第二十六話「このクソ神もどきがっ!うっせーんだよ!」
本日二話更新。一話目。
けたたましいファンファーレの音が、脳内に鳴り響いた。
僕は跳ね起きるようにして立ち上がり、辺りを見回した。
心臓が激しく脈打っている。
「襲撃、じゃねーようだな……」
焦りを感じながらそう呟いてベッドの上で胡坐をかいた。
昨夜、笹田さんの襲撃を受け、その後の藤田さんの様子にパニックになった僕は、たまらずログアウトを選んで現実世界へ逃げた。
ドアの向こう側、毛布にくるまり眠る姉さんの寝顔を見て、心の底から安堵した。
そしていつものようにPCで情報を確認する。
そこで笹田真紀の天賦が「隠者」であること、彼女がどのようなスキルを持っているか、今までのログによりどのように活動していたかを把握し、この世界に戻ってきた。
戻る間際、姉ちゃんの「竜也!」という僕の名を呼ぶ声が聞こえたが、振り向いた時にはもう宿の室内へと視界が切り替わっていた。
その後、精神の摩耗は限界に達していたが、今の今まで意識を遮断していた結果、どうにか平常心を取り戻すところまできているなと感じた。
それなのに、この無慈悲な騒音。
先週はこんな演出はなかったはずで、明らかに悪意を感じる。
「このクソ神もどきがっ!うっせーんだよ!」
僕は、この事象を引き起こしたと思われる、神と名乗った存在に怒りを向ける。
少しスッキリした僕は、ステータスを確認する。
そこには「新機能追加のお知らせ」という、僕にとっては最悪でしかない文字が躍っていた。
深呼吸を繰り返し、震える指先で中身を確認する。
最初に出てきたのは「ランキング開放」の文字だった。
今までは自身のログしか見れなかったが、ランキングが解放されるというのだ。
さらに、新設されたランキング情報という項目を確認する。
見慣れたランキングが記載されている。
震える指で3位まで上がっていた自分の名を選択する。
そこには、天賦、所持スキル、そしてログ情報までが閲覧可能になっていた。
背筋を冷たい汗が伝い、喉の奥がカラカラに乾いていく。
もしかしたら自分のものだけなのかも……、そんな希望的観測で、ランキング1位の酒井くんを選択。
心臓が激しく鼓動を繰り返す。
天賦・勇者、スキル・『勇敢な心』『剣技』『肉体強化』『神速切り』
さらには、そのスキルひとつひとつにスキルレベルや説明書きまでが見られるようになっている。
「くっ……」
思わず声が漏れる。
僕が隠してきた手の内が、これで白日の下に晒されたことになる。
僕がどんな力を持っていて、どんなズルをしているのか、その気になれば誰でも知ることができる。
さらにもう一つ、決定的な機能が追加されていた。
MAP機能の解禁だ。
MAPを選択すると、視界の隅に地図が表示され、光る点として他の転移者たちの現在地が映し出されていた。
これでは逃げ隠れることもできない。
どこに誰がいて、誰と一緒に行動しているということが、手に取るように分かってしまう。
「ちっ!これだけかよ、使えねー!」
僕は誰もいない部屋で、わざとらしく大きな声を上げた。
弱気になるな。
虚勢をはれ。
俺様を、これを見ている下種な視聴者に見せつけるんだ。
呼吸が荒くなるのを隠すように、両手を上げ欠伸をする。
それから不貞腐れたように布団を頭からかぶり、その中で、ガチガチと歯の根が合わないほどに震えた。
僕が「ログアウト」という、皆が切望するスキルを持っていること。
それがどんな波紋を呼ぶか、想像するだけで吐き気がした。
Side:藤田美織
「なにこれ……」
昨夜、黒木くんの部屋から戻った私は、いつものように瞑想を続けていた。
そして早朝、冷たいシャワーを浴びて肌を引き締める。
脱衣所で、ちょうど服を着ようとしたその瞬間に、脳内に響き渡るファンファーレに驚く。
咄嗟に身構えた私は、敵の襲撃を疑った。
しかし目の前に現れたのは、神からのシステムメッセージだった。
手早く下着を身に着け、衣服を身にまとう。
その上に愛着のある装備を着込みながら、私は流れてくる情報を追った。
新しく追加されたランキング機能。
私は迷わずそれを選択し、最愛の人の名前を探そうとした。
黒木竜也、五位。
誇らしい気持ちが湧き、思わず笑い声がもれる。
そしてその名を選択した瞬間、私の心臓が大きく跳ねた。
「ログアウト……、帰れるんだ」
彼のスキルの説明に目を奪われる。
『ログアウト・Lv2:毎日20分間、元の世界に帰還する。外部音声の聴取が可能』
彼はこの地獄のような世界から、一時的にでも現実に戻っている。
今までの彼是が脳内を駆け巡り、その中の彼の表情を思いさらに深く思考を加速させる。
彼が時折見せる弱々しい表情。
私に対する冷たい態度。
数日前の彼のあの弱音を聞いた瞬間から、それが私を守るための手段なのだと分かっていた。
その理由がなんとなく想像できた気がする。
彼は向こう側に戻った時、きっと何かを見たのだろう。
あちら側で、私たちの日常が娯楽として消費されているというのだろうか?
