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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第二十二話「ひっ、いやだ!ここは嫌だ!勘弁してくれ!」


 転移から12日目の朝。


 僕はログアウト中に掲示板で得た情報を元に、街の裏通りへと足を向けていた。


 姉さんの女教師コスでの声援が気になりつつも、しっかりと情報は収集してきたのだ。


 それにしても、なんだよ「黒木くん、昨日はよく頑張りました。はなまるです」って……、今思い出しても顔が赤くなりそうだ。


 そんなことを考え顔を赤くしている僕は、目的地へとたどり着く、


 表通りの活気が嘘のように、そこは淀んだ空気に包まれていた。


 腐った生ゴミの臭いと、排泄物のアンモニア臭が鼻をつく。


 ゲームの中の世界だからだろうか?


 ハッキリと区分けされているような、そんな変化を感じた。


 建物の陰には、薄汚れた服を着た浮浪者たちが座り込み、虚ろな目で通り過ぎる人々を眺めている。


 背後の藤田さんは少し怯えた様子で僕の背にくっついている。


 暖かい熱が感じられ、少しドキドキしてしまう。


「伊織、びびってんな!そして暑苦しい!俺様の下僕なら堂々と睨み返してやれ!」


 そう言いながら、視線を向ける者たちを睨みつける。


 藤田さんも負けじと周りを睨みつけ……、そのちょっと可愛げを感じる表情に吹き出しそうになり、慌てて目を(そむ)ける。


 この世界にも、格差はある。


 力なき者は淘汰され、底辺へと追いやられる。


 そんな掃き溜めのような場所に、かつて教室の中心で輝いていた男がいた。


「だ、だんなさまぁ、おねげーだぁ、恵んでくだせぇ……」


 地面に額を擦り付け、道行く人たちに媚びを売っている少年。


 すがりつかれた男が銅貨を一枚放り投げる。


 それを大事そうに拾い上げ頭を下げる少年を、男は笑いながら去って行く。


 泥にまみれた服を着込んだ少年は、かつての覇気など見る影もないが、見事な落ちぶれた風貌をしていた。


 No.25・佐々木昇。


 サッカー部のエースであり、カースト上位に君臨していた男だ。


 掲示板の情報によれば、彼の天賦は重戦士。


 スキルは肉体強化を持っている。


 初期ステータスとしては恵まれているはずだ。


 レベルを上げれば十分に戦えるだろう。


 だが、佐々木くんは意気揚々と挑戦したダンジョンでの初戦闘で、ゴブリンの群れに遭遇し、その醜悪さと暴力性に恐怖し動けなくなったようだ。


 そのままボコボコにされ、命からがら逃げ帰ったという。


 以来、ダンジョンに潜ることもできず、こうして日銭を稼いでいるようだ。


 その結果、あの転移者ランキングで最下位争いをしていた。


 ログの履歴から悲惨なポイント取得が並んでいたので、いち早く助け出したかった。


 そもそもこの世界では、僕たちは食事をとる必要はない。


 だが、食べることは精神の安定を図る大事な儀式だ


 さらに言うと、安全な寝床は必要不可欠だ。


 この路地裏は、夜になれば物取りや人買いのような輩が出没する。


 中にはこういう場にいる者たちを適当に襲っては、憂さ晴らしで暴行する奴らも出現するらしい。


 表通りの方なら比較的安全なのだが、表通りを夜中にうろつけば、すぐに通報され、衛兵に捕縛されるという。


 もちろん目的をはっきり伝えることのできる場合は別だが。


 佐々木くんも一度境界辺りで夜を明かそうとしたが、衛兵に囲まれ職質、野宿と答えると捕縛されそうになったらしい。


 ログには「衛兵から逃走」ということでポイントが入った履歴も確認できた。


 野宿は死に直結する可能性を秘めている。


 そのことが分かっている佐々木くんは、プライドをかなぐり捨てて小銭を稼ぎ、安宿に泊まる日々を送っているのだ。


 こんな生活をするぐらいなら、大人しく掴まって強制労働した方がましだろうに。


 僕はそんなことを考えながら、相棒を肩に担ぎながら彼の前に立った。


 佐々木くんが、僕の足元ににじり寄ってくる。


「お、お恵みを、お慈悲をくだせぇ、旦那様ぁ……」


 彼は顔を上げ、僕の顔を見た瞬間、凍りついた。


「おねげぇ……、ん……、えっ!、黒木……?お前、黒木だよな!」


 その目には驚愕と、そして僅かな希望の光が宿ったように見えた。


 僕は人気者だった佐々木くんが僕の名を覚えていたことが嬉しかったが、それを表情に出すわけにはいかない。


 口の端を歪め、蔑むような笑みを浮かべた。


「よう、サッカー部のエース様が、随分と無様な姿を晒してるじゃねえか」


「く、黒木……、い、いや、黒木くん、これはその……、いや、頼む!助けてくれよ!俺たち、クラスメイト、だっただろ?」


 佐々木くんはそう言って僕の足に縋り付こうとする。


 僕はそれを避けることなく、冷ややかに見下ろした。


「助ける?なんで俺様がテメェみたいな負け犬を助けなきゃなんねえんだ?」


「そ、そんな……、く、黒木、お前随分変わったな……、前はもっとオドオドと……」


