬草採取の依頼を出せるまでになった。


 ギルドで常時依頼とされている物より、少し高額で買い取る条件をつけられたが、それでも大量に集まれば、良い稼ぎになるなと思った。


 それから自分で採取したり、買い取った薬草を生成してもらい、今度は兵士たちを相手に直接売りに出していた。


 ギルドでは安く買い取られると、馴染みの兵士のおじさんから聞いたからだ。


「お前がいなくなると寂しくなるな」


 そう言って笑いながら尻に鋭い蹴りをたたき込んでくるおじさんに、「週に三回は来るから」と答えて宥めた。


 その頃には『痛覚麻痺』というスキルを覚えていたし、情報源としての繋がりは必要だと、僕の『先見の念』が言っていたから。


 それからは、スキルを頼りに街中をうろついて商機を探した。


 数日後のある時、奴隷として売られそうになっていた松村さんを見つけた。


 僕は有り金をすべて使い、彼女を買い取った。


「大丈夫?」


 僕が声をかけると、彼女は「ひっ」と短く悲鳴を上げて怯えた。


 怯える彼女に魔道袋に入れていた食事を与え、泣き出して蹲る彼女のそばに、ただただ寄り添った。


 ゆっくりと話し始めた彼女は、森に転移してからひたすら隠れ住み、恐怖との戦いの日々を過ごしていたらしい。


 昨日、運悪く冒険者の男に見つかって拉致され、そのまま売りに出されたようだ。


「一緒に頑張ろう」


 僕はそう彼女に伝えると、少しだけ顔を上げ口元を緩めた彼女。


「まだ少し怖いけど、頑張るね」


 そう言って、少しだけ微笑んでくれた。


 彼女は『調教師』の天賦を持っていた。


 魔物と仲良くなれる『友愛』というスキルを持つが、何度か遭遇した魔物には使う勇気はなかったようだ。


 僕は怯える彼女を励ましながら、一緒に森へと入ることにした。


 ここでは何度もゴブリンと言われる小鬼に追い掛け回されたので、慎重に進む。


 しばらく行くと、一匹のゴブリンが現れた。


 悲鳴を上げながら、僕の背中にしがみ付き、右手を前に出す松村さん。


 すると、「ギギギ」と奇声を上げていたそのゴブリンは、急に大人しくなった。


 そして、松村さんの前までやってきたゴブリンは、可愛らしく首をコテンと傾けていた。


 涎を垂らしながらの狂暴な顔のせいで、可愛らしさは微塵も感じなかったけれど。


 それから、松村さんは『ゴブ美』と名付けたそのメスゴブリンを先頭にして薬草探しを再開させた。


 ゴブ美に「食べられる草はどれ?」と聞くと、ゴブ美は嬉しそうな顔で涎をまき散らしながら森の奥へと入って行く。


 僕たちは警戒しながらその後をついていった。


 途中、他のゴブリンやスライムと思われるゼリー状の魔物に遭遇した。


 しかしゴブ美が威嚇すると、スライムはすぐに逃げていった。


 他のゴブリンと遭遇した時は、何らかの話し合いで解決したようだった。


 予想以上に使える能力に驚いたが、その後の狼との遭遇では死を覚悟した。


 ゴブ美は死に物狂いでその狼と戦い、その結果、狼も従えることに成功していた。 戦いで傷つき、今にも死にそうなゴブ美に、松村さんが泣きながら縋りつく。


 こんなところで大事な駒を失うわけにはいかないと、僕は初級回復薬をゴブ美に振りかけた。


 すると、なんとかゴブ美はその命をつなぎ留め、ゆっくりと立ち上がった。


「ありがとう、伊藤くん」


 松村さんにお礼を言われたことは、純粋に嬉しかった。


 これで彼女の好感度も少しは上がっただろう。


 そういった計算もあった。


 それから、新たに加わった狼の『ワン太』と一緒に奥地へと進んだ。


 そこで、ベリーのような甘い香りを放つ実をつけた草を見つけた。


 その周りの草も見たことが無いものだったので、二人で抱えきれないほどの量を持ち帰る。


 そして、街はずれで待機していた永井くんが、ひたすら生成を頑張ってくれた。


 ベリーのような実は大量のジャムが詰まった瓶になり、目新しい草からは、一つだけだが中級回復薬ができた。


 三人で飛び上がって喜ぶと、さっそくジャムをひとつ開けてみた。


 買い置きの硬いパンに塗りこみ、みんなで美味しくいただいた。


 中級回復薬は一つしかなかったが、兵士のおじさんが銀貨五枚というそれなりの値段で買ってくれた。


 ジャムはいつも硬いパンを買っている、パン屋に持ち込んでみた。


 あの実はベリーと呼ばれ、それを使ったジャムは、平民の口にも入る一般的なジャムらしい。


 それでも十個全部を銀貨一枚で買い取ってもらった。


 中々の高級品らしい。


 翌日、その店ではジャムが一つ小銀貨三枚で売られていた。


 三倍の売値。


 だけどそれもまた商売だ。


 そう思って納得していた。


 価値を知ることは大事なことだ。


 僕の持つ商人の初期スキル、『記録』により、過去に売買した時の価格についてはすぐに思い出せるようになっている。


 安く買い高く売るという、当たり前のことを、地道にやって行こうと思った。


 翌日からも森へと入り、採取を繰り返した。


 ジャムはかなりの人気のようで、いつの間にか兵士たちからも直接注文が入るようになった。


 そのうちに、永井くんの生成スキルが上がっていった。


 稀に高品質なものができるようになった。


 高品質となったものは、別口として、さらに高く売るようにした。


 そんな紆余曲折あって、僕は自分の商売をここまで広げてきたのだ。


 そんなことを長々と想い返した後、僕は一つの決断を下した。


 ランキング上位にいる黒木に話をつける。


 勇者として活躍している酒井との交渉は、恐らく無理だろう。


 だが、あの引きこもりである黒木なら、今の僕の財力を見せつければ、簡単に仲間にすることができるはずだ。


 そう思った僕は、クラスメイトで護衛として雇っている新田くんと三木谷くんを連れ、バルドの街へと転移した。


 彼らを取り込もうと、ギルドの前で到着を待ち構えた。


 しばらくすると、黒木と共に行動している三人が近づいてくるのが見えた。


 だが、僕が金貨の山を見せびらかし誘っても、黒木は乗ってこなかった。


 それどころか、黒木の偉そうな態度に、僕は内心で激しく苛立ちを覚えた。


 だが、僕が護衛の二人に命令する前に、周囲の他の冒険者たちから、黒木がとんでもなく強い存在であることを教えられた。


 その場の空気の重さに、僕は丁寧に詫びを入れて、逃げるようにして街を去った。


 怒りの収まらなかった僕は、裏の手段を使うことにした。


 闇ギルドに黒木の暗殺を依頼。


 しかし、闇ギルドからは即座に断られてしまった。


 聞けば、すでに闇ギルドは黒木の暗殺を実行したことがあるようだ。


 寝込みを襲おうとした暗殺者は、連日ダンジョンにこもりっきりの黒木に、何日も待ちぼうけをくらわされた。


 そして数日後、暗殺者の手練れ五人の首が、闇ギルドの拠点に直接届けられたという。


 闇ギルド側も、その侵入すら察知できずに届けられた五つの首を見て戦慄したと、連絡役の厳つい男が肩を抱くようにして震えながら話してくれた。


 その圧倒的な実力差に恐怖し、闇ギルドは黒木と関わることを一切拒絶することを決めたようだ。


 その報告を聞き、僕もまた、黒木との接触を完全に絶つことを決めた。


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