それぞれの行動が、そんな視聴者たちの批判の対象となっているのだろうか?
だからこそ、彼はあんなにも自分を追い込み、汚れ役を買って出ているのではないか?
勝手な想像ではあるが、そう考えるとしっくりくるような気がして、胸が苦しくなった。
「もっと気を引き締めなくちゃ……」
私は鏡の中の自分を見つめ、強く拳を握りしめた。
もう一度、黒木くんが持つスキルの詳細を確認する。
スキルレベルは2。
二十分間だけ現実世界へ戻り、外部と連絡を取ることができる。
であれば、レベルが上がれば、滞在時間が延びるのだろう。
そして何より、レベルが上がったその先には、他の人を連れて帰る機能が備わるのではないか。
黒木くんは多分、一人で帰るためにこの力を隠していたんじゃないと思う。
私たち全員を連れて帰る方法を、ずっと一人で模索していたのかもしれない。
確信に近い予感が、私の胸を熱く焦がす。
黒木くんへの愛慕が、さらに深く、強固なものになっていくのを感じた。
私はもっと強くならなければならない。
彼が背負っている荷物を半分でも、いえ、全部、私が彼の代わりに持ち、彼を解放してあげたい。
彼を支え、守り、そしていつか必ず、彼と一緒に、みんなと一緒に元の世界へ帰るんだ。
「よしっ!」
気合を入れるように自分の頬を両手で叩いた。
赤くなった頬も気にしない。
私は装備を整えると、一刻も早く彼の顔を見るために部屋を飛び出した。
Side:佐々木昇
「うっさいなー!」
脳内に響く騒音に目を覚まし、周りを見回した後、もう一度布団をかぶり目を瞑る。
昨日、疲れた体を引きずるように帰った後、黒木から恵んでもらった金で腹を満たした俺は、シャワーを浴びて柔らかいベッドに体を沈め、疲れを癒していた。
やっぱり食事は良い。
食べなくても死ぬことは無いけど、それでも旨い物を食うことは生きることだと感じた俺は、黒木には感謝をしていた。
だけど、あいつ、怖えーんだよ……、そんなことを考え、暖かい布団の中だと言うのに寒気がした。
それでも、今の状態はありがたかった。
あいつに引きずり回された結果、強くなっていると実感できた。
これならあいつが俺を見放しても、一人でなんとか生きていけると思った。
でも、俺はあいつと離れる気は今のところなかった。
あいつといれば安全に魔物を倒し、稼ぐことができる。
この神が作ったというゲームの世界は、俺にとっては現実なのだから。
もっと稼げるように鍛えてもらって、そしたらあいつと話をしよう。
今までありがとうと。
そして、もう勘弁してくれと。
そんなことを考えながら、暖かい布団の誘惑に負け目を瞑る。
やっぱり睡眠は良い。
こっちにきてからしばらくは眠れなかった。
それでも睡魔は襲ってこなかったから、食事や排せつと同じように睡眠も不要なのだとは思っている。
だけど、これも人間らしい生活習慣だ。
眠れるときは眠る。
それが幸せなんだ。
俺は布団を強く抱きしめ、二度寝を決めようと意識を遮断した。
その幸せは、大きな音と共にあいつに叩き起こされるまで続いた。
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