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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第三十二話「今ダンジョンを一番先に進んでるあんたの元で……、あんたを殺す力をつける!」


 領主邸から戻った僕は、どうやら翌朝まで目を覚ますことはなかったようだ。


 気付けば二十一日目は始まっている。


 そう、遂に運命の二十一日目がやってきてしまった。


 今日はどんなアップデートが加わるのだろうか。


 そう警戒していたのだが、今のところ何事もなく時間は経過している。


 ログアウトを使って掲示板の情報を探るが、特に真新しい情報はなかった。


 しいて言えば、続々とこのバルドに集まってきているクラスメイトの中で、注意すべき奴らがいるという程度だ。


 でも、誰が来ても、今の僕は負けることはない。


 負けるわけにはいかないのだ。


『マジで暇人が多いな。働けよ、バーカ』


 そんな書き込みを残し、ドアを境に手を振る鼻眼鏡をつけた姉さんに、片手を上げ合図する。


 時間だ。


 僕の視界は見慣れた宿へと戻り、手早く装備を整えて部屋を出る。


 ロビーでは、すでに二人が待っていた。


 こちらをジッと睨むように見る視線。


 二人の目は、昨日よりも強く輝いて見える。


 そんな二人の背後に隠れるようにしていた誰かが顔を出す。


 笹田さんだった。


 笹田さんは、口元を震わせながら、憎しみを込めたような顔で僕を睨んでいる。


 だが、そんな彼女の顔をよく見ると、いくつかの新しい傷跡があった。


「お願いがある!あんたの仲間に入れて!」


 唐突に、彼女はそう叫んだ。


「は?どういうつもりだ!」


 何を言っているのだと戸惑いながらも、僕は冷たくそう返す。


 すると彼女は、二人を押しのけるように前に出ると、僕に顔を近づける。


「私は強くなる!幸助のところじゃもう限界。でも、ソロでは無理。だから、今ダンジョンを一番先に進んでるあんたの元で……、あんたを殺す力をつける!」


 心臓が大きく跳ねた。


 僕を殺すために、僕の仲間になるという。


 あまりに理不尽な言葉に首をかしげたくなる。


 だが、僕の今までの行動が、彼女をそこまで追い詰めてしまったのかもしれない。


 顔に残っている傷も、一人で無理な狩りをして傷付いたものなのかもしれない。


 なら、今の俺様な最強悪役野郎なら、こう答えるはずだ。


「はっ、やれるものならやってみろよ!だがな、俺様の下僕になるなら、俺様の言葉には絶対服従だ!わかったな!」


 僕は威圧するように、拳を振り上げてみせた。


 ビクリとして後ずさる彼女は、肩を抱くようにして不安そうな顔を見せた。


 それを見て、僕の心は激しく痛んだ。


「エ、エッチなのは、ダメだから……」


 小声で震えながらそう言う彼女に、僕は鼻で笑って返した。


「ちんちくりんが何を言ってんだ。アホくさ!」


 その言葉に、笹田さんは涙目になっている。


 その様子を見て、藤田さんと佐々木くんはさらに激しく僕を睨みつけた。


 ああ、順調に嫌われている。


 藤田さんからの視線も、これまで以上に厳しさを増している。


 依存が解けたのかもしれないと思うと、なぜか嬉しさまで込み上げてきた。


 きっと、三人になれば修行も少しは楽になるだろうと考えたのだろう。


 僕は食事もとらず、そのままダンジョンへ行こう。


 そう考え歩き始めた。


 一歩踏み出した僕はその足を止める。


 そして振り向き、魔道袋から一本の小瓶を取り出した。


 この世界で購入できる最高級の治療薬だ。


 僕は無造作に、笹田さんの顔にその中身をぶちまけた。


「きゃっ!ちょっと、何するの!」


 悲鳴を上げこちらを睨む彼女を、僕は冷めた目で見下ろす。


 そんな彼女の顔から、淡い光が放出され、傷跡がみるみる消えていった。


 その光景にホッとするが、表情に出さないように頬を強張らせる。


「えっ、これって、回復薬?」


 腰の袋から鏡をとりだし、自分の顔を見た笹田さんは、呆然と呟いた。


「なんで……」


 上級治療薬は、金貨五十枚前後で取引される高級品だ。


 全身の重傷さえ瞬時に塞ぐ回復力を持つそれは、ベテランの冒険者であってもおいそれと使えるものではないらしい。


 でも、女の子の顔にそんな傷をいつまでも残しておくわけにはいかないよね。


 そう思って乱暴にぶちまけたのだ。


 今の僕にとって、この程度の出費は痛くも痒くもないのだ。


 今も魔道袋の中には、二人が怪我をした時のために、市場にあるものを買い占める勢いで集めたものが、大量に入っているのだから。


「貸しだ!精々それを返すために、死ぬ気で稼がせろ!分かったな、下僕三号!」


「ちょっと!黒木が勝手に使ったんでしょ!それに、三号ってなによー!」