 助けてくれないと感じたのか、佐々木くんはボクに悪態をつくが、僕はそれを制するように睨みつける。


「けっ、負け犬が偉そうに!おっ、そうだなぁ……、使い道はあるかもしれねえな」


 僕は下品な笑みを浮かべてみせる。


「俺様のパーティに、肉壁が足りねーなと思ってたんだよな。お前、体だけは頑丈そうだし、丁度いい壁になれそうだな!」


「に、肉壁……?」


「よし、決まりだ!俺様を守るための壁になれ。そうすりゃ、餌と寝床くらいは恵んでやるよ!」


 佐々木くんの顔が屈辱に歪む。


 だが、彼には提案を断る勇気はなかったようだ。


 ここで断れば、彼は明日にも野垂れ死ぬかもしれない世界だと理解しているのだ。


「やる。やらせてください……」


 彼は涙を流しながら、頭を下げた。


「よし、契約成立だ。今日からお前は下僕二号だ。光栄に思えよ!」


 僕は高笑いしながら、内心で深く溜息をついた。


 これでいい。


 彼を助けるには、こうして強制的に引っ張り上げるしかないのだ。


「あ、ありがとう。黒木くん」


 立ち上がりながら、ほっとした表情で礼を言う佐々木くん。


 僕はすかさず、鬼竜二号の石突きで地面を叩いた。


「あぁ?ありがとうごぜーます、じゃねーのか?」


 佐々木くんは一瞬戸惑ったが、すぐに卑屈な笑みを浮かべた。


「や、やめてよ。そ、それは、こうやった方が通行人の受けが良いから……」


 生きるために染み付いた処世術か。


「まあ気持ちわりーからな、普通にしてろ!」


「わ、わかったよ」


 僕は周りからの視線に鋭い視線を向けながら、新たな仲間を引き連れ、表通りにある武器屋へ向かった。


「これとこれ……、ま、いいだろ」


 僕は一番安い鉄の剣と、木製の盾を買い与える。


「ほらよ、お前の命綱だ。粗末に扱ったら殺すぞ!」


 気圧されるまま首を縦に振る佐々木君を、そのままダンジョンの五階層へと強制連行する。


「ひっ、いやだ!ここは嫌だ!勘弁してくれ!」


 最初は大人しくついてきたものの、ゴブリンが迫ってくるとパニックを起こす佐々木くん。


 トラウマが蘇ったのだろう。


 だが、僕は容赦しなかった。


 あらかじめ足を砕いて弱らせておいたゴブリンを、三匹ほど彼の前に放り投げる。


「ギャギャッ!」


 ゴブリンたちが這いずりながら佐々木くんに殺到する。


「うわぁぁぁ!助けて、助けてくれぇー!」


 佐々木くんは剣を振り回すが、腰が引けていて当たらない。


 盾は何のために持ってるのか?と問いたくなった。


 そんな彼の足に、一匹のゴブリンが這いずりながら噛み付いた。


「ぎゃー!痛ぇ、もういやだぁー!」


 僕はそれを内心ハラハラしながらも、冷静を装い見守っている。


 そして、藤田さんが助けに入ろうとするのを手で制する。


「おい、何してんだ下僕二号!死にたくなきゃスキルを使え!」


「む、無理だ!俺には……!」


「肉体強化だ!それを使えば痛みも恐怖も薄れる!さっさと発動しろ!」


 僕の怒号が響く。


 追い詰められた佐々木くんの体が、淡い光に包まれた。


 スキル発動。


「もういやだー!」


 彼の筋肉が僅かに膨張し、かみつくゴブリンを手で払う。


 肩口を殴られたそのゴブリンは、光となって消えた。


「あれ?いける?」


「そうだ!そのままこいつらも叩き潰せ!やらなきゃお前が食われるんだよ!」


 そう言いながら這いずりながら佐々木くんを睨みつけている残りの二匹を指差した。


「うおおおおおっ!」


 佐々木くんは半狂乱になりながら、盾でゴブリンを殴りつけ、剣で袈裟切りにした。


 二匹のゴブリンが動かなくなる。


 初めてのゴブリン討伐を終えた佐々木くんから、少しだけ自信を取り戻した笑みが零れた。


 それから数時間後、十階層の入り口。


 そこには返り血を浴び、荒い息を吐く佐々木くんが立っていた。


 まだ腰は引けているが、その目は死んでいない。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「チッ、雑魚相手に手間取らせやがって」


 僕は悪態をつきながら、内心では安堵していた。


 これぐらい狩れば、第一段階はクリアということで良いだろう。


「今日はここまでだ!」


 宿に戻り、二人に食事を与える。


 時刻は夕食には少し早い時間帯。


 佐々木くんは泣きながら宿の自慢の柔らかパンを貪り食っていた。


久しぶりのまともな食事なのだろう。


食べなくても生きていけるこの体。


 だが、人間的な食べるという行為を行うことで、精神的な救いに繋がるというのはここ数日で感じたことだ。


 必死に食事を口に押し込めている佐々木くんを見て、聞こえるように舌打ちをしながら、良かったなと安堵していた。


 ちゃんと食べて、せめて今だけは、その心を落ち着けて欲しいなと。


 どうせこの後、俺様ロールで酷い言葉を浴びせなくてはいけないのだから。


 そう考えると僕の心は少しだけ沈み、目の前のお肉に握ったフォークを乱暴に刺した。


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