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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第二十五話「私は黒木様の下僕なの!帰って!」

本日二話更新。二話目。


 黒木が狩りを昼過ぎに切り上げ、疲れた体を休めて意識を遮断した夜、彼はひっそりと危機を迎えようとしていた。


 深夜、黒木たちの宿泊している宿の裏手にひっそりと潜んでいた影。


 No.8・笹田真紀。


 クラスでもまとめ役だった委員長タイプの笹田。


 彼女の天賦は隠者であった。



Side:笹田真紀


 隠密活動に長けた私は、この世界に強制転移させられてから今まで、適度にこの世界を楽しんでいた。


 この不条理な世界に放り出された当初は、あまりの環境の変化に戸惑い、恐怖に震えた夜もあった。


 しかし、隠者というスキルは、私に冷静さとこの世界の裏側を覗き見る機会を与えてくれた。


 たまに酒井の勇者パーティに加わって、安全な後方から戦況を眺め、それなりの報酬を得る生活を楽しんでいた。


 初期スキルの『気配遮断』を使って背後から魔物を狩る。


 割とすぐに『操糸』という糸を操るスキルや、『投擲』という命中力に補正がかかるスキル、周囲の気配を感じることのできる『気配察知』を得ることができた。


 隠者というより暗殺者じゃない?


 そう思ってしまうスキル構成だった。


 でも、使い慣れればそれらのスキルは非常に優秀で、魔物を人知れず倒してしまうことができた。


 酒井たちは真面目で、正義感を振りかざすやや暑苦しさはあったけれど、実力だけは本物で、彼らと一緒にいれば宿を借りる程度のお金を手に入れることは容易かった。


 それなりに充実した日々を送っていたはずだった。


 けれど昨日、酒井から信じられない情報を聞いた。


 あの藤田さんが、あの引きこもりになった黒木に、奴隷のような扱いをされているという話だ。


 きっと、藤田さんは黒木から辱めを受け、離れられなくなっているのだろうとも言っていた。


 その瞬間、私の中で何かが弾けた。


 黒木。


 あまり長くは登校してこなかったけど、学校では目立たず、暗い印象しかなかったあの男。


 そんな男が、この世界で力を得て増長している。


 その事実に、激しい怒りがこみ上げてきた。


 私は単独で行動を開始した。


 スキルを駆使して情報を集めるのは、私にとって造作もないことだった。


 街の浮浪者や、欲深い情報屋から、黒木の特徴を伝え、その足取りを追った。


 危険な奴らと何度も接触し、危ない目にもあったけど、スキルを使えば危機を脱することは難しくなかった。


 そしてついに、黒木が泊まっているという宿を特定した。


 この街でも指折りの、高級な宿。


 藤田さんから奪った金で、自分だけ贅沢をしているのだろうか?


 それとも、彼女に働かせ、贅沢を満喫しているのか?


