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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第二十八話「おい、受付。この依頼、俺様が受けてやるよ」


 あれから数日が経過した。


 僕らの生活は、朝から晩までダンジョンに潜り、ひたすら魔物を狩り続けるという単調で過酷なものに変化はなかった。


 だが、十四日目から始まった新しいルール、ランキングとMAPの表示は、転移者たちの間に目に見えない緊張感を生んでいた。


 依然、ランキング一位の酒井くんがいるからだろう。


 バルドに続々と転移者であるクラスメイトたちが集まっていた。


 僕の順位はあれから一つ上がって四位となっているが、追い上げてくる者たちの気配を背中に感じる。


 藤田さんと佐々木くんを引き連れ、僕は今日も三十一階層でギリギリの戦いを演出していた。


 僕自身の強化も万全で、今や手首を軽く返すだけで、リザードマンの硬い皮膚が風船のようにはじけ飛ぶ威力となっている。


 最近の僕は、一撃で倒し切るのではなく、二人がトドメを刺せる程度に削り、あるいは二人が死なない程度にスルーを決め込み、ギリギリの状況を保つよう努めていた。


 何度も繰り返す内に、魔物の命を刈らずとも、自身の力が増す感覚があったので、ここ数日、二人といるときにはほとんど魔物を倒してはいない。


 ログアウト時に確認したが、そんな情報は皆無だった。


 いわゆる経験値と言うべきものは、とどめを刺した者が得るというのが、この世界の常識であった。


 だが実際、僕の力は上がっているし、何より斬撃スキルがレベル2となり、先ほどは『見切り』というスキルが生えた。


 それに、僕自身の強化は夜、二人が寝ている間に行うので問題はなかった。


――――――


 名前:黒木竜也


 天賦:遊戯を極めし者(めっちゃゲーマー)


 スキル:ログアウト・Lv2 / 斬撃・Lv2 / 暗視・Lv1 / 見切り・Lv1


――――――


『ログアウト・Lv2:毎日20分間、元の世界に帰還する。外部音声の聴取が可能』

『斬撃・Lv2:武器による攻撃時、威力と速度に強い補正がかかる』

『暗視:暗闇でも視界が確保できる』

『見切り:攻撃を受けた時、その軌道予測に補正がかかる』



 今はそれで良い。


 すべては二人に任せている。


 そうやって二人を無理矢理にでも成長させていた。


 戦闘が終わるたび、二人が僕に向ける視線の圧迫感のようなものは増している。


 何かを耐え忍ぶような、静かな殺気を孕んだような、そんな二人の視線。


 二人は僕の「ログアウト」というスキルを知っている。


 僕が元の世界と繋がっている唯一の存在であり、同時に自分たちを支配し、危険を強いる元凶であることを。


 早く強くなって逃げ出したいのか、あるいは僕が眠っている間にその喉元を掻き切りたいのか。


 どちらにせよ、僕に対する何かは順調に溜まっているように見えた。


 藤田さんの視線は、どのような意思が込められているのか、やや測りかねているが。


 今はそれで良い。


 これが僕の選んだ道なのだと、何度も自分に言い聞かせる。


 だけど時折、胸の奥が締め付けられるように痛む。


 それは僕が本来持っている弱さであり、捨て去らなければならない未練だった。


 夕暮れ時、僕たちは大量の素材と魔石を獲得し、地上へと戻った。


 いつものように、通りにある馴染みの魔石買取所へと向かう。


 そこには、今日もあのおばあさんが座っていた。


 しかし、今日のおばあさんの顔は、いつにも増して困惑に満ちていた。


 僕が魔導袋から魔石を出そうとすると、おばあさんは両手を前に出してそれを制していた。


「悪いんだがねぇ、もう、うちでは買い取れないんだよねぇ」


 おばあさんの言葉に、僕は俺様ロールを維持しながら眉を寄せた。


「あ"? 何言ってんだババア。俺様の魔石が気に食わねぇってことか?」


「そうじゃないんだよねぇ。毎日毎日、あんたが持ってくる魔石の量が異常なんだよねぇ。うちみたいな小さな店じゃ、もう捌ききれなくてねぇ……」


 おばあさんは、ため息交じりで首を振った。


「これ以上は、ギルドの方に行っておくれ。あそこなら、どんな量でも国が買い取ってくれるはずだからねぇ」


 この世界に来て初めて聞いたギルドという言葉に、僕は内心高揚していたが、わざとらしく舌打ちをした。


 異世界では定番である冒険者ギルド。


 その存在は知っていたが、思えば一度も足を踏み入れたことは無い。


 他のクラスメイトとの接触が増えそうだと避けていたけど、そろそろギルドで絡まれ、撃退した後で持っている素材をぶちまけ、ギルドマスター的な人がやってきて持て囃され、というテンプレをこなすべきか?と考えた。


