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小心者の僕は神の遊戯の中で俺様として虚勢を張ってイキる!  作者: 安ころもっち


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第十八話「興ざめだ。やり足りねーな!」

本日二話更新。二話目


 城塞都市バルドの地下に広がるダンジョン。


 その第一階層は、拍子抜けするほど明るく、そしてカビ臭かった。


 迷宮の壁自体が淡い燐光を放っており、松明がなくても視界は良好だ。


 だが、その明るさが逆に不気味さを際立たせている。


「ひっ……!」


 藤田さんが小さく悲鳴を上げた。


 通路の向こうから、ぬらりと光る粘液の塊が這い寄ってくる。


 スライムだ。


 ゲームなら最弱の雑魚モンスターだが、実物は直径一メートルほどの溶解液の塊だ。


 人間を飲み込んで消化するには十分な大きさがある。


 だがその動きは緩慢だった。


「ビビってんじゃねえ!ただのゼリーだろ!」


 僕は怒鳴りつけながら、背中の鬼竜二号(ウォーハンマー)を引き抜いた。


 ずしりとした鉄塊の重みが、腕の筋肉をきしませる。


 だが、今の僕のステータスなら、辛うじて片手で扱える程よい重さ。


「どけっ!」


 僕は藤田さんの前に躍り出ると、ハンマーを横薙ぎに振るった。


 斬撃スキルは、打撃武器にも適用される。


 ゴオンッという鈍い音と共に、スライムの核が粉砕され、粘液が四散した。


 僕は飛び散った粘液を避けもしなかったが、その粘液も光となって焼失した。


 ドロップ品はなし。


 なんの糧にもならない魔物。


「次だ!ついてこい!」


 僕たちは奥へと進んだ。


 現れるのはスライムやゴブリンといった、いわゆる雑魚ばかり。


 だが、戦闘経験のない藤田さんにとっては、ゴブリン一匹でさえ死神のように見えるだろう。


 小鬼たちは錆びた剣や棍棒を振り回し、ギャアギャアと耳障りな声をあげながら襲いかかってくる。


「いやっ、こないで!」


 藤田さんが腰のナイフを構え、後ずさる。


 足が震えている。


 あれでは攻撃など当たらない。


 僕は聞こえるように舌打ちをする。


 このままでは、いつまで経っても彼女は弱者のままだ。


 心を鬼にする。


 彼女を生き残らせるために。


 僕はゴブリンの群れに突っ込んだ。


 ハンマーのピック状になった側を使い、ゴブリンの足を正確に砕く。


「ギャッ!?」


 足の骨を砕かれたゴブリンが地面に転がる。


 僕はトドメを刺さない。


 次々と足を砕き、無力化していく。


 地面を這いずり回り、怨嗟の声を上げるゴブリンたち。


 僕は藤田さんを振り返り、顎でしゃくった。


「おい、何ボサッとしてんだ」


「え……?」


「刺せ、それぐらいできるだろ!」


 僕は冷酷に告げた。


「動けねえ雑魚だ。ぐずぐずするな!さっさと殺して経験値にしろ!」


「で、でも……」


「命令だ!やれ!」


 僕の怒号に弾かれたように、藤田さんは恐る恐るゴブリンに近づいた。


 ゴブリンが威嚇してくるが、足が動かないため飛びかかってこれない。


「ご、ごめんなさい……」


 彼女は目を瞑り、ナイフを突き出した。


 浅い。


 ゴブリンが悲鳴を上げるが、死なない。


「目を開けろ!どこ見て振ってんだ!首か心臓を狙え!」


 僕は罵倒し続けた。


 彼女が泣きながら、何度もナイフを振り下ろした。


 それはゴブリンが完全に動かなくなるまで続いた。


 残酷な光景だ。


 だが、これを乗り越えなければ、彼女はこの先、確実に死ぬ。


 そんな試練を繰り返し、数時間が経過した。


 ダンジョン内は常に明るいため、時間の感覚が狂いそうになる。


 精神的な疲労さえ無視すれば、肉体のスタミナが尽きないこの体はずっと狩りを続けられそうだった。


 今朝買っておいた簡易な時計のような魔道具は、すでに夕方を示していた。。


 僕たちは半日以上、ひたすら「足折り」と「トドメ」の作業を繰り返した。


 藤田さんの服はゴブリンの返り血で汚れ、その目は疲労と嫌悪で淀んでいた。


 だが、その動きは明らかに変わっていた。


 最初は目を瞑っていたのが、今はしっかりと相手の急所を見据えている。


 恐怖が消えたわけではない。


 恐怖を飲み込んで、手を動かすことを覚えたのだ。


 目の前のゴブリンが消失した時、藤田さんはふと動きを止める。