 そんな事を考えると、握りしめた拳が震えた。


 夜の帳が下り、街の喧騒が消えるのを待った。


「隠密起動開始、気配遮断、発動……」


 小声でそうつぶやいた私は、黒木が泊まっているという二階の窓を見上げる。


 窓からは微かな明かりも漏れていない。


 既に眠りについているのか、それとも奥で藤田さんを虐げているのか。


 下半身に力をこめ、一気に開放する。


 この世界に来てから強化された跳躍により、音もなく二階の窓枠へとしがみ付いた。


 腕の筋力も強化されていることを実感する。


 気配察知を使い、壁越しに室内の状況を把握する。


 気配は一つ。


 ベッドの上に横たわっているのを直感的に感じる。


 恐らくは意識を遮断しているのだろう。


 この世界で、私たちは人間の持つ三大欲求が不要な体になっている。


 だけど、それらを取らなくいことで生じるは精神的な疲労が、少しづつではあるが蓄積することも知っている。


 大丈夫。やれるわ、きっと……。


 心の中で決意を固める。


 操糸スキルにより、窓の隙間から手持ちの糸を操作し、内側から締められた窓の鍵を外す。


 この行動が、気配遮断による干渉が効かない仕様なのか、カチリという小さな金属音がした。


 そんな小さな音も、夜の静寂の中ではとても大きな音だと感じた。


 慎重に窓を滑らせ、隙間から部屋へと滑り込む。


 室内は豪華な調度品で整えられていた。


 その中に鎮座するベッド。


 私は音を立てずに歩を進め、意識を遮断している黒木を見下ろした。


「こいつが藤田さんを……」


 月光に照らされた黒木の寝顔は、驚くほど無防備だった。


 学校にいた頃よりも少しだけ顔つきが鋭くなっている気がしたが、それでも本質は変わっていないように見える。


 この男が、あの大人しくて控えめな藤田さんを、穢した。


 そう思うと、怒りが止めどなく湧き上がり、今にも叫びだしたくなってきた。


 私は、その感情を抑え込み、震える手でゆっくりと腰の短刀を抜いた。


 冷たい鋼の感触が、手のひらに伝わる。


 これを振り下ろせば、すべてが終わる。


 正義の名の下に、私はこの害悪を排除する。


 私は今日、初めて人を……。



Side:黒木竜也


 僕は布団に潜り込むと、すぐにその意識を遮断した。


 徹夜明けの狩りは、予想以上に精神を削るものだった。


 強くするためとはいえ、ギリギリの戦いを強いるというストレスは、僕の心を淀んだ何かで塗りつぶすような、そんな不快感を生んでいた。


 それらを癒すため、意識を無理やり遮断する。


 そんな僕は、大きな物音により意識を覚醒させた。


 僕の視界には、見覚えのある少女の顔が映った。


 月明かりを浴び、銀色に光る短刀が僕の首筋に向けられている。


「なっ―――」


 心臓が跳ね上がる。


 死の恐怖が全身を駆け抜ける。


 声を上げながら、反射的にその短刀を払おうとした、その時だった。


「だめー!」


 藤田さんの絶叫が、静かな部屋に響き渡る。


 侵入者である少女は、その声に激しく反応した。


 驚愕に目を見開き、振り向いた少女はその名を叫んだ。


「藤田さん!」


 その隙を、僕は逃さなかった。


 僕は少女の腕を力任せに引き、バランスを崩させる。


 そのまま床へと転がし、短刀を持つ右手を足で踏みつける。


 自由になっているもう一方の手を、仕方なしに踏みつけようとした時、僕の視界には、割って入ってきた藤田さんの背中が見えた。


 藤田さんは、両手で侵入者の左手を押さえつけているようだ。


 その背をかわすように、侵入者の顔を覗き見る。


 やはりクラスメイトの笹田真紀だった。


「笹田……、お前、何しに来た!」


 絞り出すような僕の声に、彼女は憎しみのこもった目で睨み返してくる。


「藤田さんを解放しなさい!この悪党!」


 そんな言葉を聞き、僕は思わず怯む。


 悪党。


 その言葉が、今の僕には重く突き刺さる。


 確かに僕は、彼女たちを支配しているように振る舞っているのだから。


「私は黒木様の下僕なの!帰って!」


 息苦しさを感じた僕の心に、藤田さんの言葉が突き刺さる。


 藤田さんの言葉に、笹田さんは絶望したような顔をした。


 その顔を見ながら、きっと僕も同じような顔をしているのだろうと思った。


「藤田さん……、何を言っているの?こいつに何をされたの?」


 心配そうに声をかける笹田さん。


「黒木!藤田さんに洗脳でもしてるのね!この、卑怯者!薬でも使ったの?それともスキル?」


 笹田さんの罵倒が続く。


「洗脳?んなわきゃねーだろ!」


 僕は震える声で反論した。


 洗脳なんてしていない。


 ただ、生き残るために、この役割を演じているだけだ。


 けれど、今の藤田さんの態度は、僕の想像をはるかに超えていた。


「黒木様はそんなことしていない!とにかく、早く帰って!黒木様に手を出したら、私、許さない!」


 藤田さんは今にも殴り掛かりそうな、そんな勢いで笹田さんに言葉をぶつけていた。


 その殺気すら感じる様子に、逆に僕の方が狼狽え、押さえつけていた足を引いてしまう。


 その瞬間。


 笹田さんは驚くべき身のこなしで僕の拘束を逃れた。


 一瞬で僕の目の前から消え、気がつけばドアの前に立っていた。


 彼女のスキル、なのだろう。


 正直彼女の天賦が何か確認していない。


 盗賊か、それとも忍者か……。


「今は引くわ。でも、絶対に助け出すから!待っていて、藤田さん!」


 そう言い残して、彼女は煙のように姿を消した。


 部屋に重苦しい沈黙が訪れる。


 心臓の鼓動が耳の奥でうるさい。


 僕は荒い息を整えながら、隣に立つ藤田さんを見上げた。


 彼女は肩を上下させ、まだ興奮が冷めない様子だった。


「な、中々やるじゃねーか。良くやった!」


 僕は俺様の仮面を必死にかぶり、震えを隠しそう言った。


「うん!」


 一言そう言って、藤田さんは僕に向かって満面の笑顔を見せた。


 その笑顔には、一切の恐怖も、僅かな迷いする感じていないように見えた。


 ただ、役に立てたという純粋な喜びだけが満ちているような……。


 彼女はそのまま、足早に部屋を出ていった。


 ドアは強引に押し開けられたようで、鍵はかからなくなっているのを確認すると、舌打ちをしてベッドにダイブする。


「もしかして……、依存、ってやつかな?」


 思わず素のトーンでつぶやいた。


 今の藤田さんの目は、普通じゃなかった。


 僕を守るためなら、かつての友人にすら刃を向けかねない危うさがあった。


「随分立派な下僕に育ったじゃねーか……」


 自分に言い聞かせるようにそう言い直したが、胸のざわつきは収まらない。


 僕はこの先、彼女をどう扱えば良いのか?