 いずれにしても、手元の素材や魔石が換金できなければ、装備の更新も消耗品の補充も滞る。


 僕はもう一度舌打ちを残し、黙って店を出た。


 街の中央広場に面した大きな建物、それが冒険者ギルドだった。


 中に他の転移者がいないことをMAPで確認する。


 重厚な石造りの門を潜ると、早い時間だと言うのに中は多くの冒険者たちで活気に溢れていた。


 装備を整えた大人たちが、酒を飲み、笑い、あるいは真剣な面持ちで依頼書を眺めている。


 その光景は、ゲームの世界そのものだったが、漂う空気は生臭く、剥き出しの暴力の気配がした。


 僕が肩を揺らしながら中央の受付に向かうと、周囲の視線が集まるのがわかった。


 中学生のような子供が、女一人と男一人を引き連れて歩いているのだから当然だろう。


 ぞろぞろと僕らに近づき、圧をかけてくる厳つい男たち。


 内心ビクビクしながらも、それらを睨みつけ、袋から相棒である鬼竜二号を取り出し肩に担ぐと、幾分圧は軽くなってくれた。


 受付の女性は、職業的な笑みを浮かべて僕たちを迎えた。


「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「冒険者登録。それと、このゴミを金に変えろ」


 僕は相棒を仕舞うと、横柄な態度を崩さずにそう言い放つ。


 魔導袋をカウンター上で逆さにし、その上に三十階層以上の魔物が落とす、質の高い大粒の魔石を中心に吐き出した。


 敢えて最後に、四十階層のボスが落とした魔石を取り出し、その山にそっと置いた。


 受付の女性は一瞬だけ表情を強張らせたが、すぐに手慣れた様子で書類を取り出した。


 だが視線は、その山の頂点の巨大な魔石に注がれている。


「かしこまりました。まずは登録手続きから行います。お名前と、こちらに手をかざしてくださいね」


 魔導具のような円盤に手を乗せると、僕の年齢や適性が判定される。


「ガキが冒険者だってよ」「死にに来たか」「どうせすぐに泣いて逃げ出すさ」


 周囲の冒険者たちが小声で囁き合っているのが聞こえる。


 一部から「デケー魔石、お使いか?」「カモが来たかも」などという声も聞こえる。


「登録が完了しました。黒木様ですね。初期ランクはFからとなります。まずは町周辺の薬草採取や、害獣駆除の依頼から受けていただきますが……」


 そう言って一枚の安っぽいカードが戻ってきた。


 それには相変わらず見たことのない文字がかかれているが、クロキリュウヤと書いてあることは理解できる。


 僕は鼻で笑った。


「薬草摘みだぁ?やってられるかよ!そんなのは暇なジジイにでもやらせとけ。俺様が欲しいのはランクじゃねえ、そいつを買い取った金だけだ!」


 僕は受付の女性を睨みつけ、カウンター上の魔石を指で突く。


 いくつかの魔石が奥へと転がって落ちる。


 受付の女性が驚きで目を見開きながら、落ちる魔石を受け取っていた。


「それと、それなりに素材もあるがどこに出せばいい?ここにぶちまけても良いが、どうする?」


 さらに、リザードマンの上位種からドロップした鱗や、スケルトンメイジの髑髏(しゃれこうべ)、オーガの上位種の表皮といった素材を、何点か袋から山に吐き出す。


 山が音をたて崩れ落ちる。


 それには周囲の喧騒がさらに激しくなる。


「これ……、すべてあなたが?三十階層以降の魔石や素材も混ざっていますが……」


「質問に答える義務はねえ。さっさと金を用意しろ。それとも、このデカいギルド様でも、買い取る金がねーなんて言わねえよな?」


 しばらくの沈黙の後、奥へと消えた受付の女性。


 手前に落ちた魔石は佐々木くんに命じて拾わせた。


 しばらく後、奥から担当者らしき男が出てくると、冷や汗を流しながら奥へと案内された。