「く、黒木様、急所突き、というスキルがついてました」


 藤田さんは、僕を恥ずかしそうに見つめながらそう告げる。


「ふん、やっとか」


 スキルが生えた。


 急所突き。


 短剣や槍などで、相手の弱点を突いた時のダメージ補正があるのだろう。


 後でしっかりと確認しておこう。


 長時間の狩りの成果が形として現れたことにホッとする。


「今日はここまでだ。戻るぞ」


 僕は短く告げた。


 藤田さんは、糸が切れたようにその場にへたり込みそうになったが、僕が構わず帰還札を袋から出したのを見て慌てて立ち上がる。


「使え」


「は、はい……、ありがとうございます、黒木様」


 帰還札は瞬時に入り口まで戻ることのできる魔道具だ。


 使い捨てだが銀貨二枚とそれなりに高額だ。


 本来はこんな浅い階層では使わないだろうが、金はまだあるのだ。


 時間は有限。


 出し惜しみはしない。


 浮遊感に少しゲンナリしながら戻ると、そのまま宿に戻る。


 その足取りは重く、精神的な疲れが出ていることは明らかだった。


 肉体的な疲労はないが体が重い。


 精神的な摩耗が限界に近いのだ。


 僕は食堂で一番高い肉料理を二人分注文した。


 食事は必要ない。


 だが、精神の安定を求めるため、人間らしい行為が必要だった。


「食え!」


「いただき、ます……」


 藤田さんは機械的に肉を口に運んでいたが、温かいスープを飲んだ瞬間、ほうっと息を吐き、少しだけ生気を取り戻したように見えた。


 食事を終え、それぞれの部屋に戻る。


 日付が変わる。


 ログアウトの時間だ。


 僕はベッドの上でスキルを発動した。


 視界が反転し、見慣れた汚部屋に戻る。


 二十分間の仮初の現実。


「竜也!」


 姉ちゃんが待っていた。


 今日はナース服だった。


 恥ずかしそうな笑顔を見るだけで、ダンジョンでのどす黒い感情が浄化されていく気がする。


 視線を送るとその赤身はさらに濃くなり、パタパタと両手で煽す仕草をする姉ちゃん。


「似合ってるよ姉貴」


 ポソリとそう言って背を向ける。


 時間は有限だ。


 僕はPCに向かった。


 情報収集だ。


 掲示板を開く。


 相変わらず、僕の専用掲示板には憎悪が込められたアンチコメントが並んでいた。


『下僕とかマジでないわ』


『通報しました』


『藤田さんが可哀想』


『〇ね!〇ね!〇ね!』


 今はそんなものを気にしている時間はない。


『お前の姉ちゃんを〇してやる!』


『お前の所為で家族が〇ぬな!』


 捻りの無い殺意が家族に、姉ちゃんに向けられる。


 僕はキーボードを叩き、一言だけ書き込んだ。


『バーカ』


 送信ボタンを押し、高笑いしてみせた。


 画面の向こうのアンチを煽る。


 これも最強の悪役としてのパフォーマンスだ。


 すぐに情報の精査に移る。


 バルド周辺の転生者の動向。


 現在、この街にいる転移者(クラスメイト)は約二十名。


 他の都市に比べて圧倒的に多い。


 やはり、生き残りをかけ、強くなるならこの最大都市に集まるのが正解だと、皆が気付いているのだろう。


 この掲示板の情報を知りえない転移者たちでさえ、この街に集まってきている。


 もはやあの世界の人たちにとっての常識なのだろう。


 別の地域にいた転移者たちは苦労しているうようだ。


 中には、転移のためのお金を用意するために、着ていた制服を売った人もいるようだ。


『異世界の服は素材が未知で丈夫だから高値で売れるのは定番だな』


 そんな書き込みがあった。


 なるほど、あの世界もそんあテンプレ通りだったのだと感心するが、もはやどうでも良かった。


 このまま行けば資金で困ることはなさそうだから。


 藤田さんの制服も売れば金になったかもしれないが、あんなボロボロじゃ二束三文だろう。


 それに、藤田さんの服を他の誰かが買うなんて、あまり考えたくもない。


 他にも、ダンジョンの階層情報や、魔物の特徴などを頭に叩き込む。


 あっという間に時間は過ぎた。


『ログアウト時間終了』


 姉ちゃんを見ずに後ろ手に手を上げる。


 僕は再び異世界へと戻った。




 泥のように眠った僕。


 九日目の朝。


 僕たちは再びダンジョンに潜っていた。


 今日はペースを上げる。


 一階層、二階層と、簡単なマッピングを済ませながら順調に進んでいく。


 鬼竜二号でゴブリンや大きなコウモリを粉砕していく。


