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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第三十四話「邪魔な蛆虫が湧いてるようだが、お前たち、精々俺様の役に立て。わかったな!」

本日二話更新。二話目。


 笹田さんが仲間に入ってから、数日が経過した。

 

 心配をよそに、彼女らは逃げ出すこともなく、僕を殺しにかかることもなかった。

 

 安堵と不安を抱えながら、僕は毎日、欠かさずに夜の修行も続けている。

 

 日中はダンジョンでの訓練をこなし、夜は一人で最新層を目指しひたすら魔物を狩り続けた。

 

 三人も、僕の指示に従いながら、さらなる力を身につけていた。

 

 その三人今も、自主的に夜の修行を続けている。

 

 その連携は日ごとに精度を上げ、今では五十階層手前の魔物程度なら危なげなく狩れるようになった。


 これなら三人で五十階層の守護者を狩れるだろう。


 順調に進んでいる。


 明後日には転移から二十八日目がやってくる。


 もう新たな機能は追加されない。


 そう思いたいけれど、不安が次々に湧いてくる。

 

 僕はこのまま強くなり、ダンジョンを攻略し、みんなで日本に、元の世界に帰る方法を探らなくてはならない。


 そんなことを考えている間に、僕はギルドへと到着し、冒険者たちの注目を浴びつつカウンターまで歩いていった。

 

 換金を終え、ダンジョンへと向かおうとしていた僕は、何気なく出していたマップを見て足を止める。


 ギルドへ近づく、赤く光るマーク。


 五つ固まっているそのマークには、岡崎健吾、瀬戸康平、寺田龍馬、岸本隼人、そして高橋凛の名が添えられていた。


 背筋に嫌な汗が流れるのを感じた。

 

 彼らはあの、井上美咲の機嫌を取るためだけに、僕をサンドバッグのように扱ってきた連中だ。

 

 彼らは美咲の死を知り、今何を感じ、僕に対して何を思っているのだろう。

 

 そんなことを考えながら、吐き気を堪え、大きく息をはいた。

 

 表示された名前は、見間違えるはずもない。

 

 岡崎健吾。

 

 かつて僕の腹を蹴り飛ばし、笑いながら泥水を飲ませた男だ。

 

 他の四人も、僕の記憶にこびりついている悪意そのものだった。

 

「黒木様、今日もよろしくお願いします」

 

 藤田さんがそう言いながら、僕の顔を覗き込んできた。

 

「はんっ、死ぬ気で付いてこい!」

 

 僕は無理に口角を上げて、不安を隠した。

 

 心臓が激しく鐘を打っている。

 

 今ここで身を隠せば、遭遇を避けられる可能性もある。


 あくまでもあいつらがマップを確認してこちらに向かっている、ということでさえなければ。

 

 だが、逃げてどうなるというのだ。

 

 彼らの目的が僕ならば、彼らはいずれは僕に接触してくるだろう。

 

 そうなれば、藤田さんや笹田さんにまで被害が及ぶかもしれない。

 

 彼らのランキングは高くはない。


 きっと負けることは無いだろう。


 何より、僕は自分に誓ったはずだ。

 

 僕は、俺様は、この世界のトップに君臨する最強の悪役になるのだと。

 

 悪役が逃げ回るなど、あってはならない醜態だ。

 

 僕は、彼らを完膚なきまでに叩き潰し、僕への恐怖を魂に刻み込む必要がある。

 

 それが、僕がこの世界で生き抜くための唯一の道なのだと、もう一度自分に喝を入れる。

 

「行くぞ。どうやらこの近くに、邪魔な蛆虫が湧いてるようだが、お前たち、精々俺様の役に立て。わかったな!」

 

 僕は低く冷たい声を三人に告げる。

 

 藤田さんと笹田さんは顔を見合わせたが、佐々木くんは胸の前で指を動かした後、僕の意図に気付いたようで苦笑いしていた。

 

 僕たちはそのままギルドの扉へと歩みを進めた。

 

 扉の向こうからは、聞き覚えのある下卑た笑い声が漏れてくる。

 

