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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第十九話「テメェは俺様の障害物には成りえねぇんだよ!」


 僕はダンジョンの薄暗い通路を疾走していた。


 呼吸は荒いが、足は止まらない。


 目の前に現れるゴブリンの群れなどは、障害ですらないのは当然のこと。


「邪魔するやつは皆殺しだぁー!」


 喉が裂けんばかりに叫びながら、僕はダンジョンを力強く走り抜ける。


 手にした鬼竜二号(ウォーハンマー) が轟音を響かせる。


 横薙ぎの一撃。


 ゴブリンの頭部が熟れた果実のように弾け飛び、光の粒子となって消えていく。


 立ち止まることすらしない。


 返り血を浴びることも厭わず、ただひたすらに奥へと突き進む。


 自分自身への怒りが、ただひたすらに前へと僕を突き動かしていた。


 最強の悪役?


 笑わせるな。


 守るべき相手に怪我をさせ、安全な場所へ押し込めることしかできなかった無力な自分。


 それが許せなかった。


 もっと力が欲しい。


 圧倒的な、理不尽なまでの力が。


 六階層、七階層、八階層……。


 出てくる魔物は少しずつ強くなってはいるが、僕にとっては手応えの無い格下の魔物ばかりだ。


 すべてが一撃。


 斬撃スキルの熟練度が上がり、ハンマーの重量と相まって、破壊力が増しているのを感じる。


 八階層、九階層……。


 地図など書かないし覚えてもいない。


 ただ風の流れと、魔物の気配が濃い方角を目指して走る。


 十階層にたどり着いた。


 通路の突き当たりに、これまでとは違う重厚な大扉が鎮座していた。


「ここか……」


 掲示板の情報にあったボス部屋だ。


 僕は勢いを殺さず、肩から扉に体当たりをした。


 重い音を立てその扉がこじ開けられる。


 広いドーム状の空間。


 その中央に、見慣れた巨体が待ち構えていた。


 ワイルド・ボア。


 森で僕と死闘を繰り広げたキング・ボアの劣化版。


 掲示板であの時戦ったのはキング・ボアだと知った。


 酒井くんも苦戦したと言っていた。


 だが目の前の大きめな猪は少し大きめとはいえ、ただのワイルド・ボアなのだ。


「ブモォォォッ!」


 ボアが僕を見て、威嚇の咆哮を上げる。


「うるせえよ、豚野郎!」


 僕は歩みを止めない。


「テメェは俺様の障害物には成りえねぇんだよ!」


 ボアが突進してくる。


 地面を揺らす轟音。


 だが、遅い。


 森で戦ったアレよりも格下に負けるはずがない。


 僕は突進をギリギリでかわすと、すれ違いざまにハンマーを振り下ろした。


「斬撃!」


 ハンマーのピック部分が、ボアの背骨を正確に捉え、轟音と共にそのすべてを粉砕する。


「ギィッ!?」


 ボアが悲鳴を上げた後、光となって霧散した。


 ドロップ品を拾う手間すら惜しいと感じながら、僕は早々に次の階層へと続く階段を降りた。


 十階層を超えると、ダンジョンの様相が変わった。


 石造りの通路は湿り気を帯び、苔むしている。


 出てくる魔物も、リザードマンやスケルトンといった、より戦闘的な亜人型が増えてきた。


 だが、僕の進撃は止まらない。


 鬼竜二号を振り回し、骨を砕き、鱗を剥ぐ。


 痛みを感じない体が、今はありがたかった。


 腕が痺れようが、息が切れようが、構わず相棒を振るう。


 十一階層、十二階層……、十五階層。


 時間の感覚が麻痺してくる。


 どれぐらいの時間が経ったのか分からない。


 ただ、強くなることだけを考えていた。


 二十階層に到達した頃には、僕の精神疲労の限界を超えようとしていた。


 だが、僕は戦いを止めることはしなかった。


 目の前には、十階層の時よりもさらに巨大な扉がある。


 二十階層のボス部屋。


 僕は一度深呼吸をして息を整える。


「行くか……」


 扉を開ける。


 中は広大な地下湖のような空間だった。


 水面から突き出た孤島のような足場に、その魔物はいた。


 玄武亀。


 掲示板の情報通り、象ほどもある巨大な亀だ。


 その甲羅は黒く輝く岩石のようで、見るからに硬そうだ。


 長い首の先にある顔は、亀というよりは蛇に近い凶悪さを帯びている。


「硬そうだ……、だが、俺様に砕けないものはない!」


 僕は吼え、孤島へと飛び移った。


 玄武亀が口を開け、高圧の水流を吐き出してくる。


 僕はそれを転がって回避し、懐へと潜り込んだ。


「砕けろぉっ!」


 相棒の打撃面を、甲羅に叩きつける。


 ガィィィン!