 背後から響く怒声を無視して、僕は宿を出ようと一階へ降りた。


 すると、ロビーで不意に袖を引かれた。


 不機嫌そうに僕が振り向くと、藤田さんが「トイレ」と言い出した。


「は?俺らには必要ないだろ?」


「ト、イ、レ、ですっ!」


 強い口調で押し切られ、僕は思わず「早く行け!」と送り出した。


 藤田さんは、笹田さんの手を強引に引くようにして、二階へと戻っていった。


 ああ、そういうことかと僕は納得した。


 二人で僕から逃れるための作戦会議でもしたいのだろう。


 僕はロビーのソファにドカリと座った。


 周りからは冷たい目線が注がれる。


「トイレが必要ないってどういうこと?」


「我慢させてるってこと?」


「あんなかわいい子に……、変態プレー?」


「羨ましい……」


 そんな言葉を聞きながら蕪村な態度で足を組み、隣で狼狽える佐々木くんと共に、二人が戻るのを待つことにした。



Side:藤田美織


 私は笹田さんを連れ、足早に部屋へと戻る。


 そのまま彼女の手を離さず、無理やり脱衣所へと連れ込んだ。


 そして、神フラッシュが始まった。


「あんなこと言うなんて、聞いてない!」


 私は笹田さんを壁に押し付けるようにして、至近距離で睨みつけた。


「な、何よ!あいつを殺して、助けてあげるって言ってるのよ?」


 怯えながらも言い返す笹田さんを、私はさらに鋭く射抜く。


「頼んでない!」


 私のきっぱりとした拒絶に、脱衣所には数秒の沈黙が流れた。


「なんで?酷い目に遭ってるんでしょ?」


「貴女には関係ない」


 私は冷たく言い放ち、拒絶の意思を明確にした。


「意味が分からないわ!」


「貴女には分からなくても良い。それに、私はまだ、貴女のことを許して無いし、信用もしていないから!」


 私は彼女の瞳の奥をじっと見つめ、逃げ場を与えない。


「な、なによ。黒木から逃げたくないの?」


 涙目でそう言う彼女の言葉には応えない。


 長い沈黙の後、私はゆっくりと口を開く。


「黒木くんに何かしたら、殺すから……」


 私は底冷えするような怒りを込め、言い聞かせるように、そう告げる。


「な、んで……」


「それと……、今は神フラッシュ中だから大丈夫だけど、今日のこと、誰も居ない場所であっても、一言でも口にしたら、この世界から消えてもらうから!」


 私は新調したばかりの短刀を抜き、彼女の白い首筋に冷たい刃をあてた。


 今の私の方が、彼女よりもずっと強い。


 そう自分に言い聞かせるように、私は手に持つ短刀に力を込めた。


 愛する彼を守るためなら、私は何だってする。


 あの時そう決めたのだ。


「わ、わかった。絶対に言わない。何か意味があることなのよね?中継を見ている人にはばれちゃいけないってこと、なのよね?」


「貴女はただ、何も知らない。何も聞いてない。今はそれでいい……」


 首筋の短刀を腰のホルダーに戻しながらそう告げると、彼女はコクリと頷いた。


「戻る」


 そう短く告げ、私は愛する彼の待つ階下に向かって駆け出した。



Side:黒木玲奈


 私は、スマホで竜ちゃんの様子を映し出す画面を見ながら、もう一台のタブレットで掲示板を眺めていた。


 掲示板には、相変わらず好き勝手な書き込みが躍っている。


「美織と真紀が密談しにいったぞ」


「黒木殺す相談か?」


「やつを殺すために協力してってことだろ?」


「しかし、黒木もよく受け入れたよな?」


「笹田も下僕にして楽しみたいんだろ?」


 そんな言葉を確認した私は、タブレットの画面を切り替えて美織ちゃんの中継を確認する。


『神フラッシュ 発動中』


 そう記されたライブ中継の画面を見つめていると、胸の奥がもやもやとしてくる。


 恐らく、ここ最近の美織ちゃんのあの態度は、すべて演技だろう。


 今までの彼女の態度を見ていた私は、そう考えていた。


 あの子は、竜ちゃんに完全に惚れている。


 私の中の直感が、間違いなくそうだと告げている。


 でも、新しく加わった真紀ちゃんの方はどうだろう。


 彼女は、優しい竜ちゃんが必死に演じている完璧な悪役像に、すっかり騙されているはずだ。


 文字通り、本気で殺す気でいるのだろう。


 今この瞬間、脱衣所で美織ちゃんはどう動いているのだろう。


 説得か、それとも脅迫か。


 真紀ちゃんに共闘を申し込み、竜ちゃんを殺す相談を、ってことはないだろう。


 竜ちゃんを恨んでいるという演技を、真紀ちゃんの前でも突き通すつもりなら、それは、彼女にとっても非常に危険な行動でもあると考えた。


 私はそんなことを考え、少しの不安を(いだ)きながら、画面の中でふてぶてしく座る竜ちゃんの映像に視線を戻した。


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