 藤田さんも急所突きを使いこなし、僕が無効化した魔物を確実に仕留められるようになっていた。


 順調だった。


 そう、五階層にたどり着くまでは。


 五階層は、通路が少し広くなり、出現する魔物も強くなる。


 オーク。


 豚の頭を持つ亜人。


 あの藤田さんが死にかけたと言っていた魔物と同種のオーク。


「ひっ……」


 藤田さんが凍りついた。


 トラウマが蘇ったのだろう。


 その一瞬の硬直が、命取りになった。


 通路の曲がり角から、三体のオークが現れたのだ。


「チッ、数が多いな!下がってろ!」


 僕は前に出て、二体のオークの注意を引いた。


 鬼竜二号で即座に足を砕き無効化する。


 だが、僕の意識が前の二体に集中しすぎたようだ。


 残りの一体、無傷のオークが、僕の脇をすり抜け、後方の藤田さんへと突進したのだ。


「しまっ――」


 僕が振り返った時には、もう遅かった。


 オークの太い腕が、棍棒のように振るわれた。


「きゃあっ!」


 藤田さんが横殴りにされ、紙切れのように吹き飛んだ。


 壁に激突し、ぐたりと崩れ落ちる。


「藤田さん!」


 思わず素でそう叫んでしまった。


「斬撃!」


 全力のスキル発動。


 僕は苛立ちをぶつけるようにそのオークの背後を鬼竜二号で粉砕した。


 オークは悲鳴を上げる間もなく絶命し、光となって消えた。


 まだ息のある残りの二体も、振り返りざまの横薙ぎでまとめて吹き飛ばした。


 静寂が戻る。


 僕は息を切らしながら、藤田さんに駆け寄ろうとして足を止めた。


 今すぐ駆け寄って安否を確認したい。


 だがそれは『俺様』のすることではない。


 藤田さんは、力をふりしぼるように起き上がってくる。


 チェーンメイルのおかげで致命傷は避けたようだが、口の端から血が流れている。


 痛々しい。


 守れなかった。


 僕がミスをしたせいだ。


 内心で地面に額を擦り付けるほど土下座をしながら、僕は舌打ちをした。


「チッ、使えねーな」


 吐き捨てるように言う。


 その瞬間、心臓が裂けるのではないかと思う痛みで顔を歪める。


 罪悪感に心が壊れそうだった。


 そんな言葉をうけ、藤田さんがビクリと震え、涙目で僕を見上げる。


「ご、ごめんなさい……、やっぱり、弱くて……」


 謝るのは僕の方だ。


 僕が未熟だから、お前を危険な目に合わせた。


 だが、口から出る言葉は、正反対の呪詛だ。


「よえーのは分かってる。お前には何も期待してねーから!」


 その言葉が、彼女をどれだけ傷つけるか分かっていた。


 でも、ここで優しくしたら、彼女はまた僕に依存する。


 甘えが出る。


 何より俺様という仮面を崩すわけにはいかない。


 それに、この世界で生き残るためには、その甘えこそが彼女を死に誘う可能性がある。


 僕は袋から帰還札を一枚を取り出した。


 藤田さんにそれを押し付け、強制的に着かせる。


 光に包まれ、僕たちは早々にダンジョンの入り口へと戻ってきた。


 外の空気は冷たいが、ダンジョンの淀んだ空気よりはずっとマシだ。


 藤田さんはまだふらついている。


 ポーションを飲ませるべきだが、ここで手渡しはできない。


「興ざめだ。やり足りねーな!」


 僕はわざとらしく肩を回した。


「お前は先に部屋に帰ってろ!顔色が悪い奴を見てるとこっちまでテンションが下がるんだよ、足手纏い!」


「は、はい……、すみません……、今度はやれます!足手纏いにはなりません!」


 藤田さんは深々と頭を下げ、縋る様な弱弱しい視線を向ける。


「帰れ」


 僕がそう言い放つと、藤田さんは肩を落とし、宿の方へ歩き出した。


 その背中が小さくなるのを見届けてから、僕は拳を握りしめた。


 爪が食い込むほど強く。


「クソが!」


 自分への怒りが収まらない。


 最強のヒール?笑わせるな。


 たかだかオーク数匹に後れを取って、守るべき相手に怪我をさせて何が最強だというのだ。


 もっと強くならなきゃいけない。


 圧倒的な、誰も寄せ付けないほどの、最強の力が必要だ。


 僕は踵を返し、再びダンジョンの入り口へと向かった。


 一人なら、手加減はいらない。


 自分自身を痛めつけるように、限界まで戦ってやる。


 僕は鬼竜二号を担ぎ直し、暗い口を開ける地下迷宮へと、独り足を踏み入れた。


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