 僕は深呼吸をし、感情を押し殺した。

 

 今の僕は、苛めから逃げ出した弱虫な最低男ではない。

 

 圧倒的な力を持つ、俺様、最強の悪役黒木様だ。

 

 僕はギルドの重い扉が勢いよく開いた後、久しく見ていなかった顔を見てニタリと笑う。

 

 見た目は派手だが安っぽい装備を身にまとった五人組。

 

 彼らはすぐに僕の姿を確認し、リーダーである岡崎が、獲物を見つけた獣のような卑しい笑みを浮かべたのが見えた。

 

「よお、黒木。随分と出世したみたいじゃねえか!」

 

 その声を聞いた瞬間、僕の中の何かが完全に冷え切った。

 

 僕は無言で彼らを見据え、一歩ずつ間合いを詰めていった。

 

「なんだ、ゴミ虫。ドブ掃除でも探しに来たか?」


 気持ちを落ち着けつつ、そう言って彼らを煽ってみる。


 この世界は、気の抜けない僕の戦場なのだ。



Side:岡崎健吾


 汗の臭いが充満する宿屋の一室で、俺は机を叩いた。

 

 目の前の画面にはランキング、さらにはマップが表示されている。

 

 ようやくこの時が来た。

 

 俺たちはこの世界の南に位置するネクロスという街のダンジョンで好き勝手に冒険者生活を楽しんでいた。


 その傍ら、美咲の行方を捜していた。


 そして数日前、新たに加わったMAP機能というやつで、美咲の居場所が分かった。


 俺たちはダンジョンにこもり、必死に金を貯めていたのだ。

 

 目的はただ一つ、美咲と合流し、また楽しくこの異世界と言う最高の世界を満喫することだ。

 

 転移陣の使用料として、人数分の金貨五十枚をようやく工面できた俺は。

 

 だが、ハルドの街に到着した直後、俺たちはランキングを確認して愕然とした。

 

 美咲が、死んだ。


 俺たちは、その事実を受け入れることに時間が必要だった。


 そして、その怒りを鎮めるためには、生贄が必要だった。

 

「あの引きこもりが、旨い事やりやがったようだな。美咲が死んだ今、あいつが生きてることに虫唾が走る……、絶対に殺して、その全てを奪ってやる!」

 

 俺は拳を握りしめ、そう叫んだ。

 

「ああ。うまくはめて、全て奪って殺してやろう。あいつは元々、俺たちの所有物みたいなもんだからな」


 瀬戸が冷たい笑みを浮かべて応じる。

 

「ホント、黒木はかなり持ってそうだよな。それに、藤田と笹田も一緒なんだろ?あいつの物は俺達のもの。金も、女も……。楽しみだよなぁ」

 

 寺田が、下品な笑い声を上げる。

 

「黒木を利用してやりたいけど、警戒は必要だぞ?あいつは仮にもランキング上位だ。何かを隠してる可能性がある……」


 岸本だけは、周囲を気にしながら慎重に口を開く。


「あっちに戻っている間に獲た情報で、旨いことやってるんだろ?」


 俺はそう返すが、確かに警戒は必要かもしれない。

 

 そんな中、凛が激しい憎悪を剥き出しにして机を蹴った。

 

「美咲が死んで、なんで黒木が生きてんの!絶対に許せない、あいつのせいで私たちの計画が全部めちゃくちゃよ!」

 

 美咲が死んだのはあいつの所為ではないが、もはやそれはどうでも良かった。


 俺たちはマップを頼りに、黒木がいるはずの冒険者ギルドへと向かった。

 

 ギルドの中に入ると、そこには俺たちとは違い、高そうな装備を身につけた黒木がいた。

 

 その隣には、佐々木、藤田と笹田もいる。


「よお、黒木。随分と出世したみたいじゃねえか!」


 舐められないようにギルド内に響き渡るような大声でそう告げる。

 

 そんな俺と視線を合わせた黒木は、こちらを見て笑っている。


 昔なら、俺たちの姿を見ただけで震え上がっていたはずのあの黒木がだ。

 