 今まで通りの扱いで良いのか、予定通りの結末を導く正解が、僕には分からなかった。


 彼女を鍛え一人でもこの世界で生きていけるようにした後、僕への嫌悪で逃げてもらう。


 そして安全な場所で、彼女が幸せに生きていけるように、そうしたかったのに。


 彼女が僕に依存しているというのなら、僕はどうしたらよいのだろうか?


 その片鱗を間近で見た僕は、底知れぬ恐怖を感じた。


 堂々巡りで考えがまとまらない。


 僕に万が一があれば、彼女はどうなるのか?


 不安と重圧に耐えきれず、僕は逃げるようにメニューを開く。


 そして現実世界へのログアウトを選択した。



Side:藤田美織


 黒木くんの部屋から戻ると、私はそのままトイレに駆け込んだ。


 狭い個室の中で、私は胸を押さえて深く息を吐き出す。


 目の前には『神フラッシュ』の文字。


 それを見てから体の中から湧き上がる嬉しさを爆発させる。


「やった!黒木くんの役に立てた!本当に、間に合ってよかった!」


 頬を叩き、夢ではないのだと確かめる。


 少しでも彼の負担を減らしたい。


 少しでも彼の力になりたい。


 その一心で、今夜も精神を集中させて、心を研ぎ澄ますイメージトレーニングを続けていた。


 魔力の流れを感じ、五感を研ぎ澄ますトレーニング。


 その甲斐あって、私の『危険察知』が敏感に反応した。


 彼の部屋に向かう殺気。


 以前の私なら足がすくむような恐怖の対象だったとしても、私は自然と部屋を飛び出した。


 彼に殺気を向けるなら、それは排除すべき敵ということだ。


 笹田さんと再会したのは、正直驚いた。


 彼女はクラスでも頼れる存在で、人付き合いの苦手な私もよく相談に乗ってもらっていた。


 でも、彼女はわかっていない。


 黒木くんがどれほどの孤独を背負い、私たちのために泥を被っているのかを。


 真実を知らずに彼を殺そうとするなら、例えあっちで助けてくれた存在であっても、私は容赦しない。


 そんなことを考えながら、嬉しさに自然と頬が緩む。


 私はもう、守られるだけの存在じゃない。


「そうだ、忘れないうちに……」


 私はトイレの棚に備え付けられている紙を一枚手に取った。


 この世界の紙は質が悪い。


 日本のふんわりとしたトイレットペーパーとは比べものにならないほど、ゴワゴワして粗末な紙だ。


 それでもこの宿は最高級で、この紙が使えるだけでも贅沢なのだと街の人は言っていた。


 今の私には、排泄すら必要ない体へと作り替えられているから、これを使うことはない。


 けれど、文字を書く媒体としては十分だった。


 私はその紙に、魔道具でもあるペンを取り出した。


 以前、黒木くんからもらったお金でこっそり買ったものだ。


 私はそれでメッセージを書き込んでいく。


 宛先は、佐々木くん。


 彼もまた、この過酷な状況で黒木くんの意図を測りかねているはずだ。


『黒木くんは私たちを守ろうとしてくれている』


『でも、それを周りには隠している。彼が悪役を演じているから、私たちは安全でいられる』


『私たちは黒木くんの意志を尊重して、真実を知っていることを悟られてはいけない』


『何より、彼が守る価値があると思えるくらいに、私たちは死に物狂いで強くならなくてはならない』


 一気に書き上げると、心臓がバクバクと音を立てた。


 これは、私たちが守らなくてはならない秘密。


 黒木くんが、どうしてそう装っているしているのかは知らないけど、私たちはそれを周りに気付かせてはいけない。


 そして、黒木くんが絶望に飲み込まれないように、私たちが支えなければならない。


 私は書いた紙を、小さく折りたたんだ。


 これをどうやって渡すか。


 本当かどうかは分からないけど、あの時に神と名乗った存在は、私たちの日常は地球に放送されていると言っていた。


 黒木くんがそんな視聴者からも自身の行動を隠しているのだと思う。


 普通に渡せば、その視聴者に何かあるのだと気づかれてしまうだろう。


 チャンスを待とう。


 私は折りたたんだ紙の表面に、小さく文字で追記した。


『トイレ、神フラッシュ中に読んで』


 私はその紙を、袋に丁寧にしまい込んだ。


 トイレから出ると、窓の外はうっすらと明るくなっている。


 今日も私は完璧な下僕を演じよう。


 黒木くんが……、黒木様が安心して、私たちを支配できるように。


 それが、今の私が彼にできる、たった一つの恩返しなのだから。


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