 金属同士がぶつかり合ったような高い音が響き、手が強烈に痺れた。


 並の武器なら刃こぼれしていただろう。


 だが、僕の相棒は負けることのない強度を持っている。


「これならどうだ!」


 僕はピックの部分を甲羅の中央に振り下ろす。


 ガツンという鈍い音と共に、甲羅の中央に相棒が深く刺さる。


 亀が怒り、首を振り回して噛み付いてくる。


 それを紙一重でかわし、無防備になった首に拳をたたき込む。


 そして、玄武亀は断末魔と共に崩れ落ち、光となって消えた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 僕は膝をついた。


 さすがにひやりとした。


 だが、これで終わりではない。


 ここからが、本当の戦いだ。


 僕はドロップ品を確認した。


 亀の甲羅片に水属性の魔石。


 ハズレだ。


 僕は舌打ちをし、一度部屋の外へと出た。


 ダンジョンのボスは、部屋を出て数分待てばリポップする仕様らしい。


 ただし、二回目以降の討伐では、魔石などの通常ドロップも無いという。


 効率的なレベル上げや金策には向かない。


 だが、僕は知っていた。


 レアドロップ品は、周回でも出る可能性があることを。


 昨日のログアウト時、僕は酒井くんのログを確認していた。


 彼のログには、『二十階層のボスと戦闘』『二十階層のボスと戦闘×10回達成』『二十階層のボスと戦闘×20回達成』『二十階層のボスからのレアドロップ』と書かれていた。


 さらに、掲示板でも彼の様子についての書き込みがあったのを確認していた。


 ボス周回で、レアは出るぞと。


 藤田さんには、もう二度とあんな怪我をさせたくない。


 そのための、彼女を守るための装備が、ここにあるのだ。


「やるしかねえ……」


 そう思って扉を押し開こうとしたが、その扉はびくともしなかった。


 舌打ちをしながら時を待つ。


 僕は五分ほど時間を置き、扉を押すと再びボス部屋へと入ることができた。


 そこには、無傷の玄武亀が復活していた。


「また会ったな、カメ野郎。俺様が飽きるまで付き合ってもらうぞ!」


 二戦目が始まった。


 一度戦った相手だ。


 動きは分かっている。


 最短の二撃。


 甲羅にピック部分を突き刺し、伸びた首を拳で殴り折る。


 先ほどよりも時間をかけずに倒した。


 ドロップはなかった。


 三戦目、四戦目……。


 淡々と、亀を屠る作業を続ける。


 肉体的な疲労はないはずだが、亀が消える度に精神が削られていくのが分かる。


 同じ景色、同じ敵、同じ攻撃。


 虚無感が襲ってくる。


「勇者は二十回以上は周回したんだろ……、俺様が負けるわけにはいかねえんだよ!」


 十戦目。


 発狂したくなってくる。


 十五戦目。


 集中力が切れ、水流をまともに食らって吹き飛ばされた。


 壁に叩きつけられ、口の中に鉄の味が広がる。


「痛ぇ……、くそ亀!」


 その痛みで、朧気になった意識が覚醒する。


 その怒りで、無理やり体を動かした。


 二十戦目。


 勇者の記録に並んだ。


 だが、何も出ない。


「ふざけんな!運がないなら、回数でねじ伏せてやる!」


 二十五戦目。


 三十戦目。


 既に朝方になっているはずだ。


 そう思って時間を確認する。


 もう時間がない。


 意識が朦朧とする。


 目の前の亀が、ただの黒光りする岩に見えてくる。


 ただ、砕く。


 砕くために振るう。


 怒りが体を突き動かし、その首を殴りつける。


「うぉぉぉーーー!!!」


 雄叫びと共に、三十数回目のトドメを刺した。


 玄武亀が光となって弾ける。


 その光の中に、キラリと輝くものが残った。


「ッ!」


 僕は這うようにして近づき、それを拾い上げた。


 それは、甲羅と同じ光沢を持つ黒い星型のネックレスだった。


 守りのネックレス。


 それを手に握り、精神的に落ち着きを取り戻した僕は笑う。


「ははっ……、出たぜ!」


 執念で勝ち取った戦利品だ。


「見たか……、これが俺様の力だ!」


 誰に言うでもなく呟き、僕はネックレスを袋に収納した。


 これで、藤田さんを守れる。


 その安堵感が、緊張の糸をぷつりと切った。


 急激な睡魔と倦怠感が襲ってくる。


 ここで寝るわけにはいかない。


 僕はふらつく足取りでボス部屋を出た。


 帰還札を使う気力すら残っていなかったが、なんとかアイテムボックスから札を取り出した。


 光に包まれ、ダンジョンの入り口へと転移する。


 外は完全に朝になっていた。


 眩しい朝日が目に沁みる。


 街の喧騒が聞こえてくる。


 僕は疲れた体を引きずるようにして、宿へと向かった。


 人々の視線が突き刺さるが、気にする余裕もない。


 ボロボロの服、血の臭い、そして異様な殺気。


 誰も道を塞ごうとはしなかった。


 宿にたどり着き、自分の部屋のドアを開ける。


 ベッドに倒れ込むと同時に、意識がブラックアウトした。


 泥のように眠る。


 深い、深い眠りの中で、僕はなおもハンマーを振り続けていた。


 守るために。


 最強になるために。


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