 倉庫と思われる場所で、不要な素材を出し切った。


 担当者が総出で鑑定し、提示された金額は金貨二百五十枚、25,000,000$。


 今日は大目に素材を出したことを考えても、これまでの最高額での買取。


 僕はその金額で了承し、その場に合ったカウンターに出された金貨の山を、乱暴に袖で滑らし魔道袋へと流し込む。


 当面の資金はこれで十分だろう。


 今日も修行だ。


 そう思いながらロビーに戻り、外へと向かう。


 その途中、何気なく見た依頼を張り出してあった掲示板に視線を向ける。


 依頼など受けるつもりは毛頭なかったが、壁に大きく貼り出された一枚の依頼書が目に留まった。


 そこには、太い文字でこう記されていた。


『特級依頼:五十階層守護者の討伐』


 僕はその依頼書を音を立て引き剥がす。


「おい、受付。この依頼、俺様が受けてやるよ」


 依頼書をカウンターに叩きつけ、口の端を吊り上げそう言うと、ギルド内に再び嘲笑が沸き起こった。


「おい坊主、冗談はやめとけ。五十階層なんて、そもそも誰も到達できてねーんだ!それどころか、一流のパーティが何組も四十階層にたどり着く前に全滅してる」


「ランクFのガキが首を突っ込む話じゃねえ。薬草でも摘んで、パパとママにナデナデしてもらってなー」


 冒険者たちの野次が飛ぶ。


「く、黒木様、あれは特別依頼ですので、はがさないようにお願いします……、それに、現在の最高到達階層は、三十九階層で、五十階層は領主の見栄というか、何と言うか……」


 受付の女性もそんなことを言っている。


 どうやら、この世界の冒険者たちは、五十階層はおろか、四十階層の壁を越えられずにいるらしい。


 三十五階層程度で停滞しているはずの酒井たちのパーティが、勇者様ともてはやされていると掲示板に記載があったが、どうやらこの世界は僕の予想よりはるかに低レベルなのだと理解した。


 受付の女性も、寄れた依頼書を袖で伸ばすようにして心配そうな目を向けている。


 僕は受付に背を向け歩き出す。


 そして冷ややかに言い放った。


「黙って見てろ、雑魚ども。俺様があの依頼、すぐに終わらせてくるからな。せいぜいそのきたねー指、ちゅぱちゅぱと咥えて待ってろ!」


 怒号が響く。


 僕はそれを無視するように、藤田さんと佐々木くんを促し、騒然とするギルドを後にした。


 二人は何も言わなかったが、その背中からは強いプレッシャーを感じた。


 そのやる気の矛先は、依頼書の魔物か、それとも僕か……、背筋に冷たい汗が流れた。


 僕は帰還札などを補充し、宿へと戻る。


 夕食を終わらせ、今日のところは疲弊した精神を休めようと布団に潜りこんだ。




 この世界に飛ばされて十八日目の朝が来た。


 まずはログアウトを行い、酒井くんたちの情報を再確認。


 三十九階層まで 進んでいるようだが、そこにいる影の女王(シャドークイーン)という魔物と、その取り巻きである影兵士(シャドーナイト)に苦しんでいるようだ。


 魔法攻撃しか効かないようで、手数が多く苦戦しているようだ。


「あんな雑魚に苦戦してんのか?ったく、勇者っつっても大したことねーな!」


 そう言って高笑いしながら、内心では頑張ってとエールを送る。


 影の女王(シャドークイーン)は僕にとって攻略済みの魔物だった。


 魔法が完全に無効ではないので、核となる中心をぶち抜けば何とかなる魔物だった。


 一通り情報を確認した僕は、絶賛炎上中の掲示板に「クソ雑魚ピーポーの遠吠えが心地良いぜ!」と書いておく。


 そんなことをやっている間に、二〇分間の現実は終わりを告げた。


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