「なんだ、ゴミ虫。ドブ掃除でも探しに来たか?」

 

 黒木の挑発的な一言に、俺の頭は一瞬で沸騰し、拳を振り上げ殴り掛かろうとした。


 だが、その腕は寺田により引き留められた。

 

「ちっ、生意気になったよな引きこもり……、ちょっと顔かせ!」


 俺は舌打ちをして、ギルドの外へと黒木を連れ出した。

 

 街の入り口近く、人の少ない場所まで来ると、瀬戸が合図を出す。

 

 凛が素早い動きで藤田の背後に回り込み、剣を突きつけて人質に取った。

 

「動くんじゃないわよ。黒木、あんたの持ってる金と装備、全部出しなさい!」

 

 俺は勝利を確信した。

 

 だが、次の瞬間、事態は予想外の方向に動いた。

 

「さわらないで!」

 

 人質のはずの藤田が、氷のような声で言った。

 

 藤田は凛の腕を信じられない早さですり抜け、そのまま背後に回り込み、よく分からない動きの後、気付けば凛が地面へ叩きつけられ、足で押さえつけられていた。

 

 その凛が、悲鳴を上げる間もなく、俺の目の前に黒木の拳があった。

 

 一瞬の闇。


 殴られた衝撃で意識が飛びそうになるが、すぐに地面を転がる痛みで意識を覚醒させた。

 

 慌てて繰り出した瀬戸の地雷罠はでかいハンマーで爆破され、気合と共に放たれた寺田の槍もへし折られた。


 笹田がその寺田の背後に現れ、鋭い暗器のような物を突き付けている。


 岸本は佐々木の大きな盾により、危険察知を発動する前に無効化された。


 黒木たちにより、一瞬で五人全員が返り討ちにされた。

 

 黒木はでかいハンマーを両手に持ち、俺の頭のすぐ横に打ち下ろす。


 俺は必死に地面に這いつくばり逃げようとした。

 

 死ぬ。


 殺される。

 

 本能的にそう思った時、生ぬるい何かが降ってきた。

 

 俺の体が発光する。


 頬の痛みが消え、全身の痛みもなくなった。


 意識がはっきりしてくる。


 いつも使っている安っぽい治療薬とは違うもの。


 そう考え、許しを得たのだと安堵する。

 

 だがそれは、黒木からの慈悲ではなかった。

 

「金貨五十枚。これが今、お前らに使った上級治療薬の金額だ。俺様は仏のように優しい男だからな!まずはそれを返せ。そうしたらお前らは自由だ。それまでは、俺様の下僕だ!」

 

 黒木が嬉しそうな表情で見下ろしてくる。

 

「ふ、ふざけるな!そんな金あるわけ……」

 

 寺田が反抗しようとした瞬間、黒木の足が寺田の指を踏み抜いた。

 

 凄まじい絶叫が響く。

 

「俺様の言葉、低能なお前には理解できなかったか?これはお前らの命の値段だ。払えないなら、死ぬだけだ」

 

 黒木はまたひとつ、小さな薬瓶をあけ寺田に雑にふりかけていた。


 おかしな方向に曲がっていた足先が光り、元の姿へと戻って行った。


 黒木はさらに冷たく笑った。

 

「お前、いきなり借金が倍になっちまったな。金貨百枚、頑張れよ?」

 

 俺たちは震え上がった。

 

 こいつは、俺たちが知っている黒木じゃない。

 

 本物の化け物だ。

 

「わ、わかった……。なんとかして払う、払うから助けてくれ……」

 

 俺は惨めに命乞いをした。

 

「なら決まりだ。今日からお前らは俺の下僕として、清く正しく、ダンジョンに潜って死ぬ気で稼いでこい!逃げようとしても無駄だぞ、マップでお前らの位置は丸見えだからな」

 

 黒木に追い払われるようにして、俺たちはダンジョンへと向かった。

 

 かつての獲物に借金と言う名の首輪をつけられ、絶望の中、金を稼ぎに獲物を探すことになった。


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